422 / 428
最終章 明と暗
第四百二十二話 最高のお粥
しおりを挟む
「ふふふ。赤穂さん、気にしないでください」
俺は、伊達と豊久を放置して赤穂さんに声をかけた。
「ひゃっ、はい! おっ、恐れ入ります」
赤穂さんは、ほっとした顔をしている。
「では、ここは赤穂さんと古賀忍軍にお任せして、俺は札幌駅へ行きます」
「なっ!? あんたは食っていかないのか?」
俺の横にいる元首相が驚いて声を出した。
「あーーっ、そう言えば少し小腹が空いたなあ、俺も少し何か腹に入れておくか」
俺はマジシャンのように手を動かして一つの碗と箸を出した。
もちろん収納魔法で収納してあったものを出しただけだ。説明が面倒なのでマジックのふりをしている。たいていこれで納得してくれる。
あずさのうな重も、あずさが自分の収納魔法で収納しているものだ。
この碗には、空腹の子供達の胃に優しい粥が入っている作り置きの碗だ。
俺はこの碗を一口すすって、窓の外を見つめた。
ほんのり明るくなっている中庭で大勢の人がうな重を食べている。
その顔には良い笑顔がある。笑い声がここまで聞こえてくる。
相変わらず、ノーパンしゃぶしゃぶの前の元政治家の先生方の表情は暗い。
「ふふふ、国民がご馳走を食べているときに食べる粥は最高だなあ。うまい!! 政治家が国民より贅沢なのはやはり間違っているよなあ。国民が贅沢をしている時にやっと粥を食べるくらいで丁度良いのじゃ無いかなあ。国民が一生懸命働いたおかげで、政治家が飯を食えるのだからなあ。俺には国民より贅沢をするなどとても出来ないなぁ。どう考えても、まずは国民の贅沢が先だ。あんたはそう思わねえか」
「ぐっ……」
元首相は何も言い返さなかった。
「さあ、もと先生方、遠慮はいりませんノーパンしゃぶしゃぶを食べてください。国民が楽しそうなので、今日の飯はとびっきり美味いですよ。あーーっ、政治家の先生方は国民がつらくて苦労している方が、より飯が美味いのでしたねえ。間違えました」
「…………」
元首相が何を考えているのかわからないが、黙って外を見つめている。
「さて、俺はそろそろ行くかなぁ。赤穂さん、後は頼みます」
「ま、まてっ!! 札幌駅で何をするんだ?」
元首相が、さらに引き留めて質問をぶつけてきた。
「ふふふ、駅に行ってする事など決まっているじゃ無いですか。列車を走らせるんですよ。青函トンネルが無事使えるか調べないといけません。恐らく手入れをされていませんから水没しているでしょう。ここを使える様にも、しないといけません。時間がいくらあっても足りませんねぇ」
「なっ!?」
「米の収穫が終わったら、新潟で秋祭りです。北海道の人が列車で大勢来られるように整備するのを急がないといけません。皆つらい暮しをしてきたのだから、祭りはにぎやかで盛大でないといけませんからねぇ」
「まっ、祭りだと……」
「ふふふ、俺は幼い頃も貧乏だった。お金が無いから、祭りは遠くで見つめるだけだった。夜空を照らす光と人々の楽しそうな声をうらやましそうに見ているだけだったなぁ。だが、木田家の祭りは違うぞー、何もかも無料だ。金は必要ねえ。食べたい物を食べて、飲みたい物を飲んで、アイドルコンサートを見て、ヒーローショーも楽しめる。政治家なら国民を楽しませないとなあ。自分たちだけノーパンしゃぶしゃぶでヒャハーーッでは、いかんだろう」
「お、大殿!! 豊久感動いたしましたーー!! 一生忠誠を誓います」
「この伊達も、心服いたしました」
「ははは!! 豊久も伊達も、はやくうな重を食ってやってくれ、あずさが喜ぶ。じゃあ、本当に俺は行くからな」
ふうっ! やれやれ!
