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第23章『博多の夜』
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第23章『博多の夜』
大和海兵隊の捕虜となって九ヶ月、ワシントン合衆国市民且つ民間軍事企業の人間であるタカコ・シミズ。その彼女は今、海兵隊総司令と陸軍西部方面旅団総監に左右を挟まれ、両肩をがっちりと拘束されている。
「えーと……あの、高根司令?黒川総監?この状況の意味が分からないんですが……」
黒川の目が有るからか高根に対しても敬称を付け敬語で話すタカコ、高根はタカコのその言葉を聞いて彼女の髪をぐしゃぐしゃと豪快に撫で回した。
「あーいーよ、取り繕わなくて。こいつは俺の腐れ縁だ、事情も粗方知ってるから」
「……ああそうかい……で、何なんだよこの状況は。海兵隊の天辺と陸軍西方旅団の天辺に挟まれる様な事をした覚えは無ぇんだが?」
高根の言葉に呆れた面持ちでそう言いながらタカコは高根の腕を振り払い、卓上のコップを手に取りそれに口を付けようとする。
「はいはい、まだ駄目な、先ずは乾杯してから!」
それを取り上げたのは高根の反対側で変わらずにタカコの肩を掴んでいる黒川の手、タカコは思わずこめかみと口元をひくつかせながら、向かい側に座って不機嫌極まり無い空気を纏っている敦賀へと視線を向けた。
場所は博多時は夜、歓楽街である中洲の一角に有る、高根が贔屓にしている店の一番奥まった静かな個室。太宰府へと帰ったと思っていた黒川が高根と共にタカコの部屋を訪れたのは一時間程前の事、丁度部屋を出ようとしていたのを何処に行くのかと尋ねられ、夕食を摂りに食堂へと正直に答えれば、
「おお、丁度良かった、おじさん二人が奢ってあげるから飲みに行こうか」
「博多の夜は初めてだろ?案内してやるよタカコちゃん」
と、何とも気持ちの悪い笑顔二つを向けられてがっちりと拘束された。そして、その騒ぎを聞き付けて部屋から出て来た敦賀も巻き込み、夕暮れの街へと繰り出して来たというのが事の流れなのだが、正直なところ何がどうしてこんな流れになったのか、タカコには皆目検討がつかないままであまり気分は宜しくない。
何とか助けろと向かいの敦賀に視線で救援を求めるものの、こちらはこちらで活骸ですら怯みそうな凶悪な面持ちと纏う空気、タカコの視線すら鬱陶しそうに視線を逸らし動く気配も無い。お前半ば自発的について来ただろう、何なんだその不機嫌さは、何だ、タダ酒が飲みたかっただけかとタカコは内心で吐き捨てつつ、誰かこのおっさん二人をどうにかしてくれとがっくりと肩を落とす。
酒の席は嫌いではない、寧ろ賑やかな空気は大好きだがどうも状況が気に入らない、三軍の内対馬区周辺地域の頂点二人が揃っており、その上彼等の目的がはっきりしない、そんな状況で楽しいも糞も有るかというのが正直なところだった。
高根の音頭による乾杯を経て漸く飲み物に口を付けられたものの、やれやれと思ったのも束の間今度はあれを食えこれを食えとの食え食え攻撃が両側から始まる。
「タカコ、これ食ってみろ美味ぇから」
「……皮が付いてるんだけどこの白身……」
「あれ?タカコちゃん知らないのか?これはな、松皮造りって言って、鯛の身に皮を付けたまま湯引きって言ってな、布巾を掛けた上からお湯を流して直ぐに冷水に浸すんだよ。そうするとな、皮がこんな風に縮んで柔らかくなって食べ易くなるの。ほら、松の木の幹みてぇに見えるだろ?こっちも食ってみな、さっき言ってた胡麻鯖」
「ほら、蛸刺しもいけ、どんどん食え」
