魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
115 / 208

第百十五話 伝説の大将軍

しおりを挟む
「チョカイ!!! すごすぎるだろう、これ!! 俺たちは身動きの出来ない敵兵士を、攻撃しているだけだ」

「うむ、こんなことを考え付くとは、魔王様というのはどういうお方なのかと思うぞ!」

「それに、防具の呪いの付与のおかげでかすり傷一つ付かねえ」

「ああ、呪いのエリクサーで疲れもすぐに回復出来るしな!!」

オウブさんとチョカイさんが、敵を切り倒しながら進んでいるうちに、近づき会話をしています。
そんなのは、スザクがいなければ考え付きません。すごいのはスザクですよ。
それにすごいのは、皆さんも同じですよ。
たった七人で、数万の敵を倒していますよ。

特にすごいのはアドだ、敵兵の中を低い姿勢で走り回り、一走りで千人ほど倒している。
その代わり、スザクが見失って、慌てていますけどね。
防御を高めるのも良いですが、素早さを高めるのも、攻守の能力を高めるので、身軽な人には合うみたいです。

「ひけーーー!! ひけーーー!!」

この戦いの総指揮をとっているヘルさんの代わりに、総指揮が入れ代わり、兵士に後退を指示したようです。
僕は、先日の戦いで魔人兵の命を3万も失いました。
今回の戦いは、その弔い合戦と考えています。
3万は命を置いて行ってもらいますよ。

……
どうやら、その数はすでに大幅に超えているようです。
後ろの兵が下がると、前衛の兵士達がやっと動けるようになりました。
それでもうちの七大将軍の攻撃の手は止りません。
背中を向けて逃げて行く敵兵を、バサバサ切り倒していきます。

敵兵は、ロウロの街に逃げ込もうとしましたが、門の前に僕はスザクの壁を作って置きました。
王国騎士団は、ロウロ領を諦めて隣の領地デイラへ撤退をするようです。

僕は、今回の戦いで一番の目的がやっと達成出来ました。
今回の一番の目的とは、伝説を作ることです。
たった七人で王国の十五万の兵士を撤退させたという伝説です。
今後、前戦が拡大すれば、苦戦するところも出てくるでしょう。そんなとき一人の大将軍の部隊が、援軍に来たというだけで味方の士気が上がり、戦局がひっくり返せることもあると思います。そのために伝説が欲しかったのです。

七人の将軍は、逃げる敵兵の掃討戦に入っています。
おおいに敵軍に恐怖を植え付けて下さい。

「フォリスさん、僕たちは魔王城に戻って変装してきましょう」

僕は、この国の使者と会うことを想定して変装することにしました。
敵国の人間に魔王の正体を教えてやる必要はありませんからね。



僕たちが、ロウロ領の魔王軍の本陣に戻ると城の門が開き、一台の馬車が近づいてきた。
馬車には、大きく目立つように使者の旗が上がっている。
馬車が陣の前で止ると、中から三十歳後半くらいの上品な女性が降りてきた。
降りてきた女性は、僕たち全員の顔をサッと見回して、クザンに話しかけた。

「私は、ロウロ領主、ロウロ三世です」

「その領主様が何の用だ」

フォリスさんが、フォルス姿でクザンと領主様の間に入って言った。

「はい、降伏のお願いに参りました。私はどうなっても構いません。領民だけはお許し下さい」

ロウロさんが、地面にひれ伏して、額を地面に付けた。

「もし断ればどうする」

「そんなことは無いとは思いますが、山にはまだ二十四万の兵士が、城にも数万の兵士がいます。領民の命の為なら徹底的に戦います」

良い返事ですね。
フォリスさんがもう感動して、僕の顔を見つめちゃっています。
失敗しました。領主さんが一人で来るなら、変装はやりすぎましたね。

「顔を上げて下さい。僕が魔王です」

「え、女の子なのですか?」

何だか、領主様の目がキラキラ輝いています。
僕はメイドさんが頑張ってくれたおかげで、きっと滅茶苦茶可愛くなっていると思います。
でも、それでも、それだからと言っても、この領主さんのキラキラが気持ち悪いです。
しおりを挟む

処理中です...