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激闘編

第二百八十三話 絶体絶命

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「ぺっ! 間抜けどもめ!」

 一益が地面に唾をはき、配下の兵士を見渡しました。そして続けて言います。

「女なんか、裸以外価値ねーだろうがよー」

 その言葉を聞いた大殿の顔色が変わります。
 普段は温厚で、何事にも動じない大殿の顔が、みるみる赤く怒りの表情に変わっていきます。
 それはまるで、餌をもらって奪い合う養豚場のブタのように怒っています。全員分あるから奪い合わなくても良いのにー、って感じです。

「てめーは、何もわかっちゃあいねえ。女性の体は美しい、その美しさを最も引き立たせるのが下着なんだよ。下着姿の女性はもはや芸術だ。最高の美術品なんだよ。今この場はさながら美術館なんだ! それがわからねえのか!!! この大馬鹿野ー!!!!」

 大殿が吠えました。女性の体に大殿は美しさしか感じていないみたいです。さすがです。
 でも、私の体にはその価値はありませんよね。

「うるせーーんだよ。くそ豚。何を言っているのか全く入ってこねーよ!! もういい! 全員死にゃあがれ!!」

 今度は一益が怒っています。
 ただでさえ恐ろしい顔が、さらに怒りで恐くなり、もし養豚場の豚がその顔を見たら、一斉に恐怖で鳴きわめきながら、そそうをして走り回りそうです。

 一益は怒りの表情のまま両手の平を開き、腕を逆ハの字の位置まで上げました。
 髪の毛が、静電気を浴びたようにピンピン立ち上がります。

「うわっ!」

 思わず声が出ました。
 私の体が、宙に浮かびます。
 私だけではありません。
 四人のアンナメーダーマンアクアと古賀忍軍、は組隊長の木村さん、そして、は組第一班班長の私と配下の十一人計十三人が
 宙に浮かびます。一益の正面でアンナメーダーマンアクアのカノンちゃんまで宙に浮きました。

「おおおっ」

 一益の兵から声が上がりました。
 そして宙に浮かぶ私達を、我を忘れて見つめます。
 きっとこれだけいれば、自分好みの美術品が有るのでしょうね。
 と、思いましたが、私達を一べつした後、ほぼ全員美少女のカノンちゃんを見ています。やれやれです。
 カノンちゃんは宙に浮かび、大の字に固定されました。
 身動きは出来ないようです。

「馬鹿野郎! 何をしている! 全員槍を立てねえか!!」

 一益が吠えました。
 一益の部下はカノンちゃんのフリフリの中を、我を忘れて見つめていたようです。
 ガシャガシャ音を立て、一益の配下が槍を垂直に立てます。
 私達の体は五メートル位浮いています。
 もし、一益が力を止めたら。私達は槍の上に落ちて串刺しになります。

「なるほどなあ、これがお前の奥の手か」

「なにーー!?」

 一益が、大声で驚きました。目を見開きすぎて飛び出しそうです。
 一益の超能力が大殿には全く効いていないみたいです。
 当たり前のように宙に浮かんでいません。
 のんびり涼しい顔をして、縁側に歩いて来ます

「よっこいせ」

「くそおぉぉぉぉーー!!」

 一益が力を絞り出しているようです。
 顔にウネウネ血管が浮かび、最初に鼻血が垂れてきました。
 次に耳から血が垂れると、目から涙のように血が出てきます。
 そして、食いしばる歯茎から血が噴き出します。
 私はこれ程全力の人を見たことがありません。

 大殿は、その状態でも何事も無いように縁側に腰掛けました。
 すると、そこにアドちゃんが走りよって来て、ちょこんと大殿の膝の上に座りました。

「おおっ、アド! もういいのか」

「あきた」

 アド様は大きくうなずくと言いました。
 アド様、「あきた」って!
 しかも、「ニャ」を言うのを忘れていますよ。

「な、なんなんだ! なんなんだよーー!! てめーらは! おかしいんじゃねえのかーー!!」

 でしょうね。あの二人はどうやら別格のようです。
 一益の超能力が全く通じないようです。
 良く見たら。大殿の後ろのミサ様と、久美子さんも永子さんも超能力が効いていないみたいです。

「ああ、心配するな。安心しろ! てめーの相手はその美少女に任せた。俺達は手出ししねーからよ」

「くそーーーっ!! なめるなーーーっ!!」

 一益は、私達の超能力を止めたようです。
 このままでは、槍の上に真っ逆さまです。

「ぐわあああーーーーっっ!!!!!!」

 悲鳴があたりになり響きました。
 アンナメーダーマンアクアは槍の上に落ちましたが、そのまま何事も無く槍の上に降り立ちました。
 当たり前ですよね。
 鉄より固いミスリルの厚い靴底を槍が貫けるわけが有りませんよね。
 槍の穂先に腕を組んで立っていましたが、下にいる兵士を見ると、兵士達の中にトンと降りました。地面に降りたアンナメーダーマンアクアは、掌底でまわりの槍兵を次々吹飛ばします。

「古賀忍法、風遁の術!」

 私達古賀忍者は、風の術が使えます。
 当然、宙を移動することが出来るのです。
 槍隊の後ろに降り立つと、目の前の兵士をアンナメーダーマンアクアと同じように掌底で吹飛ばしました。
 この一瞬で五十人以上がまた行動不能になりました。

「や、やめねえか。馬鹿野郎!! 目の前にいるこいつが目に入らねえのか!!」

「きゃーーっ!!」

 カノンちゃんの悲鳴です。
 一益は、私達に振り分けていた超能力をカノンちゃん一人にむけているみたいです。
 手足が少し強く引っ張られたようです。

「このガキが八つ裂きになってもいいのか!! 馬鹿野郎! こいつは人質だ。大人しくしてねえと今すぐ殺すぞ!! はぁーはっはっはっ!!」

「やれやれだぜ。そんなにかわいい美少女をいたぶって楽しいのかねえ」

「ひゃーぁはっはっはっ!! 美少女だろうとなんだろうと、人間なんざあ、この世界には必要ねえんだよ。全部死んでしまえば良いんだ!」

 どうやら一益は人間を、一人残らず全部殺したいようです。
 もう、ぶっ壊れているようです。

「そうか、おめえさんとは、そりが合わねえようだなあ。俺は人間全部を助けてえんだがなあ」

 さ、さすがです。
 大殿はやはり最高な人です。
 でも、カノンちゃんが人質になっていては、私達はもう自由に動くことも出来ません。

「きゃあ!」

「よう。嬢ちゃん良い姿だなあ。こいつらを全員殺したら最後に、真っ二つにしてやるから安心しろ」

 カノンちゃんはくるりと逆さまにされ、体を見えない大きな手で握られているようです。その上で首と足に力を加えられて、体が上下に引っ張られているようです。

「何をしている。馬鹿野郎! 武器をかまえねえか。皆殺しにするんだよ!!」

 一益の部下は我を忘れてカノンちゃんの姿を見ていましたが、命令で我に返ると武器を構えました。
 私達は回りを武装した兵士達に囲まれてしまいました。
 頼みのアンナメーダーマンアクアの響子さんとは、はぐれてしまって私一人でまわりを囲まれています。
 私の忍者装備は、薄いので槍で力一杯突かれると貫通する恐れがあります。人質がいてはよけることも出来ません。
 私達はこのまま手出しも出来ずに、やられないといけないのでしょうか。

 ――やばい絶体絶命です!!
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