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第9章『俘虜の扱いについて』
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第9章『俘虜の扱いについて』
「俺は絶対に反対だ」
「敦賀よ、お前本当にお堅いよな……」
道場での遣り取りから小一時間程後、場所は海兵隊作戦室。兵站と工兵、そして前線部隊の全部隊長と中隊長小隊長が集められ、司令と前線部隊長を兼任する高根と、そして海兵隊最先任という立場の敦賀の姿もそこに在る。
「だからさ、ハーグもジュネーヴも前時代の――」
「大和軍の軍規でも捕虜を戦闘を含む危険行為に使役する事は禁じてるだろうが、とにかく俺は反対だ」
議題は『タカコ・シミズを対馬区での戦闘に参加させるかどうか』、ほぼ全員がタカコ本人が出たいと言っているのなら出しても構わないのでは、そう言う中で、敦賀一人だけが強硬に反対するという状態になっていた。
「今後万が一ワシントンと接触する事が有ったらどう申し開きするつもりだ、民間企業の人間とは言え自国民を活骸との戦いに突っ込まれた挙句に殺されましたとか、国としての体面も有るだろう、向こうだって黙ってるわけにはいかないのは分かるだろうが。あの馬鹿女が捕虜の取り扱いについての知識が有るってのなら、国家も軍も当然それを基本にした考え方を持ってるだろうよ。下手すりゃ戦争になるぞ、ワシントンと活骸との二正面で事を構えるつもりか」
「ほら、そこはそれ、本音と建前って――」
「うるせぇ、絶対反対だ」
高根としては先程目にしたタカコの咄嗟の動き、あれに感じるものが有ったので一度タカコの能力というものを実戦でこの目で確かめたい、それが正直なところだった。彼女がやって来てから一ヶ月半というもの、木刀含めて刀を手にしたのは出会った時と先程、それ以外には一度たりとも無かった筈だ、敦賀やタカコが言う様に本当に見ていただけで瞬時にあの反応と構えを取れたのなら、彼女の才能というものは非凡と言っても良いものだろう。
しかし、敦賀の言う事も尤もで、将来的にワシントンと接触し国交を持つ様な事が有れば、その時にタカコや彼女の部隊について尋ねられれば拙い事になるのも分かっている。下手に取り繕っても何処からどう話が漏れるかは分からないし、それ以前に現状有益な情報の塊である彼女を喪失する事だけは何としてでも避けたかった。
「そりゃお前の言う事も分かるけどよ……『対馬区に出せ!出さないならもう協力はしない、脱走してやる!』って言ってるの何て宥めるんだよ……あれ、本気だぞ」
そう、彼女は自分が単なる捕虜ではない事をよく理解している、有益な情報の塊である事を理解しそれを手札として切ろうとしているのだ、もし望みが叶わないのだと知れば本当に脱走をしかねない。それを防ぐ為に厳重な警備を施したところで甚大な被害が出る事は想像に難くない、あの双眸は戦場でこそ最大の力を発揮する軍人のものだ。
「今日のあの反応が凡庸な人間の見せるもんじゃねぇって事は俺にも分かる、でもな、考えてみろ、あの馬鹿は今迄剣術のけの字も実際にやってみた事は無ぇんだ、そんな人間を対馬区に送り込むに足る水準迄技量を身に付けさせるのにどれだけ掛かると思ってんだ?てめぇが腰にぶら下げてるその大和は総司令様のお飾りか?」
捕虜という事が無くともタカコの技量は実戦に出るに足るものではなく、それが敦賀が強硬に反対する理由の一つでもあった。気が合わないのは確かだが、別に彼女を憎んでいるわけではないし死んで欲しいとも思っていない、対馬区に出たとして彼女の身に危険が及べば助けもするだろう。もしそれが間に合わなかったら自分は兵を一人多く失う事になる、毎回毎回少なからず兵を失い続ける敦賀にとってはそれが何よりも嫌な事だった。
