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第1章『遺体』
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第1章『遺体』
「……取り敢えず、お前を拘束する。その後の扱いがどうなるかは分からんが……悪い扱いを受けたくなけりゃ大人しくしてろ」
耳元に響く低い声、落ち着いてはいるが躊躇の無い殺気に満ちている、指一本ひと呼吸でも下手な動きをすれば押し当てられた刃が首を刎ね飛ばすだろう、アンデッドの首をそうやって見せた様に。
「分かってる、逆らう意思は無い……が、そろそろ限界だ」
何とかそう言い切ると同時に身体から力が抜ける、同時に蘇って来る全身の激痛、死の局面を乗り切った安心感が自分の身体を支えて立つ力を奪い取って行く。崩れ落ちると同時に首から離された刃、そのまま地に臥せるかと思った身体は背後の男の身体と腕に支えられた。
「……女がこんな所で何してやがった……おい!こいつを荷台に乗せろ!」
吐き捨てる様にそう言った男が周囲の人間に向かって命令口調で声を放る、指揮官なのかその下なのかは分からないがそれなりの立場にいる人間なのだろう。やがて駆け寄って来た数名に女――、タカコの身体を雑に渡して男はところどころから炎を上げる輸送機の機体へと歩み寄って行く。大きな背中、体躯、身長は190cm程だろうか、ウッドランドパターンの迷彩戦闘服の上下と、手にはひと振りの太刀。
(……カタナ……本当にあれで戦ってるのか……)
国で歴史書の中に見たカタナ、それを操り戦う彼等はサムライという奴か、絵や写真で見ていたのと随分と佇まいが違うが、そんな事をぼんやりと考えつつ、荷台へと乗せようとする周囲の動きには特に逆らわずにいた。
「中に燃えずに残ってる物が沢山有る様だ、積み込めるだけ回収しろ!」
「了解です先任、死体がやたら有りますが、これはどうしますか。バラバラなんで大雑把ですけど、多分三十体近く有りますよ」
「……どれもバラバラなんだろう、拾い集めてる時間は無ぇ、捨て置け」
機体の中を覗いていた男と部下の遣り取り、それを認識した途端、タカコは自分を抱える数人を押し退けて身体を起こし、男へと向けて言い募った。
「頼む!頭部だけで良いんだ!回収してくれ!頼む!!私はどういう扱いを受けても良いから、仲間を、部下を連れ帰らせてくれ!!ここに置き去りにされたら――」
そう、自分は知っているのだ、アンデッドが跋扈する場所に遺体と言えど人間を置き去りにすればその遺体がどうなるのか、何度も何度も見て来たのだから。そして、一部分でも良いから連れ帰ってやりたいとそう思って何度、仲間の、部下の頭部を切断しただろうか。
「……捕虜の分際で口出しするんじゃねぇ、死体の為に俺の部下を活骸に食わせる気か……おい、さっさと乗せちまえ」
タカコの懇願に彼女へと向けられたのは、男の鋭く、そして冷たい眼差しと言葉。突然の抗議に不快感を滲ませてそう吐き捨て再び機体へと向き直った男の素振りに、タカコの中の何かが音を立てて切れた。
「ちょ……おい!そいつ押さえろ!」
「何やってんだてめぇ!」
機体の中を覗き込み検分していた男、その耳に部下達の焦った様な怒号が飛び込んで来る。何が有ったのか、活骸が現れたかとそちらへと視線と身体を向けてみれば、そこにいたのは部下から奪ったのかひと振りの太刀を手にして鬼神の如き形相のタカコの姿。
「……お前の部下を食わせたくなければさっさと立ち去れ!私も同じ様に部下に対して責任が有る……お前等がやらないのなら私がやる!そこを……退け!!」
