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あずさと札幌ライフ
第三百八十六話 優しいお味噌汁
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「ゆで卵! ゆで卵はいらないかーー!! おいしいゆで卵だー!!」
屋台のおやじがゆで卵を売り始めた。
したたかだなあ。
小僧は、俺の横に並んだ子供のあずさとヒマリの姿を見て、少し安心したようだ。
表情が優しくなった。
「立てる?」
あずさが小僧に聞いた。
「……」
小僧は静かにうなずいて立ち上がった。
子供が立ち上がって、六歳ぐらいの子供でとても幼いことがわかった。
「困っていることはないですか?」
ヒマリが優しく問いかけた。
ヒマリの顔は優しい、でもその優しい顔は半分髪で隠れている。
だが、顔の優しいヒマリは声もとても優しい。
小僧の心に、ヒマリの声が届いたようだ。
「ふぐっ……!!」
涙があふれ出した。本当に滝の様に流れ出す。
誰かにすがりつきたかった子供が、それをあきらめて必死に一人で生きてきたのだろう。心細かったはずだ。
でも、今すがりつけそうな人を見つけ、感情が一気に吹き出したようだ。
「うっ……」
その顔を見て、ヒマリまで涙を流している。
あずさも泣きそうになって、唇が震えているが何とか耐えているようだ。
「お母さんが、倒れて起き上がれないの……」
「……そうか。だが俺は医者じゃない……」
俺は小さくつぶやいた。
「……っ!?」
小僧は、ハッとした表情をして、悲しみの表情に変化した。
あずさもヒマリも何を言うのかと、俺の顔を大きく口を開いて見て来た。
驚いているようだ。
「それでもいいのか? まあ、医者よりも人を助けられると自負しているのだがな」
小僧は俺の顔をじっと見つめる。
そして、口を開いた。
「助けてください!!」
「信じてくれるのなら、すぐに行こう。大変な状況かもしれない」
小僧は、すぐに俺の手を握った。
両手に大事そうに抱いていた握り飯を、左手に持ち替えて右手で俺の手を力一杯にぎって、グイグイ全力で引っ張った。
ふふふ、右手についたままの握り飯のご飯粒が、俺の手に何粒かくっついた。すこし気持ち悪い。
俺は医者じゃないと言ったのは、この状況が欲しかったからだ。
この子供に、自分から家に案内してもらいたかったのだ。
子供の家は闇市からそれほど離れていなかった。
割と良い家に住んでいるようだ。
まあ、空き家に勝手に住んでいるのだから、どんな家にでも住めるのか。
ドアを開けると、女性が玄関の前の廊下に、そのままうつ伏せで倒れていた。
「うわっ!!」
まさか、いきなりいるとは思わなかったので声が出てしまった。
子供が俺の手を離し、倒れた女性に駆け寄った。
「お母さん、ご飯を持ってきたよ! 食べて!」
子供が、母親の口元に握り飯を近づけた。
うーむ、それどころの話じゃない。
死んでいるのじゃないか?
俺も駆け寄って、女性の鼻の前に手を置いた。
よかった。うっすら弱々しいが呼吸がある。
「小僧よかったな。これなら、もう大丈夫だ」
「ほんとう?」
「ユ、ユキ……」
「お、おかあさーーーーん!!!! うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
子供が握り飯をポトリと床に落とすと、お母さんに泣きながら抱きついた。
「ふぃぃぃふぐぅ……」
あずさもヒマリも泣きだした。
「んっ、ちょっとまて、ユキだって……まさか……」
「とうさん、ちょっと黙って!! ううっ……」
あずさに怒られてしまった。
あずさはまだ涙が止まらないようだ。
俺は感動的な所なのかもしれないが、子供の性別が気になってしょうがなかった。
ユキって、ユキオって事なのだろうか。
――まさか!!? お、女の子!!??
