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第39章『試射』
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第39章『試射』
やがて始まった試射、それが進むにつれて黒川は開いた口が塞がらないという比喩表現が決して比喩に留まらず、実際に有り得る現象なのだと身を以て知る事になった。
タカコは決して体格に恵まれているわけではない、身長は女性としては極平均的、体格は筋肉の付き方こそ女性の中では優れている方だろうが男とは比べるべくもない。そんな彼女が長さ七十cm程の大きさの散弾銃を軽々と取り回し標的を次々に撃ち抜いて行く様に唖然とし、更にはその狙いが実に正確である事に口が半開きになった。
散弾の拡散の中心点は心臓より少し上、胸骨上窩より少し下の位置の正中線、動かない的を撃ち抜くとは言え同じ動作を寸分の狂いも無く繰り返す彼女の手腕に背筋に冷たいものを感じれば、撃ち終えたタカコはそれににっこりと笑顔を返し口を開く。
「頭部を破壊する為のぎりぎりの下限です、これより上は狙うにも面積が狭過ぎますし下では頭部への打撃が少なくなりますので。正中線を狙うのは変わりませんが」
言うのは簡単だが、活骸という動く的をどれだけ相手にし続ければこの技量を体得出来るのか、才能と場数の両方が揃わなければとても無理だろう。
「……銃の威力は分かったが、例え中心が命中したとしても散弾では周囲に害が及ぶだろう、乱戦方式にはそぐわないのでは?」
「はい、仰る通りです、現状の戦端が開かれてからではこの散弾銃は殆ど役には立ちません。ですが、最初からこれを使用しての戦闘を展開するのであれば話は変わって来ます。太刀を利用しての直接接触戦の方式から転換をするのも、大和の未来を考えれば方策の一つかと」
「突入がお家芸の海兵らしからぬ発言だな、名前は?」
「シミズと申します、黒川総監」
中洲での夜を微塵も感じさせない彼女の所作、自分の警護について来た陸軍の兵士の存在に配慮しての事だろう、完璧な他人行儀に若干のあざとさを感じつつもその彼女が自分の目の前で披露してみせた結果に再度視線を向けた。
彼女の言う通り、これが実戦配備され扱う兵士の練度も上がれば損耗率は飛躍的に改善するだろう、何せ海兵隊員の死因の殆どを占めている活骸からの致命的打撃とはほぼ無縁の戦い方になるのだから。取り漏らしは必ず有る、その始末の為に太刀を捨てる事は出来ないだろうが、それでもこれが配備されれば、軍人として多くの兵士の命を預かる立場として、その未来に想いを馳せずにはいられない。
道理で高根が手放したがらないわけだ、これには、彼女には何をしてでも手元に置いておきたい、そう思い行動するだけの価値が有る。彼もまた同じ様に多くの兵士の命を預かる立場、それを失う事を食い止める方法を考えるのは上に立つ者として当然の事だろう。敦賀と彼女の生涯を操ってでも手に入れたい、そう考える事を責める事は自分には出来ない、彼の立場なら、自分でもそうすると分かっているから。
黒川にそんな衝撃と想いを与えた試射、それは微調整と試射と打ち合わせを繰り返し、夕方近くになって漸くその全行程を終えた。
「それでは、本日は有り難う御座いました」
態々駐車場迄見送りに出た黒川、その彼に対し七名が敬礼し返礼した黒川が手を下げるのを待ってトラックへと資機材を積み込み始める。黒川はそんな彼等の様子を見ながらタカコへと近付き、彼女の肩に手を掛けて部隊長補佐の中村へと声を掛けた。
「中村大尉、彼女は俺が送ろう、まだ聞き足りない事が有るんだ、良いかな?」
許可を求めるには強過ぎる黒川の立場、中村は一瞬何か言い返そうと身構えるが、大尉と准将の間に有る絶対的な力の差を感じ取ったのか渋々といった様子でそれを了承する。
「そうか、良かった。それじゃ、君はこっちに」
