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第69章『後ろ髪』
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第69章『後ろ髪』
目が覚めては交わり果てては眠りを繰り返し、漸く解放されたのは翌日の夕方近く。風呂を遣ってさっぱりとしたタカコが濡れた髪を拭いていると背後に人の気配、直後無言で抱き締められ思わずそちらに頭を叩き込んだ。
「ってぇ……タカコ、お前、手加減ってもんをね……」
抱き締めて来たのは黒川、頬に頭突きが決まったのか文句を言いつつも両腕は離さないままの彼に、文句を言いたいのはこっちだとタカコが口を開く。
「……手加減しろ……?それは半日以上に渡ってほぼ突っ込みっ放しだった人間の言う事なのかな?もう無理だって私何度も言ったよね?それなのに『うん、でも俺はまだしたい』ってにこやかに言ってのけて無視して続行とか有り得ないから。昨日の夜、日付変わる前におっ始めて今何時だと思ってんの?」
「翌ヒトゴーニーヨン」
「……『それが何か問題でも?』みたいにしれっと言ってんじゃねぇよ……もうタツさんとは当分しない、決めた」
「またまた、あんなに無茶苦茶感じまくっ――」
「やかましい!久し振りだったから――」
昨夜の乱れ振りを口に出されて思わず身を捩って黒川の方へと振り返れば、一度緩んだ腕が再び身体を拘束し口付けが降って来る。ふざけるなと顔を背けようとしても顎をがっちりと固定されてそれも叶わず、侵入して来た舌をせめてもの仕返しだと軽く噛めば、それで漸く離れてくれた黒川から柔らかい笑みを向けられた。
「……何さ」
「いや?素直じゃなくて可愛いなって」
「…………」
「真っ赤だぞ、褒められるのも直球で言われるのも苦手なんだよな、見てれば分かる」
図星を指されて絶句すれば
「……また赤くなったな、本当に可愛いよお前」
そう言われてまた口付けを落とされる。
「……もう絶対タツさんとはしない、そもそも二人きりになんか金輪際ならねぇ、決めた」
「それは駄目だな、俺、お前の身体すげぇ気に入ったから」
その言葉と共にタカコを抱き締める黒川の両腕に込められる力、痛い程のそれに
「……タツさん?」
そう呼び掛ければ返されたのは更に強まる力と、そして
「……悪ぃ、もうちっとこのままで良いか」
その言葉のみ。
「……ん、良いよ」
「……また、会ってくれるか?暫くは忙しくなりそうだからなかなかこっちにも来られねぇけど」
「……もうちょっと回数抑えてくれるなら」
「……それはちょっと約束出来ねぇなぁ」
「じゃあ嫌だ、絶対嫌だ」
「……そういうところきついよね、お前」
抱き締められながらの会話、黒川が笑った気配が伝わって来て、タカコもまた笑い黒川の背へと腕を回し優しく抱き締める。
こんなに優しく熱く触れて来るのに身体だけの付き合いとは、黒川も案外嘘が下手だな、そんな事を考えた。けれどその嘘に乗らせてもらおう、自分もまた、今は彼を必要としているのだから。
黒川の気持ちは自分に伝わってしまっているし、時が来ればその時には何が有っても離れなければならない、きっとその時には彼を酷く傷付ける事になるだろう。それでもいつかその日は必ずやって来る、どうか、どうか『その時』が一日でも一時間でも遠くに在る様に、そう願わずにはいられない。
黒川だけではない、高根や海兵隊の皆、そして、敦賀。彼等を傷付け憎まれさえするかも知れない、出来れば訪れて欲しくないその瞬間、避ける事の出来ない対立、それが訪れる時が僅かでも遠くに在れば良い。
「……そろそろ真吾と敦賀にお前を返さないとな、まさかこんな時間迄とは思わないだろうから相当怒ってるなこりゃ」
「……せめて朝帰りにしようね、今度は」
「だな……帰るか」
「……うん」
そんな遣り取りを交わして離れ、身支度を整えて宿を出て、黒川が女将に言って手配させた車へと乗り込めば、車は海兵隊本部へと向けて走り出す。