大きめの硝子のコップに注いだ焼酎を一気に飲み干し、その後は自分達は食べるのもそこそこにタカコの皿に次々と刺身を乗せていく二人。やがて皿が一杯になり、その後はもう面倒だとでも思ったのかタカコの口へと直接刺身を突っ込み出す。その許容量も超えたのかタカコは突然二人を振り払い、暫し口を閉じもちゃもちゃと咀嚼し飲み込んだ後口を開いた。
「あーもう!鬱陶しいんだよおっさん二人!大体何なんだよこの状況は!捕虜を海兵隊と西部方面のトップと海兵隊の最先任が取り囲んで無理矢理生魚食わすとか!何の嫌がらせだ!」
「刺身は生魚じゃねぇぞタカコ」
「はぁ!?加熱してないんだから生魚だろうが!」
「いや、刺身は刺身だ、生魚じゃねぇ」
「そうだよタカコちゃん、全然違うじゃねぇか。違いが分からないなら俺が二人っきりで色々と教えてあげようか?」
「うるせぇぇぇぇぇ!!」
年の功か性格か、タカコの反応に全く動じる事の無い二人、敦賀は三人のそんな遣り取りを見ながら一つ大きく舌打ちをした。自分の知る限りでは三軍の中で最も鬱陶しい性格の高根と黒川、糸島出身の幼馴染同士のこの二人に揃って絡まれている今のタカコを気の毒にとは確かに思うものの、それ以上に何とも言い表し様の無い不快感が間断無く敦賀を襲い続けている。
自分に監視下に置いて常に見張れと言った割に、こちらに一言有る前にタカコを連れ出そうとしていた高根も不愉快なら、無関係な陸軍のくせに高根から話を聞き、出会って間も無いのにタカコに馴れ馴れしく接している黒川も高根以上に不愉快な存在だ。
やがて怒るだけ怒ったのか徐々に落ち着きだしたタカコ、料理の美味さは気に入ったのか進められるままに笑顔で食べ出し、彼女のその様子が更に敦賀を苛立たせる。
「あっ、何これ美味しい!もう一杯!」
「焼酎だよ、紀州は熊野の蜜柑割りだ。蜜柑そのままも有るけど食ってみるか?」
「食べる食べる!」
料理の次は今度は酒と果物、どちらも経験の無かった味なのか反応は新鮮で、尚且つ気に入ったのか更に上機嫌になる様を睨みつけつつ、敦賀もまた焼酎のコップへと口を付け、中身を一気に胃の中に流し込んだ。
大和海兵隊の捕虜となって九ヶ月、ワシントン合衆国市民且つ民間軍事企業の人間であるタカコ・シミズ。その彼女は今、海兵隊総司令と陸軍西部方面旅団総監に左右を挟まれ、両肩をがっちりと拘束されている。
「えーと……あの、高根司令?黒川総監?この状況の意味が分からないんですが……」
黒川の目が有るからか高根に対しても敬称を付け敬語で話すタカコ、高根はタカコのその言葉を聞いて彼女の髪をぐしゃぐしゃと豪快に撫で回した。
「あーいーよ、取り繕わなくて。こいつは俺の腐れ縁だ、事情も粗方知ってるから」
「……ああそうかい……で、何なんだよこの状況は。海兵隊の天辺と陸軍西方旅団の天辺に挟まれる様な事をした覚えは無ぇんだが?」
高根の言葉に呆れた面持ちでそう言いながらタカコは高根の腕を振り払い、卓上のコップを手に取りそれに口を付けようとする。
「はいはい、まだ駄目な、先ずは乾杯してから!」
それを取り上げたのは高根の反対側で変わらずにタカコの肩を掴んでいる黒川の手、タカコは思わずこめかみと口元をひくつかせながら、向かい側に座って不機嫌極まり無い空気を纏っている敦賀へと視線を向けた。
場所は博多時は夜、歓楽街である中洲の一角に有る、高根が贔屓にしている店の一番奥まった静かな個室。太宰府へと帰ったと思っていた黒川が高根と共にタカコの部屋を訪れたのは一時間程前の事、丁度部屋を出ようとしていたのを何処に行くのかと尋ねられ、夕食を摂りに食堂へと正直に答えれば、
「おお、丁度良かった、おじさん二人が奢ってあげるから飲みに行こうか」
「博多の夜は初めてだろ?案内してやるよタカコちゃん」
と、何とも気持ちの悪い笑顔二つを向けられてがっちりと拘束された。そして、その騒ぎを聞き付けて部屋から出て来た敦賀も巻き込み、夕暮れの街へと繰り出して来たというのが事の流れなのだが、正直なところ何がどうしてこんな流れになったのか、タカコには皆目検討がつかないままであまり気分は宜しくない。
