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第121章『発動』
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第121章『発動』
タカコと敦賀が挟撃の下準備に入ってから三時間が経過した。時刻は既に十四時を回り、高根は腕時計でそれを確かめてから営舎の方へと視線を向ける。基地内を活骸を引きつけつつ走り回り燃料も心許無くなって来た、そろそろ最終段階に進まなければ燃料切れで乱戦に突入する事になる。
「……上がった!シミズの指示通り一台ずつ離脱し営舎東側に向かうぞ!」
燃料の残量と活骸の様子を気にしつつ走り回れば漸く上がった曳光弾、活骸の意識を引かぬ様に目立たぬものだが待ち侘びていたそれに高根が直ぐに指示を飛ばし、割り振っていた順番通りにトラックが一台また一台と時間を置いて離脱して行く。活骸がそれについて行かぬ様にと散弾銃を発砲して注意を引き付けつつ、高根の乗ったトラックもやがて営舎へと向かって動き出した。
「敦賀!状況は!」
「説明してる暇は無ぇ、早く打ち合わせ通りに運び込んで配置に付け!!」
向かった先の営舎東側の渡り廊下部分の出入り口では敦賀が一人待ち構え、高根と、彼と共に到着した海兵達に早く配置に付けと急き立てる。タカコは、とその場にいない彼女の事を問い掛ければ、短く
「奴は奴の配置についた、こっちが整うのを待ってる」
と、それだけ告げられた。自分達のやるべき事と配置は聞いたが、彼女自身がどう動くか迄は詳しく聞いていない。それでもこれ以上の問答に意味は無いかと自分を納得させ、高根は荷台から下ろされた木箱を二つ重ねで受け取り、タカコに指示された配置場所、屋上へと向かって一気に階段を駆け上がった。
一号棟の屋上へと出れば中庭を挟んだ二号棟の屋上にも同じ様に展開が為され、木箱から取り出した武器が次々に中庭沿いに並べられて行く。未経験の作戦に一兵卒並みの役割で参加とは何とも具合が良くないが仕方が無い、自分が指揮官の役割に戻るのはタカコが最後の引き金を引いてから、それ迄は彼女から与えられた役割の通りに動くしかないかと小さく溜息を吐く。
やがて全員が二手に分かれて上がり終え、敦賀が二号棟の屋上へと姿を現した。手には何やら夥しい量の導線へと繋がった装置を抱え、それを抱えて中庭沿いで片膝を突き、身を乗り出して下の様子を窺っている。
先程から近くで散発的に聞こえる銃声はタカコのものだろう、自分達が中に入り配置に付き終える迄自らを囮にして走り回っているのに違い無い。下と屋上の確認を終えた敦賀が銃声の方へと向き直り今度は赤の信号弾を打ち上げれば、それに呼応する様にして同じ様に信号弾が打ち上げられ、銃声が少しずつ少しずつこちらへと向かって近づき始めた。
始まる、派手に爆風と爆片が吹き上げられるから決して下を覗くな、壁際に蹲って頭を庇い待避していろと言っていたタカコの言葉、ここ迄きたらもうそれを信じる以外にやる事も出来る事も無い。
「……来たな」
それでもタカコの到着だけは見届けようと顔だけを出して西側を見続ければ、やがて渡り廊下の向こうに彼女が運転しているであろうトラックがその姿を現した。時折停止して発砲しつつやがて車体は中庭へと入り、高根達が乗り捨てたトラックで塞がれた東側の行き止まり迄進み、そこで停止した運転席から出たタカコが銃を抱えたまま車体の上へと立ち上がる。その後から怒涛の如くに中庭へと押し寄せる活骸の群れ、先頭は直ぐにタカコのいるトラックへと到達し、タカコを見上げ彼女へと向けて腕を伸ばしながら耳障りな奇声を夫々が上げ続ける。
