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第二百一話 帰路へ

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「爺さんは京都の伏見城に送り届けました。うまい飯を食ってグースカ眠っているかもしれませんね」

「そうか。よかった」

 爺さんの部下たちが、ほっとしている。

「俺達は逃げられるのか?」

 他の兵士数人が聞いて来た。

「このまま、あなた達だけじゃあ難しいでしょうね」

「……」

 俺の返事を聞いて黙り込んだ。
 すでに自分たちで調べて分かっているはずだ。

「別に、京都に行かなくても、東の伊勢に向ったらどうなんですか。警戒は西よりもゆるいですよ」

「俺達は、新政府軍に酷い目にも遭ったが、飯を食わしてもらって、金ももらった。大阪の遊郭じゃあ、普段なら相手にもして貰えない美女と楽しませてもらった……」

 チンが代表して言った。チンの顔も俺の豚顔同様、目が離れて不細工だ。
 女性が気持ち悪がって逃げていく顔だ。確かに相手にもされないだろう。俺も同じだからよくわかる。泣けるほどよくわかる。

 だがなあ、その遊郭が問題ありまくりなんだよなー。
 女性を無理矢理そんな場所で働かせるのは良くないと思うぞ。
 しかも、食事も充分に与えず、病気の管理も出来ていない。
 お前達は楽しめているのかもしれないが、女性は泣いているぞ。
 俺は、どんなに相手にされなくてさみしくても、大阪の遊郭には絶対遊びには行かないぞ。

「じゃあ、伊勢に行く気は無い、新政府軍に合流したいと言うのですか」

「……」

 一同全員黙ってうなずいている。
 忠義と言っていいのか。そんなものを感じる。
 ハルラはくそ野郎だが、そこに生きている人はやはり普通の人だ。
 きっと織田軍も柴田はくそ野郎だが、働く兵士は普通の人なんだろうな。

「俺は、ここに荷物を取りに来ただけです。大事なチョコレートを取りにね。全部食べられてしまいましたがね。人のものを勝手に食べないでほしいものですね。だから、別にあなた達を助ける義理はありません。でもねー、放っても置けないですね。初日ならたいした苦労もなかったんですけどねー。チャンスを完全に逃しています。どうするかなー」

 色々言ってもったい付けてみた。

「た、助かる見込みはあるのか」

 とうとう、ブルが口を開いた。

「難しいですが、ありますよ。でも、過酷です。走りっぱなしになります。あなた達には無理でしょうね。すぐに弱音や不平不満が出ると思います」

 俺の言葉を聞いて、全員がひそひそ話し始めた。

「た、頼む。俺たちを手伝ってほしい」

「本気なのですか?」

「……」

 全員が、覚悟を決めたいい表情だ。
 どうやら全員、人として一皮むけた感じがする。

「だが、ここから先は、俺はお情けで手伝う、つらいとか不平不満を一言でもつぶやいたら、その場で手伝うのをやめます。それでもいいのでしょうか?」

「かまわない。その時は、見捨ててくれ」

「ふふふ、では、出発は暗くなってから。暖かい今のうちに眠ってください。腹が減っている人は今のうちに、腹いっぱいにしてください。夜は飯抜きで出発します」

 全員から寝息が聞こえると、俺の両腕にしがみ付かれる感覚がある。
 太ももにスリスリする感覚もある。

「結局、助けてしまわれるのですね」

 響子さんが耳元でささやいた。

「すまない。俺は、見捨てられなかった」

「いいえ、あやまらないでください、シュウ様。うふふ」

 響子さんは、笑いながらしがみつく手に、少し力を込めた。



「さあ皆さん、起きてください」

「……」

 ふふふ、いつもなら、この段階でぶつくさ言いそうですが、今は何も言わずに全員がすんなり起きた。

「静かに、それでいて速く遅れないように走ってもらいます。遅れる人は容赦なくおいていきます。一人の命のために、全員の命を危険にさらせませんからね。では、出発します」

