魔王

覧都

文字の大きさ
92 / 208

第九十二話 窒息

しおりを挟む
「大魔王様、和平の使者が来ました」

僕は、やっと人間の国の王都を包囲した。
占領した国土は、前魔王の時の国土以外は返却することを伝えてある。
王都を包囲する前に、交渉の席について欲しかったというのが本音だ。

「うむ」

大げさにうなずくと使者を迎え入れた。

「ふふふ、久しいなアスラ、まさか俺がお前に頭を下げる日が来るとはな! ほらよ!!」

使者は天帝の勇者ハルラだった。
ハルラは、この世界で僕が、命より大切だと思っている娘のイルナを連れていた。
その大切な娘を、無造作に放り投げてきた。

「そんな乱暴な、投げることは無いでしょう。イルナちゃん大丈夫?」

それを慌ててフォリスさんが受け止めて、きつく抱きしめています。
フォリスさんが、そんなに強く抱きしめたら、死んでしまいますよ。

「か、かあちゃん……」

イルナが、フォリスさんに甘えています。二人とも美しい顔が涙でグチャグチャです。
これで僕の生きる目的が果たされました。

「どうするんだ。覚悟は出来ているんだろう」

ハルラが真剣な顔をして話しかけてきた。

「ああ……」

まさかハルラまで気が付いているとは思わなかった。

「ふふふ、俺も、お前も平和な世の中じゃあ、不要な人間だ。力がありすぎる」

そうだ、その通りだ。
特に僕は、異常なほどの強さを持っている。
イルナが戻った今、僕のこの力は、この世界の脅威でしか無い。
本当は、イルナを抱きしめて頭をなでたいのだけど、あいつ嫌がるしな。
もういいよな。

「ふっ、やってくれ」

「オフスウィーターーーーーー!!!」

ハルラの奴、ためらわねえのかよ。
天帝の勇者ハルラは、勇者の持つ究極魔法を使った。
あと少しだけ、イルナの顔を見ていたかったな。

く、苦し……
息が出来ない。
苦しいいい……
これが死というものなのか……

「ぶはああーーーーっ」

……?

僕の目の前に緑の布が見える。
このポヨンポヨンする水の入った袋のような物体は何だ。
僕はこれに顔を埋められて窒息していたようだ。
ポヨンポヨンを指で軽く、つついてみた。

「ぎゃあー、はっはっはー」

この声はコデルばあちゃんだ。

「アズサ、何をするこそばゆいではないかーーー!!」

コデルばあちゃんは、緑の胸が半分ほど出ている服を着ている。
そんな格好で僕の顔を胸に埋めて眠ったようだ。
おかげで僕は、窒息して悪夢を見たようだ。
何だか涙が出ている。

どんな悪夢を見ていたのだろうか。
目が覚めた時には、忘れてしまった。

「アズサさん!!」

後ろでフォリスさんの声がした。滅茶苦茶恐ろしい顔をして、お口がヒクヒクしています。
僕の手は無意識で、心地よい手触りを求めて、コデルばあちゃんの胸をサスサスしていたのだ。
コデルばあちゃんは、エルフなので何百年も生きているくせに、とても美しい顔をして、体はまあすごいのです。

手をコデルさんの胸からどけると、顔から汗が噴き出した。
下手な言い訳は墓穴を掘ると思って、何も無かったように振る舞った。
――言い訳すれば、ほんとうに胸だとは知らなかったのですから。
むしろ被害者ですよ僕は。

「コデルさん、どうしてここにいるのですか?」

「ふふふ、戦わずに説得で終ったから、すぐに駆けつけたのじゃ」

さすがはコデルさんです。
相手を交渉で帰順させてくれたようです。

「エルフじゃとーー!!」

ショート爺さんが目を覚まし、コデルばあちゃんを見て大げさに驚いている。

「なんじゃ、ドワーフはまだエルフを全部嫌うのか」

コデルばあちゃんの目があやしく光った。
そういえば、エルフとドワーフは犬猿の仲と聞いた事があります。

「いや、すまぬ。昔からの習慣でな」

ショート爺さんは、すかさずわびた。
コデルさんはショートさんに合格を出したようだ。

「ふん、エルフと言っても私は、魔王国のエルフじゃ。まあ私をどう扱うかでドワーフの国がわかるというものじゃ」

「と、言うことはコデルさんも同行すると言うことですか」

「無論じゃ!!」

一人同行者が増えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...