魔王

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第七十八話 王女と聖女

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赤髪の美女が私の手を取って、人気の無いテラスに出ました。

「私です!!」

私ですと嬉しそうに言われても全然わかりません。

「……」

きょとんとしていると、

「アンです」

「ええっ、でもいつもと全然違う」

いつものアンちゃんは、チリチリの髪の毛で、メガネをしてそばかすだらけの女の子です。

「それは、お互い様です。可愛すぎて誰だか、見た目でわかりませんでした」

「あ、そうだ。これ……」

私は、プレゼントを取り出してアンちゃんに手渡した。
メイドさんが綺麗にそして豪華に包装してくれた、付与付の指輪です。

「見ても良いですか」

「どうぞ」

「うわぁー、すごく素敵です。はめても良いですか」

とても嬉しそうにしているアンちゃんに、軽くうなずいて見せた。
アンちゃんが指輪をはめると、少し体が光った。

「これは、付与付の指輪ですか」

「はい、防御の付与が付いています」

「こんな、凄いものをもらって良いのですか」

「はい、どうぞ」

「あの、イルナちゃん、これ国宝級の宝物ですよ。返しませんよ」

アンちゃんがいたずらっぽく笑います。

「大丈夫です。まだ色々もっていますから」

「えっ、あの、イルナちゃんって一体どんな人なのですか」

私は寂しそうな顔をして首を振りました。

「そうですか。秘密なのですね」

「……」

しばらく二人は沈黙しました。
そして意を決したように、アンちゃんが話しかけてきました。

「あのね、イルナちゃん、相談に乗って欲しい事があるの……」

ドカーーーーーーン!!!!

ものすごい音がしました。
門の方が赤く光っています。

「きゃーーーー!!!!」

大広間から悲鳴が聞こえます。

「聖騎士隊、来賓を避難させろーー!!」

エマさんが、声をあげています。

「リアン王女を探せーーー」

どうやら賊が入ってきたようです。

「シャドウ、アンちゃんを守って下さい」

「……」

私はシャドウにアンちゃんの護衛をお願いしました。
シャドウは返事をしませんが、指示は聞こえたはずです。

「イルナ様、気を付けて下さい」

近くで控えていてくれたライファさんが横に来てくれました。

「何者でしょうか」

私が、ライファさんに質問すると、

「ふふふ、私の父、国王を殺したもの達でしょう」

暗い悲しい表情でアンちゃんが答えてくれました。

「え、アンちゃんって王女様なのですか」

「えーーーーっ!!!!」

アンちゃんとライファさんが驚いている。

「い、いま気が付いたのですか?」

「は、はい」

二人が笑っている。

「いたぞー、こっちだーー!!」

賊がわらわらと、集まってきました。

「ひひひひひ、死ぬ日が誕生日とは笑えるぜ。お姫様よー」

「……」

アンちゃんが涙目になって震えている。

「あんたは、いつまでも逆らいすぎた。覚悟は出来ているんだろうな」

「出来ています。でも、この二人は関係ありません。逃がして下さい」

アンちゃんはいい人です。この状況で、私とライファさんの心配までしてくれています。

「ふふふ、私は、ライファ、聖騎士だ!! 命のいらん奴だけかかってこい」

ライファさんが私とアンちゃんを守るように前に出てくれました。

「ラ、ライファさん! ダメですこいつらは、闇の組織の者です。とてもかないません。逃げて下さい」

「逃がすわけがないだろう。ふふふ、仲良く皆殺しにしてやる!! 覚悟しろ!!」

「ライファさんこれを」

私は収納してある、暗黒ロッドを出してライファさんに渡した。
このロッドは、父ちゃんの魔王の加護が付与されたロッドで、聖女も聖騎士も使用できる武器です。

「ふふふ、私は聖騎士団、四番隊副隊長ライファだ。悪党に背を見せる気はない。さっさとかかってこい」

私は、アンちゃんの手を握り、いつでも逃げられる体勢になった。
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