何とか助けろと向かいの敦賀に視線で救援を求めるものの、こちらはこちらで活骸ですら怯みそうな凶悪な面持ちと纏う空気、タカコの視線すら鬱陶しそうに視線を逸らし動く気配も無い。お前半ば自発的について来ただろう、何なんだその不機嫌さは、何だ、タダ酒が飲みたかっただけかとタカコは内心で吐き捨てつつ、誰かこのおっさん二人をどうにかしてくれとがっくりと肩を落とす。
酒の席は嫌いではない、寧ろ賑やかな空気は大好きだがどうも状況が気に入らない、三軍の内対馬区周辺地域の頂点二人が揃っており、その上彼等の目的がはっきりしない、そんな状況で楽しいも糞も有るかというのが正直なところだった。
高根の音頭による乾杯を経て漸く飲み物に口を付けられたものの、やれやれと思ったのも束の間今度はあれを食えこれを食えとの食え食え攻撃が両側から始まる。
「タカコ、これ食ってみろ美味ぇから」
「……皮が付いてるんだけどこの白身……」
「あれ?タカコちゃん知らないのか?これはな、松皮造りって言って、鯛の身に皮を付けたまま湯引きって言ってな、布巾を掛けた上からお湯を流して直ぐに冷水に浸すんだよ。そうするとな、皮がこんな風に縮んで柔らかくなって食べ易くなるの。ほら、松の木の幹みてぇに見えるだろ?こっちも食ってみな、さっき言ってた胡麻鯖」
「ほら、蛸刺しもいけ、どんどん食え」
大きめの硝子のコップに注いだ焼酎を一気に飲み干し、その後は自分達は食べるのもそこそこにタカコの皿に次々と刺身を乗せていく二人。やがて皿が一杯になり、その後はもう面倒だとでも思ったのかタカコの口へと直接刺身を突っ込み出す。その許容量も超えたのかタカコは突然二人を振り払い、暫し口を閉じもちゃもちゃと咀嚼し飲み込んだ後口を開いた。
「あーもう!鬱陶しいんだよおっさん二人!大体何なんだよこの状況は!捕虜を海兵隊と西部方面のトップと海兵隊の最先任が取り囲んで無理矢理生魚食わすとか!何の嫌がらせだ!」
「刺身は生魚じゃねぇぞタカコ」
「はぁ!?加熱してないんだから生魚だろうが!」
「いや、刺身は刺身だ、生魚じゃねぇ」
「そうだよタカコちゃん、全然違うじゃねぇか。違いが分からないなら俺が二人っきりで色々と教えてあげようか?」
「うるせぇぇぇぇぇ!!」
年の功か性格か、タカコの反応に全く動じる事の無い二人、敦賀は三人のそんな遣り取りを見ながら一つ大きく舌打ちをした。自分の知る限りでは三軍の中で最も鬱陶しい性格の高根と黒川、糸島出身の幼馴染同士のこの二人に揃って絡まれている今のタカコを気の毒にとは確かに思うものの、それ以上に何とも言い表し様の無い不快感が間断無く敦賀を襲い続けている。
自分に監視下に置いて常に見張れと言った割に、こちらに一言有る前にタカコを連れ出そうとしていた高根も不愉快なら、無関係な陸軍のくせに高根から話を聞き、出会って間も無いのにタカコに馴れ馴れしく接している黒川も高根以上に不愉快な存在だ。
やがて怒るだけ怒ったのか徐々に落ち着きだしたタカコ、料理の美味さは気に入ったのか進められるままに笑顔で食べ出し、彼女のその様子が更に敦賀を苛立たせる。
「あっ、何これ美味しい!もう一杯!」
「焼酎だよ、紀州は熊野の蜜柑割りだ。蜜柑そのままも有るけど食ってみるか?」
「食べる食べる!」
料理の次は今度は酒と果物、どちらも経験の無かった味なのか反応は新鮮で、尚且つ気に入ったのか更に上機嫌になる様を睨みつけつつ、敦賀もまた焼酎のコップへと口を付け、中身を一気に胃の中に流し込んだ。
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