164 / 428
第百六十四話 羽柴軍の動向
しおりを挟む
「さびーー!! くそー、昼は汗をかくほど暑いのに夜はさびーじゃねーか!」
ボサボサの髪に少し出っ歯でネズミとも猿とも言えるような顔、目の下に大きなくま、ボロボロの服を着た小男がぼやいている。
秋もここまで深まると、もう冬のように寒い夜もある。
夜と言っても、まだ六時前。だが、あたりはすっかり闇に包まれている。
「こんな所に、このような粗末なテントでは当然のことです」
テントの入り口から、足が悪いのか足を引きずりながら男が入ってきた。
その男もボロボロの服を着て、人相が悪く、片目を黒い布で覆っている。
「こんな所とか言うんじゃねえよ。ここは安土城の跡地だ。男の夢の聖地なんだよ」
「まさか、この場所にしたかったのですか?」
テントは安土城跡の南側にある駐車場に作られている。
「まあな。しかし、全く動けん。官兵衛、お前軍師だろ、策を出せ!!」
男は少し照れているのか頬が赤くなっている。
男達の軍は塹壕を掘り、にらみ合いとなっている。
銃弾が充分にあれば、機関銃を撃ちっぱなしにして突撃をすれば、すぐにかたがつきそうなものだが、どちらの軍も銃弾が乏しいらしく、弾の節約をしながらの、みみっちい戦いとなっている。
しかも、銃以外の武器は、短刀もしくは、金属の棒というお粗末な物だ。
戦いはこうちゃくするしかなかった。
「ふふふ、策と言われましても銃弾も無い、食糧も無い、おまけに兵士は、戦闘経験も無い素人ばかりですからね。無理です。前線が維持されているだけでも奇跡です」
「まるで、敗戦間近の日本兵のような感じだな」
「条件は似ていますが、士気が違いますな。あの当時の日本人は何故あのように士気が高かったのでしょうか」
「殿ーー!!」
ネズミとも猿ともいえる小男のテントに、青年が叫びながら入ってきた。
「やかましい、長政! 声がでけーんだよ。なにがあった、ちゅーんだよ!」
「はっ! 美濃から陣中見舞いが届きました」
「はぁーー、美濃?」
「はい、美濃斎藤家より米が届きました」
「はあー、斎藤? 美濃は榎本家じゃねえのか」
「はい、私もそう思いましたので聞いたところ、改名したと言っていました」
「なに、して名は何と?」
「はい、さいとうさんとしたようです」
「ボケーー、名を聞いているのだ」
「で、ですから。斎藤三と書いてさいとうさん、ですから名はさんです」
青年が紙に文字で書いて見せた。
「名乗るのに恐れ多くて道を抜いた訳か。なるほど、龍の字を入れなかったと言う訳か」
「それが何か?」
青年は、龍の文字の意味がわからなかったようだ。
龍の文字とは、斎藤義龍、斎藤龍興の事を意味する。
すなわち、織田家を敵対視した道三の息子と孫を意味するのである。
これを用いたのならば、織田を敵対視する事を暗に示し、道三の方を使用したという事は親織田家を示すのだ。
小男は、斎藤三の心を読み解き、陣中見舞いを受け取ることを決めたようだ。
「いやいい。それより、その量は?」
「はい、五十トンほどです」
「五十トン!? この食糧不足の中でかなりの量じゃないか。あいさつをしたい、代表者を呼んでくれ」
「はっ」
「名は何と言う」
呼び出された男はテントに入り、小男に頭を下げている。
「不破と申します」
「なるほどな。何か礼がしたいが、俺の実力では、大殿に同盟の打診ぐらいしか出来ないのだが、それでよろしいかな」
「さすがは羽柴様、よき報告を持ち帰れます」
ネズミとも猿とも言えるような小男の名は羽柴というらしい。
斎藤三の希望するところを先読みし、それを陣中見舞いの礼とするようだ。
