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夏休み編
第三百八十二話 商談
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沖田隊長は、しゃれた建物の一室に案内してくれた。
人払いもしてくれて、部屋の中には沖田隊長と俺達だけにしてくれた。
飲み物をもって来てくれた人が、そのまま残りのイスに座った。
「この者は、私の側近です。同席をお許し下さい」
「もちろんです。それどころか、どこの馬の骨ともわからない者を、ここまで信用して頂きまして感謝いたします。八兵衛、ここから先の話は任せます」
信さんは、俺が話すことに違和感を無くしてくれた。
でも、たぶん沖田隊長は、何かをもう感づいています。
「八兵衛さん。残念ですが、我が共和国には商談に応じられる程の物資はありません」
沖田隊長は、ギラリと鋭い視線を俺に向けてきた。
ふむ、さすがに隊長をするだけのことはある。
ただ無邪気で子供のような人という訳ではなさそうだ。
「まずは、質問を一つ。街で暴れていた賊はどの様に処分される予定ですか?」
「ふふふ…………」
沖田隊長は怪しく笑うと、返事をじらし俺の事をじっと見つめた。
沖田隊長の関心は信さんより俺にあるようだ。
興味深そうな瞳を俺に向けている。
「死刑に決まっている。一人も生かしてはおかない」
側近が我慢出来ずに口を開いた。
沖田隊長は、それに大きくうなずいた。
「そうですか。であれば、身柄を越後にお引き渡し頂けませんか。ふさわしい懲罰を与えます。その代わり、十田家から米を北海道共和国に援助いたします」
「なっ、なにっ!?」
側近は声を出して驚いた。
沖田隊長は、ニコニコしたまま表情は変えない。
「ふふふ、なるほど、人手を取引の対象にするということですか」
「まあ、平たく言えばそうです。ですが奴隷として酷使する気はありません。ちゃんと土日は休みますし、給料も住居も、結婚だって許可しています。但し仕事はきつい仕事です」
「ちなみに仕事の内容はどのようなものですか?」
「はい、大陸の清掃です。至る所にある死体をきれいに処分する事です」
俺は、ゾンビという事は言わなかった。
だがゾンビは死体だから嘘は言っていない。
「なるほど、大陸には大量の死体が放置されていそうだ。その清掃なら懲罰としてもふさわしいですね」
「そう思います」
「あいつらを生かしておけば、住民から不平が出そうですが、あいつらを引き渡すことによって少しでも食糧が入るのなら、納得してもらえるでしょう…………いかほど融通して頂けるのでしょうか?」
少し聞きにくそうに、沖田隊長はその量を確認してきた。
「そうですねえ。五万石でどうでしょうか」
「えええっ!!!!!!」
沖田隊長は驚いた。
昔の単位の石というのは、とてもわかりやすい単位で、一石がだいたい人が一年に食べる米の量だ。
つまり五万石というのは、五万人が一年米には困らない量という事になる。
罪人、数百人に対しての対価としては破格値のはずだ。
「足りませんか?」
「何を言われますか。多いと言う意味での驚きです。でも、何故それほどの量を……」
「それは、共和国に期待をしているから、と言う事では納得頂けませんか?」
「ふふふ、商人お得意の先行投資と言うことですか?」
「話が早いですね。あーっ、あとおまけで、この偽八兵衛も身柄を預かってよろしいですか」
俺は拘束されて、正座している賊の親玉に視線を移した。
「もちろんです」
「では、旦那様、赤穂さんに連絡をして、廣瀬さんに船をこちらにまわしてもらって下さい。函館が落ち着くまでは、十田家の方達で様子を見てください」
「わかりました」
「私は、娘と札幌に先入りします。ふふふ、札幌でスローライフを楽しんできます」
「あっ、あのー……。八兵衛さんあなたは、いったいどのようなお方なのですか」
とうとう沖田隊長が我慢しきれずに疑問をぶつけてきた。
まあそうでしょうね。
旦那様とか言いながら、勝手に五万石を決めていますし、この後の指示までもしているのですから。
「いやですねえ。十田家使用人、八兵衛です。それ以外の何者でもありませんよ」
今度は俺が、鋭い目をして沖田隊長を見つめた。
これ以上は詮索しないでください。という意をこめて……。
「では、旦那様。皆で楽しく函館でスローライフを楽しんでください。私はこれで失礼します」
俺は、そう言うと席を立ち建物を出た。
むかうのは、世界一可愛い、美少女二人の待つ場所だ。
ちゃんと、大人しくしているのだろうか?
