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第148章『理由』
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第148章『理由』
「ばっっっかじゃねーの?だから止めておけって言っただろ、てめぇは私の部隊の実力を何だと思ってるんだ、対人制圧専門部隊虚仮にすんのもいい加減にしろよ」
「……うるせぇ……ってぇ……」
「当たり前だ、寧ろその程度で済んで良かったと思えよ、親指一本で人を殺せる奴だぞ、ケインは。ほれ、足と脇腹見せてみろ」
物騒な事を言いつつ呆れ顔のタカコ、その彼女の指示に素直に従いシャツと戦闘服のズボンを脱ぎつつ、敦賀は何ともばつの悪い心持ちで小さく舌を打つ。
タカコの言う通りにカタギリを見縊り過ぎていた、見た目からでは判断は出来ないとタカコを見て思い知っていた筈なのに、これでは馬鹿にされても当然だなと思いつつ打撃を食らった箇所へと湿布を貼り付けるタカコを見ていると、ふと先程カタギリに言われた言葉が蘇った。
「……やっぱりムカつくか、馬鹿女呼ばわりは」
「は?ああ、ケインに言われたのか。そりゃまぁ最初は良い気はしなかったが、もう慣れたよ。部下のあいつにしてみりゃムカつくだろうが、私が慣れたって言ってるんだから、まぁ気にするな」
そう言って見上げて来るタカコ、その視線にも面持ちにも含むところは無さそうで、実際に気にしているわけではないのだろうと分かる。それでもカタギリの言っていた事も尤もで、そもそも敦賀自身も別にタカコの名を呼びたくないわけではない、最初から言い争いをする事が多く、何と無く流れで定着してしまっただけの事。
「……名前で呼んだ方が良いか」
「いや、ケインの場合それでもなぁ、苗字で呼び捨ても駄目だなあいつの場合。シミズ大佐って呼んで敬語で話すとかでもしねぇと――」
「片桐の事は言ってねぇよ、お前がどう思うか聞いてんだ」
「だから、私は別に気にしてねぇよ。今更名前で呼ばれるのも何か変な感じだし、私だってお前の事名前じゃなくて苗字で呼んでるんだし、今のままで良いんじゃないか?」
タカコのその言葉が、妙に敦賀の心に引っ掛かる。そう、彼女は今迄畏まった場と状況以外では常に相手を名前で呼んで来た、陸軍の黒川の事でさえ『さん』を付けてではあるが名前で呼んでいる。常に苗字で呼ばれているのは、敦賀一人だけ。
「一つ聞きてぇんだが、てめぇは俺の名前を知らないとか、そういう事なのか?」
「は?何言ってんの?この間お前の執務室で姓名で呼んだろうがよ」
「そういう事じゃねぇよ、普段は苗字でしか呼んでねぇだろうが。他の奴は真吾も、他所もんの龍興でさえ名前で呼んでるのに、何でだ?」
「何でって……別に、意味は無いが」
微妙に言い淀む奇妙な間、そして、僅かに泳いだタカコの視線を敦賀は見逃さない。湿布を貼り終えて立ち上がろうとした彼女の腕を掴み、自分の方へと引き寄せて顎を掴み半ば無理矢理に視線を合わせ、静かに再度問い掛けた。
「……何でだ?」
「お前が私を名前で呼ぶかどうかって話をしてたのに、何で私がお前のなま――」
「誤魔化すな、答えろ。何でだ?」
段々と近づく顔、唇が触れ合う程の至近距離で囁かれ、タカコが視線を逸らそうにも、顎をしっかりと押さえ敦賀はそれすら許さない。何か、何か隠している、それは恐らく自分に深く関わっている事。そう直感しそれを教えろと更に身体を抱き寄せて顔を近付ければ、唇が触れ合う寸前で医務室の扉が開かれ、その向こうから医官の大和田が姿を現す。
「……先任……そういう事はせめて人目に触れる可能性の無い場所で……いや、それも拙いか、外行って下さいね、外」
男が下着一枚という格好で女を抱き締めて顔を寄せていればそう思われて当然、大和田がそう発言するのは尤もな事で、大和田の出現に弾かれる様にして腕を振り解き逃れて行くタカコ、敦賀はそれに内心舌を打ちながら立ち上がり、シャツとズボンに手を伸ばしそれを身に付ける。
「いや……先生、そういうんじゃねぇ……ちょっと話を聞いてただけだ」
「いやいや、皆知ってますから隠さなくても。お似合いですよ?」
「先生ひどい!勝手にくっつけないでよ!私とこいつはそういうんじゃないし!」
「そうなんですか?僕、お二人がいつ結婚するかの賭けに一口乗ってるんですよ。時期教えてくれません?申告修正しとくんで」
「だから!そんなんじゃないから!何で私がこいつとそんな事しないといかんのよ!」
「……ちょっと待て馬鹿女、てめぇ、俺とそんな仲になるのがそんなに嫌か」
「はぁぁぁ!?じゃあてめぇは私と結婚してぇってのか!?」
宜しくない状況に間違われかねない場を見られて先走った事を言われ、取り繕おうと大和田の言う事を否定はしたものの、敦賀自身の気持ちとしては大和田の言った様な関係を望んでいる。それでも必死になって否定し自分に突っ掛かって来たタカコに対して返した言葉は、あまりにも幼く、稚拙なもの。
「ふざけんなよ……誰がてめぇみてぇな馬鹿で騒々しくて凶暴でがさつな女と結婚してぇと思うってんだ!」
「こっちだって願い下げだ!」
