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第百二十一話 懐かしの部屋
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まずは、木田産業本社ですね。
とうさんが、私の為に残してくれたクザンと一緒に移動します。
木田産業の中庭は、静かでした。
北側に旧社屋、南側に巨大な新社屋があります。
旧社屋は、三階建てで二階が会社事務所で、その中の社長室が私と、とうさんの生活の場所でした。一階は駐車場です。
「懐かしい、いるとは思えないけど、寄り道をしましょう」
「……」
クザンは会話が出来ませんが、うなずいてくれました。
階段は東西にあります。東は二階までで会社用。
西は、三階までありますが、一階に鍵が必要な扉があります。こちらは自宅用です。
トントンと軽い足取りで階段を上り、会社のドアをノックもせず開けます。
「だれだ!!! ノックもしねえで! ここがどこだか分かっているのか!!」
いきなり怒鳴られました。
「分かっているわ! 私のうちよ。自分の家に帰るのにノックをする人はいないわ!」
楽しい気分を台無しにされたので、少し言い方が乱暴になりました。
「おおおーー!! あずさちゃーん!! 滅茶苦茶かわいいー!!」
私の事を知っているゲン一家の幹部の人がいるみたいです。
「すこし、私の部屋を見てもいいですか?」
「ふふふ、どうぞ、どうぞ。社長室だけは何もさわっていません」
扉を開けると、本当に当時のままでした。
私は中に入るとすぐに扉を閉めました。
だって、すでに泣きそうなんですもの。
「うふふ、ゲームモニターとしてしか使っていないテレビ。とうさんはいつも言っていました。『テレビも見ねえのに、受信料を払うっておかしいよなー。貧乏人いじめだよなー。でかいテレビでも小さいテレビでも同じ値段だしよー。せめて払う人間の気持ちを考えた制度にしてもらいてーもんだ』っていってました。私にはよくわかりませんが、どうなんでしょう」
とうさんは、ガリガリにやせて、頭には大きな脱毛症が五ヶ所もあるみすぼらしい私を、いつもヒザの上にのせていてくれました。
そのときの私は、まるでミイラでした。
当時の自分の写真を見た時「なにこの汚いみすぼらしい子供わ!」と、自分で自分に気持ち悪さと恐怖を感じるほどでした。
そんな私をとうさんは、いつも大切に優しく、肌身離さず一緒にいてくれました。
私は、とうさんがここにいないと、捨てられたと思って、よくパニックになりましたよね。
それに失敗した時も、パニックになりました。
とうさんは、治まるまでずっと優しく抱きしめてくれました。
そういえば、とうさんに怒られた記憶がありません。甘やかしすぎです。
「とうさん、どこにいるの。会いたい……」
私は何年も会っていない子供のような気持ちになっています。
そして、とうさんの座っていた、応接のソファーに座って、何も写っていないテレビを見ました。
――うそ!!
テレビの画面にとうさんに抱っこをされている私と、ニコニコ顔のとうさんの姿がうつっています。
画面の私の顔は、何の表情もなく無表情、可愛げの無い子供です。
生き霊でしょうか。
私は、とうさんに抱っこされている時、こんな顔をしていたのでしょうか。
あんな子供を、ニコニコ顔でかわいがって、ここまでにしてくれたのですね。
感謝しかありません。
私はとうさんの思い出が、次から次へと映る画面をじっと見つめ、しばらくそこから動けなくなりました。
気が付くと涙がポタポタとこぼれていました。
よかった。水着で。
「あの、とうさんを見ませんでしたか?」
私は、涙がかれるのを待って、ドアを開け、聞いて見ました。
「知りませんねえ。本社に藤吉さんがいます。聞いて見たらどうですか」
「わかりました。ありがとうございます」
御礼を言うと、走って大きな白い新社屋の二階へ向いました。
扉を開けるなり大声で。
「藤吉さーーん!!!」
叫んでいました。
中にいた人が驚いて、全員こっちを見ました。
「まあ、あずさちゃん久しぶり」
ここで事務処理をしている、お姉さん達が集まってくれました。
「あの、とうさんを見ませんでしたか?」
お姉さん達は、首を振ります。
「やあ、あずさちゃん」
「あの、藤吉さん。とうさんを見ませんでしたか?」
「マグロを倉庫に置いて行くときに見たけど、それは一週間ほど前だな。どこへ行ったのかは、聞かされていない」
「ありがとうございます」
それだけ聞くと、私はクザンと駿府へ向った。
「あらあら、まあまあ、せっかくお茶を入れていたのにもう行ってしまった。まったく大殿と同じで慌ただしいねえ」
お姉さんの声が聞こえました。
ごめんなさい、先を急ぐものですから。
私は、クザンと駿府の大田大商店に移動しました。
もと四階建ての静岡駅に近い国道沿いのスポーツショップです。
一階が駐車場で、二階と三階が店舗、四階が寮と事務所兼倉庫になっています。
私は、ここでは大田大の娘あずきです。
セーラー服を着て目立たないように、髪で顔を半分隠します。
目立たない通りの影に移動すると、何やら騒がしいです。
