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第百七十六話 それぞれの配属

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「おい、いるんだろ。もうバレているぞ」

 少し大きめの声でいった。
 何も返事がない。
 当たり前だ何の気配もない、ただ言ってみただけなのだから。
 少し恥ずかしくなってきた。

「ニャーー! 何でわかったニャー」

「うおっ!!」

 アドは透明化を解除して、かわいいメイド服の姿を現わした。
 本当にいやあがった。
 全く気配がねーから、ぜんぜん分からなかった。
 アドの奴、すげー能力だな。

「いま、驚いたニャ。気が付いていなかったニャ。だまされたニャー!!!」

 うむ、幼女のくせにするどいなー。

「おまえ、ついて来るなと言ったよな」

 あーっ、しまった。
 大人の誤魔化し方をしてしまった。
 都合が悪いと怒る。これはやっちゃあいかんよな。
 俺も悪い大人になってしまったもんだ。反省、反省。

「ニャッ!! し、仕方がないニャ。あずさ様に頼まれたニャ。そしたらアドは断れないニャ」

 くっこいつ、頭が良いな。
 バレた時の言い訳までちゃんと考えていたようだ。

「ありがとうな」

 俺は、今の素直な気持ちを伝え、アドを後ろから抱きしめた。
 正直なところ、いてくれて嬉しかったのだ。
 今日一日でけっこう心が傷ついていたようだ。

「ニャッ!!」

 アドは少し驚いて振り返り、俺の顔を見て一瞬抵抗しようとしたが、抵抗するのをやめたようだ。そして体から力を抜いて全身柔らかくした。
 そのアドを抱っこして、建物の北端に行きヒザの上に乗せて座った。
 真っ直ぐ先には京都がある。まあ、見えないけど気配を感じようとしてみた。

「アド、ここはまわりが、全部山だなあ。あの山の向こうが京都なんだぞ」

 アドは、俺の言ったまま前を見つめた。
 山は真っ黒な影になり、空が少し明るい。
 太陽はすっかり沈んで月が空を明るくしている。
 まわりは建物よりも田んぼの方が多い、とても日本らしい風景に感じる。さすが大和だ。

「ご主人様は、かっこ悪かったニャ。ああいうのは、やめてほしいニャ」

「豚の真似か」

「そうニャ」

「ふふふ、それを見られたくなかったんだけどな。見られたと気が付いて、いまは情けない気持ちで一杯だ」

「……」

 アドは俺の顔を見上げた。

「おまえ、俺が好きでやっていると思っていたな。そうじゃないぞ。屈辱的に感じているぞ。だがな、その方が速く解決するのさ。処世術というわけさ。弱き者をあざ笑うのは良いが、あざ笑われた人間だって怒りを感じている。それがわからねえとは、可哀想な奴らだ。なあアド、頼みがあるのだけど」

「いやニャ」

「聞きもしねえで、断るんじゃねえぜ」

「絶対ろくなことじゃないから嫌ニャ」

「ふーー、じゃあしょうがねえ……」

「あっ、あきらめるなー!! ちゃんと言う流れニャー!!」

「あの四人を守ってやってくれないか。ずっと心に引っかかっていたんだ」

「あいつらは、放っておけばいいニャ。どうせ死のうとしていた奴らニャ」

「アドはかわいいな」

「はあぁーーっ」

「俺は、このままずっとアドとここに座っていたいよ」

「じゃ、じゃあ、そうすればいいニャ」

「世界は嫌な事ばかりだ。俺はこんな不細工に生まれてしまったからなー。人生の大半が苦しい嫌な事ばかりだった」

「それがどうしたニャ」

「今も豚のまねをしたり、死んでも良いなんて考える人間のことで、心を悩ませたりして苦しんでいる」

「見捨てればいいニャ」

「いや、それは出来ない。二人はとても美人で死なせる事は日本国の損害だ。一人はたくましくて、この世界の復興に必要だ。もう一人はとても頭が良くて、この国にはやはり必要な存在だ。そして、もう一人は、妖精の様にかわいくて俺は娘だと思っているのに、俺の盾になって死のうとしている。そんなことをされたら、俺がどれだけ悲しむか考えようともしない」