元々そのつもりだったのか制服のポケットから車の鍵を取り出す黒川、タカコはそれを見て一瞬双眸を見開いたものの、特に何も言う事無く促されるまま車の助手席へと乗り込んだ。
「……で?何、話って」
「おっ、漸く俺の知ってるタカコちゃんに戻ってくれたな、おじさんはそっちの方が好きだなぁ」
動き始めた車、その中で黒川の隣に座っているタカコが口を開く。黒川はそれにいつもの笑みを浮かべておどけてそう言いながら、彼女の方へと顔を向けた。
「いやいやいや、意味分かんないし。うち等の付き合い知ってる人誰もいなかったし、陸軍の面々に知られたら困るのタツさんの方でしょ?」
「あれ?さっきは物凄い他人行儀に『黒川総監』なんて言ってたくせに」
「うっわ、うっぜぇこのおっさん」
「うんうん、俺はそっちのタカコちゃんの方が好きだな、まぁあの場ではあれが最善だったとは思うけどよ」
「はいはい、好きでも嫌いでも良いから前見て前。で?聞きたい事って?」
「いや、特には無ぇよ?ああでも言わないと君だけ俺が送るとか出来なかったからな」
「はぁ?いやらしいなぁ、もう」
そこでタカコも遂には笑い出し、一頻り笑った後は現在対馬区にいる敦賀や高根の事に話題が移って行く。
「敦賀と喧嘩ぁ?まぁあいつが短気なのは否定しねぇけどよ、何が有ったんよ?」
「……言いたくない……もうさ、アレだよね、今日の試射では的をあの木偶の坊だと思って撃ったよね……」
随分と物騒な事を言う、しかも海兵隊史上最強と謳われるあの敦賀を木偶の方呼ばわりとはこれは相当な事が有った様だ、適当な理由を付けて彼女を連れ出して酒でも飲みつつ話を聞いてみようか、黒川がそんな事を考えた直後だった。
「!?」
「何が――」
突然前方から聞こえて来た大勢の絶叫、車内にいてもはっきりと分かるそれに一瞬顔を見合わせ前方を注視する二人、その二人の双眸に映ったのは、こちらへと向かって逃げて来る人の波、そして、その向こうから押し寄せる、活骸の群れ。
その日、大和本土は活骸の侵攻を再度許す事となった。
やがて始まった試射、それが進むにつれて黒川は開いた口が塞がらないという比喩表現が決して比喩に留まらず、実際に有り得る現象なのだと身を以て知る事になった。
タカコは決して体格に恵まれているわけではない、身長は女性としては極平均的、体格は筋肉の付き方こそ女性の中では優れている方だろうが男とは比べるべくもない。そんな彼女が長さ七十cm程の大きさの散弾銃を軽々と取り回し標的を次々に撃ち抜いて行く様に唖然とし、更にはその狙いが実に正確である事に口が半開きになった。
散弾の拡散の中心点は心臓より少し上、胸骨上窩より少し下の位置の正中線、動かない的を撃ち抜くとは言え同じ動作を寸分の狂いも無く繰り返す彼女の手腕に背筋に冷たいものを感じれば、撃ち終えたタカコはそれににっこりと笑顔を返し口を開く。
「頭部を破壊する為のぎりぎりの下限です、これより上は狙うにも面積が狭過ぎますし下では頭部への打撃が少なくなりますので。正中線を狙うのは変わりませんが」
言うのは簡単だが、活骸という動く的をどれだけ相手にし続ければこの技量を体得出来るのか、才能と場数の両方が揃わなければとても無理だろう。
「……銃の威力は分かったが、例え中心が命中したとしても散弾では周囲に害が及ぶだろう、乱戦方式にはそぐわないのでは?」
「はい、仰る通りです、現状の戦端が開かれてからではこの散弾銃は殆ど役には立ちません。ですが、最初からこれを使用しての戦闘を展開するのであれば話は変わって来ます。太刀を利用しての直接接触戦の方式から転換をするのも、大和の未来を考えれば方策の一つかと」
「突入がお家芸の海兵らしからぬ発言だな、名前は?」
「シミズと申します、黒川総監」
中洲での夜を微塵も感じさせない彼女の所作、自分の警護について来た陸軍の兵士の存在に配慮しての事だろう、完璧な他人行儀に若干のあざとさを感じつつもその彼女が自分の目の前で披露してみせた結果に再度視線を向けた。