「タカコ!早く退避しろ!」
「まだだ!最後尾がまだ中庭に入り切ってない!!頭下げて耳塞いでろ!!」
早く次の段階へと進めと高根が声を張り上げれば、タカコはそちらへと視線を向ける事は無く開放されたままの西側をじっと見詰めたまま怒鳴り返す。まだか、まだなのか、誰もが内心にじりじりと焦りを抱え割り当てられた武器を握り締める中、タカコだけが冷静に活骸の群れの最後尾の到達を待っていた。
まだ、まだだ、今発動しては取り漏らしが相当数出てしまう、完全には無理でも出来るだけ誘き寄せてから、そう思いつつ二階部分の渡り廊下へと視線を向け、そこの骨組みに引っ掛けて置いた小さな装置を手に取った。早く、早く来い、そうすればこれの出番だと掌で装置を弄びながら黙したまま待ち続ければ、やがてその時がやって来た。
群れが途切れた、数秒待ってその後に続くものが無い事を確認した瞬間素早く後退り、自分の乗って来たトラックの車体から高根達の乗り捨てた車体へ飛び移り、次の瞬間にはそこからも飛び降りて営舎の陰へと身を投げる。
そして、
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
と放られた怒号に屋上の面々が身を伏せた瞬間、タカコは手にしていた装置の釦を思い切り押し込んだ。
屋上で伏せていた敦賀や高根達を襲ったのは腹に響く凄まじい振動と、耳朶へと当てた掌を越えて鼓膜を叩く轟音。生まれて初めての衝撃に反射的に身を竦めた敦賀は気を取り直し、顔だけ出して下を覗き込み、濛々と上がる粉塵の向こうに西側の渡り廊下全てが爆破され、それにより地上へと落とされ活骸の退路を絶った事を確認し、次は自分の役目だとばかりに抱えていた二つの装置、その内の一つ、タカコが手にしていたのと同じ物の釦を一息に押し込んだ。
同じ様に響き渡る振動と轟音と粉塵、今度は東側の渡り廊下が全て爆破され地上へと落ち活骸の進路を塞ぐ。それを確認した敦賀はもう一つの装置を手にし、
「まだ伏せてろ!派手に上がるぞ!!」
とそう声を張り上げ、拳を釦へと向けて全力で叩き付けた。
敦賀が押したその釦、装置から伸びる配線の先に繋がるのは一階の外壁へと設置した対人地雷。両側に百基ずつ、計二百基設置されたそれは敦賀の押した釦により電気信号を与えられ、内蔵された爆薬を炸裂させ、その爆破の威力は同じ様に内蔵されていた金属球を鋭い牙へと変え、外装の金属片と共に一瞬にして活骸へと向けて襲い掛かった。
渡り廊下の時よりも重く大きな振動と爆音、金属球が活骸の身体を貫き建物へも襲い掛かり、地震かと思う程の大きな揺れが屋上の海兵達を襲う。高根はそれを歯を食いしばって堪え、爆発音が途絶えたのを確認してから手にしていた鉄球から力任せに針金を引き抜きつつ声を張り上げた。
「投下開始!先ずは手榴弾からだ!!」
その号令に従い二つの営舎の屋上から次々に手榴弾が投下され始める、数秒後に下から響き始めた爆音と飛んで来る破片、二百を投下し終えた後は十秒待ち、今度は対戦車砲を地上へと向けて撃ち込み始める。
「砲撃開始!!絶対に顔は出すな、下を覗くなよ!!」
『挟撃の基本は相手に態勢を整える暇を与えない事だ、持てる限りの大火力を一気呵成に叩き込み、短時間で勝負をつける。それを頭に叩き込んでおけ』
事前の打ち合わせでタカコが言っていた言葉の通りに次々に砲撃を叩き込み、それが途絶え静寂が訪れたのは五分程経ってから。爆破の衝撃を受けた外壁のあちこちが崩れ落ちる音だけが響く中、中庭には動くものは何一つ残ってはいなかった。
