魔王

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第九十四話 悪党の最期

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「なんだお前達は?」

男は、金髪で耳が長い、どうやらエルフのようだ。
エルフというのは美形で、僕が女性ならうっとりする程の容姿をしている。
だが、その目には光が無く、表情は暗い。
その表情のまま口だけ笑顔にしてこちらを見ている。

「それは、お前がやったのか」

フォリスさんの体が震えている。
エルフの男の質問には答えず、質問で返した。
このダンジョンの四十階層は広い空間で、邪魔するものは何も無い。
広いダンジョンの一角を魔石が大量に占拠している。
その前に数頭のシルバーウルフに囲まれて、エルフの美少女とドワーフの美少女が三十人ほど震えている。

この男はモンスターに村や町を襲わせて、美少女を連れ去っているようだ。
そして精気の無い少女の体が、震える少女の反対側にうち捨てられている。
フォリスさんの視線は、うち捨てられた少女に釘付けになっている。

「それに、答える必要があるのか。まあゴミは汚えから後でゴブリン共に始末させるさ。くっくっく……」

フォリスさんの視線を感じて、そう言うと笑い出した。

ガフッ

エルフ男は、足下で震える少女の腹を、うち捨てられた少女の方へ蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた少女は、口から大量の血を吐き死んでしまったようだ。

「ひ、酷い!!」

フォリスさんの口から思わず声が出た。
フォリスさんの肩が震えている。

「なぜ、あなたはこんなことをするのですか」

フォリスさんが話せなさそうなので、僕が代わりに聞いて見た。

「当然の権利だ。このダンジョンを発見して、地道な努力で最強になった。手に入れた力で、思うがまま生きるのは、力を持った者の権利だろうが!! 違うか?」

「最強になったら、何でも自分の好きにして良いのでしょうか?」

「当たり前だ、そのうちこのダンジョン全部を制覇して、世界を俺の物にしてやる」

いかれているのか?
それとも、自分が最強と思うと皆、こんな考え方になるのだろうか。
他人の幸せとかを願わないのだろうか。

「……」

僕は、何も言えなくなった。
僕の知っている、勇者も教祖も領主も力や金を持ったものは、だいたいこいつと同じだった。

「まあ、お前の考え方が、普通なのかもしれんのう。じゃが、世の中には力を、自分の為だけじゃ無く、貧しい人や、困っている人達の為に使おうとする変わり者もいるのじゃ」

コデルばあちゃんが、ニコニコしながら話し出した。

「お前もエルフか、少なくともエルフの国にはいなかったぞ」

「そうか、私はエルフの国の事は知らん。だが、魔人国にはいるぞ、お前も知るといいじゃろう」

コデルばあちゃんが余裕でニコニコしている。
その姿にエルフ男は少し気分を悪くしたようだ。

「知っているか、モンスターを使役する方法がダンジョンにはあるんだぞ、まあその方法は教えてはやらんがな。ウルフ共、こいつらを殺せ!!」

そんな事はとっくに知っているさ。
シルバーウルフとわんちゃんが襲いかかってきた。
わんちゃんは、勝てないとわかっているはずなのに、あるじの命令に応じて向ってきた。
その目は、恐怖に怯える目では無く、あるじの期待に答えたいと思っている力のこもった目だった。とても、けなげでかわいい。

全力のウルフの攻撃が襲いかかった。
でも、レベル1ダンジョンのモンスターの攻撃が、通るほど甘くは無い。
フォリスさんが暗黒の爪を装着した途端、悲鳴を上げる暇も無くウルフは魔石になった。

「なーーっ、何があった。何をした。くそーー死ねー!!」

エルフ男は何が起きたかもわからないまま襲いかかってきた。

「何でしたっけ、まあゴミは汚えから後でゴブリン共に始末させるさ。でしたでしょうか、あなたがいなくなればそこの魔石を自分の物にして、ゴブリンに命令しましょうか。このゴミを始末しろと!!」

「ガフッ! な、なぜそれを……」

フォリスさんの暗黒の爪がエルフ男に突き刺さっていた。
エルフ男は、避ける動作も出来なかったようだ。

「はわわわーー」

僕はあせっていた。
とうとうフォリスさんに人殺しをさせてしまった。

「うふふ、アズサさん、慌てることはありません。正当防衛です」

フォリスさんは僕よりよっぽど落ち着いていた。
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