これで伊達と豊久の悪だくみを聞くことも無くごまかせた。
俺は、窓から飛び出すと札幌駅に急いだ。
少し走ると、人々の笑い声も聞こえなくなり、街が暗く静かになった。
ただ、空には星も月も出ているので、走るのには不自由しなかった。
だが札幌駅は、建物の中にあるので真っ暗だった。
俺は、ただ一人でこういう広い場所にいるのが最近は特にお気に入りだ。
静かで集中出来るし、独り占めしている様でワクワクする。
数日間、俺は鉄道に集中した。
「大殿! よろしいですか?」
何も無い暗闇から声がした。
「ああ、赤穂さんですか?」
「はい」
赤穂さんは返事と共に姿を出してくれた。
ついでに明かりを出してあたりを照らしてくれた。
「どうしました?」
「はい、ゲン様立ち会いのもと、北海道国の代表昇宮大臣と共和国軍の代表榎本様の間での協議が終わりました」
「ほう、そうですか? ちゃんと国民の為の協議が出来たのでしょうか」
「はい、それはもう。おそらく最高の選択をしたと言えると思います」
「そうですか…………ならよかった。北海道の人がよりよい暮しが出来るのならそれでいい」
「はい、うふふっ」
赤穂さんが嬉しそうに笑っている。
少し頬が赤くて、体が少しもじもじしている。
なんだか、可愛いと思えるなあ。いい子だ。
「退屈でしょう? 報告が終わったら戻ってください」
「あの、私の報告は終わりましたが、他の方の報告が残っています」
「えっ??」
「おおぉとのぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!!」
数人の男が近づいてきた。
「んっ!? あれは……昇宮大臣かな?」
昇宮大臣の後ろには総さんと恐らく榎本さんと土方さんだろう。
「はっ!!!! 我ら北海道民は全て大殿の配下となりました。これよりよろしくお願いいたします」
四人がひざまずき、臣下の礼をとった。
「ええっ!? いやいや、どうせ民主化するのだから、配下とかは関係ないですよ」
「ならば、民主化するまでの間でも、大殿配下として国民と共に精進していきたいと思います。これは道民の総意にございます」
昇宮大臣がキラキラした目で見てくる。
「ふふふ、皆がうな重を食べている中で『この粥も国民の笑顔を見ながら食えば最高のご馳走だ!!』と言って粥をすすったという話には参りました」
総さんが笑顔で言った。
いやいや、そんなことを言った覚えはない。
美化されとるぞーー!!
「道民の中には、もうこの話を知らない者がいないほど浸透いたしました」
「道民はみな感動して涙しました」
榎本さんと土方さんが言った。
胸にわかりやすいように大きな名札が付いている。
北海道は、めでたく木田家の傘下になったようだ。やれやれだぜ。
俺は、伊達と豊久を放置して赤穂さんに声をかけた。
「ひゃっ、はい! おっ、恐れ入ります」
赤穂さんは、ほっとした顔をしている。
「では、ここは赤穂さんと古賀忍軍にお任せして、俺は札幌駅へ行きます」
「なっ!? あんたは食っていかないのか?」
俺の横にいる元首相が驚いて声を出した。
「あーーっ、そう言えば少し小腹が空いたなあ、俺も少し何か腹に入れておくか」
俺はマジシャンのように手を動かして一つの碗と箸を出した。
もちろん収納魔法で収納してあったものを出しただけだ。説明が面倒なのでマジックのふりをしている。たいていこれで納得してくれる。
あずさのうな重も、あずさが自分の収納魔法で収納しているものだ。
この碗には、空腹の子供達の胃に優しい粥が入っている作り置きの碗だ。
俺はこの碗を一口すすって、窓の外を見つめた。
ほんのり明るくなっている中庭で大勢の人がうな重を食べている。
その顔には良い笑顔がある。笑い声がここまで聞こえてくる。
相変わらず、ノーパンしゃぶしゃぶの前の元政治家の先生方の表情は暗い。
「ふふふ、国民がご馳走を食べているときに食べる粥は最高だなあ。うまい!! 政治家が国民より贅沢なのはやはり間違っているよなあ。国民が贅沢をしている時にやっと粥を食べるくらいで丁度良いのじゃ無いかなあ。国民が一生懸命働いたおかげで、政治家が飯を食えるのだからなあ。俺には国民より贅沢をするなどとても出来ないなぁ。どう考えても、まずは国民の贅沢が先だ。あんたはそう思わねえか」
「ぐっ……」
元首相は何も言い返さなかった。
「さあ、もと先生方、遠慮はいりませんノーパンしゃぶしゃぶを食べてください。国民が楽しそうなので、今日の飯はとびっきり美味いですよ。あーーっ、政治家の先生方は国民がつらくて苦労している方が、より飯が美味いのでしたねえ。間違えました」
