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第百五十五話 街路樹の下で
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街路樹の下に座っていると、シュラとあづちが立ったままになる。
アルミと胴の合金で四人掛けのベンチを作った。
これなら軽くて、丈夫で腐食しない。
そこに座り、二人も座るようにすすめた。
二人は、ベンチに座ると、そのまま表情を変えず、楽しそうに歓談する人達の姿を見つめている。
その表情から、何を考えているのかは分からない。
俺も、ボーッと人々全体を見つめる。
一つのグループは、アイドル達のグループだ。
女性ばかりが集っている。
華やかで、楽しそうだ。
もう一つは、ゲンのグループだ。
全員、恐ろしい顔をしている。
だが、今回の祭り成功の立役者だ。治安を守ってくれたグループだ。
伊達の姿もここにある。
そして、信濃勢、ここには真田や、戸田、北条の姿がある。
もう一つが、今川家のグループだ。ここには尾張勢の姿もあった。
各グループを回って、あいさつを済ました、上杉が来た。
上杉がこの中では、一番の新参だ。
知り合いも無く一人で、気を使って疲れた表情をしている。
「お疲れさん」
「はい、ありがとうございます」
シュラが少し横に移動して、上杉が俺の横に座れるように開けてくれた。
空いたスペースに、上杉が座った。
「今日は、ゆっくり休んでくれ。明日は越後に行く。俺はそのまま越中へ行こうと思う」
「あの、お疲れではありませんか」
「俺は、大丈夫だ」
この会話の間、あづちは上杉をチラリとも見ずに、ずっと虚空を見ている。
ふふふ、俺は、この少女の笑顔が見て見たくなった。
「ジャーーン!」
俺は棒のついたアメを出した。
「……」
あづちの表情は変わらない。
グウウウゥゥゥ
アメを見たあづちのおなかが鳴った。
「あれっ! おなかが、空いているのか」
あづちはコクリと、うなずいた。
ずっと静かにしているから、食事を忘れられたのだろう。
「ちょっと、待っていてくれ」
俺はあずさの所で、うな重を四つもらってきた。
一つを、あづち、一つを上杉に渡した。
残りは、二人のお替わりだ。
「食べてくれ」
俺は、二人の一口目を、見つめた。
「おいしーーー!!!」
上杉は満面に笑みを浮かべて幸せそうだ。
「おいしぃ」
あづちは、美味しいと言ってくれたが、表情は変わらなかった。
少しガッカリしたが、でも、なんだか懐かしさで胸が一杯になった。
そうだ、幼い頃のあずさと同じなのだ。
表情は変わらないが、食べるのは速かった。
ちゃんと味が分かるのだろうかと思うほどだった。
「お替わりをどうぞ」
俺があづちに、もう一つうな重を勧めると、あづちはクビを振った。
「じゃあ、ゴミになっちまうなー。捨て無いといけないのかなー。食べて欲しいなー」
俺はそう言って、あづちのヒザの上にうな重を置いた。
あづちは、ゆっくり今度は味わいながら食べ始めた。
「上杉さんもどうぞ」
一つ目を食べ終えた上杉にも、お替わりをすすめた。
アルミのマグカップに、水を入れて二人の横に置いた。
ふふふ、俺は少し笑顔になった。
それは、二人から全体に視線を移して、気が付いたのだ。皆が、こっちをチラチラ見ていることに。
皆、気になっているのだが、声をかけるのを我慢して、俺とあづちを静かに見守ってくれていたのだ。
秋のマグロ祭りは、良い気分で終われそうだ。
目に涙が溜まったので夜空を見るふりをして、こぼれないようにしようと思ったが、ここは屋根があるので夜空は見ることが出来なかった。
仕方が無いのでアーケード商店街の看板をぐるりと見回した。
あづちと上杉の食事が終ると、ピッチピチのライダースーツを着て、胸を大きく開けている、フージコちゃーん、じゃなくて、ミサが来た。
向え合せになるように、ベンチをもう一つ出した。
ミサは、俺の前に座った。
