魔王

第九十一話 廃墟で宿泊

廃村の回りには当然、モンスターがウヨウヨいます。

「まずは、お掃除をしましょうか。でも、殺さない方が良さそうですね」

理由は不明だが、このあたりのモンスターは魔石モンスターと思われる。
フォルスさんも、ここにいるモンスターが魔石モンスターと想定しているようです。
ということなら、殺すとまたどこかで再生する。
つまり、殺さずに行動不能にすることが、このモンスターに対する正しい対処と判断したようです。
フォリスさんは僕を嬉しそうに見つめます。

あれを言わせたいようです。

「シュラさんはショートさんを守って下さい」

「はい」

「では、皆さん、向ってくる敵には、アスラバキじゃーーー！！！」

「おーーーっ」

ジュウドウまでノリノリです。

「あ、アスラバキとは何じゃ？」

ショート爺さんがシュラさんに質問しています。

「はい、手足を砕いて行動不能にすることです」

シュラさんが、美しい笑顔で恐ろしい事を言っています。
――砕かないですよ、優しく折るだけです。

「……」

ショート爺さんが無言で、目をぱちくりしています。
今回は、アスラバキなので、僕も参加して倒しています。
ここのモンスターはウルフが多くて、足が細くて折るのが楽でした。
村を包む、森の中からキャンキャン悲鳴が聞こえてきます。
フォリスさんとジュウドウが、次々仕事をしているようです。

「ウオォォォー――ン」

大きな声がしました。
森の中から素早く巨大な狼が出て来ました。

「メ、メガロウルフだ！！」

ショート爺さんが叫んだ。

「ダメじゃ、あの化け物は強すぎる。逃げるのじゃーー！！」

爺さんが腰を抜かしたように、尻餅をつきガタガタ震えだした。
そんな爺さんの姿を見ると、メガロウルフが少し笑ったように見えた。
あーあ、そっちはシュラさんがいるのになー。

キャーーーーン、キャン、キャン……

「うるさいですね。舌を引っこ抜きますよ」

シュラさんが、全く表情を変えずに無慈悲な事を言います。

「うわーーっ、や、やめてくれーー」

メガロウルフが言います。
このウルフは言葉が話せるようです。
まるでダンジョンのエリアボスのように感じます。

「あなたが、このあたりのウルフのボスですか」

僕が近づいて話しかけます。

「なんだてめーー、ガキが話しかけるんじゃねえ！！　ぺっ」

この犬、僕のドレスにツバを吐きかけました。

「ぎゃわわわわん」

シュラさんが、上あごと下あごを握って無理矢理開くと、ジュウドウが左の犬歯をへし折った。
なんだか抜くより痛そうだ。

「あなたが、このあたりのウルフのボスですか」

「ふぁ、ふぁい」

涙目で僕を見てきます。
ちょっと可愛いじゃないですか。
僕は近づいて頭を撫でようとした。

「ぎゃわわわん」

犬が僕の手に噛みついた。すると、残っている犬歯が折れてしまった。

「わんちゃんが噛みついても、ぼく……私には効かないですよ」

わた……僕は、イルナにあった時の事を思いだしていた。

「何なんだお前達はーーー！？」

わんちゃんは、ジュウドウに尻尾を持ってもらって村に運び、番犬にすることにした。

「今日はこの村で宿泊しましょうか」

「えーーっ」

フォリスさんがすごい勢いで驚いている。
村は、建物が崩れ落ちていて、草木が沢山生えている。
まあ正直薄気味悪い。

「おお、村長の家は、泊まれそうじゃ」

ショート爺さんは泊まるき満々です。
村長の家はさすがにしっかりしていて、屋根も壁もあった。

「じゃあ、ここで泊まりましょう」

食事を済ますと、一番まともな部屋で眠ることにした。