空気が震えた気すらした、咆哮と言うのが相応しい力の篭った叫び、形は全くなっていないが奪った太刀の柄を両手でしっかりと握り、それも相俟って例え斬り伏せられようとも一歩も引く気は無いであろう事が伝わって来る。
面倒な事になった、事情を聞く為に拘束して連れ帰るつもりだったがこの場で斬り捨てるか、そんな事を思案している彼に、また別の方向から声が掛けられた。
「おい、どうした?何か騒がしいな」
聞き慣れたその声のする方へと視線を向けてみれば、トラックから一人の男が降り、五分刈りの頭をがしがしと掻きつつ男へと歩み寄って来る。
「捕虜を拘束したんだが……仲間の首を切断して持って帰らせろってほざいてやがる」
「首?ああ……活骸のいる場所に死体残したらどうなるか知ってんのか、あのお嬢ちゃん」
「そうみてぇだな」
「出来るか?」
「……本気かてめぇ」
「今のところ周辺に活骸は見当たらねぇ、部下を連れて帰ってやりたい気持ちは分かるしおめぇもそうだろう。話を引き出すのに恩を売っておいて損は無ぇしな……嫌な役回りだがやってくれるか」
「……分かった、袋を用意してくれ」
どんな力関係なのか五分刈りの男の言葉には素直に従う男、中に散らばる遺体は荷物の搬出と合わせて部下にさせるように指示を出し、自身は機体の外に横たわる、比較的まともな状態の遺体へと歩み寄った。
「……何処から来たのか知らねぇがこんなところでこんな死に方、災難だったな」
歳の頃は四十過ぎ程だろうか、自分と然して変わらない大柄な体躯の男の死に顔を見下ろしてそう吐き捨てる。腹部で大きく断裂した遺体、内蔵は周囲にブチ撒けられ、脊椎は完全に断裂して粉々になっているのが見て取れた。
けれどその死に顔は穏やかそのもの、苦しみの色は一切無く、穏やかな笑みさえ浮かぶそれを見下ろし、一つ、舌を打つ。
「最期の最期に……何か良い景色でも見えたか」
そう呟きつつ太刀を振り上げ、そして、鋭く振り下ろした。
「……取り敢えず、お前を拘束する。その後の扱いがどうなるかは分からんが……悪い扱いを受けたくなけりゃ大人しくしてろ」
耳元に響く低い声、落ち着いてはいるが躊躇の無い殺気に満ちている、指一本ひと呼吸でも下手な動きをすれば押し当てられた刃が首を刎ね飛ばすだろう、アンデッドの首をそうやって見せた様に。
「分かってる、逆らう意思は無い……が、そろそろ限界だ」
何とかそう言い切ると同時に身体から力が抜ける、同時に蘇って来る全身の激痛、死の局面を乗り切った安心感が自分の身体を支えて立つ力を奪い取って行く。崩れ落ちると同時に首から離された刃、そのまま地に臥せるかと思った身体は背後の男の身体と腕に支えられた。
「……女がこんな所で何してやがった……おい!こいつを荷台に乗せろ!」
吐き捨てる様にそう言った男が周囲の人間に向かって命令口調で声を放る、指揮官なのかその下なのかは分からないがそれなりの立場にいる人間なのだろう。やがて駆け寄って来た数名に女――、タカコの身体を雑に渡して男はところどころから炎を上げる輸送機の機体へと歩み寄って行く。大きな背中、体躯、身長は190cm程だろうか、ウッドランドパターンの迷彩戦闘服の上下と、手にはひと振りの太刀。
(……カタナ……本当にあれで戦ってるのか……)
国で歴史書の中に見たカタナ、それを操り戦う彼等はサムライという奴か、絵や写真で見ていたのと随分と佇まいが違うが、そんな事をぼんやりと考えつつ、荷台へと乗せようとする周囲の動きには特に逆らわずにいた。
「中に燃えずに残ってる物が沢山有る様だ、積み込めるだけ回収しろ!」
「了解です先任、死体がやたら有りますが、これはどうしますか。バラバラなんで大雑把ですけど、多分三十体近く有りますよ」
