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第89章『身体』
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第89章『身体』
何度中に吐き出されたか何度達したかもう覚えていない、途中数度意識を飛ばしかけ、その度に首筋や肩に歯を立てられて強引に呼び戻された。その相手は漸く満足したのかそれとも気力か体力が尽きたのか、果てた後上に伸し掛かったまま眠りへと落ちて行き、今は耳元で静かな寝息を立てている。
「敦賀、重い、重いって……重いって言ってんだろうがこの唐変木」
軽く罵ってみても彼が動く事は無く、死因が情交の後の圧死では死んでも死にきれない、そんな風に思いつつ全力で彼の身体を横へと押せば、それで漸くゆっくりと身体が脇へと退いて行った。
寝入っていてもタカコを離す気は無いのか両腕でしっかりと彼女の身体を抱いたまま、抜け出そうとすれば逆に更に深く抱き締められ、タカコは最終的に脱出を諦め、抱き締められるままに敦賀の胸へと身体を預ける事にした。
結局こうなってしまったか、自分の流され易さに頭痛すら感じて溜息を吐くが、そんな事をしてもやらかしてしまった事は無くならない、敦賀が目覚めた後にはそれなりの修羅場を覚悟する必要が有りそうだ。この男の本質は独占欲が強く、一度抱いたらもう離そうとはしないだろう、そこを突き放すつもりなのだから修羅場程度で済めば御の字かも知れない。
寒くて息苦しくて、それを和らげる為に敦賀を求めた、そして、向こうも求めていると感じたから喜んで応じた、それだけだ。決して恋愛感情から抱かれたわけではないし、以前から気付いていた彼の気持ちに応えたわけでもない。しかしそれはこちらの勝手な都合で決めた事、それを彼に伝えたわけでもないのだから納得しないであろう事は当然だろう。
どう話を進めたものか、寝顔を見上げながらそんな事を考えれば、思っていた以上に顔にも怪我をしているのに気が付いて、無意識にその傷へと手を伸ばす。
「あーあ……色男が台無しじゃん……こんなボロボロになっちゃって」
割と整っているであろう敦賀の顔立ち、これで性格に難が無ければさぞやご婦人にもてそうなものだがこの性格では宝の持ち腐れか。そうか、だったら怪我をして傷物になってもそう大して困りはしないなと無責任な事を考えつつ緩く頬を摘めば、その感触で起こしてしまったのか薄らと双眸が開かれた。
まだ暫くは余韻に浸っていたいのだが、このまままた眠ってはくれまいかというタカコの願いも虚しく身体を起こした敦賀が覆い被さって来る。続けて落とされる口付け割って入って来る舌、その感触に身体をぶるりと震わせれば、腰から胸に掛けての曲線をゆるりと掌で撫で上げられ、思わず喉の奥で小さく啼いた。
「……意識飛ばす位感じておいてまだ足りねぇのか、そんなに煽りやがって」
「なっ……もう離せよ!気の迷いだ気の迷い!」
今目の前の朴念仁がとんでもない事を言い放った気がする、予想だにしなかったそれに反射的に言い返せば一瞬彼の瞳が揺れた気がして、それを見てタカコは自分がすべき、しなければならない事を思い出す。この男に抱かれてしまった、その事実が覆せないのなら、そこから軌道を修正しなければ、三宅と福井の様な甘い睦言を交わす仲になるわけにはいかないのだから。
「……気の迷いって、どういう意味だ」
「……そのままだ、誠ちゃんと寛和の事で精神的に不安定になってる、それは認めるよ。だから、安心したくて誰かの熱を感じたくて、そこにお前がいたから抱かれた、それだけだ。お前の身体は嫌いじゃないよ、寧ろ相性が合うみたいで気持ち良い。だから、これからも身体だけならくれてやる。私が抱いて欲しいと思った時に抱いてくれるなら、お前が抱きたいと思った時に抱かれてやるよ、幾らでも」
敦賀に対して酷く残酷な事を言っているというのは理解している、実直で生真面目な彼がこんな提案を受け入れられるわけが無い事も。これで心が離れるのなら寧ろその方が良い、将来的に彼が受ける傷は浅く少なくて済むのだから。
「……そうか、分かった。俺もその方が都合が良い」
敦賀のその言葉をタカコが理解するのに、少々の時間を費やした。漸く理解して彼の顔を見れば、酷く冷淡な眼差しを向けられているのに気が付いて思わず視線を逸らしてしまう。
「身体だけの付き合い、良いじゃねぇか、俺も面倒事は御免だ」
自分が吐いた言葉を返されているだけ、それでも胸が痛くなる。思わず胸を押さえて俯けば、顎を無理矢理に掬い上げられて噛み付くような口付けを与えられた。
口腔内を侵す舌、それにどう反応したら良いのかも分からないままに蹂躙され、漸く解放されたかと思えば足を割られて敦賀の無骨な指が中へと押し入って来て、その衝撃に思わず身体を弓なりにして高く声を上げた。
「っ……だから……声、出すんじゃねぇよ……!」
強くはありつつも辛そうな声音、彼にああ言わせたのは、こんな辛さを与えているのは自分だ、本当にすまない、ごめんと胸中で繰り返しながらタカコは敦賀へとしがみつく。
敦賀の為と誤魔化すのはもう止めよう、彼を突き放したのは自分自身の都合であり保身の為、彼を守る為では決してないのだから。そう思いながら敦賀へと口付ければ、強く深く抱き締められ、また涙が溢れ出た。