彼女の言う通り、これが実戦配備され扱う兵士の練度も上がれば損耗率は飛躍的に改善するだろう、何せ海兵隊員の死因の殆どを占めている活骸からの致命的打撃とはほぼ無縁の戦い方になるのだから。取り漏らしは必ず有る、その始末の為に太刀を捨てる事は出来ないだろうが、それでもこれが配備されれば、軍人として多くの兵士の命を預かる立場として、その未来に想いを馳せずにはいられない。
道理で高根が手放したがらないわけだ、これには、彼女には何をしてでも手元に置いておきたい、そう思い行動するだけの価値が有る。彼もまた同じ様に多くの兵士の命を預かる立場、それを失う事を食い止める方法を考えるのは上に立つ者として当然の事だろう。敦賀と彼女の生涯を操ってでも手に入れたい、そう考える事を責める事は自分には出来ない、彼の立場なら、自分でもそうすると分かっているから。
黒川にそんな衝撃と想いを与えた試射、それは微調整と試射と打ち合わせを繰り返し、夕方近くになって漸くその全行程を終えた。
「それでは、本日は有り難う御座いました」
態々駐車場迄見送りに出た黒川、その彼に対し七名が敬礼し返礼した黒川が手を下げるのを待ってトラックへと資機材を積み込み始める。黒川はそんな彼等の様子を見ながらタカコへと近付き、彼女の肩に手を掛けて部隊長補佐の中村へと声を掛けた。
「中村大尉、彼女は俺が送ろう、まだ聞き足りない事が有るんだ、良いかな?」
許可を求めるには強過ぎる黒川の立場、中村は一瞬何か言い返そうと身構えるが、大尉と准将の間に有る絶対的な力の差を感じ取ったのか渋々といった様子でそれを了承する。
「そうか、良かった。それじゃ、君はこっちに」
元々そのつもりだったのか制服のポケットから車の鍵を取り出す黒川、タカコはそれを見て一瞬双眸を見開いたものの、特に何も言う事無く促されるまま車の助手席へと乗り込んだ。
「……で?何、話って」
「おっ、漸く俺の知ってるタカコちゃんに戻ってくれたな、おじさんはそっちの方が好きだなぁ」
動き始めた車、その中で黒川の隣に座っているタカコが口を開く。黒川はそれにいつもの笑みを浮かべておどけてそう言いながら、彼女の方へと顔を向けた。
「いやいやいや、意味分かんないし。うち等の付き合い知ってる人誰もいなかったし、陸軍の面々に知られたら困るのタツさんの方でしょ?」
「あれ?さっきは物凄い他人行儀に『黒川総監』なんて言ってたくせに」
「うっわ、うっぜぇこのおっさん」
「うんうん、俺はそっちのタカコちゃんの方が好きだな、まぁあの場ではあれが最善だったとは思うけどよ」
「はいはい、好きでも嫌いでも良いから前見て前。で?聞きたい事って?」
「いや、特には無ぇよ?ああでも言わないと君だけ俺が送るとか出来なかったからな」
「はぁ?いやらしいなぁ、もう」
そこでタカコも遂には笑い出し、一頻り笑った後は現在対馬区にいる敦賀や高根の事に話題が移って行く。
「敦賀と喧嘩ぁ?まぁあいつが短気なのは否定しねぇけどよ、何が有ったんよ?」
「……言いたくない……もうさ、アレだよね、今日の試射では的をあの木偶の坊だと思って撃ったよね……」
随分と物騒な事を言う、しかも海兵隊史上最強と謳われるあの敦賀を木偶の方呼ばわりとはこれは相当な事が有った様だ、適当な理由を付けて彼女を連れ出して酒でも飲みつつ話を聞いてみようか、黒川がそんな事を考えた直後だった。
「!?」
「何が――」
突然前方から聞こえて来た大勢の絶叫、車内にいてもはっきりと分かるそれに一瞬顔を見合わせ前方を注視する二人、その二人の双眸に映ったのは、こちらへと向かって逃げて来る人の波、そして、その向こうから押し寄せる、活骸の群れ。
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