底辺おじさん、助けた異世界転生美少女の異世界魔法と異世界アイテムそして特殊能力ゴミ処理で世界を救う

覧都

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第六十九話 敗走

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 部隊は保井家を目指し1号線を行軍する。
 新入りの俺は隊列の一番後ろだ。
 先頭の尾野上隊長からは一番遠い。
 隊列が伸びて、隊長の目が届かなくなった。

「おいデブ!!」

「は、はい」

「俺の荷物ぐらい持つのが当たり前だろう!!」

 最後尾の俺の横に二人、銃を持った兵士が来た。
 この二人は、護衛にもなるが、恐らく荷物持ちの脱走の監視を兼ねているのだろう。
 その最後尾に来た武装兵二人が、自分の荷物を俺に押しつけてきた。
 仕方が無いので両肩にかけた。

「早速、持たされているのか」

 輜重隊の隊長が、俺の所まで来てニヤニヤしている。

「は、はい」

 まあ、こんな時には助けてもらえるわけが無い。

「ほら、俺の荷物も持たねえか」

 でかいカバンを渡された。
 三十キロくらいは有るカバンを体の前に抱える。
 背中には自分の分、両肩に兵士の分、全部で百キロは超えているのではなかろうか。まるで、いじめられている小学生が、ランドセルをいっぱい持たされているようだ。

「ひーーーっ、ひーーーっ。ぜーーーっ、ぜーーーっ」

 俺は、バテたふりををして、大げさにしている。
 実はこの程度、今の俺にとっては、たいしたことでは無い。
 全くどうという事も無いが大げさに疲れたふりをしておいた。

「ふふふっ」
「ひゃははは」

 それを見て案の定、輜重隊の隊長も兵士も笑っている。
 隊は、一時間に十分ほどの休みを取りながら保井家を目指す。

「お、お前、大丈夫なのか!!」

 こいつら、糞野郎なのか、良い奴なのかどっちなんだ。
 ひーひー言いながらも、ずっと荷物を運び続ける俺を心配してか、声をかけてきた。

「ぜひーーっ、ぶひーーっ、ぶひーーっ、もう少しなら、だ、大丈夫です」

「ぶっ、ぶひーーっ、だってよ。ぎゃはははは」

 三人は、声をそろえて笑い出した。
 豚顔の俺が「ぶひーっ」と、言ったのがつぼに入ったらしい。
 笑わせようとしてやったのだが、バカにして笑われると少し腹が立った。

 一号線を歩いていると右手に海が見える。そして左手には山も見える。
 空は青く高く広がっている、なんだかとても景色が綺麗だ。
 いつもならあずさが一緒だが、今日はまわりに親しい人が全くいない。
 なんだか、久しぶりに孤独を感じている。

 あーーっ! 俺はあずさを助けたつもりになっていたが、助けられていたのが俺だという事に今更ながら気が付いた。
 なんだか、むしょうにあずさに会いたくなっている。
 まだ、数時間だぞ! ホームシックならぬ、あずさシックにおちいっている。

 保井一家の縄張りには、まだ陽の高いうちに付いた。

「よく頑張ったな。今日はここで宿泊だ」

 輜重隊の隊長に言われた。
 宿営地は、元学校のようだ。
 食事が出され、就寝という事らしい。

 俺は日が暮れると、見張りの目を盗んで、宿営地を抜け出した。
 おかみさんの家がどうなっているのか、様子が見たいと思ったのだ
 宿営地からは五百メートルも無い、すぐに見えてきた。
 赤い民家の前には女の人が三人立っている。

 ――もう、新しい人が使っているのか

 なんだか、寂しい気持ちになって宿営地に戻った。



 翌朝、食事が終ると、保井一家百人と合流して、賊のいる山地を目指した。
 三時間も歩くと、両側が木で覆われた狭い道になる。
 先頭は保井家が勤め、どんどん進んで行く。

 タタタタタタ

「敵襲ーー!!!」

 銃声が聞こえた。
 先頭が、賊と遭遇したようだ。
 俺たちは荷物持ち、武装すらしていない。
 銃声を聞くと、輜重隊は全員震えだした。

 すでに囲まれている感じがする。
 敵は高い位置で、木の陰に隠れ、こちらを狙っていたようだ。
 もはや、こっちはただの的だ。
 俺は素早く、体の一部を細い糸のように伸ばし、敵の実態を探る。

「だめだーー!! 撤退! 撤退しろーー!!」

 すでに、勝敗は決したようだ。
 先頭を進んでいた、保井家の部隊は全滅したようだ。
 撤退の声を待っていたように、すぐ近くの木の陰から銃撃が始まった。

「何なんだこれは」

 俺は、声が出てしまった。
 敵の数はおよそ三百五十人、こっちの倍近くいる。
 その倍近い敵が、高地から木を盾にして、道路を行軍する丸見えの味方を撃ってきたのだ。
 勝てるわけが無い。

 保井家の部隊は、敵の実数もどこにいるのかもわからず、突っ込んで行ったのか。
 間抜けすぎる。

「ぎゃあああ!!」

 悲鳴が近づいてくる。

「おい何をしている。逃げるんだ!!」

 震えて動けないでいる、荷物持ちに、輜重隊の隊長が声をかけ、一目散に逃げて行く。

「うわああーー!!」

 それを追いかけて、荷物持ちが走り出した。

「おい、大田さん何をしている。撤退するんだ」

 尾野上さんが俺の所まで撤退してきて、声をかけてくれた。

「ははは、尾野上さん、俺にかまわず、逃げて下さい」

「何を言っている。そんな事は出来ない」

「俺は、この通りデブだ。こんなデブが、のたのた道をふさいだら、他の人が逃げられない。かまわないから、行ってください」

「伝令ー!! 伝令ー!! 尾野上隊長!! いませんかー?」

「俺はここにいる」

 伝令が、逃げる輜重隊をかき分けて、やって来た。

「殿より伝言です」

「この忙しい時に何だ!!」 

「はっ、浜松の密偵から報告があり、得体の知れない者が浜松を急襲して兵士三百人を一瞬で殺しました。その後、浜松城での宴会を要求し、五日逗留して、駿府に向ったとのこと。尾野上隊長には至急駿府城へ戻るように命令が下りました」

「何と言う事だ。わかった」

「そういう事なら、尾野上隊長! 俺にかまわずさっさと行ってくれ! 俺は俺で何とかする」

「すまない。駿府の居酒屋でまた会おう」

 尾野上隊長は、悲痛な顔をして撤退していった。
 俺は、撤退する兵士の邪魔にならないように、道を空け、草むらに入った。
 そして、黒のジャージに着替え、ヘルメットをかぶった。
 道の端に戻ると、でかいカバンの上にドカリと座って、逃げる兵士を何人も見送った。
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