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第2章『動き出す』
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第2章『動き出す』
背中に直に伝わる振動、こっちは怪我人なんだ、もう少し優しく搬送してはくれないものか、ああ、軍用車両にそんな芸当求めるのがどだい無理な話だな、タカコは振動によって齎される痛みに眉間に皺を寄せたままそんな事を考えた。
あの後付近に数体いたアンデッド――彼等はカツガイと言っていた――の排除完了後、簡単な手当てを受けてからトラックの荷台に放り込まれ何処かへと移動している。
放り込まれる時に必死に抗議して認識票、そして遺体の頭部だけでも回収出来たのは幸いだった、遺体の全てを遺族に返せないなら、せめて遺骨と認識票と遺書位は届けたい。
尤も、今の自分の身分は捕虜へと成り下がっているのだから、怪我が治癒したところで帰国出来る可能性は低いのだが。
頭部を切断して回収してくれという要請に彼等は随分と難色を示したものの、全身全霊を懸けての勢いに気圧されたのか、タカコの喉元に刃を押し当てた男が全員の頭部を切断し回収してくれた。潰れてしまっているものも多かったようだがそんな事は関係無い、ここに置いていけば直ぐにでもアンデッドの餌になる事を、自分は痛い程に知っているのだ。大切な部下、仲間の遺体の全てをむざむざ食わせてやる事等絶対に出来ない。
それにしてもこの彼等の装備には驚いた、どうやら銃は拳銃すら一丁も無い様で、武器らしい武器は歴史書で読んだ事の有る太刀のみ。極東では時間の進み方がゆっくりなのかそれとも歴史が途絶した時から今迄に何かが有っての現状なのか、そんな事を考えて周囲を見渡せば、自分と同じ様に荷台に乗りあおりに取り付けた長椅子へと座る、大柄で目付きの鋭い男で視線の動きは止まった。
こいつだ、こいつが背後を取って喉元に刃を突き付けた。普段なら背後を取られる事等まず無いからどうも面白くない、タカコのそんな思いを含んだ視線にも何等反応する事は無く、男は真っ直ぐに前を向いたまま。
前を向いてはいるが意識はタカコへ向けて集中しているのがピリピリと感じて取れた、突然現れた異質であろう存在に臆する事も無くかと言って過剰な攻撃を加えるのでも無く、いつでも殺せる範囲と態勢でただ静かに観察していた。
成る程、有能な兵士なのだろう、こいつとやり合うのならこちらも万全の体勢で臨まなければあっさりと返り討ちに遭うに違い無い、大人しくしておくのが身の為だと、タカコは男から視線を外す。
やがて太陽が傾き周囲が段々と闇に溶け込み始める中、隊列の歩みが遅くなり、そして止まった。ここで野営するのか、そう思いつつ周囲の状況を窺っているタカコに、刃を喉元から離されてからは初めて男が声を掛ける。
「起きろ、色々と聞きたい事が有る」
起きろと簡単に言うがこちとら怪我人だ、肋骨は確実に数本折れてるし腕も足も自由にならないのに、そう思いつつもタカコは何とか身体を起こそうとするがどうもうまくいかない、荷台のへりに掴まってどうにか少しだけ身体を浮かせた直後、男の足が肩を踏み付けタカコの身体を再び荷台に縫い付けた。
「……遅ぇ、そのままで良い」
押し倒された拍子に後頭部を強かに打ち付けた、この野郎殺すぞと思いつつそちらを見遣れば男はタカコの脇へと腰を下ろす。
「何がどうなって今ここにいるのか、話せ」
「さっきも言ったが私は元合衆国陸軍の軍人で退官した後は軍の協力企業をやってる、作戦を遂行する為に輸送機で移動中だった、その時に機体にトラブルが起きて進路を大きく外れ燃料が中途半端に残ってる状態で墜落したんだ。私以外は墜落時とその直後に全員死亡、私はあんたに命を救われたって事になるんだろうよ、一応はな」
タカコが話せば話す程、尋問している男もその周囲を固めている兵士達もその表情は困惑と混乱を深めて行く。一体何が疑問なのかと言おうとした時、男がタカコの言葉を遮って口を開いた。
「……他に人類が存在してるのか?ユソウキ?キタイってのは何だ、ツイラクというのも意味が分からん、馬鹿にしてるのか?」
「飛行機、空を飛ぶアレ。知らないのか?人類が存在って、そりゃ存在してるだろうよ、国は一つじゃないんだぞ?」
タカコの答えに周囲が響めく、男も流石に想定の範囲外だったのか僅かに眉が上がったのが見て取れた。
「我が国に残っている歴史書によれば、記録が残っているのは二百五十年程前からだ、その前に大きな災いが有って世界は崩壊して文明も沢山失われた。ここが極東の日本の辺りだってのだけは分かるが、我が国も文明の途絶によって行動把握出来る範囲は極端に狭くなった、極東に文明が残っていたとは驚きだよ、とうにあの化け物に滅ぼされたとばかり」
響めきは一層大きくなる、どうやらえらい事を発言してしまったのだろうかとタカコがそんな事を考えた時、タカコを取り囲む輪の外から声が響いた。
「敦賀、彼女には今のところ反抗の意思は無いようだ、俺が話を聞く」
低く穏やかで耳に優しい響き、声の方向をタカコが見れば割れた人垣の向こうから、先程の五分刈りの男がゆっくりと歩いて来る。
「……司令」
敦賀と呼ばれた男が呼び返す、男は真っ直ぐにタカコを見据えて歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべタカコの前に立った。
