大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

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第6章『世界』

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第6章『世界』

「これが……」
「世界地図か」
「そう、こっちが旧世界の世界地図、こっちが我が国が測量可能な全範囲を測量した地図だ」
 対馬区での出会いから二週間、漸く起き上がり動けるようになったタカコが招き入れられたのは海兵隊本部の作戦室。タカコの持ち込んだ二枚の地図と大和が作成した地図の計三枚を作戦テーブルの上に広げ、高根や敦賀を始め、海兵隊の主だった中隊長小隊長級の人間が取り囲み覗き込んでいる。
「こんなに変わってるのか……シベリアとアラスカ?ってところは昔は海だったのが海底が隆起して陸続きになったのか」
「ベーリング海ってのが完全に消滅してるんだな……アリューシャン列島とカムチャツカ半島の南端が繋がって、ここを南端としてアラスカとシベリアの一番接近してたところ迄の海が完全に消滅してる」
「へー、昔は蝦夷ってこんな形してたのか、今は南半分だけになってんだな」
「でも蝦夷の北半分が消滅したのは良かったんじゃないのか?下手に大陸と距離が近いと活骸が渡って来る道になりかねんぞ」
「だなぁ、対馬区と蝦夷の二正面状態はきついだろ」
「他はどうなってるのかは分からんよな……ワシントンってこっちなんだろ?ユーラシア大陸の南側やその下の島々とかは遠過ぎるもんな」
「大和も外洋に出る事無いしな」
「いや、出たけど帰還してねえんだって」
 自国領土周辺の地勢がどうなっているのかはやはり最前線に立つ軍人達としては一番に気になる事なのか、三枚の地図を見比べつつ活骸との戦いに絡めてあれやこれやと話している。
「なぁ、タカコよ、旧世界が滅んだ理由は何なんだ、知ってるか?」
 そんな中突然タカコへと話を振って来たのは小隊長の一人である三宅寛和、椅子に腰を下ろしてテーブルについていたタカコは、地図を覗き込む隊員達の身体に押し潰されそうになりつつ三宅へと言葉を返した。
「どうも瞬時に滅亡したわけではない様子なんだよ、先ず最初に北太平洋に隕石、あ、流れ星分かる?あれの大きいの。それが衝突して大津波が起きて北太平洋に面する国々が壊滅的な打撃を受けたらしい。で、その衝突が呼び水となって十年程度の間に世界中で大地震が間断無い位の勢いで起こったらしいんだ。それで国力の無い国から徐々に滅亡の道をって事らしい。我が国の前身のアメリカは最後の方迄持ち堪えてたみたいで、それでも滅亡は避けられないという判断だったのか、次の世界に受け継ぐ為に小さな事から大きな事迄徹底的にあらゆる情報や技術を集めて残したんだそうだ。それと、それを使えるだけの知識や技術を持った人間も選別して。で、それを継承する流れをきちんと作ってから滅んだんだと」
「ああ……それでそっちの方が進んでるのか……大和の前身の日本はそれが出来なかったのかしなかったのか」
「それかかなり初期に滅んでそんな猶予が無かったかじゃないのかなぁ、その頃の国交の歴史が現存してないから、我が国では日本の最期がどうだったのかは分からないんだよね」
 出会ってから二週間、高根や敦賀だけでなく、大和海兵隊総数二千五百余名の花形である前線部隊、その主だった面々はタカコと話す機会を多く得ており、その中で実感したのは彼女の母国であるワシントン合衆国と大和の、国力と技術力の圧倒的な格差だった。
 当初の予定通りに緩やかではあるが捕虜としての扱いに落ち着いたタカコ、生来の気質なのか尋問のつもりで部屋を訪れた海兵達を笑顔で出迎え、聞かれた事の殆どに対して渋る事も無く素直に話す。頑なに話そうとしないのはここに来る直前に与えられた任務についてのみ、母国の事世界の事、そういった事については誰が尋ねても快く応じている。
 その時間の中で語られた事の中には、外の世界を知らない大和人にとって時には過剰な警戒感を抱かせかねない事も含まれていたが、そちらの方にあまり神経が向けられる事は無かったのは、タカコの明るい振る舞いが多分に影響していたのかも知れない。
 そういった経緯が有り、主だった海兵達とタカコは段々と打ち解けつつあり、お互いを名前で呼び合う程度には親しくなっていた。
 そんな中で厳しい態度を崩さないのは敦賀ただ一人、高根もタカコを淡々と観察しているのだろうが彼の方は表面的には軽佻な素振りをする事も多いので、傍目には敦賀だけがタカコに厳しく当たっているという事になっている。
 高根直々にタカコの監視を申し渡され、彼女の部屋は敦賀の隣の空き室が割り当てられた。夜夫々の居室で眠る時と便所と風呂以外は常に行動を共にする様になって二週間、いつ誰が見かけても突慳貪な敦賀の態度に、それとなく苦言を呈する者も出る様になっていた。
「お前な、埋葬の時みたいな優しさをだな、いやあれも分かり易い優しさじゃないが」
「うるせぇよ、てめぇは俺がそんなタマだとでも思ってんのかヒロ」
「いや、全く。欠片もこれっぽっちも思ってないが」
「だったら良いじゃねぇか」
「あのなぁ……相手は女だぞ」
「女でも男でも捕虜だろうが、馴れ合う気は無ぇな」
 今迄に何度も交わされた遣り取り、海兵達に囲まれて地図を指し示し話すタカコの様子を不機嫌そうに見ている敦賀に三宅が話し掛け、またその数が一つ増えた。
 気に入らない、突然降って湧いた正体不明の人間がこうも易々と海兵隊前線部隊の人間関係に入りこんで来るとは、敦賀はそんな風に考えつつ三宅を追い払い、タカコへと視線を戻す。
 こうして有益な情報を齎しているのも何か狙いが有っての事なのかも知れない、否、確実にそうだろう。それを踏まえればタカコに対して心理的距離を取り警戒をし続けるのは自然な事であり自分の役目なのに、何故こうも彼女に対して冷たい、どうにかしろ、そんな事を自分が言われなければならないのか、甚だ不愉快な流れになっていると言わざるを得ない状況だ。
「……全部てめぇの所為だ、クソ女」
 笑顔で話し続けるタカコと海兵達を見つつ、小さくそう吐き捨てた。
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