魔王

覧都

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第百七話 出陣

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3ヶ月はまたたく間にすぎた。
兵士の動員、訓練、武具の調達、食料、薬品の調達で時間は足りないぐらいでした。

「アスラ様、ご覧下さい」

王都の、北側の防壁の前に兵士が十五万人整列している。
その姿に、圧倒された。
僕とクザンの姿を確認すると、防壁の角で旗が上がった。

「魔王様万歳!! 魔王様万歳!!」

大きな声があがった。
まるで、全戦、全勝の無敵軍団のようで、頼もしく感じました。

「全軍出撃!!」

クザンが大きな声で叫んだ。

「おーーーーーーっ!!!」

兵士の喚声あがった。
喚声のあと兵士の姿が、一部隊ずつ消えていく。
国境へシャドウの移動魔法で移動をしているのだ。
最後の部隊が消えて、兵士がいなくなると、あたりは静寂に包まれた。

このあと兵士達は、コモンドニス王国のロウロ領へ進軍し、領兵とたたかう事になるでしょう。
ロウロ領だけで魔王国と同じ位ある大きな領地です。
兵士の数もそれなりにいる事が想定できますが、元々魔人の方が体も大きいし、魔力も多いので負けることは考えられません。
コウケンさん達に大いに手柄を上げてもらおうと考えています。

僕は食料調達の為、獣人の国へ行こうと数日の間、準備を進めました。
いよいよ獣人の国へ出発という時に知らせが来ました。

「コウケン様が全軍撤退を決定しました」

フォリスさんが僕に駆け寄り伝えてくれました。

「えっ……て、撤退ですか」

「はい、魔王軍の死者が三万を越え、負傷者も多数、ですが負傷者はエリクサーで回復しています」

「何があったのでしょうか」

僕がフォリスさんに質問しましたが、フォリスさんも把握仕切れていないらしく首を振った。

「ひとまず玉座の間へ」

玉座の前に七人がボロボロのまま平伏しています。

「おもてを上げよ」

クザンが僕の後ろで声をかけます。
顔を上げた七人の体がビクンと揺れた。
恐らく僕の顔が、怒りに燃えていた為だと思います。
僕は、表情を変えず全員の顔をゆっくり見ていきます。

全員、ドロドロに汚れた顔をして、必死で戦ってきたことがわかります。
この人達が、兵士の命をむざむざ見捨てて帰ってくるとは思えません。
必死で救おうとしても、救いきれずこぼれてしまった命が3万ということなのでしょう。

「コウケン!!」

「はっ」

コウケンさんは、死ぬ覚悟が出来ている顔ですね。

「何があったのか説明をして下さい」

「全ての責任は、私にあります。死を賜りたいと思います」

敗軍の将として何も語らないつもりなのでしょう。
説明すればいいわけに聞こえるし、コウケンさんらしいですね。

「あなたに責任の追及をする気はありません。もし責任があるなら僕の方にあります。僕の首をはねますか?」

「なっ」

「この先の戦いの為、何があったのか説明が聞きたいのです。よく考えれば元々魔人の国が領土を奪われたのです。そんなに弱いわけがなかったのです」

「そ、それは違う。まともな戦力はこっちが上だった。だが、人間は戦い方が汚かったんだ」

ファージさんがコウケンさんに変わって口を開いた。

「ふふふ、それは興味深い。俺たちにも聞かせてくれ」

玉座の間に七人の、人影が入ってきた。
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