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第百二十話 帰路

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「ミサー、地図を出してくれー」

 私達は、とうさんが戻るとすぐに日本へ帰ることになりました。
 坂本さんの休暇が無くなってしまうからです。
 またクビになっては申し訳ないので、大急ぎで帰ることになりました。
 移動魔法なら一瞬ですが、まだ少し時間があるからと坂本さんの提案で、UFOに乗って帰ることになりました。
 その帰りのUFOに乗り込むとすぐに、とうさんがミサさんに言ったのです。

「はい、はい」

 言われたミサさんは、嬉しそうに胸の谷間から地図を出しました。
 えーっ!!
 と、とうさんは何てことをしているのでしょうか。
 事もあろうに、美女の胸の谷間を小物入れのように使っています。
 ミサさんは谷間から出したばかりの、ほっかほっかに温められた地図をとうさんに手渡しました。

 とうさんはそれを無造作に受け取ると、バッと広げるとUFOの床に広げます。
 結構大きな地図で、東海地方から関東まで入った一枚の地図です。
 その姿を見ていた美女達が、自分の胸を見ています。
 他の人に、あの地図をしまっておくことは出来なさそうですよ。
 ま、まってください。皆さんはあんな最低な仕打ちをされたいのですかー。

 どうやら、少しでもとうさんの役に立ちたいようです。

「小田原、駿府、豊橋、名古屋が、丁度よさそうだな」

 地図をのぞき込むとうさんの、黄色いジャージの背中が出てしまっています。
 それだけではありません、パンツの上が出てしまって、激豚が少し見えています。
 これだけの美女軍団を前にして、いつも通りの自然体です。さすがとしか言いようがありません。
 仕方がありません、そんなとうさんの為にコーヒーでも入れて差し上げましょうか。
 そう思って席を立とうとしたら、ミサさん以外全員が席を立とうとしました。

「うふふふ」

 席を立った全員が微笑みました。

「どうぞ!」

 そして、私に譲ってくれました。
 はーー、うちのとうさんはモテモテのようです。

 ……!?

 うそでしょ?
 うそよね。
 まさか。

 うちのとうさんは、デブで豚顔です。
 女性に好かれる要素は全くありません。
 なんだか、すごく嫌な予感がします。

 でも、女性に見向きもせず、地図を見ているとうさんを見て安心しました。
 口からトローーンとよだれが垂れています。
 きっと、色々考えるのが忙しくて、ツバを飲み込むのも忘れているようです。
 ふふふ、この外見なら大丈夫です。

「とうさん、よだれ、よだれ」

「うおっ」

 私が声をかけたら、地図に落としてしまいました。
 とても汚いです。
 まさか、こんな物をミサさんの胸にしまわせていたのですか。
 最低です。
 とうさんは、こぼれた物を手のひらで拭くとまた、地図に集中しました。

「とうさん、コーヒーを入れました」

「ああ、ありがとう」

 返事をしましたが、地図から目を離しません。
 コーヒーを取る様子もありません。
 横にいるミサさんが、手のひらを胸の前で広げて、クビを振っています。
 私もため息をついて、コーヒーをお盆にのせたまま、しばらく待つことにしました。

 ボーッとしていると、この旅行の事が思い浮かんできます。
 初日、せっかく皆さんが気合いの入った水着を着てきたのに、とうさんに無視されて半ばやけくそ気味で始めたビーチボール大会、全員が見た目も気にせずすごい格好で、夢中でボールに向っていく姿はすごくエッチでした。
 ミサさんは、胸が半分以上水着から出ていました。
 おかげさまで、とっても楽しかったです。

 豪華なホテルで一泊して、次の日になっても、帰ってこないとうさんを皆で心配しました。
 もう、そこからは旅行どころの騒ぎじゃありませんでした。
 とても心配したのですからね。
 この埋め合わせは絶対してもらいますから。

「後は……」

 とうさんは、地図に話しかけています。
 どうせ、沢山手に入った、トウモロコシとまぐろと小魚の事です。
 養鶏所の鶏たちの食糧が出来たから、養鶏所の増築の事か。
 冷凍マグロの運搬方法でも考えているのでしょう。
 少しは、私達の事も考えて欲しいです。
 私は冷めてしまったコーヒーをかたづけるついでに、機内食の準備を始めました。





 ハワイから帰ったとうさんは多忙でした。
 私が、どこにいるのかわからないほど、留守にする事が多くなりました。
 米の収穫、果物の収穫、農作物の収穫で、どこにいるのかわかりません。
 もう、何日も顔を見ていません。

「ひめーー!!」

 私は尾張の人からはそう呼ばれています。
 今、名古屋城の天守閣、とうさんの趣味の部屋から、尾張の街をボーーと眺めていました。

「はい、加藤さん、どうしました」

「殿はいつ帰るのでしょうか」

「私にもわかりません。何か御用ですか」

「はっ、その……」

 とても言いにくそうです。

「なんですか」

 私は言いやすくする為に、可愛い笑顔をして見ました。
 まあ、私程度の笑顔がそんなに可愛いとは思いませんが、せい一杯頑張ってみました。

「うおっ!! じ、実は、具足が不足していまして、増やしてもらえないかと……」

「なるほど、なるほど。わかりました。すぐに探して連れてきます」

 これで口実ができました。
 久しぶりに、とうさんに会えます。
 さて、どこから探していきましょうか。
 私は、久しぶりに水着を着てメイド服に身を包み、出かけることにしました。
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