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第百九十六話 大将の一騎打ち

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「俺の名は、新政府軍二番隊、隊長森永だーー!!」

 橋の中央で十五メートル程あいだを開け、立ち止まり名乗りを上げた。
 長剣を構え敵将に向けた。
 構えた剣に太陽が、キラリと反射した。
 その姿を見つめる俺達底辺の足軽からは、物音一つしなかった。

 横にいる爺さんが、どんぐり眼をさらに見開き必死で見ている。
 必死過ぎてツバを飲み込むのを忘れ、とろりと口から垂れ下がっている。
 いよいよ次は、奴の名乗りだ。

「がーはっはっ、てめーらが新政府だと、政府を名乗るとは片腹痛いわ!! 我こそは、織田家柴田軍総大将、柴田越前守だ!!」

 なにーーっ! 柴田の野郎、勝手に「えちぜんのかみ」を名乗りゃあがった。
 体の前で一回転させて、太い鉄の柄のなぎなたを、ドンと道路の上に立てた。
 その時、刃先が揺れてキラキラと太陽を反射させている。
 相変わらず赤鬼のような恐ろしい顔をしている。
 どう見ても、顔だけなら柴田の勝ちだ。

 だが、奴は治っているのか? 
 柴田は肋骨に重傷を負って、一ヵ月ちょっとしか立っていないはずだ。
 ……ありゃあ治っていねーな。
 顔だけを集中して見ていると、眉間に時々不自然に小さくしわが出来ている。
 あれは、痛みを我慢しているために出来ていると見て間違いない。

 俺からしてみればどっちが勝っても同じだが、俺のまわりの奴らはやはり二番隊の隊長を応援しているのだろうな。
 しかし、この二人の一騎打ちを見つめる男達の熱量がすごい。

 それはそうか、足軽などと雑な扱いを受けて、毎日恐怖と苦しみしかねえ毎日だ。
 そんな中、この戦いはまるで一大イベントだ。
 目の前で、最強を自負する男の命をかけた真剣勝負だ。
 プロレスや、ボクシングのチャンピオン戦ですら、かすんでしまうだろう。
 何しろ本当の殺し合いなのだから。

「いくぞおーーー!!!!」
「うおおおおーーーー!!!!」

 二人の総大将が橋の中央に向って、全速力で走り出した。

「うわああああああーーーーーーー!!!!!」

 両軍の陣営から、腹からの喊声があがった。
 爺さんの口から垂れていたよだれが、びちゃびちゃ飛び散り、まわりの足軽にかかっている。
 普段はまるでやる気の無い爺さんが、腹の底から声を出している。
 出来る事は最早声を出すことだけ。

 だが、全身全霊の大声は、足軽達の体を熱くした。
 爺さんの額にも玉の汗が浮かんでいる。
 両手の拳が硬く握られ、白くなっている。
 ありゃあ、自力では開かねえぞ。後で俺が一本ずつ指を伸ばしてやるのかー? かわいい姉ちゃんなら良いけど、爺さんのは嫌だなあ。

 俺は普段見ることが出来ない場所から、戦いを見ることが出来て、良い経験が出来たと思っていた。

「しねえーーー!!!!」

 柴田がなぎなたを振った。

 ――駄目だ!

 俺は瞬間そう思った。
 二番隊の隊長は、長剣を顔の横にたて、柴田のなぎなたを受けようとした。
 だが、柴田のなぎなたの柄は太くて重い。しかも、柴田は刃の部分では無く太い柄の部分で、隊長のこめかみを狙ったようだ。

 ギャッン!

 剣となぎなたの柄がぶつかり、短い金属の擦れる音がした。

 ゴッ!!

 そして、重く低く何かの固まりがぶつかる音がした。
 柴田のなぎなたの柄が二番隊の隊長の剣を吹き飛ばし、頭部をへこました。
 その時、隊長の首もへし折り、隊長は声を上げることも無く勢いのまま横へ倒れた。

 戦場から物音が無くなった。

「すげーー。肋骨に重傷を負いながら圧倒的じゃねえか」

 あれほどの男と、ゲンは互角以上の戦いをしたんだなあ。
 しみじみゲンの人間離れした強さに感心した。

「えっ!!」

 知らぬ間に横に来ていた三人組が驚いている。

「あの、重傷とは? その前にシュウ様は敵将をご存じなのですか?」

 響子さんが聞いて来た。

「ええ、知り合いです。あいつの肋骨は一月ほど前に、俺が折ってやりましたから」

「なーーーーっ!!!!」

 まわりの足軽からも、声が出た。

「あははは、最早、シュウさんからは、驚かされ過ぎて笑うしか有りませんな」

 カクさんが笑っています。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! 敵将うちとったりーー!!!」

 柴田が、腰の日本刀で、隊長の首を切り落とし、髪を握りしめてその頭を天にかざした。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

 柴田軍から、歓声が上がった。
 鼓膜がビリビリ震えるほどの音量だ。

「全軍総攻撃だーーー!!! ぐっ!!」

 柴田が叫んだ。
 だが、それが肋骨に響いたのか胸を押さえた。
 すでに出まくっていたアドレナリンが、勝利のため、おさまってしまったようだ。

「わああああーーーー!!」

 敵軍の士気は百パーセント。こっちの士気は、だだ下がりだ。
 もはや、勝負にならないだろう。

「皆さん、もう少し目立たないところへ行きましょう。柴田に見つかると厄介です」

「はい!!!」

 三人の目がキラキラ輝いている。美しい良い目だ。

 それでも二番隊の、鎧部隊は迎撃態勢に入った。
 剣を柴田軍に向けて臨戦態勢だが、柴田軍は槍隊を前線に立て突き進む。

「やばいなあ」

「どうしたのですか?」

「うん、織田軍の槍隊、ありゃあ織田家伝統の三間槍だ。しかも鉄製で頑丈にしてあるようだ。さらに、二人で持っている。ありゃあ、一人でもてないほどの重さなのだろう」

 どうやら、織田家は鉄を自由に生産出来るようだ。
 その内、火縄銃まで作ってくるかもしれない。

「それが……」

 響子さんが恥ずかしそうに、質問をできずにいる。

「ふふふ、響さん、あれを見ていろいろ考えが出てくる奴は、オタク野郎です。わからなくて当然です。恥ずかしくないですからね」

「はい!」

 響子さんが、元気な返事をして腕につかまってきました。
 そ、それ、すでに女になっていませんか?

「まあ、見ていてください。二番隊は手も足も出ずに敗退します。カクさんも、響さんも、カノンさんも、爺さんも、撤退の準備に入ってください」

「はい」

「うぎゃああああーーーーー!!!」

 二番隊の十人弱の精鋭が数メートル宙に吹き飛ばされた。
 柴田の、槍隊が隊列を組み前進している。だが、その中央が花道のように開けてあり、そこを柴田が進む。
 柴田はその花道をゆうゆう歩き、二番隊の鎧兵達を自慢のなぎなたで吹き飛ばしている。
 槍隊には二番隊の長剣では攻撃が届かない。
 どんどん、なすすべも無く押し込まれ、柴田が次々吹飛ばしながら突き進む。

「全軍てったーーーい!!!」

 十一番隊犬飼隊長が、叫んだ。
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