何度中に吐き出されたか何度達したかもう覚えていない、途中数度意識を飛ばしかけ、その度に首筋や肩に歯を立てられて強引に呼び戻された。その相手は漸く満足したのかそれとも気力か体力が尽きたのか、果てた後上に伸し掛かったまま眠りへと落ちて行き、今は耳元で静かな寝息を立てている。
「敦賀、重い、重いって……重いって言ってんだろうがこの唐変木」
軽く罵ってみても彼が動く事は無く、死因が情交の後の圧死では死んでも死にきれない、そんな風に思いつつ全力で彼の身体を横へと押せば、それで漸くゆっくりと身体が脇へと退いて行った。
寝入っていてもタカコを離す気は無いのか両腕でしっかりと彼女の身体を抱いたまま、抜け出そうとすれば逆に更に深く抱き締められ、タカコは最終的に脱出を諦め、抱き締められるままに敦賀の胸へと身体を預ける事にした。
結局こうなってしまったか、自分の流され易さに頭痛すら感じて溜息を吐くが、そんな事をしてもやらかしてしまった事は無くならない、敦賀が目覚めた後にはそれなりの修羅場を覚悟する必要が有りそうだ。この男の本質は独占欲が強く、一度抱いたらもう離そうとはしないだろう、そこを突き放すつもりなのだから修羅場程度で済めば御の字かも知れない。
寒くて息苦しくて、それを和らげる為に敦賀を求めた、そして、向こうも求めていると感じたから喜んで応じた、それだけだ。決して恋愛感情から抱かれたわけではないし、以前から気付いていた彼の気持ちに応えたわけでもない。しかしそれはこちらの勝手な都合で決めた事、それを彼に伝えたわけでもないのだから納得しないであろう事は当然だろう。
どう話を進めたものか、寝顔を見上げながらそんな事を考えれば、思っていた以上に顔にも怪我をしているのに気が付いて、無意識にその傷へと手を伸ばす。
「あーあ……色男が台無しじゃん……こんなボロボロになっちゃって」
割と整っているであろう敦賀の顔立ち、これで性格に難が無ければさぞやご婦人にもてそうなものだがこの性格では宝の持ち腐れか。そうか、だったら怪我をして傷物になってもそう大して困りはしないなと無責任な事を考えつつ緩く頬を摘めば、その感触で起こしてしまったのか薄らと双眸が開かれた。
まだ暫くは余韻に浸っていたいのだが、このまままた眠ってはくれまいかというタカコの願いも虚しく身体を起こした敦賀が覆い被さって来る。続けて落とされる口付け割って入って来る舌、その感触に身体をぶるりと震わせれば、腰から胸に掛けての曲線をゆるりと掌で撫で上げられ、思わず喉の奥で小さく啼いた。
「……意識飛ばす位感じておいてまだ足りねぇのか、そんなに煽りやがって」
「なっ……もう離せよ!気の迷いだ気の迷い!」
今目の前の朴念仁がとんでもない事を言い放った気がする、予想だにしなかったそれに反射的に言い返せば一瞬彼の瞳が揺れた気がして、それを見てタカコは自分がすべき、しなければならない事を思い出す。この男に抱かれてしまった、その事実が覆せないのなら、そこから軌道を修正しなければ、三宅と福井の様な甘い睦言を交わす仲になるわけにはいかないのだから。
「……気の迷いって、どういう意味だ」
「……そのままだ、誠ちゃんと寛和の事で精神的に不安定になってる、それは認めるよ。だから、安心したくて誰かの熱を感じたくて、そこにお前がいたから抱かれた、それだけだ。お前の身体は嫌いじゃないよ、寧ろ相性が合うみたいで気持ち良い。だから、これからも身体だけならくれてやる。私が抱いて欲しいと思った時に抱いてくれるなら、お前が抱きたいと思った時に抱かれてやるよ、幾らでも」
敦賀に対して酷く残酷な事を言っているというのは理解している、実直で生真面目な彼がこんな提案を受け入れられるわけが無い事も。これで心が離れるのなら寧ろその方が良い、将来的に彼が受ける傷は浅く少なくて済むのだから。
「……そうか、分かった。俺もその方が都合が良い」
敦賀のその言葉をタカコが理解するのに、少々の時間を費やした。漸く理解して彼の顔を見れば、酷く冷淡な眼差しを向けられているのに気が付いて思わず視線を逸らしてしまう。
「身体だけの付き合い、良いじゃねぇか、俺も面倒事は御免だ」
自分が吐いた言葉を返されているだけ、それでも胸が痛くなる。思わず胸を押さえて俯けば、顎を無理矢理に掬い上げられて噛み付くような口付けを与えられた。
口腔内を侵す舌、それにどう反応したら良いのかも分からないままに蹂躙され、漸く解放されたかと思えば足を割られて敦賀の無骨な指が中へと押し入って来て、その衝撃に思わず身体を弓なりにして高く声を上げた。
「っ……だから……声、出すんじゃねぇよ……!」
強くはありつつも辛そうな声音、彼にああ言わせたのは、こんな辛さを与えているのは自分だ、本当にすまない、ごめんと胸中で繰り返しながらタカコは敦賀へとしがみつく。
敦賀の為と誤魔化すのはもう止めよう、彼を突き放したのは自分自身の都合であり保身の為、彼を守る為では決してないのだから。そう思いながら敦賀へと口付ければ、強く深く抱き締められ、また涙が溢れ出た。
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