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第31章『触れ合い』
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第31章『触れ合い』
タカコが肩を負傷した出撃から一週間が経過した頃の海兵隊総司令執務室、その窓に張り付いて地上を見下ろしている男二人、高根と黒川。
「何、ガキの恋愛?」
「いや、女にしろ仕事にしろ何事もそつなくこなすお前が言ってもな……つーかよ、おめぇ仕事は」
「博多の駐屯地の視察。もう終わったからちょっと様子見に来た、後墓参り」
彼等の視線の先にいるのはタカコと敦賀、道場へ行くのか並んで歩く様子を眺めながら、手にした湯呑の中身を揃って啜る。
タカコの負傷からこちら、彼女に対する敦賀の当たりが若干ではあるが柔らかくなったと、高根はそう感じていた。戻った日の夜に発破を掛けはしたものの相手は怪我人、そんな状況で敦賀が彼女を抱いたとか、そんな事はまず無いだろう、敦賀自身そういう性格ではない。
けれど確実に何かは有った様だ、二人揃って歩いているところを見掛けると彼は必ずタカコの左側にいて、負傷した左肩を庇っているのだと窺えるその動きに、分かり辛くも然り気無い優しさを感じている。
「五月に飲みに行ってからもうそろそろ三ヶ月だろ?それから全然進展してるように見えねぇぞ?ちょっと前にタカコちゃんが怪我したって聞いてたからよ、それで色々と進んだとばっかり」
「いや、進展はしたぜ?敦賀だってああ見えて頑張ってんだぜ?」
「例えば?」
「あー……並んで歩く時は常に左側にいて左肩庇ってやってたり、荷物持ってやったり?」
「はぁぁ!?それだけかよ!荷物持ってやるとかそもそもやってなかったんかよ!あの体格の違い見てみろよ、子供と大人だぞ。それをやってやってるとかマジでガキの恋愛じゃねぇか。もうさ、あの童貞見切って俺にやらせろよ、一週間、いや余裕見て一ヶ月有ればきっちり落とすからよ」
「おめぇが言うと冗談に聞こえねぇんだよ馬鹿」
男女の仲に関してもそれなりの場数を踏んでいる二人、特に黒川からすれば敦賀の行動は幼稚に過ぎて目眩がする程らしい。結婚する迄は自分以上に女性関係の激しかった黒川、腐れ縁の悪友の過去を知っている高根としては、彼の参戦は事をややこしくするだけだと溜息を吐く。
「それにしたってよ、幾ら何でもそんな程度の低い話は無ぇだろうよ、お互い三十越えてる上に敦賀の方が年上なんだぞ?俺ぁてっきりもう男女の仲かそれに準ずる様な関係になってるとばかり思ってたがなぁ」
「世の中おめぇみてぇな要領の良い奴ばっかじゃねぇんだよ、活骸斬る事しか興味が無くてその障害にならねぇ様に性処理して生きて来た様な、超絶不器用な仕事馬鹿に無茶言うな。奴にしてみりゃ大進歩だありゃ」
「まぁそうだけどよ」
どうも面白くなさそうに頭を掻く黒川、高根はそんな彼の横顔を見て呆れた様に笑うと、次に窓の外の二人へと視線を移した。
そんな高根達の思惑なぞ知らず、いつもの様に鍛錬の為に道場へと向かうタカコと敦賀、タカコは医官の許可が出る迄は見学のみだが、敦賀と行動を共にする日常は何等変わらない。
「とんこつ麺が食べたい」
「……動いてねぇのに食う量変わらんと太るぞ」
「だって食べた事無いし食べてみたい。皆美味しいって言ってる、中洲で飲んだ後の締めの定番だって」
「五月に真吾と龍興と俺とお前で中洲で飲んだ時に食っただろうが、覚えてねぇのか」
「何それ知らない!つーかさ、お店で飲んでた筈なのに起きたら自分の部屋で寝てたんだよね、何、店で飲んだ後とんこつ麺食べたの?覚えてない」
