大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
3 / 101

第2章『動き出す』

しおりを挟む
第2章『動き出す』

 背中に直に伝わる振動、こっちは怪我人なんだ、もう少し優しく搬送してはくれないものか、ああ、軍用車両にそんな芸当求めるのがどだい無理な話だな、タカコは振動によって齎される痛みに眉間に皺を寄せたままそんな事を考えた。
 あの後付近に数体いたアンデッド――彼等はカツガイと言っていた――の排除完了後、簡単な手当てを受けてからトラックの荷台に放り込まれ何処かへと移動している。
 放り込まれる時に必死に抗議して認識票、そして遺体の頭部だけでも回収出来たのは幸いだった、遺体の全てを遺族に返せないなら、せめて遺骨と認識票と遺書位は届けたい。
 尤も、今の自分の身分は捕虜へと成り下がっているのだから、怪我が治癒したところで帰国出来る可能性は低いのだが。
 頭部を切断して回収してくれという要請に彼等は随分と難色を示したものの、全身全霊を懸けての勢いに気圧されたのか、タカコの喉元に刃を押し当てた男が全員の頭部を切断し回収してくれた。潰れてしまっているものも多かったようだがそんな事は関係無い、ここに置いていけば直ぐにでもアンデッドの餌になる事を、自分は痛い程に知っているのだ。大切な部下、仲間の遺体の全てをむざむざ食わせてやる事等絶対に出来ない。
 それにしてもこの彼等の装備には驚いた、どうやら銃は拳銃すら一丁も無い様で、武器らしい武器は歴史書で読んだ事の有る太刀のみ。極東では時間の進み方がゆっくりなのかそれとも歴史が途絶した時から今迄に何かが有っての現状なのか、そんな事を考えて周囲を見渡せば、自分と同じ様に荷台に乗りあおりに取り付けた長椅子へと座る、大柄で目付きの鋭い男で視線の動きは止まった。
 こいつだ、こいつが背後を取って喉元に刃を突き付けた。普段なら背後を取られる事等まず無いからどうも面白くない、タカコのそんな思いを含んだ視線にも何等反応する事は無く、男は真っ直ぐに前を向いたまま。
 前を向いてはいるが意識はタカコへ向けて集中しているのがピリピリと感じて取れた、突然現れた異質であろう存在に臆する事も無くかと言って過剰な攻撃を加えるのでも無く、いつでも殺せる範囲と態勢でただ静かに観察していた。
 成る程、有能な兵士なのだろう、こいつとやり合うのならこちらも万全の体勢で臨まなければあっさりと返り討ちに遭うに違い無い、大人しくしておくのが身の為だと、タカコは男から視線を外す。
 やがて太陽が傾き周囲が段々と闇に溶け込み始める中、隊列の歩みが遅くなり、そして止まった。ここで野営するのか、そう思いつつ周囲の状況を窺っているタカコに、刃を喉元から離されてからは初めて男が声を掛ける。
「起きろ、色々と聞きたい事が有る」
 起きろと簡単に言うがこちとら怪我人だ、肋骨は確実に数本折れてるし腕も足も自由にならないのに、そう思いつつもタカコは何とか身体を起こそうとするがどうもうまくいかない、荷台のへりに掴まってどうにか少しだけ身体を浮かせた直後、男の足が肩を踏み付けタカコの身体を再び荷台に縫い付けた。
「……遅ぇ、そのままで良い」
 押し倒された拍子に後頭部を強かに打ち付けた、この野郎殺すぞと思いつつそちらを見遣れば男はタカコの脇へと腰を下ろす。
「何がどうなって今ここにいるのか、話せ」
「さっきも言ったが私は元合衆国陸軍の軍人で退官した後は軍の協力企業をやってる、作戦を遂行する為に輸送機で移動中だった、その時に機体にトラブルが起きて進路を大きく外れ燃料が中途半端に残ってる状態で墜落したんだ。私以外は墜落時とその直後に全員死亡、私はあんたに命を救われたって事になるんだろうよ、一応はな」
 タカコが話せば話す程、尋問している男もその周囲を固めている兵士達もその表情は困惑と混乱を深めて行く。一体何が疑問なのかと言おうとした時、男がタカコの言葉を遮って口を開いた。
「……他に人類が存在してるのか?ユソウキ?キタイってのは何だ、ツイラクというのも意味が分からん、馬鹿にしてるのか?」
「飛行機、空を飛ぶアレ。知らないのか?人類が存在って、そりゃ存在してるだろうよ、国は一つじゃないんだぞ?」
 タカコの答えに周囲が響めく、男も流石に想定の範囲外だったのか僅かに眉が上がったのが見て取れた。
「我が国に残っている歴史書によれば、記録が残っているのは二百五十年程前からだ、その前に大きな災いが有って世界は崩壊して文明も沢山失われた。ここが極東の日本の辺りだってのだけは分かるが、我が国も文明の途絶によって行動把握出来る範囲は極端に狭くなった、極東に文明が残っていたとは驚きだよ、とうにあの化け物に滅ぼされたとばかり」
 響めきは一層大きくなる、どうやらえらい事を発言してしまったのだろうかとタカコがそんな事を考えた時、タカコを取り囲む輪の外から声が響いた。
「敦賀、彼女には今のところ反抗の意思は無いようだ、俺が話を聞く」
 低く穏やかで耳に優しい響き、声の方向をタカコが見れば割れた人垣の向こうから、先程の五分刈りの男がゆっくりと歩いて来る。
「……司令」
 敦賀と呼ばれた男が呼び返す、男は真っ直ぐにタカコを見据えて歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべタカコの前に立った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...