魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
188 / 208

第百八十八話 まがまがしい気配

しおりを挟む
「と、その前に、バルゼオ様!!」

「!?」

「さっきから、何、ライファ様の顔をじっと見つめているのですか! 全軍乗船し、戦闘準備をして下さい」

「おっ、おう、行って来る」

「魔王軍が出て来たら、全軍で出陣し戦闘を開始して下さい」

「ふふふ、分かっている。魔王軍の素人水軍共に、バルゼオ水軍、いやライファ水軍の恐ろしさを見せつけてやる。では、ライファ様、行って参ります」

「あ、はい、気を付けてください」

バルゼオ様が、元気に見張り台を降りて行きました。
勝手にライファ水軍なんて言っていましたが、それで士気が上がっているので、「やめて下さい!!」とは、言えませんでした。

「我々も、移動しましょう。私の作戦の全貌をお話します」

リョウキ様に、作戦司令室に案内された。
部屋に入る前に、リョウキ様に聞こえないように、私の見えない護衛シュドウとシャドウに室外で護衛するようにお願いしました。
一緒にいると、作戦が魔王アスラ様に筒抜けになるでしょうから。

「これは!?」

私は部屋に入ると驚いた。
部屋には、大きな机に戦場の布陣が細かく詳細に作成されている。
そこには、魔王の位置まで再現されている。
見張り台からでは分からないはずの事まで詳細に……

「ふふふ、私はこの河の上流、漁師の家で生まれました。名前からも分かるように、半分魔人の血が混じっているのですよ」

思わぬ、リョウキ様の身の上話を聞いて、驚いて私は返事も出来ずに固まってしまった。
そんな私に、リョウキ様は優しい視線を向けてうなずくと、話しを続けてくださいました。

「魔王は優しい、良い方なのでしょう。漁師達に漁村に住むことを許し、それだけでは無く漁をする事まで許してくれたそうです。さらに、魔王軍が悪さをしないよう、兵士に命令をしてくれたそうです。村長が感激して、私への協力を断ってきたほどです。協力しなければどうなるかわかっているのですかと、私が脅かしました。これではどっちが悪者か分かりません」

「この戦場の様子は、漁師さんからの情報なのですね」

「いいえ、漁師は連絡と、ある策略をお願いしました。魔王軍の詳細は私の弟子が探り、その詳細情報を漁師に渡し早朝、漁師に扮した兵士にわたします。河で行うので見つかっても、漁をしていると魔王軍は勝手に思い込みます」

「それで、これだけ詳細に……」

「ですが。あの、あれだけの艦隊がどうやって運ばれたのかが分かりません。私の予定ではまだ数ヶ月はかかる予定だったのですが……」

「そうですね」

あんな大きな船を運ぶのは、移動魔法では無理でしょう。
もし出来たとしても一隻運ぶだけでも、魔力が無くなってしまうはずです。
移動魔法そのものが高位の魔法なので使える人も、それほど多いとも思えません。
でも、そんなことより、リョウキ様の言い方が気になります。

数ヶ月先なら、勝てると言いたそうな雰囲気です。

「おや、おや、気づかれてしまいましたか。さすがはライファ様」

リョウキ様の顔に暗い影が落ち、悪い邪神のような、まがまがしい気配がしてきます。
ぶるっと、私は体が震えました。
いったい、何があると言うのでしょうか。
しおりを挟む

処理中です...