「……ほほう、お前、今俺の大和について言いやがったな?」
と、高根が声の調子を幾分変え、目を細めて敦賀に向かって口を開く。
「技量の無い人間を対馬区に送り込むな、兵を一人多く失う事になる、そう言いたいんだろうお前。だったら、大和海兵隊史上最強の呼び声も高い海兵隊最先任上級曹長様が育て上げてやれ、お前が納得出来る水準にタカコが育つ迄対馬区に出る許可はしねぇ、その代わり鍛錬の手は抜くな、本気で鍛えろ……お前の武蔵は海兵隊最先任様のお飾りじゃねぇだろ?」
しまった、とそう思った。つい勢いで高根の持つ太刀、大和について言及したが、自分達大和海兵隊にとって貸与される太刀とその名は矜持そのもの、それを引き合いに出せば相手も引くわけにはいかない事になると分かっていた筈なのにしくじった、内心そう思いつつ舌打ちをすれば、高根は敦賀のその様を見て薄く笑い、再び口を開いた。
「……決まりだな、出せる水準に達したかどうか、それを見極めるのはお前に任せよう、それ以外は俺が今決定した通りだ、反論は一切許さない、良いな?」
「……承知した」
この流れでは承服出来ないとは言えないだろう、これ以上強硬に押せば他の人間からも反論が出て来るのは明らかだ。この場で一番階級が低いのは自分、他は全員が士官の状況で唯一の下士官の自分が海兵隊最先任の立場だけを頼りに主張し続ける事には無理が有る。
「……あのクソ女……こういうところだけは知恵が回りやがる……!」
舌打ちと共に小さくそう吐き捨てる。恐らく彼女は作戦室の中がこうなるのは分かっていたのだろう、自分の価値も、高根が己の目論見の為に出撃を許可するであろう事も、総司令の高根が許可を出せば、士官ばかりが集まる中で下士官の自分が反論し続けるには限界が有る事も。
軍人の面倒臭さ階級と星の重さ、それを熟知しているからこそ切れた手札。下野し民間企業の人間になったとは言え流石と言うべきか、やはり警戒を緩めるべき相手ではない、そう思い、また一つ舌を打った。
「俺は絶対に反対だ」
「敦賀よ、お前本当にお堅いよな……」
道場での遣り取りから小一時間程後、場所は海兵隊作戦室。兵站と工兵、そして前線部隊の全部隊長と中隊長小隊長が集められ、司令と前線部隊長を兼任する高根と、そして海兵隊最先任という立場の敦賀の姿もそこに在る。
「だからさ、ハーグもジュネーヴも前時代の――」
「大和軍の軍規でも捕虜を戦闘を含む危険行為に使役する事は禁じてるだろうが、とにかく俺は反対だ」
議題は『タカコ・シミズを対馬区での戦闘に参加させるかどうか』、ほぼ全員がタカコ本人が出たいと言っているのなら出しても構わないのでは、そう言う中で、敦賀一人だけが強硬に反対するという状態になっていた。
「今後万が一ワシントンと接触する事が有ったらどう申し開きするつもりだ、民間企業の人間とは言え自国民を活骸との戦いに突っ込まれた挙句に殺されましたとか、国としての体面も有るだろう、向こうだって黙ってるわけにはいかないのは分かるだろうが。あの馬鹿女が捕虜の取り扱いについての知識が有るってのなら、国家も軍も当然それを基本にした考え方を持ってるだろうよ。下手すりゃ戦争になるぞ、ワシントンと活骸との二正面で事を構えるつもりか」
「ほら、そこはそれ、本音と建前って――」
「うるせぇ、絶対反対だ」
高根としては先程目にしたタカコの咄嗟の動き、あれに感じるものが有ったので一度タカコの能力というものを実戦でこの目で確かめたい、それが正直なところだった。彼女がやって来てから一ヶ月半というもの、木刀含めて刀を手にしたのは出会った時と先程、それ以外には一度たりとも無かった筈だ、敦賀やタカコが言う様に本当に見ていただけで瞬時にあの反応と構えを取れたのなら、彼女の才能というものは非凡と言っても良いものだろう。