 俺は、先導して走り出した。
 全員の後ろには、姿を消した五人がついてきてくれるはずです。
 遅れる人も何とかしてくれるはずだが、一応言っておいた。

 山の中は、やはり無警戒だ。
 今日は三日月だが、月が出ていると明るい。
 走りやすいのだが、敵からも見つかりやすい。
 西に進むと、バイパスが見えてくる。
 バイパスにはかがり火がたかれ、警戒は厳重だ。
 こんなところは、やはり走れない。

 山の中を移動するが、手入れがされていない為なのか、とにかく背の低い雑木の量が多い、移動に骨が折れる。
 ところどころ、道路を渡らないといけないのだが、ここが大変だった。見張りの目を盗み、一人ずつ渡らなければならない。
 まるで、ネズミの親子が猫の目を盗んで、チーズを食べに行くように素早く、気配を消して移動する。

 初日、アドと下見した道を進んでいるが、警戒は厳しくなっていたが、何とか順調に進んでいる。
 休憩も無しだが、誰も脱落することなくここまで移動できた。

 長いトンネルの前に新政府軍十二番隊が布陣していると、アドが教えてくれた。やっとここまで来た。
 だが、合流するためには、インターチェンジを移動しないといけない。
 流石にインターチェンジの警戒は厳重だ。

 俺は全員の顔を見た。
 誰もが皆、疲れ切った顔をしている。
 ここまでのつらい道のりを、文句も言わず遅れるものもいなかった。
 こんなつらい移動はここで終わらせてやりたい。

「皆さん、このまま、後ろを振り返らずに走ってください。木が邪魔で先が見えませんが、この道はバイパスに合流します。バイパスには新政府軍十二番隊がいます。やっと合流できます」

「敵が大勢いるぞ! 大丈夫なのか?」

 ブルが俺を心配している。

「ふふふ、敵は俺が何とかします。振り返らずに全力で走り切ってください。遅い人は殺されますよ。武運を祈ります。俺は戻れないかもしれませんが、行方不明になったと隊長には伝えてください」

「ほ、本気なのか。全員で戦おう」

 おいおい、ここへ来て泣かせるじゃねえか!
 お前たちからそんな言葉が出るとはなー。

「そんなことをすれば全滅です。俺は、一人の方が戦いやすい、気にせず行ってください。静かに速くですからね。俺がおとりになっている間に頼みますよ。俺の犠牲を無駄にしないでください」

「……」

 全員が無言で俺の顔を見ている。
 涙を流している者までいる。

「では、さようなら」

 俺は言い終わると、敵が待つかがり火を目指し走った。

「敵襲ーー!! 敵だーー!! こっちだーー!!」

 俺は、なるべく目立つ動きをした。
 次々、俺のもとに敵兵が集まってくる。
 十二番隊までは直線で二百メートルはない、道がくねくねと曲がっているので、実際の距離は倍以上あるかもしれないが目と鼻の先だ。

「さあ、皆、行くんだーーー!!」

 俺の声が聞こえたのか、ブルたちの移動する気配を感じた。

 パーーン

 俺の耳元を、弾丸がかすめた。
 ここには、銃まで用意されているようだ。
 パン、パンと銃が次々俺めがけて発砲された。

「こっちだーー、全然当たらねーぞ」

 俺は、なるべく目立って、敵の的になった。
 敵兵が、俺を囲んでくるので、それを次々倒した。

「うわあーーーあ!!!」

 歓声が上がった。
 どうやら、合流できたらしい。
 死地を抜けて、少しは優秀な兵士になったのじゃ無いだろうか。

「スケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃん、アド。もういいでしょう。役目は終わりました。撤退です」

「はっ!」

「オイサスト! シュヴァイン!」

 俺はアンナメーダーマン、アクアブラックになると、姿を消した。
 な、何と、変身すると、消えているスケさん達の姿が見える。
 そ、そんな機能もあるのかよ。初めて知った。

「さあ、少し南下して、伊勢を目指しましょう」

 やっと、これで帰路につける。長かった。
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