大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
4 / 101

第3章『博多』

しおりを挟む
第3章『博多』

「警戒しなくて良い、君が反抗の素振りを見せない限りはこちらからは何もしない、きちんと保護する事を約束する。だから、君の知っている事を詳しく話してくれ」
 続けて
「俺は高根真吾、大和海兵隊の総司令だ、階級は大佐」
 そう言う男、高根の落ち着いた物腰、しかしその奥に存在する強さをはっきりと感じる、この男がこの集団の指揮官なのだとタカコは判断する。
 身体のあちこちが痛むので一晩位はゆっくり休みたかったのだがと考えつつも、それでも状況は話さずに済むものではなさそうだと身体を起こそうとすれば、高根の腕がそれを助けてタカコの身体を支え上げた。
 無理はしなくて良い、そう言って向けられる微笑みに妙な親近感を覚えていると彼は部下に命じ水を持って来させる、自らの手を包まれる様にして持たされた器の中身を飲み干せば、無意識に大きく息を吐く。
「この彼に話した通り、私はおたく等とは別の国の軍の協力企業の者だ。作戦遂行中に乗っていた飛行機がトラブルを起こして墜落して、私だけが生き残り、そこを助けられたって按配だ。どんな作戦だったかは立場上言えない」
「国は、一つだけじゃないのか?」
「ああ、我が国の把握している限りでは十程の国家を確認していると思ったが」
 何故その部分に固執するのか、そして何故タカコの答えに彼等は響めくのか。
 彼等のその顔に浮かぶ色は喜びも有り困惑も有り、そして微かな恐怖も有り、この世界に生きている人間は自分達だけではない、タカコにとっては当たり前の事が、どうやら彼等にはとんでもない衝撃の事実なのだという事だけは何となく把握した。
「……大和以外にも国が有って……人類が、いるのか」
「ああ……、何なんだあんた等、今時銃も無しに刀で戦うって、しかも自分達以外の人類や国家を把握してないって、極東はどうなってるんだ?」
 どうも話が進まない、彼等の理解の範疇を若干超えているのかもどかしい。高根はタカコの身体を再び荷台へと横たわらせ、
「出発の準備をしろ、博多へ戻るぞ」
 と、そう指示を出す。
 その言葉を受けて慌ただしく準備が始まる、高根が話している最中は何も言わずにタカコの脇に座り込んでいた敦賀も立ち上がりベンチへと戻ろうとした時、タカコは彼へと声を掛けた。
「すまないが、認識票、金属の板、鎖の付いたやつ、あの袋だけは私に返してくれないか。あれは部下の形見なんだ、遺族に返さないとならん、武器はそちらに預けるが認識票は頼む」
 敦賀はそれに言葉では何も返さずにただじっと冷ややかな眼差しでタカコを見下ろし、真っ直ぐに返されるタカコの視線を暫く黙して受け止めた後、迷彩服の懐の中から布の袋を取り出し、何も言わずに投げて寄越す。
 仰向けの体勢のままで咄嗟に反応出来ずに顔面でそれを受け止めたタカコは、内心やはりこの男は気に入らないと思いつつも袋を手に取り中を確かめる。
 そこには回収した認識票が入っていて、それを全て検めて全員の分が有る事を確認し、小さく微笑んだ。
「ありがとう、これで、せめてもの慰めになる」
「……おめでたい女だ、帰国する気でいるのか、帰る手段を無くした捕虜が」
「帰るさ……どうにかしてな」
「帰れたとしてそんな物を渡されたところで、慰めになると思ってるのか」
「遺骨でも遺書でも遺品でも、何も無いよりは良い……あんたも、兵士なら、仲間を喪った事が有るなら、分かるだろ?」
 その言葉に、敦賀の視線が漸くタカコの方へと向けられる。
「いつ命を落とすか分からない、遺体が残るのかも分からない。せめて、せめて遺骨と遺書と、思い出になる遺品の一つでも帰してあげたいじゃないか、違うか?」
 返事は無かった、敦賀は何も言わずに視線を前に戻し、やがて車列はゆっくりと進み出した。
 極度の緊張が少しずつ弛緩して来たのかタカコの全身を痛みが侵食し始める、帰国は随分と先になりそうだ、取り敢えずはしっかりと身体を休めて傷を癒さないと、そんな事を考えつつ目を閉じ、タカコはやがて意識を手放した。
 次に目が覚めたのは何処かの部屋の中の寝台の上、脇の椅子には敦賀が腰掛け、相変わらずの冷ややかな視線をこちらに向けている。
「……ここは?」
「対馬区から博多に戻った、海兵隊本部基地の施設の一つ、その一室だ」
「……そうか」
 息が僅かに苦しい、折った肋骨の治療か胴体をぎっちりと固定してくれているようだ、腕にも足にも頭にも包帯が巻かれているのが分かった。
 どうやら、捕虜には違いは無いがいきなり殺される事は免れているらしい、情報も欲しいだろうから妥当な流れだと思いつつ、タカコは敦賀に向けて再度口を開く。
「私はタカコ、タカコ・シミズ。あ、大和風に言うとシミズ・タカコか。あんたは?」
 その言葉に敦賀の眉間の皺が若干深くなるがそれは気にせず、
「あんたは?」
 と、先を促した。
「もう聞いた、俺の名前も聞いていただろうが」
「あんたから聞いてないし」
 扱い難い性格の様だがこの程度なら部下に何人も抱えていた、軽く受け流しへらへらと笑えば、諦めた様に答えが返って来る。
「……敦賀、貴之」
 『タカユキ』、その単語に心臓がどくりと大きく、そして嫌な鼓動を打った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...