していなければ、していないで恐ろしいし。
していれば、していたということで御褒美の要求が恐ろしい。
「早く、早く、とうさんが来ちゃうよ!!」
「う、うん!!」
「まったく、アドちゃんが教えてくれるの遅いんだから! もし、とうさんにバレたら、お尻ペンペンですからね!!」
「いやニャーー!! あずさのお尻ペンペンはお尻が取れると思えるぐらい痛いニャーー!!」
おいおい、お尻が取れるってどの位痛いのだろうか。
まあ、この話具合なら、御褒美はいらなそうだ。
「ただいまーー!!」
俺は、今のやりとりには全く気が付かない振りをして明るく言った。
「お、おかえりなさーーい!!」
あずさとヒマリが迎えてくれた。
「ちゃんと宿題をやって、大人しくしていたか?」
「は、はーーい!!」
「ふむ、でも、今は真夜中だ。よい子はとっくに眠っている時間のはずだが?」
「……!!!!????」
二人の体がビクンと縦にゆれた。
「明日朝一で札幌に行く、もう眠りなさい」
「はーーい!!」
泣けるくらい、いい返事だ。
とうさんは気が付かなかったことにしておいてやるよ。
大人だからね。
慌ただしい一日が終わった。
人払いもしてくれて、部屋の中には沖田隊長と俺達だけにしてくれた。
飲み物をもって来てくれた人が、そのまま残りのイスに座った。
「この者は、私の側近です。同席をお許し下さい」
「もちろんです。それどころか、どこの馬の骨ともわからない者を、ここまで信用して頂きまして感謝いたします。八兵衛、ここから先の話は任せます」
信さんは、俺が話すことに違和感を無くしてくれた。
でも、たぶん沖田隊長は、何かをもう感づいています。
「八兵衛さん。残念ですが、我が共和国には商談に応じられる程の物資はありません」
沖田隊長は、ギラリと鋭い視線を俺に向けてきた。
ふむ、さすがに隊長をするだけのことはある。
ただ無邪気で子供のような人という訳ではなさそうだ。
「まずは、質問を一つ。街で暴れていた賊はどの様に処分される予定ですか?」
「ふふふ…………」
沖田隊長は怪しく笑うと、返事をじらし俺の事をじっと見つめた。
沖田隊長の関心は信さんより俺にあるようだ。
興味深そうな瞳を俺に向けている。
「死刑に決まっている。一人も生かしてはおかない」
側近が我慢出来ずに口を開いた。
沖田隊長は、それに大きくうなずいた。
「そうですか。であれば、身柄を越後にお引き渡し頂けませんか。ふさわしい懲罰を与えます。その代わり、十田家から米を北海道共和国に援助いたします」
「なっ、なにっ!?」
側近は声を出して驚いた。
沖田隊長は、ニコニコしたまま表情は変えない。
「ふふふ、なるほど、人手を取引の対象にするということですか」
「まあ、平たく言えばそうです。ですが奴隷として酷使する気はありません。ちゃんと土日は休みますし、給料も住居も、結婚だって許可しています。但し仕事はきつい仕事です」
「ちなみに仕事の内容はどのようなものですか?」
「はい、大陸の清掃です。至る所にある死体をきれいに処分する事です」
俺は、ゾンビという事は言わなかった。
だがゾンビは死体だから嘘は言っていない。
「なるほど、大陸には大量の死体が放置されていそうだ。その清掃なら懲罰としてもふさわしいですね」
「そう思います」
「あいつらを生かしておけば、住民から不平が出そうですが、あいつらを引き渡すことによって少しでも食糧が入るのなら、納得してもらえるでしょう…………いかほど融通して頂けるのでしょうか?」
少し聞きにくそうに、沖田隊長はその量を確認してきた。
「そうですねえ。五万石でどうでしょうか」
「えええっ!!!!!!」
沖田隊長は驚いた。
昔の単位の石というのは、とてもわかりやすい単位で、一石がだいたい人が一年に食べる米の量だ。
つまり五万石というのは、五万人が一年米には困らない量という事になる。
罪人、数百人に対しての対価としては破格値のはずだ。
「足りませんか?」
「何を言われますか。多いと言う意味での驚きです。でも、何故それほどの量を……」
「それは、共和国に期待をしているから、と言う事では納得頂けませんか?」
「ふふふ、商人お得意の先行投資と言うことですか?」
「話が早いですね。あーっ、あとおまけで、この偽八兵衛も身柄を預かってよろしいですか」
俺は拘束されて、正座している賊の親玉に視線を移した。
「もちろんです」
「では、旦那様、赤穂さんに連絡をして、廣瀬さんに船をこちらにまわしてもらって下さい。函館が落ち着くまでは、十田家の方達で様子を見てください」
「わかりました」
「私は、娘と札幌に先入りします。ふふふ、札幌でスローライフを楽しんできます」
「あっ、あのー……。八兵衛さんあなたは、いったいどのようなお方なのですか」
とうとう沖田隊長が我慢しきれずに疑問をぶつけてきた。
まあそうでしょうね。
旦那様とか言いながら、勝手に五万石を決めていますし、この後の指示までもしているのですから。
「いやですねえ。十田家使用人、八兵衛です。それ以外の何者でもありませんよ」
今度は俺が、鋭い目をして沖田隊長を見つめた。
これ以上は詮索しないでください。という意をこめて……。
「では、旦那様。皆で楽しく函館でスローライフを楽しんでください。私はこれで失礼します」
俺は、そう言うと席を立ち建物を出た。
むかうのは、世界一可愛い、美少女二人の待つ場所だ。
ちゃんと、大人しくしているのだろうか?
していなければ、していないで恐ろしいし。
していれば、していたということで御褒美の要求が恐ろしい。
「早く、早く、とうさんが来ちゃうよ!!」
「う、うん!!」
「まったく、アドちゃんが教えてくれるの遅いんだから! もし、とうさんにバレたら、お尻ペンペンですからね!!」
「いやニャーー!! あずさのお尻ペンペンはお尻が取れると思えるぐらい痛いニャーー!!」
おいおい、お尻が取れるってどの位痛いのだろうか。
まあ、この話具合なら、御褒美はいらなそうだ。
「ただいまーー!!」
俺は、今のやりとりには全く気が付かない振りをして明るく言った。
「お、おかえりなさーーい!!」
あずさとヒマリが迎えてくれた。
「ちゃんと宿題をやって、大人しくしていたか?」
「は、はーーい!!」
「ふむ、でも、今は真夜中だ。よい子はとっくに眠っている時間のはずだが?」
「……!!!!????」
二人の体がビクンと縦にゆれた。
「明日朝一で札幌に行く、もう眠りなさい」
「はーーい!!」
泣けるくらい、いい返事だ。
とうさんは気が付かなかったことにしておいてやるよ。
大人だからね。
慌ただしい一日が終わった。
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