上 下
57 / 300

第五十七話 国道での戦い

しおりを挟む
あずさの助け船のおかげで、俺一人で出る事を許される雰囲気になった。
俺は何も言わず激豚君のハッチを閉めると、国道の歩道橋の前に一人で出た。
背中では、木田の旗が風に揺れ、その音が耳に心地よかった。

「木田軍の黒い奴です!!」

敵軍の先頭の10式(ひとまるしき)戦車の車長が叫んでいる。

「てーーーっ」

ドオオオォォォォォーーーーンン!!!!

地響きを伴う轟音がひびいた。
先頭の10式が二両、砲撃してきた。
まだ一キロ以上離れているのに撃ってきた。
どうせ、戦車の初弾が当たるはずが無い。
着弾地点を見て補正するはずだ。
俺はアニメで学習済み……。

「なーーーっ!!」

確実に当たるコースだ。
日本の戦車すげーー。
俺は、避けようかとも考えたが、一番装甲の厚い胸に飛んできているので、あえて当たってみることにした。

ゴオオオオォォォォォーーン

衝撃が恐ろしい勢いで激豚君を吹き飛ばした。
中にいる俺は、あちこちで体をぶつけている。

「あっかーーん!! 敵の砲撃を受けたら俺以外なら大けがをするーー!」

叫びながら、吹き飛ばされ木田の旗に突っ込んだ。
旗は、餃子のように綺麗に激豚君を包んだ。
あたりがシーーンと静まり返る。
戦車の砲撃の煙が消えると、

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

敵軍から雄叫びがあがった。

「木田軍の黒い奴は消滅しましたーー」

どうやら俺を見失ったらしい。

「ふふふふふ、あーはっはっはっはっ」

俺は、餃子の中から笑い声を出した。

「どこだーー!! どこかから笑い声がする!!」

俺は旗を両手で破くと、中からゆっくり立ち上がった。
蝶がさなぎから成虫になるように姿を現わした。
でも、砲撃の衝撃がすごすぎて、全身に力が入らず、ヨロヨロよろけて、万歳をして倒れてしまった。

「ぎゃあーははははははは!!」

敵軍は、格好をつけ笑っていた俺の、こける姿が滑稽だったのだろう思い切り笑っている。
ふふふ、それこそ俺の作戦通り。
俺は、アダマンタイトのブレードを引き抜くと、敵10式戦車にジグザグに移動し突っ込んだ。
止まっている的はうまく打ち抜けるようだが、高速で移動する激豚君には、砲撃が追いつか無いようだ。

ザリュザリュ

鉄とアダマンタイトのこすれる音がする。
俺は先頭の10式戦車の砲塔を下から切り上げた。
切った感じは、豆腐やゼリーほど柔らかくは無いが、竹よりも柔らかい。
例えるならバームクーヘン位だろうか。砲塔はゴンと音を立ててアスファルトの上に落ちた。
そして、振り上げたブレードを今度は履帯へ振り下ろした。

履帯とは、キャタピラのことだ。
履帯を切れば、戦車は動けなくなる。
こうして、次々十両の10式戦車を行動不能にした。
行動不能になっても悪あがきで機関銃を撃ってくる戦車もあるが、機関銃はノーダメージなので放置した。

「ミサ、全員に伝えてくれ」

「いいわよ」

「敵最新式戦車、10式は沈黙。74式はジグザクに移動すれば、こっちに砲撃を当てることは出来ない。出撃準備をしてくれ」

「全員、準備は出来ているわ」

「よし、では、コホン。パ、パンツァーフォー!!」

言ってみたかったこの言葉!

「はぁーーっ、あんた、バカなの! こっちはパンツァー要素ゼロですけどー。むしろ敵さんの言葉じゃ無いのー」

だーーっ!!
しまった。そ、そうでした。
あまりにも言いたくて見落としてしまった。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!!!!!」

あっ、でもゲン達はノリノリです。
我軍の、機動陸鎧が国道上に現れた。
赤い鎧は、ゲンとダー、紫の鎧はミサと坂本さん、青い鎧はポン。
藤吉は可哀想だけど結界維持の為校庭に留守番です。
全員アダマンタイトのブレードを装備し、敵74式戦車に突撃をする。
あっという間に、六両の74式戦車が沈黙する。

「何なんだ、何なんだあれは、聞いた事も見た事も無い兵器だぞ。強すぎる!! ぜ、全軍撤退。戦車隊は散開し、市街地を抜け撤退しろー!!!」

敵の隊長の声が響いた。
74式戦車が散開し逃げ出した。
敵歩兵部隊も全軍下がり出した。

「ゲン、皆ーー!!、敵兵は殺さず、つかまえず逃がしてやってくれー! 但し、戦車は破壊してくれてかまわない。乗員が逃げたのなら、放置でいいー!!」

俺は大声で叫んだ。
もちろん敵に聞こえるように。

この言葉を聞くと敵兵は安心して、壊れた戦車を放置して撤退を始めた。
だが、壊れていない二十四両の戦車が厚木の市街地に紛れ込んだ。
そして、機動鎧隊は逃げる獲物を狩る、ハンターのように市街地に入り込んだ。

「兄弟、敵を全部逃がしたら、結局たたかう事になるがいいのか」

ゲンが俺の横に来て話しかけてくる。

「ふふふ、大丈夫だ!!」

「悪い笑い声だな、とんでも無い悪党のようだぜ!」

はーーっ、俺が悪党だってーー。
まあ、そうか。

「そうだな俺は、とんでもない悪党かもしれない。小田原の人達に地獄を見せることになる」

「ふっ、まあ、俺は兄弟を信じるだけだ」

そう言って、ゲンは74式戦車の掃討に向った。
俺は残された10式戦車が気になってしょうが無い。

「あーあ、やっちまったなあ」

俺は、壊れた10式を見つめてため息をついた。
出来れば、壊れていない奴がほしい。
ハッチを開けて激豚君から降りた。10式戦車をやっぱり直にこの目で見て見たい。
ふふふ、やっぱりかっこいいなーー。

そして、真っ黒な激豚君に視線を移した。
激豚君は砲撃が直撃したのに、かすり傷一つ付いていない。
それは、それで少しがっかりだな。
顔に付いた坂本さんに付けられた傷は、戦車の砲撃よりすごい攻撃なのかー。
激豚君の顔を見ながらしみじみ思った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

首筋に 歪な、苦い噛み痕

BL / 連載中 24h.ポイント:512pt お気に入り:18

ミルクの結晶

BL / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:173

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,090pt お気に入り:1,706

だって、コンプレックスなんですっ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:851

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:1

CLOVER-Genuine

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:417

処理中です...