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第88章『傷を舐め合う』
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第88章『傷を舐め合う』
後追いが現着した時、その現場の凄惨さには誰もが言葉を失った。鞘から抜いて手にした太刀は一振りもなされる事は無く、動くものは何一つ残っていない現場を目にして再度鞘へと収められた。
累々と転がる活骸の死体、その中心で背中合わせに座り込む大小二つの人影へと駆け寄れば、それは活骸の体液に塗れ己も身体のあちこちに傷を負った敦賀とタカコの姿。医療班をと叫ぶ周囲を無視し立ち上がり歩き出そうとした二人を何とかその場に押し止め、応急処置を施した。
「……間に合わなかったか」
「司令……はい、その様子です」
後追いから更に遅れて現着した高根、その彼がトラックから降りて来て二人の様子を見てそう言い、近くにいた士官がそれに言葉を返す。高根の視線の先にはタカコがしっかりと抱えた長門と三宅の身体、それを見て、高根は思わず歯を軋らせた。
三宅の様子が落ち着き過ぎているのを重く見るべきだった、彼が福井の事をどれだけ大切に想っていたかはたまに見掛ける二人を見るだけでよく分かっていたのに。こんな時には人間は何をするか分からない、そう用心してしっかりと監視しておくべきだった。
死を覚悟した人間、死を選択した人間が纏う落ち着きと覚悟、それを数多く目にして来た筈なのに、何故気付かなかったのかと歯噛みする。タカコと敦賀達の受けた衝撃はもっと深いだろう、何か切っ掛けが有って気付きここに先んじたのだろうが、そうであれば何故気付かなかったのかという後悔も自分よりも大きいに違い無い。
取り敢えず活骸が見当たらない今の内に撤収だ、精鋭を揃えたとは言ってもたったの三分隊、態勢も整っていない今これ以上の戦闘と危険は避けなければ。
「おい、立てるか、戻るぞ」
歩み寄ってそう声を掛ければ、手当てを受けて毛布を羽織らされていた二人が無言のままゆっくりと立ち上がり、周囲に促されてトラックの荷台へと歩いて行く。確認しなければならない事も多いが今は博多へと戻って休ませてやろう、そう思いながら周囲に即時撤収の命令を発し、高根もまたトラックへと戻って行った。
やがて人員の収容を終えて隊列を組んで走り出す一団、タカコはその中の一つの荷台の上で、毛布を羽織りあおりへと背を預け、澄み切った朝の空をぼんやりと眺めていた。
結局また守れなかった、死なせてしまった、殺してしまった人間の数が一つ増えた。三宅が自ら討ち死にを選んだ事は理解してはいるものの、それでも何か出来たのでは、思い止まらせる事が出来たのではという思いは消えはしない。
爆発しそうになる感情をどうにか抑え込んで毛布を握り締めて深く羽織れば、それを勘違いしたのか横にいる敦賀の腕が背中へと回されて肩を抱かれ、彼の方へと引き寄せられた。
「……寒ぃのか」
「……大丈夫」
問い掛けに短くそう答えて身体を戻そうとすれば更に強い力で抱き寄せられ、肩に置かれていた手が頭へと遣られそのまま胸板に押し付けられる。何を、そう問い掛けようとすればその前に
「……このままでいてくれ、頼む」
そう言われ、声が僅かに震えている事に気が付いたタカコは口元を歪め、そのまま力を抜いて敦賀へと身体を預けた。
そうだ、自分が、自分だけが傷ついているわけではない、自分よりも彼の方が余程傷つき悲しんでいる。親友を、戦友をこんな悲劇で亡くし傷つかない筈が無い、悲しまない筈が無い。また自分の事だけか、胸中でそう吐き捨てて歯を軋らせて目を閉じた。
やがて帰り着いた博多、海兵隊本部、そこで荷台を降り高根へと簡単な報告をした後は
「もう休め、疲れただろう。間に合わなかった事は考えるな、三宅が上手く隠してた、それだけの事だ」
と、労りとも慰めともつかない言葉を掛けられて敦賀と共に営舎に戻った。風呂に入って汚れを落とした後にまた手当てを受けて自室へと戻り、寝台へと寝転がって無言のまま天井を見上げてみる。
ここ数ヶ月周辺が落ち着かない、状況は好転する事無く悪化するばかり。それでも目の前の職務に没頭し続け、止めにこれとは流石に少し疲れてしまった。