「……てめぇはもう酒は飲むな」
「真吾とタツさんに飲まされたんじゃないかあれは。で、とんこつ麺が食べたいので連れて行け」
「人にものを頼む態度かそれが」
「良いじゃん、私とお前の仲なんだし、連れて行け、駄目なら一人で行く」
「……てめぇは捕虜だってのを何度言えば分かるんだ?その頭は飾りか?飾りだな」
「いやいやいや、一人で完結させんなよ。で、どうすんの?」
「……今日の打ち合いが終わったら連れて行ってやる、下半身の柔軟でもして脂肪消費しとけ」
「はーい、やったー」
タカコの適当さは変わらず、敦賀の口の悪さも変わらない。けれどあの夜から二人の間に流れる空気は少しだけ柔らかく、それと同じくタカコに対しての敦賀の態度も少しだけ穏やかに、そして温かみを持つ様になっていた。
あの後何が有ったわけでもなく、暫くの間タカコを抱き締めていた敦賀はその先に進む事無く彼女の身体を放し、
「もう寝ろ、しっかり休んでさっさと治せ」
と、そう言って頭を一撫でして部屋を後にして、結局それっきりだ。けれどそれから明らかにタカコに対しての当たりが柔らかくなり、それにタカコも最初は若干の戸惑いを覚えたものの一週間も経てば慣れるもので、今ではすっかり受けて入れている。
あの夜に彼の言った『女だろうが、てめぇは』という言葉、そしてそれから変わった態度、それを併せて考えれば敦賀の内心の凡その事は見当は付くのだが、タカコは敢えてそれを見ないようにしている。その先を突き詰めて考えれば、今のお気楽なこの時間を手放さなければならなくなると、自分が一番知っているから。
微温湯の様に気楽な、そして心地良いこの時間。先の事も過去の事も考えずに済むこの環境を手放さなければならない日は、いつか、いつかやって来る。
願わくば『その日』が一日でも遠くに在る様に、それが今のタカコの願い。
タカコが肩を負傷した出撃から一週間が経過した頃の海兵隊総司令執務室、その窓に張り付いて地上を見下ろしている男二人、高根と黒川。
「何、ガキの恋愛?」
「いや、女にしろ仕事にしろ何事もそつなくこなすお前が言ってもな……つーかよ、おめぇ仕事は」
「博多の駐屯地の視察。もう終わったからちょっと様子見に来た、後墓参り」
彼等の視線の先にいるのはタカコと敦賀、道場へ行くのか並んで歩く様子を眺めながら、手にした湯呑の中身を揃って啜る。
タカコの負傷からこちら、彼女に対する敦賀の当たりが若干ではあるが柔らかくなったと、高根はそう感じていた。戻った日の夜に発破を掛けはしたものの相手は怪我人、そんな状況で敦賀が彼女を抱いたとか、そんな事はまず無いだろう、敦賀自身そういう性格ではない。
けれど確実に何かは有った様だ、二人揃って歩いているところを見掛けると彼は必ずタカコの左側にいて、負傷した左肩を庇っているのだと窺えるその動きに、分かり辛くも然り気無い優しさを感じている。
「五月に飲みに行ってからもうそろそろ三ヶ月だろ?それから全然進展してるように見えねぇぞ?ちょっと前にタカコちゃんが怪我したって聞いてたからよ、それで色々と進んだとばっかり」
「いや、進展はしたぜ?敦賀だってああ見えて頑張ってんだぜ?」
「例えば?」
「あー……並んで歩く時は常に左側にいて左肩庇ってやってたり、荷物持ってやったり?」
「はぁぁ!?それだけかよ!荷物持ってやるとかそもそもやってなかったんかよ!あの体格の違い見てみろよ、子供と大人だぞ。それをやってやってるとかマジでガキの恋愛じゃねぇか。もうさ、あの童貞見切って俺にやらせろよ、一週間、いや余裕見て一ヶ月有ればきっちり落とすからよ」