タカコと敦賀が挟撃の下準備に入ってから三時間が経過した。時刻は既に十四時を回り、高根は腕時計でそれを確かめてから営舎の方へと視線を向ける。基地内を活骸を引きつけつつ走り回り燃料も心許無くなって来た、そろそろ最終段階に進まなければ燃料切れで乱戦に突入する事になる。
「……上がった!シミズの指示通り一台ずつ離脱し営舎東側に向かうぞ!」
燃料の残量と活骸の様子を気にしつつ走り回れば漸く上がった曳光弾、活骸の意識を引かぬ様に目立たぬものだが待ち侘びていたそれに高根が直ぐに指示を飛ばし、割り振っていた順番通りにトラックが一台また一台と時間を置いて離脱して行く。活骸がそれについて行かぬ様にと散弾銃を発砲して注意を引き付けつつ、高根の乗ったトラックもやがて営舎へと向かって動き出した。
「敦賀!状況は!」
「説明してる暇は無ぇ、早く打ち合わせ通りに運び込んで配置に付け!!」
向かった先の営舎東側の渡り廊下部分の出入り口では敦賀が一人待ち構え、高根と、彼と共に到着した海兵達に早く配置に付けと急き立てる。タカコは、とその場にいない彼女の事を問い掛ければ、短く
「奴は奴の配置についた、こっちが整うのを待ってる」
と、それだけ告げられた。自分達のやるべき事と配置は聞いたが、彼女自身がどう動くか迄は詳しく聞いていない。それでもこれ以上の問答に意味は無いかと自分を納得させ、高根は荷台から下ろされた木箱を二つ重ねで受け取り、タカコに指示された配置場所、屋上へと向かって一気に階段を駆け上がった。
一号棟の屋上へと出れば中庭を挟んだ二号棟の屋上にも同じ様に展開が為され、木箱から取り出した武器が次々に中庭沿いに並べられて行く。未経験の作戦に一兵卒並みの役割で参加とは何とも具合が良くないが仕方が無い、自分が指揮官の役割に戻るのはタカコが最後の引き金を引いてから、それ迄は彼女から与えられた役割の通りに動くしかないかと小さく溜息を吐く。
やがて全員が二手に分かれて上がり終え、敦賀が二号棟の屋上へと姿を現した。手には何やら夥しい量の導線へと繋がった装置を抱え、それを抱えて中庭沿いで片膝を突き、身を乗り出して下の様子を窺っている。
先程から近くで散発的に聞こえる銃声はタカコのものだろう、自分達が中に入り配置に付き終える迄自らを囮にして走り回っているのに違い無い。下と屋上の確認を終えた敦賀が銃声の方へと向き直り今度は赤の信号弾を打ち上げれば、それに呼応する様にして同じ様に信号弾が打ち上げられ、銃声が少しずつ少しずつこちらへと向かって近づき始めた。
始まる、派手に爆風と爆片が吹き上げられるから決して下を覗くな、壁際に蹲って頭を庇い待避していろと言っていたタカコの言葉、ここ迄きたらもうそれを信じる以外にやる事も出来る事も無い。
「……来たな」
それでもタカコの到着だけは見届けようと顔だけを出して西側を見続ければ、やがて渡り廊下の向こうに彼女が運転しているであろうトラックがその姿を現した。時折停止して発砲しつつやがて車体は中庭へと入り、高根達が乗り捨てたトラックで塞がれた東側の行き止まり迄進み、そこで停止した運転席から出たタカコが銃を抱えたまま車体の上へと立ち上がる。その後から怒涛の如くに中庭へと押し寄せる活骸の群れ、先頭は直ぐにタカコのいるトラックへと到達し、タカコを見上げ彼女へと向けて腕を伸ばしながら耳障りな奇声を夫々が上げ続ける。
「タカコ!早く退避しろ!」
「まだだ!最後尾がまだ中庭に入り切ってない!!頭下げて耳塞いでろ!!」