「ニャ!?」

「むしろ、見捨てるならこの情けない豚の方だろ。……大事なかわいい娘にかっこ悪いところを見られたくないしなー。恥ずかしくて死にたくなる」

「ちぇっ、わかったニャ。じゃあ行って来るニャ」

 すぐに行こうとしたアドを、もう一度ギュッと抱きしめた。

「もうしばらく、こうしていてくれ」

 アドの体が急に暖かくなった気がした。
 その後しばらく、二人で大和の空を黙って見続けた。





「おう、遅かったな」

 爺さんは起きて待っていてくれたようだ。

「少し気絶していました」

「やっぱり! あいつらか。大丈夫か?」

「大丈夫です」

「おかしいと思ったんだ。十二番隊くずれ共が、アンちゃんを追いかけて行ったように見えたからな」

「心配をおかけしました。ぜんぜん、なんともありません。安心してください」

「うん、そうか、じゃあ寝よう」

「はい」

 爺さんはすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
 恐らくここでは、こんなことが日常的に行われているのだろうなーと感じていた。

 翌朝、太陽が顔を少し出したところで皆が起き始めた。

「アンちゃん、行くぞ」

「はい」

 工場の外に出ると、すでに行列が出来ている。

「おお、今日は十一番隊の募集がある。アンちゃんは運がいいのう。じゃあ並ぶぞ」

「はい」

 八番隊、九番隊、十一番隊の旗があり、爺さんは十一番隊の旗の行列の最後尾に並んだ。

「早い者勝ちじゃないから安心しろ。班長が選ぶから、最後尾でも何の関係もない」

「そうですか。しかし十一番隊は人気ですね」

 ほとんどの人が、十一番隊の前に並んでいる。
 十二番隊くずれもここに並んでいる。

「ふふふ、みんな死ぬのは嫌だからな」

「もう、いないかーー」

 受付の男が声をかけた。
 工場の中には、行列に参加しない者がまだ残っている。

「爺さんあの人達は、何故ならば無いのですか?」

「あー、奴らは全くやる気が無いか、十番隊、十二番隊以外に行きたくないのじゃろう」

「もういないなら、始めに朝飯を配る」

 そういうことか、行列に参加している者だけ朝飯が配られるようだ。
 配られた朝飯は大きな握り飯と碗の汁物だった。
 爺さんは、もらった瞬間握り飯を食べ始めた。
 中に、白身の魚が入っている。腹にたまりそうな朝飯だった。

「爺さん、これも食うか」

「い、いいのか」

 目がキラキラ輝いている。
 わかりやすい。
 俺はうなずくと爺さんに、握り飯を渡した。

 飯を食っていると、陽が高くなりまわりは明るくなった。
 明るくなると、それぞれの隊の班長らしい男が現れて、モグモグ口を動かしている者達の顔を眺めていく。
 面接なのだろう。

「おい、お前、こっちへ来い」

 班長は俺の前に止まると俺に命令した。
 爺さんは、羨ましそうに俺を見た。

「あの、この爺さんも一緒に……」

「黙れ!! 勝手に発言するな! お前一人だ!」

 そう言われて、俺だけ班長に連れて行かれた。

「喜べーー!! 残った者は全員、八番隊、九番隊に配属してやる。今から京都防衛戦に出撃だ」

「えーーーっ!!!」

 全体から、大きな驚きの声が上がった。
 爺さんも、凄い顔をして驚いている。口からご飯粒がポロリと落ちた。驚きすぎだろう。
 少し笑ってしまった。
 だが、この先のことを考えると、可哀想になった。

「班長、何故俺を選んでくれたのですか」

「簡単だろう。豚は食い物に対する嗅覚が鋭い。だからだ」

 はあーっ!! 豚あつかいかよ!!
 ガッカリだぜ!
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