「…………」
元首相が何を考えているのかわからないが、黙って外を見つめている。
「さて、俺はそろそろ行くかなぁ。赤穂さん、後は頼みます」
「ま、まてっ!! 札幌駅で何をするんだ?」
元首相が、さらに引き留めて質問をぶつけてきた。
「ふふふ、駅に行ってする事など決まっているじゃ無いですか。列車を走らせるんですよ。青函トンネルが無事使えるか調べないといけません。恐らく手入れをされていませんから水没しているでしょう。ここを使える様にも、しないといけません。時間がいくらあっても足りませんねぇ」
「なっ!?」
「米の収穫が終わったら、新潟で秋祭りです。北海道の人が列車で大勢来られるように整備するのを急がないといけません。皆つらい暮しをしてきたのだから、祭りはにぎやかで盛大でないといけませんからねぇ」
「まっ、祭りだと……」
「ふふふ、俺は幼い頃も貧乏だった。お金が無いから、祭りは遠くで見つめるだけだった。夜空を照らす光と人々の楽しそうな声をうらやましそうに見ているだけだったなぁ。だが、木田家の祭りは違うぞー、何もかも無料だ。金は必要ねえ。食べたい物を食べて、飲みたい物を飲んで、アイドルコンサートを見て、ヒーローショーも楽しめる。政治家なら国民を楽しませないとなあ。自分たちだけノーパンしゃぶしゃぶでヒャハーーッでは、いかんだろう」
「お、大殿!! 豊久感動いたしましたーー!! 一生忠誠を誓います」
「この伊達も、心服いたしました」
「ははは!! 豊久も伊達も、はやくうな重を食ってやってくれ、あずさが喜ぶ。じゃあ、本当に俺は行くからな」
ふうっ! やれやれ!
これで伊達と豊久の悪だくみを聞くことも無くごまかせた。
俺は、窓から飛び出すと札幌駅に急いだ。
少し走ると、人々の笑い声も聞こえなくなり、街が暗く静かになった。
ただ、空には星も月も出ているので、走るのには不自由しなかった。
だが札幌駅は、建物の中にあるので真っ暗だった。
俺は、ただ一人でこういう広い場所にいるのが最近は特にお気に入りだ。
静かで集中出来るし、独り占めしている様でワクワクする。
数日間、俺は鉄道に集中した。
「大殿! よろしいですか?」
何も無い暗闇から声がした。
「ああ、赤穂さんですか?」
「はい」
赤穂さんは返事と共に姿を出してくれた。
ついでに明かりを出してあたりを照らしてくれた。
「どうしました?」
「はい、ゲン様立ち会いのもと、北海道国の代表昇宮大臣と共和国軍の代表榎本様の間での協議が終わりました」
「ほう、そうですか? ちゃんと国民の為の協議が出来たのでしょうか」
「はい、それはもう。おそらく最高の選択をしたと言えると思います」
「そうですか…………ならよかった。北海道の人がよりよい暮しが出来るのならそれでいい」
「はい、うふふっ」
赤穂さんが嬉しそうに笑っている。
少し頬が赤くて、体が少しもじもじしている。
なんだか、可愛いと思えるなあ。いい子だ。
「退屈でしょう? 報告が終わったら戻ってください」
「あの、私の報告は終わりましたが、他の方の報告が残っています」
「えっ??」
「おおぉとのぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!!」
数人の男が近づいてきた。
「んっ!? あれは……昇宮大臣かな?」
昇宮大臣の後ろには総さんと恐らく榎本さんと土方さんだろう。
「はっ!!!! 我ら北海道民は全て大殿の配下となりました。これよりよろしくお願いいたします」
四人がひざまずき、臣下の礼をとった。
「ええっ!? いやいや、どうせ民主化するのだから、配下とかは関係ないですよ」
「ならば、民主化するまでの間でも、大殿配下として国民と共に精進していきたいと思います。これは道民の総意にございます」
昇宮大臣がキラキラした目で見てくる。
「ふふふ、皆がうな重を食べている中で『この粥も国民の笑顔を見ながら食えば最高のご馳走だ!!』と言って粥をすすったという話には参りました」
総さんが笑顔で言った。
いやいや、そんなことを言った覚えはない。
美化されとるぞーー!!
「道民の中には、もうこの話を知らない者がいないほど浸透いたしました」
「道民はみな感動して涙しました」
榎本さんと土方さんが言った。
胸にわかりやすいように大きな名札が付いている。
北海道は、めでたく木田家の傘下になったようだ。やれやれだぜ。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる