魔王

覧都

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第七十二話 狂気の表情

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結局僕と、フォルスさん、ジュウドウは、街の中央にそびえ立つ城の一室に案内された。
二十席程の高級なテーブルのある部屋に案内された。
僕は、二人の王子と、コウケンさんの座った場所から、一番離れた席に座り気配を消すように大人しくした。

「アスラ、わしは少し神殿に用事が出来た。一度行ってくる」

ランロンが、僕に話しかけてきた。
ランロンの言う神殿は換骨奪胎の神殿だ。
誰か換骨奪胎をするのだろうか。
ランロンが姿を消した。
と、言っても見えているのは、僕とフォルスさんの二人だけだが。

僕たちが椅子に座ると、料理が運ばれ食事がはじまった。

「いやーーすみません。遅れてしまいました」

優しい顔をした、第三王子ジセイさんが頭をかきながらやってきた。
第三王子と、第四王子は他の王子と比べると線が細く、学者のような雰囲気があり、智力が高い感じがする。

「うわっ、兄さん。アズサちゃんがいるじゃ無いですか」

気配を消していたのに気付かれてしまった。

「う、うむ」

ドワードさんが、秘密がバレたような表情で苦々しく返事をした。

「ふふふ、アズサちゃん。僕はあなたのファンなんですよ。ここにいると言うことは、王都から避難してきたのですね。今日から僕の所で働いてください」

「ま、まて、それはずるい。俺もファンなんだ」

コウケンさんと他の二人の王子が同時に声を出した。
――はぁーーっ、アズサってどんだけ人気なんだよ。

「うふふ、アズサちゃん、少し話しを聞いてください。僕とこのドワード兄さんは、双子なんですよ」

「え、全然似ていません」

「そうですよね。でも正真正銘同じ母親なんです。僕の父の魔王は、それは、それは酷い奴でね。母を無実の罪で、城門の前で公開処刑をしたのですよ。牛裂きの刑です。ボロ布のように四つに引き裂かれました。見物人に紛れて僕と兄さんは、それを泣きながら見ていました。父である魔王は、酒を飲みながら笑ってそれを見ていました……」

そういう第三王子ジセイの目は少し笑っている。
他の顔の筋肉は凍ったように普通の表情で止っていて、目だけがほんの少し笑っているのだ。
僕は、こんな恐ろしい顔を見たことが無い。背筋が寒くなった。

そしてもう一人、これと同じ狂気の表情の男がいる事に気が付いた。
第四王子ファージだ。
この二人に僕は同じ狂気を感じ背筋に寒さを感じた。
そういえば、天帝の勇者ハルラもメイドが些細なミスをした時、こんな表情でにらんでいたことがあったことを思いだした。

「知っていますか。魔王には、大勢の夫人がいて、子供も大勢いたのですよ。でもそれは全員、魔王の手によって殺される対象だったのです。スープをこぼした王子が、牛裂きの刑になることは日常で、次々子供も夫人も死刑になりました。百人以上いた子供は、隠されていた四人が残っただけです」

第三王子ジセイさんが言い終わると。

「僕はコウケンのおかげで生き残ることが出来ました」

第四王子ファージさんがそう言って、コウケンさんに笑顔を向けた。
コウケンさんはその言葉で目から大粒の涙を流しています。
ファージさんの表情はさっきの狂気の表情など無かったように優しく温かい表情だった。
僕は、二人の王子の、心の闇が深く、大きいものであることを知った。
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