「!?」
上杉が、とても驚いた顔をしている。
「どうしました」
ミサが上杉に話しかけた。
「あ、あの、人違いならすみません。天地海山さんではありませんか」
「うふふ、信者さんですね。こんな格好だから分からなかったかしら。でも、これも私です」
「きょ、教祖さまー!!」
上杉が、ミサに抱きつき、大きな胸の谷間に顔を埋めた。
「ちょっ、ちょっとーー!! 何をするのーー!!」
「私です。越後支部長の上杉です」
「あー、上杉さんところのむすめ……むご」
上杉は、素早くミサの口を押さえた。
むすめむご。娘婿ということか。
「越後支部は、ミサさんの予言で救われました。ありがとうございます。本当にありがとうございます」
上杉は、涙を流している。
「あー、あれね。あれは、予言ではありませんよ。隕石をアンナメーダーマンがなんとかしそうだったから、皆に伝えたのよ」
「えっ!? アンナメーダーマン?」
上杉は驚いた顔をして俺の顔を見ている。
頬が赤くなり、まるで恋する乙女だ。
「おいおい、男にそんな顔をして見つめられても、気持ち悪いだけだぜ!」
「えっ、男?」
今度はミサが驚いている。
「そ、そうです。私は上杉謙信、男です」
「あーっ、そういうこと。ふーーん」
ミサが悪い顔をしてニヤリと笑った。
「……」
心配そうな顔をして、上杉が、ミサの顔を見つめている。
「ねえ、そろそろ、行くのでしょ。私はもう準備が出来ているわ」
「さすがは、ミサだなあ。でも、今日は上杉さんと、あづちちゃんがいる、明日の朝に出発だ。ミサもゆっくりしてくれ」
「そう、じゃあ、先にUFOで休んできます。上杉さんもあづちちゃんも行きましょう」
「とうさん、お話は終った?」
「ああ、あずさ、待たせたな」
「うん」
あずさが俺の横に嬉しそうに座った。
ヒマリと愛美ちゃんも来た。
しばらく美少女達に囲まれて話しをしたが、疲れているのかすぐに眠ってしまった。
三人に毛布を掛けて、それぞれの顔を見つめた。
また、しばらく、離ればなれになりそうだ。
しっかり、三人の寝顔を脳裏に焼き付けた。
アルミと胴の合金で四人掛けのベンチを作った。
これなら軽くて、丈夫で腐食しない。
そこに座り、二人も座るようにすすめた。
二人は、ベンチに座ると、そのまま表情を変えず、楽しそうに歓談する人達の姿を見つめている。
その表情から、何を考えているのかは分からない。
俺も、ボーッと人々全体を見つめる。
一つのグループは、アイドル達のグループだ。
女性ばかりが集っている。
華やかで、楽しそうだ。
もう一つは、ゲンのグループだ。
全員、恐ろしい顔をしている。
だが、今回の祭り成功の立役者だ。治安を守ってくれたグループだ。
伊達の姿もここにある。
そして、信濃勢、ここには真田や、戸田、北条の姿がある。
もう一つが、今川家のグループだ。ここには尾張勢の姿もあった。
各グループを回って、あいさつを済ました、上杉が来た。
上杉がこの中では、一番の新参だ。
知り合いも無く一人で、気を使って疲れた表情をしている。
「お疲れさん」
「はい、ありがとうございます」
シュラが少し横に移動して、上杉が俺の横に座れるように開けてくれた。
空いたスペースに、上杉が座った。
「今日は、ゆっくり休んでくれ。明日は越後に行く。俺はそのまま越中へ行こうと思う」
「あの、お疲れではありませんか」
「俺は、大丈夫だ」
この会話の間、あづちは上杉をチラリとも見ずに、ずっと虚空を見ている。
ふふふ、俺は、この少女の笑顔が見て見たくなった。
「ジャーーン!」
俺は棒のついたアメを出した。
「……」
あづちの表情は変わらない。
グウウウゥゥゥ
アメを見たあづちのおなかが鳴った。
「あれっ! おなかが、空いているのか」
あづちはコクリと、うなずいた。
ずっと静かにしているから、食事を忘れられたのだろう。
「ちょっと、待っていてくれ」
俺はあずさの所で、うな重を四つもらってきた。