「……どれもバラバラなんだろう、拾い集めてる時間は無ぇ、捨て置け」
機体の中を覗いていた男と部下の遣り取り、それを認識した途端、タカコは自分を抱える数人を押し退けて身体を起こし、男へと向けて言い募った。
「頼む!頭部だけで良いんだ!回収してくれ!頼む!!私はどういう扱いを受けても良いから、仲間を、部下を連れ帰らせてくれ!!ここに置き去りにされたら――」
そう、自分は知っているのだ、アンデッドが跋扈する場所に遺体と言えど人間を置き去りにすればその遺体がどうなるのか、何度も何度も見て来たのだから。そして、一部分でも良いから連れ帰ってやりたいとそう思って何度、仲間の、部下の頭部を切断しただろうか。
「……捕虜の分際で口出しするんじゃねぇ、死体の為に俺の部下を活骸に食わせる気か……おい、さっさと乗せちまえ」
タカコの懇願に彼女へと向けられたのは、男の鋭く、そして冷たい眼差しと言葉。突然の抗議に不快感を滲ませてそう吐き捨て再び機体へと向き直った男の素振りに、タカコの中の何かが音を立てて切れた。
「ちょ……おい!そいつ押さえろ!」
「何やってんだてめぇ!」
機体の中を覗き込み検分していた男、その耳に部下達の焦った様な怒号が飛び込んで来る。何が有ったのか、活骸が現れたかとそちらへと視線と身体を向けてみれば、そこにいたのは部下から奪ったのかひと振りの太刀を手にして鬼神の如き形相のタカコの姿。
「……お前の部下を食わせたくなければさっさと立ち去れ!私も同じ様に部下に対して責任が有る……お前等がやらないのなら私がやる!そこを……退け!!」
空気が震えた気すらした、咆哮と言うのが相応しい力の篭った叫び、形は全くなっていないが奪った太刀の柄を両手でしっかりと握り、それも相俟って例え斬り伏せられようとも一歩も引く気は無いであろう事が伝わって来る。
面倒な事になった、事情を聞く為に拘束して連れ帰るつもりだったがこの場で斬り捨てるか、そんな事を思案している彼に、また別の方向から声が掛けられた。
「おい、どうした?何か騒がしいな」
聞き慣れたその声のする方へと視線を向けてみれば、トラックから一人の男が降り、五分刈りの頭をがしがしと掻きつつ男へと歩み寄って来る。
「捕虜を拘束したんだが……仲間の首を切断して持って帰らせろってほざいてやがる」
「首?ああ……活骸のいる場所に死体残したらどうなるか知ってんのか、あのお嬢ちゃん」
「そうみてぇだな」
「出来るか?」
「……本気かてめぇ」
「今のところ周辺に活骸は見当たらねぇ、部下を連れて帰ってやりたい気持ちは分かるしおめぇもそうだろう。話を引き出すのに恩を売っておいて損は無ぇしな……嫌な役回りだがやってくれるか」
「……分かった、袋を用意してくれ」
どんな力関係なのか五分刈りの男の言葉には素直に従う男、中に散らばる遺体は荷物の搬出と合わせて部下にさせるように指示を出し、自身は機体の外に横たわる、比較的まともな状態の遺体へと歩み寄った。
「……何処から来たのか知らねぇがこんなところでこんな死に方、災難だったな」
歳の頃は四十過ぎ程だろうか、自分と然して変わらない大柄な体躯の男の死に顔を見下ろしてそう吐き捨てる。腹部で大きく断裂した遺体、内蔵は周囲にブチ撒けられ、脊椎は完全に断裂して粉々になっているのが見て取れた。
けれどその死に顔は穏やかそのもの、苦しみの色は一切無く、穏やかな笑みさえ浮かぶそれを見下ろし、一つ、舌を打つ。
「最期の最期に……何か良い景色でも見えたか」
そう呟きつつ太刀を振り上げ、そして、鋭く振り下ろした。
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