息苦しい、自分という器の中に得体の知れない重く不気味なものが少しずつ少しずつ溜まっていき、今ではもう溢れそうになっている。これを吐き出したい、そう思いはするものの方法も分からずに持て余すばかり。
寒い、息苦しい、そう思って両腕で自分を抱き締めてみても少しも和らがず、誰か、何か、そんな風に思った直後、扉の開く音がしてそちらを見遣れば、入って来た敦賀と目が合った。
真っ直ぐに自分を見詰める眼差し、そこに宿った哀しみと熱、そして後ろ手に鍵を閉めた動作に、彼が今何を求めているのか、自分はどうしたいのか本能に違いところでタカコはそれを理解して身体を起こし敦賀へと向けて腕を伸ばす。
寝台を降りて立ち上がろうとすればそれよりも早く敦賀に押し倒されて寝台へと沈み、そのまま抗う事も無く噛み付く様な口付けを受け入れた。
服を脱がされ下着も剥ぎ取られ、傷だらけ包帯とガーゼだらけの身体を敦賀の掌が、指先が、唇が舌が這い回る。いつの間にか敦賀も同じ様に身につけていたものを脱ぎ去り、自分と同じ様に傷だらけの身体にそっと口付ければ、それのお返しとでも言う様に首筋を緩く吸い上げられた。
その感触に思わず喘げば深い口付けで封じられ、
「……声、出すな……気付かれる」
熱く低い声でそう囁かれる。それに頷けば微笑むかの様に目を細められてまた口付けられ、もっととせがむ様に侵入して来た舌に自らのそれを絡め背中に回した腕に力を込めれば、膝裏に手を遣られて足を持ち上げられ、ゆっくりと敦賀の熱が体内へと割って入って来た。
声は出せないと口元に手の甲を押し当てて堪えれば代わりに涙が溢れ出し、敦賀の唇が眦に降りて来て爆ぜそうなその雫を吸い取って行く。
やがて始まった抽挿、激しく突き上げられながら敦賀を見上げれば苦しそうな面持ちがそこに有り、まるで泣いている様だ、そう思いつつ指先を彼の頬へと這わせればまた口付けを落とされる。
「……泣くな、どうしたら良いか分からん……だから、泣くな」
苦しそうにそう呟く敦賀、それを聞きながらタカコは敦賀の首に腕を回して抱き寄せながら双眸を閉じる。
これは愛じゃない、恋でもない。
惨めに傷ついた者同士の、傷の舐め合いだ。
後追いが現着した時、その現場の凄惨さには誰もが言葉を失った。鞘から抜いて手にした太刀は一振りもなされる事は無く、動くものは何一つ残っていない現場を目にして再度鞘へと収められた。
累々と転がる活骸の死体、その中心で背中合わせに座り込む大小二つの人影へと駆け寄れば、それは活骸の体液に塗れ己も身体のあちこちに傷を負った敦賀とタカコの姿。医療班をと叫ぶ周囲を無視し立ち上がり歩き出そうとした二人を何とかその場に押し止め、応急処置を施した。
「……間に合わなかったか」
「司令……はい、その様子です」
後追いから更に遅れて現着した高根、その彼がトラックから降りて来て二人の様子を見てそう言い、近くにいた士官がそれに言葉を返す。高根の視線の先にはタカコがしっかりと抱えた長門と三宅の身体、それを見て、高根は思わず歯を軋らせた。
三宅の様子が落ち着き過ぎているのを重く見るべきだった、彼が福井の事をどれだけ大切に想っていたかはたまに見掛ける二人を見るだけでよく分かっていたのに。こんな時には人間は何をするか分からない、そう用心してしっかりと監視しておくべきだった。
死を覚悟した人間、死を選択した人間が纏う落ち着きと覚悟、それを数多く目にして来た筈なのに、何故気付かなかったのかと歯噛みする。タカコと敦賀達の受けた衝撃はもっと深いだろう、何か切っ掛けが有って気付きここに先んじたのだろうが、そうであれば何故気付かなかったのかという後悔も自分よりも大きいに違い無い。
取り敢えず活骸が見当たらない今の内に撤収だ、精鋭を揃えたとは言ってもたったの三分隊、態勢も整っていない今これ以上の戦闘と危険は避けなければ。
「おい、立てるか、戻るぞ」
歩み寄ってそう声を掛ければ、手当てを受けて毛布を羽織らされていた二人が無言のままゆっくりと立ち上がり、周囲に促されてトラックの荷台へと歩いて行く。確認しなければならない事も多いが今は博多へと戻って休ませてやろう、そう思いながら周囲に即時撤収の命令を発し、高根もまたトラックへと戻って行った。