帰りの道中お互いに言葉は交わさず夫々が窓の外を見詰め、戻って高根のお叱りを受けた後は少し眠ろうか、流石に疲れた、敦賀も相当荒ぶっているだろうから何とか宥めないといけないな、ぼんやりとそんな事を考えていたタカコの手にふと触れた暖かさ。何かと思ってそちらへと視線を向けてみれば、黒川の手が自分のそれへと重ねられ絡められる彼の指、それを見て小さく微笑んだ。
「……で?俺は昨日確かにてめぇから『今日は帰す気無ぇから』とは聞いたがよ、こんな時間になるとはこれっぽっちも聞いてねぇがどういうつもりだ?なぁ龍興よ。言い訳出来るってんならしてみせろや」
日没も過ぎた時間の海兵隊総司令執務室、自らの机で流石に険しい面持ちの高根が目の前に立つ二人、黒川とタカコを見据えて低く不機嫌な声を絞り出す。
「いや、俺、今日久々にとれた休みだったからよ、それでちょっと、な?」
「『な?』じゃねぇよこの馬鹿野郎が……タカコは……お前はまぁ良いや、こいつに連れられてたならしょうがねぇ、お前はもう戻れ。敦賀が荒れ狂ってるからそっちをどうにかしてくれ」
「あー……やっぱり……了解、それじゃお先に」
「また時間作るから、連絡するよ」
「龍興、てめぇはまだ話は終わってねぇ、俺の目の前でうちが預かってる人間口説いてんじゃねぇよ」
「じゃ、お先ー」
高根にガツガツと説教される黒川、それを見ているのも面白そうだがそろそろ限界だ、敦賀を宥める前に一眠りするかとタカコは自室へと歩みを向ける。今の時間なら敦賀はまだ鍛錬をしているか仕事を片付けている最中だろう、宥めるのは夜で良い、そんな事を考えつつやがて部屋へと辿り着き扉を開けて中へと入った。
「……何これ」
部屋に入って上着と靴を脱いで寝台に倒れ込んで布団を被って、そう思っていた筈なのに止まる歩み、視線の先には敦賀の姿。
静かに、静かに寝台へと歩み寄りその脇に腰を下ろし、布団を被って微動だにしない敦賀の寝顔を見詰めてみる。規則的な寝息、夢でも見ているのか時折瞼が僅かに動き睫毛が上下する。何がどういう事になった結果敦賀がここにいるのかは分からないが、どうにも彼らしい、困った様に笑い少しだけ背伸びをして、
「……ただいま」
小さくそう囁いて彼の頬へと口付けを落とし、タカコは寝台に身体を預けて目を閉じた。
目が覚めては交わり果てては眠りを繰り返し、漸く解放されたのは翌日の夕方近く。風呂を遣ってさっぱりとしたタカコが濡れた髪を拭いていると背後に人の気配、直後無言で抱き締められ思わずそちらに頭を叩き込んだ。
「ってぇ……タカコ、お前、手加減ってもんをね……」
抱き締めて来たのは黒川、頬に頭突きが決まったのか文句を言いつつも両腕は離さないままの彼に、文句を言いたいのはこっちだとタカコが口を開く。
「……手加減しろ……?それは半日以上に渡ってほぼ突っ込みっ放しだった人間の言う事なのかな?もう無理だって私何度も言ったよね?それなのに『うん、でも俺はまだしたい』ってにこやかに言ってのけて無視して続行とか有り得ないから。昨日の夜、日付変わる前におっ始めて今何時だと思ってんの?」
「翌ヒトゴーニーヨン」
「……『それが何か問題でも?』みたいにしれっと言ってんじゃねぇよ……もうタツさんとは当分しない、決めた」
「またまた、あんなに無茶苦茶感じまくっ――」
「やかましい!久し振りだったから――」
昨夜の乱れ振りを口に出されて思わず身を捩って黒川の方へと振り返れば、一度緩んだ腕が再び身体を拘束し口付けが降って来る。ふざけるなと顔を背けようとしても顎をがっちりと固定されてそれも叶わず、侵入して来た舌をせめてもの仕返しだと軽く噛めば、それで漸く離れてくれた黒川から柔らかい笑みを向けられた。
「……何さ」
「いや?素直じゃなくて可愛いなって」
「…………」
「真っ赤だぞ、褒められるのも直球で言われるのも苦手なんだよな、見てれば分かる」
図星を指されて絶句すれば
「……また赤くなったな、本当に可愛いよお前」
そう言われてまた口付けを落とされる。
「……もう絶対タツさんとはしない、そもそも二人きりになんか金輪際ならねぇ、決めた」
「それは駄目だな、俺、お前の身体すげぇ気に入ったから」