だが、俺は黙って静かにしている。
しゃべり出すきっかけを探っていた。
「おかあさん、おかあさん。よかった……」
抱きつきながら、ユキちゃんが笑顔で言った。
お母さんが、ユキちゃんの頭を撫でている。
そして、お母さんがこっちに気が付いた。
「あ、あの、ぶたさんは、はっ……、み、みなさんは?」
おおおーーーい、俺の顔を見て、お母さんが事もあろうに、みなさんをぶたさんと間違えたぞーーーーーー!!!!!! なんてことだ!!
「ぎゃははははははははーーーーーー!!!!!!」
おーーーーい!!!!
全員で爆笑してやあがる。
ユキちゃんも、言った本人のお母さんまで笑っていやあがる。
あずさのやろうは腹を抱えて、のたうちまわっている。
ヒマリも、涙を流して笑っている。
「よかったーー!!」
「よかったねーー!!」
アズサとヒマリが、ユキちゃんとお母さんに駆け寄って抱き合った。
「とうさん、何をしているの食事の準備をして!!」
あずさに指示をされた。
俺はユキちゃんの性別が気になっていたが台所に向った。
少し汚れているので、最初に清掃、と言っても数秒で終わる。
何しろ俺はゴミ処理ヒーロー、アンナメーダーマンだからな。
食事は、体に優しいお粥と、キャベツたっぷりにタマネギと人参の味噌汁を用意した。
そして、コップに富士の湧水で入れた静岡茶だ。
「おーーい、出来たぞーー」
「うまーーーい!!」
部屋に入ってくるなり、あずさが食べて言った。
一応、あずさとヒマリの分も作っておいたが、二人とも主役より先にモリモリ食べている。
まあ、二人の気遣いだ。わかっているとも、とうさんは!
この方が、お母さんとユキちゃんが食べやすいと考えてのこうど……う。
ふむ、どうやら、自分たちが食いたいだけのようだ。
「あの、よろしいのですか?」
お母さんが、聞いてきた。
「もちろんです。むしろお母さんと、お嬢さんの為に作りました」
やったーー!!
これはさりげないはずだ。
お嬢さんと言ったのだから、男なら否定するはずだから、すんなり受け入れられれば女の子確定だ。
「ありがとうございます」
「いただきまーーす」
二人はいただきますを言うと、美味しそうに食べ出した。
屋台のおやじがゆで卵を売り始めた。
したたかだなあ。
小僧は、俺の横に並んだ子供のあずさとヒマリの姿を見て、少し安心したようだ。
表情が優しくなった。
「立てる?」
あずさが小僧に聞いた。
「……」
小僧は静かにうなずいて立ち上がった。
子供が立ち上がって、六歳ぐらいの子供でとても幼いことがわかった。
「困っていることはないですか?」
ヒマリが優しく問いかけた。
ヒマリの顔は優しい、でもその優しい顔は半分髪で隠れている。
だが、顔の優しいヒマリは声もとても優しい。
小僧の心に、ヒマリの声が届いたようだ。
「ふぐっ……!!」
涙があふれ出した。本当に滝の様に流れ出す。
誰かにすがりつきたかった子供が、それをあきらめて必死に一人で生きてきたのだろう。心細かったはずだ。
でも、今すがりつけそうな人を見つけ、感情が一気に吹き出したようだ。
「うっ……」
その顔を見て、ヒマリまで涙を流している。
あずさも泣きそうになって、唇が震えているが何とか耐えているようだ。
「お母さんが、倒れて起き上がれないの……」
「……そうか。だが俺は医者じゃない……」
俺は小さくつぶやいた。
「……っ!?」
小僧は、ハッとした表情をして、悲しみの表情に変化した。
あずさもヒマリも何を言うのかと、俺の顔を大きく口を開いて見て来た。
驚いているようだ。
「それでもいいのか? まあ、医者よりも人を助けられると自負しているのだがな」
小僧は俺の顔をじっと見つめる。
そして、口を開いた。
「助けてください!!」
「信じてくれるのなら、すぐに行こう。大変な状況かもしれない」
小僧は、すぐに俺の手を握った。
両手に大事そうに抱いていた握り飯を、左手に持ち替えて右手で俺の手を力一杯にぎって、グイグイ全力で引っ張った。
ふふふ、右手についたままの握り飯のご飯粒が、俺の手に何粒かくっついた。すこし気持ち悪い。
俺は医者じゃないと言ったのは、この状況が欲しかったからだ。
この子供に、自分から家に案内してもらいたかったのだ。
子供の家は闇市からそれほど離れていなかった。
割と良い家に住んでいるようだ。
まあ、空き家に勝手に住んでいるのだから、どんな家にでも住めるのか。
ドアを開けると、女性が玄関の前の廊下に、そのままうつ伏せで倒れていた。
「うわっ!!」
まさか、いきなりいるとは思わなかったので声が出てしまった。
子供が俺の手を離し、倒れた女性に駆け寄った。
「お母さん、ご飯を持ってきたよ! 食べて!」
子供が、母親の口元に握り飯を近づけた。
うーむ、それどころの話じゃない。
死んでいるのじゃないか?