一円もかからない上に、羽柴軍に取っても好都合な条件である。
この同盟は、成立する事は間違いないだろう。
「期間は六ヶ月とお伝え下さい」
先程、大殿に打診すると言っておきながら、すでに同盟が成立したように言っている。
「はっ!」
不破は深々と頭を下げるとテントを出て行った。
「ふふふ、官兵衛、食糧の方からやって来たぞ」
食糧を手に入れ羽柴は上機嫌になっている。
「ふむ、ですが。まだ足りない物の方が多いかと」
「殿ーー!!」
また先程の青年が大声を出して、テントに入ってきた。
「やかましい、長政! 声がでけーんだよ。なにがあったちゅーんだよ!」
「はっ、越中において柴田軍勝利にございます」
「なにっ、上杉謙信はあの柴田に負けるほど弱いのか」
「いえ、敵は木田家と言っていました」
「なるほど、木田が弱いのか。で、柴田軍の被害は?」
「はっ、負傷者は多数あれど、死者はゼロです。柴田様は肋骨を五本折る重傷です」
「なっ、柴田が負傷だとー。あの鬼柴田が……」
「木田と言うのはいったい、つえーのか、よえーのか、よくわからんなー」
「その勝利をもって、柴田軍は越中を領地とし木田家との間に、六ヶ月の停戦を結びました」
「うむ、それで」
「はい。大殿の命により、柴田軍前田様が兵三千と共に援軍に来られるそうです」
「官兵衛、兵も武器もそろったぞ」
「ひひひ、前田様の到着を待ち、全軍でまいりましょう。ひひっ! 兵を小出しにするのは愚策、全軍をもって新政府軍を壊滅させましょうぞ」
羽柴の敵はハルラの軍で、ハルラの軍は新政府軍を名乗っているようだ。
この後、羽柴軍は快進撃をする。
それは、新政府軍の主力が、四国、摂津方面に向っている為に、留守をまもっているのが弱兵だったおかげであった。
羽柴は強運の持ち主なのかもしれない。
だが、ハルラ率いる新政府軍は反撃を目指しすでに動き始めていた。
ボサボサの髪に少し出っ歯でネズミとも猿とも言えるような顔、目の下に大きなくま、ボロボロの服を着た小男がぼやいている。
秋もここまで深まると、もう冬のように寒い夜もある。
夜と言っても、まだ六時前。だが、あたりはすっかり闇に包まれている。
「こんな所に、このような粗末なテントでは当然のことです」
テントの入り口から、足が悪いのか足を引きずりながら男が入ってきた。
その男もボロボロの服を着て、人相が悪く、片目を黒い布で覆っている。
「こんな所とか言うんじゃねえよ。ここは安土城の跡地だ。男の夢の聖地なんだよ」
「まさか、この場所にしたかったのですか?」
テントは安土城跡の南側にある駐車場に作られている。
「まあな。しかし、全く動けん。官兵衛、お前軍師だろ、策を出せ!!」
男は少し照れているのか頬が赤くなっている。
男達の軍は塹壕を掘り、にらみ合いとなっている。
銃弾が充分にあれば、機関銃を撃ちっぱなしにして突撃をすれば、すぐにかたがつきそうなものだが、どちらの軍も銃弾が乏しいらしく、弾の節約をしながらの、みみっちい戦いとなっている。
しかも、銃以外の武器は、短刀もしくは、金属の棒というお粗末な物だ。
戦いはこうちゃくするしかなかった。
「ふふふ、策と言われましても銃弾も無い、食糧も無い、おまけに兵士は、戦闘経験も無い素人ばかりですからね。無理です。前線が維持されているだけでも奇跡です」
「まるで、敗戦間近の日本兵のような感じだな」
「条件は似ていますが、士気が違いますな。あの当時の日本人は何故あのように士気が高かったのでしょうか」
「殿ーー!!」
ネズミとも猿ともいえる小男のテントに、青年が叫びながら入ってきた。
「やかましい、長政! 声がでけーんだよ。なにがあった、ちゅーんだよ!」