「てめぇが言うな馬鹿女!」
石を投げ込んだ大和田を置き去りにして始まった言い争い、その激しさに、タカコが敦賀の名前を呼ばない理由は何処かへと流され消え去って行った。
「ばっっっかじゃねーの?だから止めておけって言っただろ、てめぇは私の部隊の実力を何だと思ってるんだ、対人制圧専門部隊虚仮にすんのもいい加減にしろよ」
「……うるせぇ……ってぇ……」
「当たり前だ、寧ろその程度で済んで良かったと思えよ、親指一本で人を殺せる奴だぞ、ケインは。ほれ、足と脇腹見せてみろ」
物騒な事を言いつつ呆れ顔のタカコ、その彼女の指示に素直に従いシャツと戦闘服のズボンを脱ぎつつ、敦賀は何ともばつの悪い心持ちで小さく舌を打つ。
タカコの言う通りにカタギリを見縊り過ぎていた、見た目からでは判断は出来ないとタカコを見て思い知っていた筈なのに、これでは馬鹿にされても当然だなと思いつつ打撃を食らった箇所へと湿布を貼り付けるタカコを見ていると、ふと先程カタギリに言われた言葉が蘇った。
「……やっぱりムカつくか、馬鹿女呼ばわりは」
「は?ああ、ケインに言われたのか。そりゃまぁ最初は良い気はしなかったが、もう慣れたよ。部下のあいつにしてみりゃムカつくだろうが、私が慣れたって言ってるんだから、まぁ気にするな」
そう言って見上げて来るタカコ、その視線にも面持ちにも含むところは無さそうで、実際に気にしているわけではないのだろうと分かる。それでもカタギリの言っていた事も尤もで、そもそも敦賀自身も別にタカコの名を呼びたくないわけではない、最初から言い争いをする事が多く、何と無く流れで定着してしまっただけの事。
「……名前で呼んだ方が良いか」
「いや、ケインの場合それでもなぁ、苗字で呼び捨ても駄目だなあいつの場合。シミズ大佐って呼んで敬語で話すとかでもしねぇと――」
「片桐の事は言ってねぇよ、お前がどう思うか聞いてんだ」
「だから、私は別に気にしてねぇよ。今更名前で呼ばれるのも何か変な感じだし、私だってお前の事名前じゃなくて苗字で呼んでるんだし、今のままで良いんじゃないか?」
タカコのその言葉が、妙に敦賀の心に引っ掛かる。そう、彼女は今迄畏まった場と状況以外では常に相手を名前で呼んで来た、陸軍の黒川の事でさえ『さん』を付けてではあるが名前で呼んでいる。常に苗字で呼ばれているのは、敦賀一人だけ。
「一つ聞きてぇんだが、てめぇは俺の名前を知らないとか、そういう事なのか?」
「は?何言ってんの?この間お前の執務室で姓名で呼んだろうがよ」
「そういう事じゃねぇよ、普段は苗字でしか呼んでねぇだろうが。他の奴は真吾も、他所もんの龍興でさえ名前で呼んでるのに、何でだ?」
「何でって……別に、意味は無いが」
微妙に言い淀む奇妙な間、そして、僅かに泳いだタカコの視線を敦賀は見逃さない。湿布を貼り終えて立ち上がろうとした彼女の腕を掴み、自分の方へと引き寄せて顎を掴み半ば無理矢理に視線を合わせ、静かに再度問い掛けた。
「……何でだ?」
「お前が私を名前で呼ぶかどうかって話をしてたのに、何で私がお前のなま――」
「誤魔化すな、答えろ。何でだ?」
段々と近づく顔、唇が触れ合う程の至近距離で囁かれ、タカコが視線を逸らそうにも、顎をしっかりと押さえ敦賀はそれすら許さない。何か、何か隠している、それは恐らく自分に深く関わっている事。そう直感しそれを教えろと更に身体を抱き寄せて顔を近付ければ、唇が触れ合う寸前で医務室の扉が開かれ、その向こうから医官の大和田が姿を現す。
「……先任……そういう事はせめて人目に触れる可能性の無い場所で……いや、それも拙いか、外行って下さいね、外」
男が下着一枚という格好で女を抱き締めて顔を寄せていればそう思われて当然、大和田がそう発言するのは尤もな事で、大和田の出現に弾かれる様にして腕を振り解き逃れて行くタカコ、敦賀はそれに内心舌を打ちながら立ち上がり、シャツとズボンに手を伸ばしそれを身に付ける。
「いや……先生、そういうんじゃねぇ……ちょっと話を聞いてただけだ」
「いやいや、皆知ってますから隠さなくても。お似合いですよ?」
「先生ひどい!勝手にくっつけないでよ!私とこいつはそういうんじゃないし!」
「そうなんですか?僕、お二人がいつ結婚するかの賭けに一口乗ってるんですよ。時期教えてくれません?申告修正しとくんで」
「だから!そんなんじゃないから!何で私がこいつとそんな事しないといかんのよ!」
「……ちょっと待て馬鹿女、てめぇ、俺とそんな仲になるのがそんなに嫌か」
「はぁぁぁ!?じゃあてめぇは私と結婚してぇってのか!?」
宜しくない状況に間違われかねない場を見られて先走った事を言われ、取り繕おうと大和田の言う事を否定はしたものの、敦賀自身の気持ちとしては大和田の言った様な関係を望んでいる。それでも必死になって否定し自分に突っ掛かって来たタカコに対して返した言葉は、あまりにも幼く、稚拙なもの。
「ふざけんなよ……誰がてめぇみてぇな馬鹿で騒々しくて凶暴でがさつな女と結婚してぇと思うってんだ!」
「こっちだって願い下げだ!」
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