62 / 428
第六十二話 母の面影
しおりを挟む
橋を渡り終ると、看板がある。
この先、清水まで宿場はありません。となっている。
反対側を見ると、清水連合最後の宿場。となっている。
まだ太陽は夕日にもなっていないけど、ここで宿泊しないといけないようだ。
まあ、飛んで行けばすぐなのだが、今回は密偵なので宿泊しようと思う。
看板を過ぎたら、すぐにインターチェンジがあり、そこを降りると人がちらほらいる。
露店が出ていて色々売っている。
一番多い露店が海産物の焼いたものを売っている店だ。
店の商品には金額が書いてある。
貨幣経済はやっぱり便利で活気が出るようだ。
泊まるところを探すと、マンションやアパートの壁に大きく旅館、宿などと書いてある。
「どこにしようか?」
そう言ってあずさを見ると。
「……」
無言で一点を見つめている。
そして、少しもじもじしだした。
ま、まさか、おしっこか。
たぶん違う。美少女はおしっこをしない。ついでにおならもしない。
あずさのおならは聞いた事が無い。
あずさの視線の先を見ると、一人の女性がいる。
女性は、真っ赤に塗った民家の前に立っていた。
民家は通りの裏にあり、あまり目立たないところにある。
普通なら見落とすような所なのだが、あずさは見落とさなかったようだ。
「あの人が気になるのか?」
あずさは俺の言葉を聞くと、余計にもじもじしだした。
「うん! なんだかわからないけど、ドキドキします」
俺はあずさの手を引き女性のところへ進んでいった。
俺一人なら声をかけることは出来ないが、あずさと一緒なので頑張るしか無い。
「あのーーっ」
「あら、お客さんかしら……って、こぶ付きじゃないか。冷やかしなら帰っておくれ」
女性は、ミサと坂本さんを足して二で割ったような体つきで、顔は坂本さんより吊り目で、意地悪なおばさんのような感じだ。
「冷やかしではない、何かお店なら利用したい。……痛たた」
俺がそう言ったら、女性は俺の耳を引っ張った。
そして、あずさに聞こえないようにヒソヒソ声でささやいた。
「ここは娼館だよ。他を探しな」
娼館なら何もしなけりゃ、宿屋みたいなもんだ。
「ふふふ、この子が、アンタに一目惚れだ、泊めてくれないか」
俺がそう言うと、あずさのもじもじがより一層酷くなり、真っ赤な顔になり、俺の腕をギュッと強く抱きしめた。
「はーーっ、なんと可愛い子なんだ。まるでお人形さんのようじゃないか!」
女性があずさの顔をのぞき込むと、あずさは人見知りの幼女のように、俺の後ろに隠れた。
「一泊、一万八千円だ」
俺は、カンパのお金を数えた。
二万四千円もあった。
女性に一万八千円を渡した。
女性は、人目に付かないようにこっそり、家の中に入れてくれた。
家の中は、何の変哲もない普通の二階建ての民家だった。
俺たちは二階に案内された。
「晩ご飯と朝ご飯はサービスしてやるよ、食べるかい」
「食べます」
あずさが即答した。
食事は、お魚とご飯でした。
まずまず美味しく食べられた。
ご飯を食べると、あずさはすぐに眠そうになり、布団を催促して横になった。ずっと歩きだったし、疲れていたのだろう。
その時、女性に腕枕をせがんだ。
女性もまんざらじゃないようで、すぐにそれに応じて横になった。
「すーー、すーー」
「あらまあ、もう眠ってしまったよ。腕を取られてしまって、これでは何にも出来ないよ」
「そのままにしてくれて、いいさ」
あたりは、夕日が沈みかかり、かなり暗くなっていた。
まわりに電気は来ていないようだ。
大通りの宿屋の前に火が焚かれだした。
「あんたは、無理矢理やらされているのか」
「最初はそうだったさ。でも今は、気ままに一人でやっているのさ」
「そうか」
「みかじめ料を払えば、特に問題も起きないし、トラブルがあっても守ってもらえる。気ままにやっているよ」
「やったー、アンナメーダーマン!! かっこいい! 大好きー!!」
あずさがはっきりした口調で、寝言を言った。
何の夢を見ているのだか。
「アンナメーダーマン? 何だいそれは?」
「隕石騒ぎが起きる前にやっていた、テレビのヒーロー番組じゃないのかな」
