大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

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第4章『異質なもの』

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第4章『異質なもの』

 怪我はかなりの重症だった、女、タカコは帰還前にトラックの荷台の上で意識を失い、帰還してからも意識が戻らない。
 肋骨が四本折れ手足も酷い打撲と内出血だらけ、加えて全身にユソウキとやらの破片が刺さりそれの除去に難渋し、頭部の軽傷具合と内蔵に損傷の様子が無い事が奇跡だと軍医は言っていた。
 帰還の途中、高根が耳に口を寄せて静かに言った事を、敦賀は頭の中で反芻する。

『彼女の存在は海兵隊の内部に留めておく、他には絶対に気取られない様にするぞ』

 彼は確かにそう言った、こんな異質な存在が連中に知れればどう扱われるか分かったものではない事は明白だ、情報を引き出す為には出来るだけ秘匿しておくのが安全なのに間違いは無い。
 彼は有能な指揮官であると同時に有能な政治家でもある様だ。活骸の完全排除という人類の悲願を成し遂げる為に、タカコの存在が助けになると踏み、それを邪魔する、言い換えれば政争の相手になるであろう陸軍や政府の排除を逸早く決断した。
 彼は決してタカコに害を為したりはしない、手厚く保護し牙を抜き飼い慣らし、情報の全てを引き出すだろう、そこから先の彼女がどうなるのか、それは分からないが。
 何にしろ恐らくタカコは国には帰れない、大和で一生を終えるに違い無い。
 その不幸を不幸と感じさせない様な扱いを高根はするのだろうが、それに気付けないであろうタカコの今後を考えると、些か可哀想な気もする。
 外国人だと言っていたのに自分達大和人と見分けのつかない顔立ち、この手で頭部を切断した彼女の部下達の殆どは自分達とは全く違う風貌をしていたのに、彼女と、そして一番状態の良かった遺体だけは自分達と同じ顔。歳は自分と然程変わらない位だろうか、兵士に不釣合いな長い髪、こうして見ると戦いに身を置く人種とは一見思えないが、手当の為に服を脱がせた際に自分達の前に晒された、素肌に刻み込まれた沢山の傷跡が、やはり兵士なのだと理解させた。
 完全に信用出来る相手ではないと高根から監視を命じられた、必要が有れば殺しても良いと。
 意識を失う迄の振る舞いから推測するに無謀な行動に出る馬鹿ではないだろう、少なくとも状況を窺い時機を待つ程度の知恵は有りそうだ。
 しかしそれでも用心に越した事は無い、もし最悪そうなってしまった場合に制圧する適格者は自分しかいないだろうと敦賀も思う、人が人を殺す等、海兵隊でもやっていない事なのだから。
 そうして愛刀を傍らに様子を見守り続ける事数日、綺麗な夕暮れの中タカコは目を覚ました。
 へらへらと笑って既に名乗った名前を再び名乗り、知っているであろう敦賀にも名乗れと促す。鬱陶しい、どうも調子が狂うと、そう思った。
 根負けして名乗れば笑みを深くして
「宜しく、敦賀」
 と言い、その後は矢継ぎ早に自分の知らない事についての質問を浴びせて来る。
「アンデッドを大和ではカツガイって呼んでるのか、漢字はどう書くんだ?」
「どうやって戦うんだ?マジでその刀だけ?」
「歴史書では見た事有ったけど本物の刀って初めてなんだけど!凄い格好良い!見せて!触らせて!」
 タカコを襲っていた活骸の首を刎ね飛ばしに飛び掛かった時、こちらの方向へと向けられていた彼女の鋭く強い視線は気の所為だったのか、思わずそう考えてしまいそうになる程にはしゃぐ様、幼さすら感じる程の言葉。
 愛刀を見せてやった時に至っては頬を紅潮させ鼻の穴も広がらんばかりの興奮ぶり、さあ触らせろ今すぐ触らせろと起き上がり寝台から出ようとしたタカコを蹴り倒して沈める羽目になった程だった。
 踵で思い切り踏み込んで沈められたのは流石に傷に響いたのか呻いて身悶えるタカコを見下ろし、知恵が有りそうだというのは勘違いだったかも知れない等と考える。
 どうも不均衡だ、やはり厳しく警戒しておくに越した事は無さそうだと思い至り再度椅子に腰を降ろしてタカコを見下ろす。
「……お前、馬鹿だって言われた事無いか?」
「ああ……それね、うん、よく言われる。頼もしい上官なのに何でそれで完結しないでそんな馬鹿なんだって」
 痛みに顔を顰めつつもまたへらへらと笑うタカコ、こんな上官の下で働いていた部下達に些か同情するなと思えば、それを知ってか知らずかタカコは笑ったまま言葉を続けた。
「だからさ、いっぱい死なせた、殺した。その謗りを遺族から受ける為にも、私は生きて帰国しないといけないんだ」
 軽い調子とは裏腹の重い言葉、表情は笑顔のまま、天井を真っ直ぐに見てタカコは言う。
「私で役に立つ事なら何でも協力する、軍人としての守秘義務は有るが、それ以外は包み隠さずに言うよ、だから、そんなに警戒して見張らなくても良い、真吾だっけ?彼にもそう言っておいてくれ」
 こちらの思惑は見透かしているのか、それにほんの微かに緊張した敦賀を感じ取ったのかタカコは視線を敦賀へと向けて、また笑った。
「だから、そう警戒するなって。私は敵じゃないよ、少なくとも今は、な」
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