しかし、敦賀の言う事も尤もで、将来的にワシントンと接触し国交を持つ様な事が有れば、その時にタカコや彼女の部隊について尋ねられれば拙い事になるのも分かっている。下手に取り繕っても何処からどう話が漏れるかは分からないし、それ以前に現状有益な情報の塊である彼女を喪失する事だけは何としてでも避けたかった。
「そりゃお前の言う事も分かるけどよ……『対馬区に出せ!出さないならもう協力はしない、脱走してやる!』って言ってるの何て宥めるんだよ……あれ、本気だぞ」
そう、彼女は自分が単なる捕虜ではない事をよく理解している、有益な情報の塊である事を理解しそれを手札として切ろうとしているのだ、もし望みが叶わないのだと知れば本当に脱走をしかねない。それを防ぐ為に厳重な警備を施したところで甚大な被害が出る事は想像に難くない、あの双眸は戦場でこそ最大の力を発揮する軍人のものだ。
「今日のあの反応が凡庸な人間の見せるもんじゃねぇって事は俺にも分かる、でもな、考えてみろ、あの馬鹿は今迄剣術のけの字も実際にやってみた事は無ぇんだ、そんな人間を対馬区に送り込むに足る水準迄技量を身に付けさせるのにどれだけ掛かると思ってんだ?てめぇが腰にぶら下げてるその大和は総司令様のお飾りか?」
捕虜という事が無くともタカコの技量は実戦に出るに足るものではなく、それが敦賀が強硬に反対する理由の一つでもあった。気が合わないのは確かだが、別に彼女を憎んでいるわけではないし死んで欲しいとも思っていない、対馬区に出たとして彼女の身に危険が及べば助けもするだろう。もしそれが間に合わなかったら自分は兵を一人多く失う事になる、毎回毎回少なからず兵を失い続ける敦賀にとってはそれが何よりも嫌な事だった。
「……ほほう、お前、今俺の大和について言いやがったな?」
と、高根が声の調子を幾分変え、目を細めて敦賀に向かって口を開く。
「技量の無い人間を対馬区に送り込むな、兵を一人多く失う事になる、そう言いたいんだろうお前。だったら、大和海兵隊史上最強の呼び声も高い海兵隊最先任上級曹長様が育て上げてやれ、お前が納得出来る水準にタカコが育つ迄対馬区に出る許可はしねぇ、その代わり鍛錬の手は抜くな、本気で鍛えろ……お前の武蔵は海兵隊最先任様のお飾りじゃねぇだろ?」
しまった、とそう思った。つい勢いで高根の持つ太刀、大和について言及したが、自分達大和海兵隊にとって貸与される太刀とその名は矜持そのもの、それを引き合いに出せば相手も引くわけにはいかない事になると分かっていた筈なのにしくじった、内心そう思いつつ舌打ちをすれば、高根は敦賀のその様を見て薄く笑い、再び口を開いた。
「……決まりだな、出せる水準に達したかどうか、それを見極めるのはお前に任せよう、それ以外は俺が今決定した通りだ、反論は一切許さない、良いな?」
「……承知した」
この流れでは承服出来ないとは言えないだろう、これ以上強硬に押せば他の人間からも反論が出て来るのは明らかだ。この場で一番階級が低いのは自分、他は全員が士官の状況で唯一の下士官の自分が海兵隊最先任の立場だけを頼りに主張し続ける事には無理が有る。
「……あのクソ女……こういうところだけは知恵が回りやがる……!」
舌打ちと共に小さくそう吐き捨てる。恐らく彼女は作戦室の中がこうなるのは分かっていたのだろう、自分の価値も、高根が己の目論見の為に出撃を許可するであろう事も、総司令の高根が許可を出せば、士官ばかりが集まる中で下士官の自分が反論し続けるには限界が有る事も。
軍人の面倒臭さ階級と星の重さ、それを熟知しているからこそ切れた手札。下野し民間企業の人間になったとは言え流石と言うべきか、やはり警戒を緩めるべき相手ではない、そう思い、また一つ舌を打った。
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