魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
105 / 208

第百五話 国の支配者

しおりを挟む
「死ねーーー!!!」

ロドンは大きく振りかぶり、渾身の力でエマさんの頭に剣を振り下ろそうとしています。
私は集中して動きを見ると、まるで止っているように見えます。
エマさんには、ゆっくり動いているように見えているのでしょう。
少し笑っています。駄目ですよ、失礼です。
ロドンの剣が耳の前を越えたあたりで、エマさんは動き始めた。

ドンッ!!

ロドンの剣が部屋の壁につき刺さっています。
その剣の柄にはありえない物が付いています。
切られた腕が付いているのです。
その手は、体から離れた為に、握力を失いボトリ、ボトリと床に落ちた。
ロドンの腕は、エマさんに切られ血を吹き出していた。

「死んでもらうよ!!」

パリスは、手を高く真っ直ぐ上げた。
青い魔法陣が、ライファさんの頭上に現れた。
その瞬間、素早くライファさんはパリスの方へ走り出した。
一瞬でパリスの横を走り抜けると、ライファさんの手に握られた剣が赤く染まっている。
いつの間にか、魔法陣は消えていた。

ライファさんが、恐ろしい速さでピュンと剣を振ると、付いていた赤い物が全て吹き飛んだ。
その剣の美しい輝きを確認すると、剣を鞘に収める。

チンッ

鞘に剣が収まると、美しい金属音がした。
その音を待っていたかのように、パリスの腕が、ズルズルとずれて、ボトリボトリと床に落ちた。
パリスの両手から血が噴き出す。

「ぎええええええええええーーーーーっっっ!!!!!」

断末魔のような、ロドンとパリスの声が同時に神殿中に響いた。

「いたいーー!! いたいーーー!!!」

二人は倒れ込み叫んでいます。
痛いでしょうね。
でも、しばらくは苦しんで下さい。
あなた達に対する罰です。
まあ、少し苦しんだら、私が治癒で治してあげます。

「ちっ、何だこいつら。強い強いと言っているから、そばに置いてやったが、てんで弱いじゃないか。普通、女聖騎士なんかにやられるかー。もう、いらねーや!」

「あっ やめろーー!!」

私が止める間もなく、天帝の勇者は二人の首を後ろから切った。

ゴトン、ゴトン

神殿の石で出来た床に、無機質の堅い固まりが落ちた音がした。

「な、何てことを……」

「ふふふ、パリスの奴、俺の子が出来たとか言って、なれなれしかったんだよなー。せーせーしたぜ」

「おま、お前は何を言っているんだ。お前はそれでも人間かーー!!」

エマさんが激高して泣きながら叫んでいる。

「テメーは馬鹿なのか。この俺が人間に見えるのか。俺様は天帝の勇者様だー! 人間なんて下等生物と一緒にするんじゃねぇーー!!!!」

「……」

私達は、言葉をなくした。
人間の国は、一人の化け物の支配を受けることになったようです。

「聖女様よう!! まだおめーさんは女の魅力が足りねー。もうちょっと色気が出たら楽しませてもらうぜ」

「何を言っている。我々は、神様にこの身を捧げている。男の物になどはならん!!」

エマさんが怒気を込めて叫んだ。

「あ、あれ、私は結婚をしたいのですけど……」

素直に自分の気持ちが口から出てしまった。

「はーーーーーっ」

全員から、呆れ声が出た。
天帝の勇者まで驚いている。

「そなたは美しい、それならば余の妃になれ!!」

「はーーっ、嫌ですよ。何を言っているんですかー」

突然、国王オニス様が割り込んで来ました。

「なーーーーーーっ」

また、この場にいる全員が呆れ声を出した。

「わあーはっはっは、ゆかいだ。行くぞオニス」

天帝の勇者が国王様を呼び捨てにして、神殿を出て行きました。

「あの、イルナ様」

「はい」

「この国で、国王の求婚を断ったのは、イルナ様が初めてかもしれません」

「えーーーーっ」

でも、王様と結婚なんて、嫌ですよね。
しおりを挟む

処理中です...