早く次の段階へと進めと高根が声を張り上げれば、タカコはそちらへと視線を向ける事は無く開放されたままの西側をじっと見詰めたまま怒鳴り返す。まだか、まだなのか、誰もが内心にじりじりと焦りを抱え割り当てられた武器を握り締める中、タカコだけが冷静に活骸の群れの最後尾の到達を待っていた。
まだ、まだだ、今発動しては取り漏らしが相当数出てしまう、完全には無理でも出来るだけ誘き寄せてから、そう思いつつ二階部分の渡り廊下へと視線を向け、そこの骨組みに引っ掛けて置いた小さな装置を手に取った。早く、早く来い、そうすればこれの出番だと掌で装置を弄びながら黙したまま待ち続ければ、やがてその時がやって来た。
群れが途切れた、数秒待ってその後に続くものが無い事を確認した瞬間素早く後退り、自分の乗って来たトラックの車体から高根達の乗り捨てた車体へ飛び移り、次の瞬間にはそこからも飛び降りて営舎の陰へと身を投げる。
そして、
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
と放られた怒号に屋上の面々が身を伏せた瞬間、タカコは手にしていた装置の釦を思い切り押し込んだ。
屋上で伏せていた敦賀や高根達を襲ったのは腹に響く凄まじい振動と、耳朶へと当てた掌を越えて鼓膜を叩く轟音。生まれて初めての衝撃に反射的に身を竦めた敦賀は気を取り直し、顔だけ出して下を覗き込み、濛々と上がる粉塵の向こうに西側の渡り廊下全てが爆破され、それにより地上へと落とされ活骸の退路を絶った事を確認し、次は自分の役目だとばかりに抱えていた二つの装置、その内の一つ、タカコが手にしていたのと同じ物の釦を一息に押し込んだ。
同じ様に響き渡る振動と轟音と粉塵、今度は東側の渡り廊下が全て爆破され地上へと落ち活骸の進路を塞ぐ。それを確認した敦賀はもう一つの装置を手にし、
「まだ伏せてろ!派手に上がるぞ!!」
とそう声を張り上げ、拳を釦へと向けて全力で叩き付けた。
敦賀が押したその釦、装置から伸びる配線の先に繋がるのは一階の外壁へと設置した対人地雷。両側に百基ずつ、計二百基設置されたそれは敦賀の押した釦により電気信号を与えられ、内蔵された爆薬を炸裂させ、その爆破の威力は同じ様に内蔵されていた金属球を鋭い牙へと変え、外装の金属片と共に一瞬にして活骸へと向けて襲い掛かった。
渡り廊下の時よりも重く大きな振動と爆音、金属球が活骸の身体を貫き建物へも襲い掛かり、地震かと思う程の大きな揺れが屋上の海兵達を襲う。高根はそれを歯を食いしばって堪え、爆発音が途絶えたのを確認してから手にしていた鉄球から力任せに針金を引き抜きつつ声を張り上げた。
「投下開始!先ずは手榴弾からだ!!」
その号令に従い二つの営舎の屋上から次々に手榴弾が投下され始める、数秒後に下から響き始めた爆音と飛んで来る破片、二百を投下し終えた後は十秒待ち、今度は対戦車砲を地上へと向けて撃ち込み始める。
「砲撃開始!!絶対に顔は出すな、下を覗くなよ!!」
『挟撃の基本は相手に態勢を整える暇を与えない事だ、持てる限りの大火力を一気呵成に叩き込み、短時間で勝負をつける。それを頭に叩き込んでおけ』
事前の打ち合わせでタカコが言っていた言葉の通りに次々に砲撃を叩き込み、それが途絶え静寂が訪れたのは五分程経ってから。爆破の衝撃を受けた外壁のあちこちが崩れ落ちる音だけが響く中、中庭には動くものは何一つ残ってはいなかった。
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