背中に直に伝わる振動、こっちは怪我人なんだ、もう少し優しく搬送してはくれないものか、ああ、軍用車両にそんな芸当求めるのがどだい無理な話だな、タカコは振動によって齎される痛みに眉間に皺を寄せたままそんな事を考えた。
あの後付近に数体いたアンデッド――彼等はカツガイと言っていた――の排除完了後、簡単な手当てを受けてからトラックの荷台に放り込まれ何処かへと移動している。
放り込まれる時に必死に抗議して認識票、そして遺体の頭部だけでも回収出来たのは幸いだった、遺体の全てを遺族に返せないなら、せめて遺骨と認識票と遺書位は届けたい。
尤も、今の自分の身分は捕虜へと成り下がっているのだから、怪我が治癒したところで帰国出来る可能性は低いのだが。
頭部を切断して回収してくれという要請に彼等は随分と難色を示したものの、全身全霊を懸けての勢いに気圧されたのか、タカコの喉元に刃を押し当てた男が全員の頭部を切断し回収してくれた。潰れてしまっているものも多かったようだがそんな事は関係無い、ここに置いていけば直ぐにでもアンデッドの餌になる事を、自分は痛い程に知っているのだ。大切な部下、仲間の遺体の全てをむざむざ食わせてやる事等絶対に出来ない。
それにしてもこの彼等の装備には驚いた、どうやら銃は拳銃すら一丁も無い様で、武器らしい武器は歴史書で読んだ事の有る太刀のみ。極東では時間の進み方がゆっくりなのかそれとも歴史が途絶した時から今迄に何かが有っての現状なのか、そんな事を考えて周囲を見渡せば、自分と同じ様に荷台に乗りあおりに取り付けた長椅子へと座る、大柄で目付きの鋭い男で視線の動きは止まった。
こいつだ、こいつが背後を取って喉元に刃を突き付けた。普段なら背後を取られる事等まず無いからどうも面白くない、タカコのそんな思いを含んだ視線にも何等反応する事は無く、男は真っ直ぐに前を向いたまま。
前を向いてはいるが意識はタカコへ向けて集中しているのがピリピリと感じて取れた、突然現れた異質であろう存在に臆する事も無くかと言って過剰な攻撃を加えるのでも無く、いつでも殺せる範囲と態勢でただ静かに観察していた。
成る程、有能な兵士なのだろう、こいつとやり合うのならこちらも万全の体勢で臨まなければあっさりと返り討ちに遭うに違い無い、大人しくしておくのが身の為だと、タカコは男から視線を外す。
やがて太陽が傾き周囲が段々と闇に溶け込み始める中、隊列の歩みが遅くなり、そして止まった。ここで野営するのか、そう思いつつ周囲の状況を窺っているタカコに、刃を喉元から離されてからは初めて男が声を掛ける。
「起きろ、色々と聞きたい事が有る」
起きろと簡単に言うがこちとら怪我人だ、肋骨は確実に数本折れてるし腕も足も自由にならないのに、そう思いつつもタカコは何とか身体を起こそうとするがどうもうまくいかない、荷台のへりに掴まってどうにか少しだけ身体を浮かせた直後、男の足が肩を踏み付けタカコの身体を再び荷台に縫い付けた。
「……遅ぇ、そのままで良い」
押し倒された拍子に後頭部を強かに打ち付けた、この野郎殺すぞと思いつつそちらを見遣れば男はタカコの脇へと腰を下ろす。
「何がどうなって今ここにいるのか、話せ」
「さっきも言ったが私は元合衆国陸軍の軍人で退官した後は軍の協力企業をやってる、作戦を遂行する為に輸送機で移動中だった、その時に機体にトラブルが起きて進路を大きく外れ燃料が中途半端に残ってる状態で墜落したんだ。私以外は墜落時とその直後に全員死亡、私はあんたに命を救われたって事になるんだろうよ、一応はな」
タカコが話せば話す程、尋問している男もその周囲を固めている兵士達もその表情は困惑と混乱を深めて行く。一体何が疑問なのかと言おうとした時、男がタカコの言葉を遮って口を開いた。
「……他に人類が存在してるのか?ユソウキ?キタイってのは何だ、ツイラクというのも意味が分からん、馬鹿にしてるのか?」
「飛行機、空を飛ぶアレ。知らないのか?人類が存在って、そりゃ存在してるだろうよ、国は一つじゃないんだぞ?」
タカコの答えに周囲が響めく、男も流石に想定の範囲外だったのか僅かに眉が上がったのが見て取れた。
「我が国に残っている歴史書によれば、記録が残っているのは二百五十年程前からだ、その前に大きな災いが有って世界は崩壊して文明も沢山失われた。ここが極東の日本の辺りだってのだけは分かるが、我が国も文明の途絶によって行動把握出来る範囲は極端に狭くなった、極東に文明が残っていたとは驚きだよ、とうにあの化け物に滅ぼされたとばかり」
響めきは一層大きくなる、どうやらえらい事を発言してしまったのだろうかとタカコがそんな事を考えた時、タカコを取り囲む輪の外から声が響いた。
「敦賀、彼女には今のところ反抗の意思は無いようだ、俺が話を聞く」
低く穏やかで耳に優しい響き、声の方向をタカコが見れば割れた人垣の向こうから、先程の五分刈りの男がゆっくりと歩いて来る。
「……司令」
敦賀と呼ばれた男が呼び返す、男は真っ直ぐにタカコを見据えて歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべタカコの前に立った。
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