やがて人員の収容を終えて隊列を組んで走り出す一団、タカコはその中の一つの荷台の上で、毛布を羽織りあおりへと背を預け、澄み切った朝の空をぼんやりと眺めていた。
結局また守れなかった、死なせてしまった、殺してしまった人間の数が一つ増えた。三宅が自ら討ち死にを選んだ事は理解してはいるものの、それでも何か出来たのでは、思い止まらせる事が出来たのではという思いは消えはしない。
爆発しそうになる感情をどうにか抑え込んで毛布を握り締めて深く羽織れば、それを勘違いしたのか横にいる敦賀の腕が背中へと回されて肩を抱かれ、彼の方へと引き寄せられた。
「……寒ぃのか」
「……大丈夫」
問い掛けに短くそう答えて身体を戻そうとすれば更に強い力で抱き寄せられ、肩に置かれていた手が頭へと遣られそのまま胸板に押し付けられる。何を、そう問い掛けようとすればその前に
「……このままでいてくれ、頼む」
そう言われ、声が僅かに震えている事に気が付いたタカコは口元を歪め、そのまま力を抜いて敦賀へと身体を預けた。
そうだ、自分が、自分だけが傷ついているわけではない、自分よりも彼の方が余程傷つき悲しんでいる。親友を、戦友をこんな悲劇で亡くし傷つかない筈が無い、悲しまない筈が無い。また自分の事だけか、胸中でそう吐き捨てて歯を軋らせて目を閉じた。
やがて帰り着いた博多、海兵隊本部、そこで荷台を降り高根へと簡単な報告をした後は
「もう休め、疲れただろう。間に合わなかった事は考えるな、三宅が上手く隠してた、それだけの事だ」
と、労りとも慰めともつかない言葉を掛けられて敦賀と共に営舎に戻った。風呂に入って汚れを落とした後にまた手当てを受けて自室へと戻り、寝台へと寝転がって無言のまま天井を見上げてみる。
ここ数ヶ月周辺が落ち着かない、状況は好転する事無く悪化するばかり。それでも目の前の職務に没頭し続け、止めにこれとは流石に少し疲れてしまった。
息苦しい、自分という器の中に得体の知れない重く不気味なものが少しずつ少しずつ溜まっていき、今ではもう溢れそうになっている。これを吐き出したい、そう思いはするものの方法も分からずに持て余すばかり。
寒い、息苦しい、そう思って両腕で自分を抱き締めてみても少しも和らがず、誰か、何か、そんな風に思った直後、扉の開く音がしてそちらを見遣れば、入って来た敦賀と目が合った。
真っ直ぐに自分を見詰める眼差し、そこに宿った哀しみと熱、そして後ろ手に鍵を閉めた動作に、彼が今何を求めているのか、自分はどうしたいのか本能に違いところでタカコはそれを理解して身体を起こし敦賀へと向けて腕を伸ばす。
寝台を降りて立ち上がろうとすればそれよりも早く敦賀に押し倒されて寝台へと沈み、そのまま抗う事も無く噛み付く様な口付けを受け入れた。
服を脱がされ下着も剥ぎ取られ、傷だらけ包帯とガーゼだらけの身体を敦賀の掌が、指先が、唇が舌が這い回る。いつの間にか敦賀も同じ様に身につけていたものを脱ぎ去り、自分と同じ様に傷だらけの身体にそっと口付ければ、それのお返しとでも言う様に首筋を緩く吸い上げられた。
その感触に思わず喘げば深い口付けで封じられ、
「……声、出すな……気付かれる」
熱く低い声でそう囁かれる。それに頷けば微笑むかの様に目を細められてまた口付けられ、もっととせがむ様に侵入して来た舌に自らのそれを絡め背中に回した腕に力を込めれば、膝裏に手を遣られて足を持ち上げられ、ゆっくりと敦賀の熱が体内へと割って入って来た。
声は出せないと口元に手の甲を押し当てて堪えれば代わりに涙が溢れ出し、敦賀の唇が眦に降りて来て爆ぜそうなその雫を吸い取って行く。
やがて始まった抽挿、激しく突き上げられながら敦賀を見上げれば苦しそうな面持ちがそこに有り、まるで泣いている様だ、そう思いつつ指先を彼の頬へと這わせればまた口付けを落とされる。
「……泣くな、どうしたら良いか分からん……だから、泣くな」
苦しそうにそう呟く敦賀、それを聞きながらタカコは敦賀の首に腕を回して抱き寄せながら双眸を閉じる。
これは愛じゃない、恋でもない。
惨めに傷ついた者同士の、傷の舐め合いだ。
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