「はっ! 美濃から陣中見舞いが届きました」
「はぁーー、美濃?」
「はい、美濃斎藤家より米が届きました」
「はあー、斎藤? 美濃は榎本家じゃねえのか」
「はい、私もそう思いましたので聞いたところ、改名したと言っていました」
「なに、して名は何と?」
「はい、さいとうさんとしたようです」
「ボケーー、名を聞いているのだ」
「で、ですから。斎藤三と書いてさいとうさん、ですから名はさんです」
青年が紙に文字で書いて見せた。
「名乗るのに恐れ多くて道を抜いた訳か。なるほど、龍の字を入れなかったと言う訳か」
「それが何か?」
青年は、龍の文字の意味がわからなかったようだ。
龍の文字とは、斎藤義龍、斎藤龍興の事を意味する。
すなわち、織田家を敵対視した道三の息子と孫を意味するのである。
これを用いたのならば、織田を敵対視する事を暗に示し、道三の方を使用したという事は親織田家を示すのだ。
小男は、斎藤三の心を読み解き、陣中見舞いを受け取ることを決めたようだ。
「いやいい。それより、その量は?」
「はい、五十トンほどです」
「五十トン!? この食糧不足の中でかなりの量じゃないか。あいさつをしたい、代表者を呼んでくれ」
「はっ」
「名は何と言う」
呼び出された男はテントに入り、小男に頭を下げている。
「不破と申します」
「なるほどな。何か礼がしたいが、俺の実力では、大殿に同盟の打診ぐらいしか出来ないのだが、それでよろしいかな」
「さすがは羽柴様、よき報告を持ち帰れます」
ネズミとも猿とも言えるような小男の名は羽柴というらしい。
斎藤三の希望するところを先読みし、それを陣中見舞いの礼とするようだ。
一円もかからない上に、羽柴軍に取っても好都合な条件である。
この同盟は、成立する事は間違いないだろう。
「期間は六ヶ月とお伝え下さい」
先程、大殿に打診すると言っておきながら、すでに同盟が成立したように言っている。
「はっ!」
不破は深々と頭を下げるとテントを出て行った。
「ふふふ、官兵衛、食糧の方からやって来たぞ」
食糧を手に入れ羽柴は上機嫌になっている。
「ふむ、ですが。まだ足りない物の方が多いかと」
「殿ーー!!」
また先程の青年が大声を出して、テントに入ってきた。
「やかましい、長政! 声がでけーんだよ。なにがあったちゅーんだよ!」
「はっ、越中において柴田軍勝利にございます」
「なにっ、上杉謙信はあの柴田に負けるほど弱いのか」
「いえ、敵は木田家と言っていました」
「なるほど、木田が弱いのか。で、柴田軍の被害は?」
「はっ、負傷者は多数あれど、死者はゼロです。柴田様は肋骨を五本折る重傷です」
「なっ、柴田が負傷だとー。あの鬼柴田が……」
「木田と言うのはいったい、つえーのか、よえーのか、よくわからんなー」
「その勝利をもって、柴田軍は越中を領地とし木田家との間に、六ヶ月の停戦を結びました」
「うむ、それで」
「はい。大殿の命により、柴田軍前田様が兵三千と共に援軍に来られるそうです」
「官兵衛、兵も武器もそろったぞ」
「ひひひ、前田様の到着を待ち、全軍でまいりましょう。ひひっ! 兵を小出しにするのは愚策、全軍をもって新政府軍を壊滅させましょうぞ」
羽柴の敵はハルラの軍で、ハルラの軍は新政府軍を名乗っているようだ。
この後、羽柴軍は快進撃をする。
それは、新政府軍の主力が、四国、摂津方面に向っている為に、留守をまもっているのが弱兵だったおかげであった。
羽柴は強運の持ち主なのかもしれない。
だが、ハルラ率いる新政府軍は反撃を目指しすでに動き始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる