大和―YAMATO― 第二部

良治堂 馬琴

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第129章『京都』

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第129章『京都』

 ――京都二条城、統合幕僚監部――

 事件から一ヶ月、呼び出しに応じる事を引き伸ばすのも限界に達し、高根は博多を離れ京都へと出向いていた。研究と対応を陸軍西部方面旅団と共同で行っているという事も有り、西方総監である黒川も共にやって来ている。
「うぁー……だりぃ……出たくねぇ……」
「気持ちは分かるがよ、抗体の特定はもう出来たし分離成功も秒読みだ。銃の方だって工廠の方に手順が残ってるし量産も問題は無ぇ、何とかなるだろ」
 民間からも研究者を動員しての突貫作業により、抗体の特定は思ったよりもずっと早く出来た、ここ迄来れば分離ももう時間の問題で、上手く運べば自分達が博多に戻る頃には朗報が出迎えてくれる事だろう。その抗体を人工的に作り出せるのか、量産出来るのか、これからはそれが問題になって来る。
「まぁ何するにしてもだ、予算超過分を引っ張る算段だけはつけないと博多に戻れねぇな、今のままじゃ給料も払えねぇよウチ」
「予算なぁ……ザッとでどの位引っ張らないといけねぇんだ?」
「ほんの二十億程度」
「……『ほんの』?無理じゃね?」
「だろ?はぁー、帰りてぇ……」
 会議が始まり呼ばれるのを待っている高根と黒川、喫煙所で煙草を噴かしつつ高根が愚痴を零し、黒川がそれを脇で聞きながら相槌を打つ。これから二人が向かい合い対決するのは統合幕僚監部の面々、階級は全員が少将以上であり、自分達の処遇と予算配分に関して大きな権限を持つ強敵達だ。
 海兵隊総司令という立場の高根自身も、名前だけは統合幕僚監部の中に名を連ねてはいるのだが、一人だけ佐官という事に加えて中央の事や政争に興味も無く、理由をつけては統幕へとは寄り付かず博多に引き篭もったままだった。こんな事になるのならもう少しこまめに顔を出して立場を強化しておくべきだったと思いはするものの時既に遅し、どう話を運んだものかと思案しつつ頭を掻く。
「黒川准将、高根大佐、時間です」
 喫煙室の扉が開かれ声が掛かる、始まる、もう後戻りは出来ないなと顔を見合わせ、高根と黒川は立ち上がり会議室へと向かった。

「――大まかな流れは分かった。活骸の基地内発生は予見出来なかったであろう事も理解する、昨年の本土侵攻の時の様に市街地へ流出し民間人に多数の被害を出す事も無かったという点も評価しよう。その上で聞くが、活骸が病変した人間であり、その原因菌を敵意を持って大和国内にばら撒いた敵勢力が有る、それは確かなんだな?」
「はい、確かです。雌の活骸から生まれた子供は活骸ではなく人間であり、活骸から母乳を継続的に摂取する事で活骸へと変異する事ははっきりと確認しました。また、昨年の本土侵攻の際、現れた活骸と同数の民間人が不明となっており、彼等は全員が特定の水源から水を得ていた事が調査の結果判明しています。決定的証拠は有りませんが、水源へ病原体を投下されたと考えて良いかと。今回の基地内の活骸発生に関しても、掃討完了後に基地内の給水槽内の水を検査しましたが、活骸の体内から検出したものと同じ細菌を検出しました、これが原因菌かと思われます。昨年の侵攻の際も、事件後直ぐに水源の水を調査していれば同一の菌が検出されたかと。自然発生的にこういった事が起きるとは考えられません、何者かが大和に対して敵意を持ち、活骸との戦いの最前線である博多の防衛機能を破壊しようと企んでいると考えるのが自然かと思われます」
 向かい合って高根へと質問をして来るのは須藤陸軍大将、この統合幕僚監部の頂点である統合幕僚長だ。高根はその彼へと言葉を返しながら、どうも嫌な空気だと内心舌を打った。須藤は東方師団の出身、博多の事情には明るくない。その彼が統幕の意思決定に大きな力を持っているともなれば、活骸との戦いの実際とは大きく乖離した結論を出される事になりかねない。
(さて……どう話を持って行ったもんかね……)
 それでもどうにかこちらの思う通りに、完全にはそうならずとも出来るだけ近い結論を引き出さなければ博多には帰れない、自分の帰りを待っている全海兵に顔向けが出来ない。
「それで、この抗体というのは?」
「はい、今回の事件で活骸に変異してしまった海兵としなかった海兵、その違いは何なのかと調査したところ、変異しなかった者は全員が前線部隊の在籍者かその経験者である事が分かりました。その彼等の血液を採取して詳細に検査したところ、活骸の血中に大量に存在する特定の菌に対する抗体を有している事が判明しました、今お話しました給水槽から検出されたのと同一の菌です。前線部隊は出撃の度に活骸の体液を大量に浴びますが、それを繰り返す事により低濃度の曝露状態に置かれ、その中で人体の防衛機能として抗体を獲得するに至ったと考えます」
「そうか……しかし、抗体を持っているからと言って活骸に襲われなくなるわけでもないんじゃないのか?」
「はい、それは仰る通りです、活骸との直接の戦いに於いてはこの抗体の存在に意味は有りません。しかし、原因菌を利用して大和に害を為そうとする存在との戦いに於いては話が別です、今回の様に大和国内に活骸を発生させ自滅させようと企む向きが有ったとしても、抗体を人工的に量産し予め投与しておけば防ぐ事が可能です」
「成る程な……実際に事が起きている事を考えても、研究する価値は充分に有るという事か」
「はい、独断ではありますがこちらの黒川総監と共同で研究を進め、抗体の特定は既に出来ております。現在はその分離を試みていますが時間の問題かと。量産への道が開ければ、防衛の為の強力な盾になる事は間違い有りません」
 高根のその言葉に統幕の面々から騒めきが上がる、良い感触だ、嫌な感じだとは思ったがこのまま行けば、そう期待すれば須藤は手元の資料に視線を落としながら再び口を開く。
「そうか……分かった、この件についてはこのまま研究を進めて構わない。但し、今後はこまめにこちらに報告を上げる様に、良いな?」
「は、了解しました」
「次に……もう一つの議題、散弾銃を使用しての対活骸戦闘という戦術について話を聞かせてもらおうか……長らく太刀との戦いに頼って来た海兵隊が何故今になってその基本戦術を根本から変更しようとしているのか、その事についてな」
 須藤のその言葉と鋭い視線に、来た、と、そう思った。
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