大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
90 / 101

第89章『身体』

しおりを挟む
第89章『身体』

 何度中に吐き出されたか何度達したかもう覚えていない、途中数度意識を飛ばしかけ、その度に首筋や肩に歯を立てられて強引に呼び戻された。その相手は漸く満足したのかそれとも気力か体力が尽きたのか、果てた後上に伸し掛かったまま眠りへと落ちて行き、今は耳元で静かな寝息を立てている。
「敦賀、重い、重いって……重いって言ってんだろうがこの唐変木」
 軽く罵ってみても彼が動く事は無く、死因が情交の後の圧死では死んでも死にきれない、そんな風に思いつつ全力で彼の身体を横へと押せば、それで漸くゆっくりと身体が脇へと退いて行った。
 寝入っていてもタカコを離す気は無いのか両腕でしっかりと彼女の身体を抱いたまま、抜け出そうとすれば逆に更に深く抱き締められ、タカコは最終的に脱出を諦め、抱き締められるままに敦賀の胸へと身体を預ける事にした。
 結局こうなってしまったか、自分の流され易さに頭痛すら感じて溜息を吐くが、そんな事をしてもやらかしてしまった事は無くならない、敦賀が目覚めた後にはそれなりの修羅場を覚悟する必要が有りそうだ。この男の本質は独占欲が強く、一度抱いたらもう離そうとはしないだろう、そこを突き放すつもりなのだから修羅場程度で済めば御の字かも知れない。
 寒くて息苦しくて、それを和らげる為に敦賀を求めた、そして、向こうも求めていると感じたから喜んで応じた、それだけだ。決して恋愛感情から抱かれたわけではないし、以前から気付いていた彼の気持ちに応えたわけでもない。しかしそれはこちらの勝手な都合で決めた事、それを彼に伝えたわけでもないのだから納得しないであろう事は当然だろう。
 どう話を進めたものか、寝顔を見上げながらそんな事を考えれば、思っていた以上に顔にも怪我をしているのに気が付いて、無意識にその傷へと手を伸ばす。
「あーあ……色男が台無しじゃん……こんなボロボロになっちゃって」
 割と整っているであろう敦賀の顔立ち、これで性格に難が無ければさぞやご婦人にもてそうなものだがこの性格では宝の持ち腐れか。そうか、だったら怪我をして傷物になってもそう大して困りはしないなと無責任な事を考えつつ緩く頬を摘めば、その感触で起こしてしまったのか薄らと双眸が開かれた。
 まだ暫くは余韻に浸っていたいのだが、このまままた眠ってはくれまいかというタカコの願いも虚しく身体を起こした敦賀が覆い被さって来る。続けて落とされる口付け割って入って来る舌、その感触に身体をぶるりと震わせれば、腰から胸に掛けての曲線をゆるりと掌で撫で上げられ、思わず喉の奥で小さく啼いた。
「……意識飛ばす位感じておいてまだ足りねぇのか、そんなに煽りやがって」
「なっ……もう離せよ!気の迷いだ気の迷い!」
 今目の前の朴念仁がとんでもない事を言い放った気がする、予想だにしなかったそれに反射的に言い返せば一瞬彼の瞳が揺れた気がして、それを見てタカコは自分がすべき、しなければならない事を思い出す。この男に抱かれてしまった、その事実が覆せないのなら、そこから軌道を修正しなければ、三宅と福井の様な甘い睦言を交わす仲になるわけにはいかないのだから。
「……気の迷いって、どういう意味だ」
「……そのままだ、誠ちゃんと寛和の事で精神的に不安定になってる、それは認めるよ。だから、安心したくて誰かの熱を感じたくて、そこにお前がいたから抱かれた、それだけだ。お前の身体は嫌いじゃないよ、寧ろ相性が合うみたいで気持ち良い。だから、これからも身体だけならくれてやる。私が抱いて欲しいと思った時に抱いてくれるなら、お前が抱きたいと思った時に抱かれてやるよ、幾らでも」
 敦賀に対して酷く残酷な事を言っているというのは理解している、実直で生真面目な彼がこんな提案を受け入れられるわけが無い事も。これで心が離れるのなら寧ろその方が良い、将来的に彼が受ける傷は浅く少なくて済むのだから。
「……そうか、分かった。俺もその方が都合が良い」
 敦賀のその言葉をタカコが理解するのに、少々の時間を費やした。漸く理解して彼の顔を見れば、酷く冷淡な眼差しを向けられているのに気が付いて思わず視線を逸らしてしまう。
「身体だけの付き合い、良いじゃねぇか、俺も面倒事は御免だ」
 自分が吐いた言葉を返されているだけ、それでも胸が痛くなる。思わず胸を押さえて俯けば、顎を無理矢理に掬い上げられて噛み付くような口付けを与えられた。
 口腔内を侵す舌、それにどう反応したら良いのかも分からないままに蹂躙され、漸く解放されたかと思えば足を割られて敦賀の無骨な指が中へと押し入って来て、その衝撃に思わず身体を弓なりにして高く声を上げた。
「っ……だから……声、出すんじゃねぇよ……!」
 強くはありつつも辛そうな声音、彼にああ言わせたのは、こんな辛さを与えているのは自分だ、本当にすまない、ごめんと胸中で繰り返しながらタカコは敦賀へとしがみつく。
 敦賀の為と誤魔化すのはもう止めよう、彼を突き放したのは自分自身の都合であり保身の為、彼を守る為では決してないのだから。そう思いながら敦賀へと口付ければ、強く深く抱き締められ、また涙が溢れ出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...