いったい何をやっているのでしょうか。
声のする先は、一階の駐車場からです。
私は興味津々でのぞき込みました。
とうさんが、私の為に残してくれたクザンと一緒に移動します。
木田産業の中庭は、静かでした。
北側に旧社屋、南側に巨大な新社屋があります。
旧社屋は、三階建てで二階が会社事務所で、その中の社長室が私と、とうさんの生活の場所でした。一階は駐車場です。
「懐かしい、いるとは思えないけど、寄り道をしましょう」
「……」
クザンは会話が出来ませんが、うなずいてくれました。
階段は東西にあります。東は二階までで会社用。
西は、三階までありますが、一階に鍵が必要な扉があります。こちらは自宅用です。
トントンと軽い足取りで階段を上り、会社のドアをノックもせず開けます。
「だれだ!!! ノックもしねえで! ここがどこだか分かっているのか!!」
いきなり怒鳴られました。
「分かっているわ! 私のうちよ。自分の家に帰るのにノックをする人はいないわ!」
楽しい気分を台無しにされたので、少し言い方が乱暴になりました。
「おおおーー!! あずさちゃーん!! 滅茶苦茶かわいいー!!」
私の事を知っているゲン一家の幹部の人がいるみたいです。
「すこし、私の部屋を見てもいいですか?」
「ふふふ、どうぞ、どうぞ。社長室だけは何もさわっていません」
扉を開けると、本当に当時のままでした。
私は中に入るとすぐに扉を閉めました。
だって、すでに泣きそうなんですもの。
「うふふ、ゲームモニターとしてしか使っていないテレビ。とうさんはいつも言っていました。『テレビも見ねえのに、受信料を払うっておかしいよなー。貧乏人いじめだよなー。でかいテレビでも小さいテレビでも同じ値段だしよー。せめて払う人間の気持ちを考えた制度にしてもらいてーもんだ』っていってました。私にはよくわかりませんが、どうなんでしょう」
とうさんは、ガリガリにやせて、頭には大きな脱毛症が五ヶ所もあるみすぼらしい私を、いつもヒザの上にのせていてくれました。
そのときの私は、まるでミイラでした。
当時の自分の写真を見た時「なにこの汚いみすぼらしい子供わ!」と、自分で自分に気持ち悪さと恐怖を感じるほどでした。
そんな私をとうさんは、いつも大切に優しく、肌身離さず一緒にいてくれました。
私は、とうさんがここにいないと、捨てられたと思って、よくパニックになりましたよね。
それに失敗した時も、パニックになりました。
とうさんは、治まるまでずっと優しく抱きしめてくれました。
そういえば、とうさんに怒られた記憶がありません。甘やかしすぎです。
「とうさん、どこにいるの。会いたい……」
私は何年も会っていない子供のような気持ちになっています。
そして、とうさんの座っていた、応接のソファーに座って、何も写っていないテレビを見ました。
――うそ!!
テレビの画面にとうさんに抱っこをされている私と、ニコニコ顔のとうさんの姿がうつっています。
画面の私の顔は、何の表情もなく無表情、可愛げの無い子供です。
生き霊でしょうか。
私は、とうさんに抱っこされている時、こんな顔をしていたのでしょうか。
あんな子供を、ニコニコ顔でかわいがって、ここまでにしてくれたのですね。
感謝しかありません。
私はとうさんの思い出が、次から次へと映る画面をじっと見つめ、しばらくそこから動けなくなりました。
気が付くと涙がポタポタとこぼれていました。
よかった。水着で。
「あの、とうさんを見ませんでしたか?」
私は、涙がかれるのを待って、ドアを開け、聞いて見ました。
「知りませんねえ。本社に藤吉さんがいます。聞いて見たらどうですか」
「わかりました。ありがとうございます」
御礼を言うと、走って大きな白い新社屋の二階へ向いました。
扉を開けるなり大声で。
「藤吉さーーん!!!」
叫んでいました。
中にいた人が驚いて、全員こっちを見ました。
「まあ、あずさちゃん久しぶり」
ここで事務処理をしている、お姉さん達が集まってくれました。
「あの、とうさんを見ませんでしたか?」
お姉さん達は、首を振ります。
「やあ、あずさちゃん」
「あの、藤吉さん。とうさんを見ませんでしたか?」
「マグロを倉庫に置いて行くときに見たけど、それは一週間ほど前だな。どこへ行ったのかは、聞かされていない」
「ありがとうございます」
それだけ聞くと、私はクザンと駿府へ向った。
「あらあら、まあまあ、せっかくお茶を入れていたのにもう行ってしまった。まったく大殿と同じで慌ただしいねえ」
お姉さんの声が聞こえました。
ごめんなさい、先を急ぐものですから。
私は、クザンと駿府の大田大商店に移動しました。
もと四階建ての静岡駅に近い国道沿いのスポーツショップです。
一階が駐車場で、二階と三階が店舗、四階が寮と事務所兼倉庫になっています。
私は、ここでは大田大の娘あずきです。
セーラー服を着て目立たないように、髪で顔を半分隠します。
目立たない通りの影に移動すると、何やら騒がしいです。
いったい何をやっているのでしょうか。
声のする先は、一階の駐車場からです。
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