一つを、あづち、一つを上杉に渡した。
残りは、二人のお替わりだ。
「食べてくれ」
俺は、二人の一口目を、見つめた。
「おいしーーー!!!」
上杉は満面に笑みを浮かべて幸せそうだ。
「おいしぃ」
あづちは、美味しいと言ってくれたが、表情は変わらなかった。
少しガッカリしたが、でも、なんだか懐かしさで胸が一杯になった。
そうだ、幼い頃のあずさと同じなのだ。
表情は変わらないが、食べるのは速かった。
ちゃんと味が分かるのだろうかと思うほどだった。
「お替わりをどうぞ」
俺があづちに、もう一つうな重を勧めると、あづちはクビを振った。
「じゃあ、ゴミになっちまうなー。捨て無いといけないのかなー。食べて欲しいなー」
俺はそう言って、あづちのヒザの上にうな重を置いた。
あづちは、ゆっくり今度は味わいながら食べ始めた。
「上杉さんもどうぞ」
一つ目を食べ終えた上杉にも、お替わりをすすめた。
アルミのマグカップに、水を入れて二人の横に置いた。
ふふふ、俺は少し笑顔になった。
それは、二人から全体に視線を移して、気が付いたのだ。皆が、こっちをチラチラ見ていることに。
皆、気になっているのだが、声をかけるのを我慢して、俺とあづちを静かに見守ってくれていたのだ。
秋のマグロ祭りは、良い気分で終われそうだ。
目に涙が溜まったので夜空を見るふりをして、こぼれないようにしようと思ったが、ここは屋根があるので夜空は見ることが出来なかった。
仕方が無いのでアーケード商店街の看板をぐるりと見回した。
あづちと上杉の食事が終ると、ピッチピチのライダースーツを着て、胸を大きく開けている、フージコちゃーん、じゃなくて、ミサが来た。
向え合せになるように、ベンチをもう一つ出した。
ミサは、俺の前に座った。
「!?」
上杉が、とても驚いた顔をしている。
「どうしました」
ミサが上杉に話しかけた。
「あ、あの、人違いならすみません。天地海山さんではありませんか」
「うふふ、信者さんですね。こんな格好だから分からなかったかしら。でも、これも私です」
「きょ、教祖さまー!!」
上杉が、ミサに抱きつき、大きな胸の谷間に顔を埋めた。
「ちょっ、ちょっとーー!! 何をするのーー!!」
「私です。越後支部長の上杉です」
「あー、上杉さんところのむすめ……むご」
上杉は、素早くミサの口を押さえた。
むすめむご。娘婿ということか。
「越後支部は、ミサさんの予言で救われました。ありがとうございます。本当にありがとうございます」
上杉は、涙を流している。
「あー、あれね。あれは、予言ではありませんよ。隕石をアンナメーダーマンがなんとかしそうだったから、皆に伝えたのよ」
「えっ!? アンナメーダーマン?」
上杉は驚いた顔をして俺の顔を見ている。
頬が赤くなり、まるで恋する乙女だ。
「おいおい、男にそんな顔をして見つめられても、気持ち悪いだけだぜ!」
「えっ、男?」
今度はミサが驚いている。
「そ、そうです。私は上杉謙信、男です」
「あーっ、そういうこと。ふーーん」
ミサが悪い顔をしてニヤリと笑った。
「……」
心配そうな顔をして、上杉が、ミサの顔を見つめている。
「ねえ、そろそろ、行くのでしょ。私はもう準備が出来ているわ」
「さすがは、ミサだなあ。でも、今日は上杉さんと、あづちちゃんがいる、明日の朝に出発だ。ミサもゆっくりしてくれ」
「そう、じゃあ、先にUFOで休んできます。上杉さんもあづちちゃんも行きましょう」
「とうさん、お話は終った?」
「ああ、あずさ、待たせたな」
「うん」
あずさが俺の横に嬉しそうに座った。
ヒマリと愛美ちゃんも来た。
しばらく美少女達に囲まれて話しをしたが、疲れているのかすぐに眠ってしまった。
三人に毛布を掛けて、それぞれの顔を見つめた。
また、しばらく、離ればなれになりそうだ。
しっかり、三人の寝顔を脳裏に焼き付けた。
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