その言葉と共にタカコを抱き締める黒川の両腕に込められる力、痛い程のそれに
「……タツさん?」
そう呼び掛ければ返されたのは更に強まる力と、そして
「……悪ぃ、もうちっとこのままで良いか」
その言葉のみ。
「……ん、良いよ」
「……また、会ってくれるか?暫くは忙しくなりそうだからなかなかこっちにも来られねぇけど」
「……もうちょっと回数抑えてくれるなら」
「……それはちょっと約束出来ねぇなぁ」
「じゃあ嫌だ、絶対嫌だ」
「……そういうところきついよね、お前」
抱き締められながらの会話、黒川が笑った気配が伝わって来て、タカコもまた笑い黒川の背へと腕を回し優しく抱き締める。
こんなに優しく熱く触れて来るのに身体だけの付き合いとは、黒川も案外嘘が下手だな、そんな事を考えた。けれどその嘘に乗らせてもらおう、自分もまた、今は彼を必要としているのだから。
黒川の気持ちは自分に伝わってしまっているし、時が来ればその時には何が有っても離れなければならない、きっとその時には彼を酷く傷付ける事になるだろう。それでもいつかその日は必ずやって来る、どうか、どうか『その時』が一日でも一時間でも遠くに在る様に、そう願わずにはいられない。
黒川だけではない、高根や海兵隊の皆、そして、敦賀。彼等を傷付け憎まれさえするかも知れない、出来れば訪れて欲しくないその瞬間、避ける事の出来ない対立、それが訪れる時が僅かでも遠くに在れば良い。
「……そろそろ真吾と敦賀にお前を返さないとな、まさかこんな時間迄とは思わないだろうから相当怒ってるなこりゃ」
「……せめて朝帰りにしようね、今度は」
「だな……帰るか」
「……うん」
そんな遣り取りを交わして離れ、身支度を整えて宿を出て、黒川が女将に言って手配させた車へと乗り込めば、車は海兵隊本部へと向けて走り出す。
帰りの道中お互いに言葉は交わさず夫々が窓の外を見詰め、戻って高根のお叱りを受けた後は少し眠ろうか、流石に疲れた、敦賀も相当荒ぶっているだろうから何とか宥めないといけないな、ぼんやりとそんな事を考えていたタカコの手にふと触れた暖かさ。何かと思ってそちらへと視線を向けてみれば、黒川の手が自分のそれへと重ねられ絡められる彼の指、それを見て小さく微笑んだ。
「……で?俺は昨日確かにてめぇから『今日は帰す気無ぇから』とは聞いたがよ、こんな時間になるとはこれっぽっちも聞いてねぇがどういうつもりだ?なぁ龍興よ。言い訳出来るってんならしてみせろや」
日没も過ぎた時間の海兵隊総司令執務室、自らの机で流石に険しい面持ちの高根が目の前に立つ二人、黒川とタカコを見据えて低く不機嫌な声を絞り出す。
「いや、俺、今日久々にとれた休みだったからよ、それでちょっと、な?」
「『な?』じゃねぇよこの馬鹿野郎が……タカコは……お前はまぁ良いや、こいつに連れられてたならしょうがねぇ、お前はもう戻れ。敦賀が荒れ狂ってるからそっちをどうにかしてくれ」
「あー……やっぱり……了解、それじゃお先に」
「また時間作るから、連絡するよ」
「龍興、てめぇはまだ話は終わってねぇ、俺の目の前でうちが預かってる人間口説いてんじゃねぇよ」
「じゃ、お先ー」
高根にガツガツと説教される黒川、それを見ているのも面白そうだがそろそろ限界だ、敦賀を宥める前に一眠りするかとタカコは自室へと歩みを向ける。今の時間なら敦賀はまだ鍛錬をしているか仕事を片付けている最中だろう、宥めるのは夜で良い、そんな事を考えつつやがて部屋へと辿り着き扉を開けて中へと入った。
「……何これ」
部屋に入って上着と靴を脱いで寝台に倒れ込んで布団を被って、そう思っていた筈なのに止まる歩み、視線の先には敦賀の姿。
静かに、静かに寝台へと歩み寄りその脇に腰を下ろし、布団を被って微動だにしない敦賀の寝顔を見詰めてみる。規則的な寝息、夢でも見ているのか時折瞼が僅かに動き睫毛が上下する。何がどういう事になった結果敦賀がここにいるのかは分からないが、どうにも彼らしい、困った様に笑い少しだけ背伸びをして、
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