「おめぇが言うと冗談に聞こえねぇんだよ馬鹿」
男女の仲に関してもそれなりの場数を踏んでいる二人、特に黒川からすれば敦賀の行動は幼稚に過ぎて目眩がする程らしい。結婚する迄は自分以上に女性関係の激しかった黒川、腐れ縁の悪友の過去を知っている高根としては、彼の参戦は事をややこしくするだけだと溜息を吐く。
「それにしたってよ、幾ら何でもそんな程度の低い話は無ぇだろうよ、お互い三十越えてる上に敦賀の方が年上なんだぞ?俺ぁてっきりもう男女の仲かそれに準ずる様な関係になってるとばかり思ってたがなぁ」
「世の中おめぇみてぇな要領の良い奴ばっかじゃねぇんだよ、活骸斬る事しか興味が無くてその障害にならねぇ様に性処理して生きて来た様な、超絶不器用な仕事馬鹿に無茶言うな。奴にしてみりゃ大進歩だありゃ」
「まぁそうだけどよ」
どうも面白くなさそうに頭を掻く黒川、高根はそんな彼の横顔を見て呆れた様に笑うと、次に窓の外の二人へと視線を移した。
そんな高根達の思惑なぞ知らず、いつもの様に鍛錬の為に道場へと向かうタカコと敦賀、タカコは医官の許可が出る迄は見学のみだが、敦賀と行動を共にする日常は何等変わらない。
「とんこつ麺が食べたい」
「……動いてねぇのに食う量変わらんと太るぞ」
「だって食べた事無いし食べてみたい。皆美味しいって言ってる、中洲で飲んだ後の締めの定番だって」
「五月に真吾と龍興と俺とお前で中洲で飲んだ時に食っただろうが、覚えてねぇのか」
「何それ知らない!つーかさ、お店で飲んでた筈なのに起きたら自分の部屋で寝てたんだよね、何、店で飲んだ後とんこつ麺食べたの?覚えてない」
「……てめぇはもう酒は飲むな」
「真吾とタツさんに飲まされたんじゃないかあれは。で、とんこつ麺が食べたいので連れて行け」
「人にものを頼む態度かそれが」
「良いじゃん、私とお前の仲なんだし、連れて行け、駄目なら一人で行く」
「……てめぇは捕虜だってのを何度言えば分かるんだ?その頭は飾りか?飾りだな」
「いやいやいや、一人で完結させんなよ。で、どうすんの?」
「……今日の打ち合いが終わったら連れて行ってやる、下半身の柔軟でもして脂肪消費しとけ」
「はーい、やったー」
タカコの適当さは変わらず、敦賀の口の悪さも変わらない。けれどあの夜から二人の間に流れる空気は少しだけ柔らかく、それと同じくタカコに対しての敦賀の態度も少しだけ穏やかに、そして温かみを持つ様になっていた。
あの後何が有ったわけでもなく、暫くの間タカコを抱き締めていた敦賀はその先に進む事無く彼女の身体を放し、
「もう寝ろ、しっかり休んでさっさと治せ」
と、そう言って頭を一撫でして部屋を後にして、結局それっきりだ。けれどそれから明らかにタカコに対しての当たりが柔らかくなり、それにタカコも最初は若干の戸惑いを覚えたものの一週間も経てば慣れるもので、今ではすっかり受けて入れている。
あの夜に彼の言った『女だろうが、てめぇは』という言葉、そしてそれから変わった態度、それを併せて考えれば敦賀の内心の凡その事は見当は付くのだが、タカコは敢えてそれを見ないようにしている。その先を突き詰めて考えれば、今のお気楽なこの時間を手放さなければならなくなると、自分が一番知っているから。
微温湯の様に気楽な、そして心地良いこの時間。先の事も過去の事も考えずに済むこの環境を手放さなければならない日は、いつか、いつかやって来る。
願わくば『その日』が一日でも遠くに在る様に、それが今のタカコの願い。
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