「そんなのやっていたかねー」
「ひっ、ひっ、嫌!! や、やめてーーー、やめておかあさーーん!! やめて下さいおかーさん!! うわあああーーーん!!」
あずさが、眠ったまま泣きだした。
「びっくりしたねー。これが寝言かい」
「初めてだ、あずさがこんな寝言を言うのは」
「えっ!?」
「あずさは、六歳より前の記憶を失っている。親の記憶はないんだ」
そうか、わかった。
この女性にあずさは、母親を無意識に感じていたんだ。
蓋をしていた記憶の断片が無意識に出てしまったのではないのだろうか。
「じゃあ、なんで?」
「あんたに、あずさは母親の面影を感じたのかもしれない」
「なんだって、嬉しいじゃないか! でも、今の寝言、あまりいい親じゃなかったのかねえ」
「ああ、ひどい虐待を受けていた」
「何てことだろう、こんな可愛い少女に……」
「抱きしめて、頭を撫でてやってくれないか」
「これでいいのかい」
あずさは、泣きじゃくっていたが、だんだん落ち着きを取り戻し、静かな寝息を立て始めた。
「ありがとう。落ち着いたようだ」
「この子の母親はどうしたんだい?」
「行方不明さ」
「……そうかい」
「とうさん! 大好き!! 絶対国立大学に行ってお嫁さんになるんだからーーー!!!!」
「ぷっ、あんたは良い父親なんだね」
「ははは、俺を見てくれ、こんなデブでぶおとこだ。おまけに貧乏、苦労ばかりかけている底辺おじさん。ダメな豚だよ」
「こんな美少女に、大好きと言わせるんだ、ただの豚じゃないさ」
「ははははは、あんた、いい人だな」
俺は、あの赤い豚を思い出して笑えて来た。
「あたしの方こそいい人なんてガラじゃ無いさ」
女性は暗い表情になった。
この人も色々あったのだろう。
「さがせーーー!!!! さがせーーーー!!!!!!」
大通りから大きな声が聞こえてきた。
窓からのぞくと、松明を持っているのか、沢山の火の光があたりをオレンジ色に照らしている。
「いったい、何があったんだ?」
俺は光を見つめた。
この先、清水まで宿場はありません。となっている。
反対側を見ると、清水連合最後の宿場。となっている。
まだ太陽は夕日にもなっていないけど、ここで宿泊しないといけないようだ。
まあ、飛んで行けばすぐなのだが、今回は密偵なので宿泊しようと思う。
看板を過ぎたら、すぐにインターチェンジがあり、そこを降りると人がちらほらいる。
露店が出ていて色々売っている。
一番多い露店が海産物の焼いたものを売っている店だ。
店の商品には金額が書いてある。
貨幣経済はやっぱり便利で活気が出るようだ。
泊まるところを探すと、マンションやアパートの壁に大きく旅館、宿などと書いてある。
「どこにしようか?」
そう言ってあずさを見ると。
「……」
無言で一点を見つめている。
そして、少しもじもじしだした。
ま、まさか、おしっこか。
たぶん違う。美少女はおしっこをしない。ついでにおならもしない。
あずさのおならは聞いた事が無い。
あずさの視線の先を見ると、一人の女性がいる。
女性は、真っ赤に塗った民家の前に立っていた。
民家は通りの裏にあり、あまり目立たないところにある。
普通なら見落とすような所なのだが、あずさは見落とさなかったようだ。
「あの人が気になるのか?」
あずさは俺の言葉を聞くと、余計にもじもじしだした。
「うん! なんだかわからないけど、ドキドキします」
俺はあずさの手を引き女性のところへ進んでいった。
俺一人なら声をかけることは出来ないが、あずさと一緒なので頑張るしか無い。
「あのーーっ」
「あら、お客さんかしら……って、こぶ付きじゃないか。冷やかしなら帰っておくれ」
女性は、ミサと坂本さんを足して二で割ったような体つきで、顔は坂本さんより吊り目で、意地悪なおばさんのような感じだ。
「冷やかしではない、何かお店なら利用したい。……痛たた」
俺がそう言ったら、女性は俺の耳を引っ張った。
そして、あずさに聞こえないようにヒソヒソ声でささやいた。
「ここは娼館だよ。他を探しな」
娼館なら何もしなけりゃ、宿屋みたいなもんだ。