俺も駆け寄って、女性の鼻の前に手を置いた。
よかった。うっすら弱々しいが呼吸がある。
「小僧よかったな。これなら、もう大丈夫だ」
「ほんとう?」
「ユ、ユキ……」
「お、おかあさーーーーん!!!! うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
子供が握り飯をポトリと床に落とすと、お母さんに泣きながら抱きついた。
「ふぃぃぃふぐぅ……」
あずさもヒマリも泣きだした。
「んっ、ちょっとまて、ユキだって……まさか……」
「とうさん、ちょっと黙って!! ううっ……」
あずさに怒られてしまった。
あずさはまだ涙が止まらないようだ。
俺は感動的な所なのかもしれないが、子供の性別が気になってしょうがなかった。
ユキって、ユキオって事なのだろうか。
――まさか!!? お、女の子!!??
だが、俺は黙って静かにしている。
しゃべり出すきっかけを探っていた。
「おかあさん、おかあさん。よかった……」
抱きつきながら、ユキちゃんが笑顔で言った。
お母さんが、ユキちゃんの頭を撫でている。
そして、お母さんがこっちに気が付いた。
「あ、あの、ぶたさんは、はっ……、み、みなさんは?」
おおおーーーい、俺の顔を見て、お母さんが事もあろうに、みなさんをぶたさんと間違えたぞーーーーーー!!!!!! なんてことだ!!
「ぎゃははははははははーーーーーー!!!!!!」
おーーーーい!!!!
全員で爆笑してやあがる。
ユキちゃんも、言った本人のお母さんまで笑っていやあがる。
あずさのやろうは腹を抱えて、のたうちまわっている。
ヒマリも、涙を流して笑っている。
「よかったーー!!」
「よかったねーー!!」
アズサとヒマリが、ユキちゃんとお母さんに駆け寄って抱き合った。
「とうさん、何をしているの食事の準備をして!!」
あずさに指示をされた。
俺はユキちゃんの性別が気になっていたが台所に向った。
少し汚れているので、最初に清掃、と言っても数秒で終わる。
何しろ俺はゴミ処理ヒーロー、アンナメーダーマンだからな。
食事は、体に優しいお粥と、キャベツたっぷりにタマネギと人参の味噌汁を用意した。
そして、コップに富士の湧水で入れた静岡茶だ。
「おーーい、出来たぞーー」
「うまーーーい!!」
部屋に入ってくるなり、あずさが食べて言った。
一応、あずさとヒマリの分も作っておいたが、二人とも主役より先にモリモリ食べている。
まあ、二人の気遣いだ。わかっているとも、とうさんは!
この方が、お母さんとユキちゃんが食べやすいと考えてのこうど……う。
ふむ、どうやら、自分たちが食いたいだけのようだ。
「あの、よろしいのですか?」
お母さんが、聞いてきた。
「もちろんです。むしろお母さんと、お嬢さんの為に作りました」
やったーー!!
これはさりげないはずだ。
お嬢さんと言ったのだから、男なら否定するはずだから、すんなり受け入れられれば女の子確定だ。
「ありがとうございます」
「いただきまーーす」
二人はいただきますを言うと、美味しそうに食べ出した。
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