「ふふふ、この子が、アンタに一目惚れだ、泊めてくれないか」
俺がそう言うと、あずさのもじもじがより一層酷くなり、真っ赤な顔になり、俺の腕をギュッと強く抱きしめた。
「はーーっ、なんと可愛い子なんだ。まるでお人形さんのようじゃないか!」
女性があずさの顔をのぞき込むと、あずさは人見知りの幼女のように、俺の後ろに隠れた。
「一泊、一万八千円だ」
俺は、カンパのお金を数えた。
二万四千円もあった。
女性に一万八千円を渡した。
女性は、人目に付かないようにこっそり、家の中に入れてくれた。
家の中は、何の変哲もない普通の二階建ての民家だった。
俺たちは二階に案内された。
「晩ご飯と朝ご飯はサービスしてやるよ、食べるかい」
「食べます」
あずさが即答した。
食事は、お魚とご飯でした。
まずまず美味しく食べられた。
ご飯を食べると、あずさはすぐに眠そうになり、布団を催促して横になった。ずっと歩きだったし、疲れていたのだろう。
その時、女性に腕枕をせがんだ。
女性もまんざらじゃないようで、すぐにそれに応じて横になった。
「すーー、すーー」
「あらまあ、もう眠ってしまったよ。腕を取られてしまって、これでは何にも出来ないよ」
「そのままにしてくれて、いいさ」
あたりは、夕日が沈みかかり、かなり暗くなっていた。
まわりに電気は来ていないようだ。
大通りの宿屋の前に火が焚かれだした。
「あんたは、無理矢理やらされているのか」
「最初はそうだったさ。でも今は、気ままに一人でやっているのさ」
「そうか」
「みかじめ料を払えば、特に問題も起きないし、トラブルがあっても守ってもらえる。気ままにやっているよ」
「やったー、アンナメーダーマン!! かっこいい! 大好きー!!」
あずさがはっきりした口調で、寝言を言った。
何の夢を見ているのだか。
「アンナメーダーマン? 何だいそれは?」
「隕石騒ぎが起きる前にやっていた、テレビのヒーロー番組じゃないのかな」
「そんなのやっていたかねー」
「ひっ、ひっ、嫌!! や、やめてーーー、やめておかあさーーん!! やめて下さいおかーさん!! うわあああーーーん!!」
あずさが、眠ったまま泣きだした。
「びっくりしたねー。これが寝言かい」
「初めてだ、あずさがこんな寝言を言うのは」
「えっ!?」
「あずさは、六歳より前の記憶を失っている。親の記憶はないんだ」
そうか、わかった。
この女性にあずさは、母親を無意識に感じていたんだ。
蓋をしていた記憶の断片が無意識に出てしまったのではないのだろうか。
「じゃあ、なんで?」
「あんたに、あずさは母親の面影を感じたのかもしれない」
「なんだって、嬉しいじゃないか! でも、今の寝言、あまりいい親じゃなかったのかねえ」
「ああ、ひどい虐待を受けていた」
「何てことだろう、こんな可愛い少女に……」
「抱きしめて、頭を撫でてやってくれないか」
「これでいいのかい」
あずさは、泣きじゃくっていたが、だんだん落ち着きを取り戻し、静かな寝息を立て始めた。
「ありがとう。落ち着いたようだ」
「この子の母親はどうしたんだい?」
「行方不明さ」
「……そうかい」
「とうさん! 大好き!! 絶対国立大学に行ってお嫁さんになるんだからーーー!!!!」
「ぷっ、あんたは良い父親なんだね」
「ははは、俺を見てくれ、こんなデブでぶおとこだ。おまけに貧乏、苦労ばかりかけている底辺おじさん。ダメな豚だよ」
「こんな美少女に、大好きと言わせるんだ、ただの豚じゃないさ」
「ははははは、あんた、いい人だな」
俺は、あの赤い豚を思い出して笑えて来た。
「あたしの方こそいい人なんてガラじゃ無いさ」
女性は暗い表情になった。
この人も色々あったのだろう。
「さがせーーー!!!! さがせーーーー!!!!!!」
大通りから大きな声が聞こえてきた。
窓からのぞくと、松明を持っているのか、沢山の火の光があたりをオレンジ色に照らしている。
「いったい、何があったんだ?」
俺は光を見つめた。
2
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる