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第92章『独占』
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第92章『独占』
身体が重い、指一本動かすのも億劫だ、浮上する意識の中そんな事を思いながら瞼を持ち上げれば、見た事の無い天井が目に入る。宿の離れの天井とは木目も色も違う、ここは何処なんだと起き上がれば、見た事の無い部屋で寝台に寝かされているのに気が付いた。隣にはまだ寝入ったままの黒川の姿、状況が飲み込めずに再度身体を横たえれば、その動きで目を覚ましたのか黒川の両腕が身体へと絡みついて来る。
「タツさん……、ここ、何処」
「俺の家、俺の部屋」
ああ、道理で全体的に白檀の香りがするわけだ、しかし何故宿からここに移動させられているのか、そう彼へと問い掛ければ
「朝になってもぴくりとも動かなかったから抱き抱えて連れて来た、俺今日休みだし」
との単純明快な答えが返されて、途中からは全く覚えていないがあれだけ激しくやられればそれは起きられなかったろうなと、昨夜の事を思い出してげんなりとした心持ちになる。
「……で、帰宅したからには服も着たんだろうに、何で今お互いに素っ裸なの」
「帰って来てからもやったから、二回」
「うわー……寝込み襲うとかサイテー……」
「言っておくが凄い感じまくってたぞお前、起きてると思ってたわ」
「だから!そういう事を――」
抗議の言葉はまたも口付けで封じ込められ、どれ程の時間口腔内を蹂躙されたのか身体から力が抜けた頃に漸く解放された。
「優しく出来ないって言ったろ?」
「……意味、分かんない……何でそんなに怒ってるのさ」
「……お前があいつに抱かれたから」
「だから、何でタツさんがそれで怒るのよ、そういうのは私達の間では関係無いでしょ?」
タカコのその言葉で黒川の怒りが再燃する、確かに身体の関係でと持ち掛けたのは自分だ、それを否定する気は無いが何も伝わっていないのか、それとも伝わっていても無視をするのかと苛立ちに任せて捩じ込めば、流石に痛みが勝るのかタカコの顔が苦痛に歪む。
「タツさ……いた、い……!」
男の自分ですら痛みを感じるのだ、タカコの苦痛は相当なものだろう、それでも腰を引いて抜き去る事も出来ず、力任せに割り入って根元迄沈め込む。痛みを堪えて小さく震える身体、それを抱き締めて宥める様にして髪を撫で付けて額へと口付けを落とせば、縋り付く様に首と背中に細い腕が回されて抱きついて来た。
「……痛い、か?ごめんな、でも、やっぱり優しく出来ねぇよ、俺が気に入って手に入れた身体を他の男に許すとかよ……お前の身体は俺のものだろうが……!」
「ち、がう……!」
「違わねぇよ!」
タカコの言っている事の方が正しい、それは黒川にも分かっている。けれど、身体と心の奥底から噴き出すどす黒い感情はそんな正論には耳を貸さず、タカコを攻め立てろと黒川を追い立てる。怒りが勝り快感には程遠い交わり、それでも中へと吐き出せば腕の中の身体はしなり震え、それをきつく抱き締めながら、
「……もう、帰さねぇ……ずっと俺の傍にいろ」
と、耳元でそう囁く。
それにも緩く頭を降って否定し拒否するタカコ、それにどうしようもない憤りを感じた黒川が再び貫き、やがて漸くと訪れた快感に翻弄され続けた彼女が意識を飛ばす迄数度にわたってそれは続けられた。
「……タカコ……?」
どれ程の時間が経過したのか昨日と同じ様に意識を飛ばし微動だにしなくなったタカコ、呼吸で腹が微かに上下するだけになった彼女の名前を呼び、黒川は軽く頬に口付けて身体を起こし部屋を出た。向かった先は風呂、栓を捻って頭から水を被り、それが段々と温かくなっていくのをぼんやりと感じていた。
先程タカコに言った『もう帰さない』は情事の際の戯れの言葉ではなく本気だ、敦賀が抱く事を彼女自身が承諾したのならこれからもそんな事は何度も有るだろう、それを承服出来る程自分は人間は出来ていない。それを避けたいのなら方法は一つ、タカコを彼から遠ざけるしか無い。
確実に高根と大揉めするだろう、彼は男としてはタカコを必要としている訳ではないが、軍人としての彼はタカコを必要不可欠の要素として認識している、その彼から陸軍の自分が彼女を取り上げて手元に置くとなれば黙っている訳が無い。
海兵隊への協力を一切させないという気は無いが、営舎にはもう置いておけない、営外に出し手元に置き、そこから毎日通わせるのが最低条件だ。自分にしてみればこれが最大限の譲歩だが高根や敦賀にとっては容認出来る程度ではない筈だ、下手をしたら、否、どう転んでも長年続いて来た高根との友情にも修復不可能な亀裂が入るだろう。
敦賀の方はどうとでもなるだろうという思いが強い、或る意味高根以上に怒り狂う事は目に見えているが、彼の場合は完全に個人的な感情だ、それで事を大袈裟にして陸軍と海兵隊の間に今以上の軋轢を生む様な愚行には出ないだろう。その程度には頭が働き、そして海兵隊へと誓った忠誠は誰よりも厚い。
海兵隊への協力は今迄通り、毎日本部や道場で顔を合わせるのも許そう、出撃に関しても認めてやる。しかし、男として彼女に触れて抱く事だけは許さない、彼女の身体は、否、彼女の全ては自分のものだ、他の男が触れるのは許さない。
近い内にタカコの部屋を整えよう、それ迄は自分と同室で我慢してもらうか、身体を洗い風呂を出て下着を穿き、髪を拭きながら自室へと戻る。時刻はもう夕方近いし腹も減ったが、タカコが目を覚ます迄は彼女の寝顔を見ながらごろごろしていようか、そんな事を考えつつ自室の扉を開けた直後突然に脇から湧いて出た殺気、それを感じた時には態勢を整える間も無く床の上へと組み伏せられていた。
誰だ、タカコは、寝台の方へと視線をやれば彼女はまだ寝ているのか膨らみが見える、あちらに危害が加えられない様に注意を自らへと引き付け続けなければ、上に伸し掛かる相手を跳ね飛ばそうと黒川が身体に力を入れた時、頭上から降って来た声はとても聞き慣れたものだった。
「……痛い目を見たくなれば抵抗はしない方が良い、対人制圧は私の専門だ」
身体が重い、指一本動かすのも億劫だ、浮上する意識の中そんな事を思いながら瞼を持ち上げれば、見た事の無い天井が目に入る。宿の離れの天井とは木目も色も違う、ここは何処なんだと起き上がれば、見た事の無い部屋で寝台に寝かされているのに気が付いた。隣にはまだ寝入ったままの黒川の姿、状況が飲み込めずに再度身体を横たえれば、その動きで目を覚ましたのか黒川の両腕が身体へと絡みついて来る。
「タツさん……、ここ、何処」
「俺の家、俺の部屋」
ああ、道理で全体的に白檀の香りがするわけだ、しかし何故宿からここに移動させられているのか、そう彼へと問い掛ければ
「朝になってもぴくりとも動かなかったから抱き抱えて連れて来た、俺今日休みだし」
との単純明快な答えが返されて、途中からは全く覚えていないがあれだけ激しくやられればそれは起きられなかったろうなと、昨夜の事を思い出してげんなりとした心持ちになる。
「……で、帰宅したからには服も着たんだろうに、何で今お互いに素っ裸なの」
「帰って来てからもやったから、二回」
「うわー……寝込み襲うとかサイテー……」
「言っておくが凄い感じまくってたぞお前、起きてると思ってたわ」
「だから!そういう事を――」
抗議の言葉はまたも口付けで封じ込められ、どれ程の時間口腔内を蹂躙されたのか身体から力が抜けた頃に漸く解放された。
「優しく出来ないって言ったろ?」
「……意味、分かんない……何でそんなに怒ってるのさ」
「……お前があいつに抱かれたから」
「だから、何でタツさんがそれで怒るのよ、そういうのは私達の間では関係無いでしょ?」
タカコのその言葉で黒川の怒りが再燃する、確かに身体の関係でと持ち掛けたのは自分だ、それを否定する気は無いが何も伝わっていないのか、それとも伝わっていても無視をするのかと苛立ちに任せて捩じ込めば、流石に痛みが勝るのかタカコの顔が苦痛に歪む。
「タツさ……いた、い……!」
男の自分ですら痛みを感じるのだ、タカコの苦痛は相当なものだろう、それでも腰を引いて抜き去る事も出来ず、力任せに割り入って根元迄沈め込む。痛みを堪えて小さく震える身体、それを抱き締めて宥める様にして髪を撫で付けて額へと口付けを落とせば、縋り付く様に首と背中に細い腕が回されて抱きついて来た。
「……痛い、か?ごめんな、でも、やっぱり優しく出来ねぇよ、俺が気に入って手に入れた身体を他の男に許すとかよ……お前の身体は俺のものだろうが……!」
「ち、がう……!」
「違わねぇよ!」
タカコの言っている事の方が正しい、それは黒川にも分かっている。けれど、身体と心の奥底から噴き出すどす黒い感情はそんな正論には耳を貸さず、タカコを攻め立てろと黒川を追い立てる。怒りが勝り快感には程遠い交わり、それでも中へと吐き出せば腕の中の身体はしなり震え、それをきつく抱き締めながら、
「……もう、帰さねぇ……ずっと俺の傍にいろ」
と、耳元でそう囁く。
それにも緩く頭を降って否定し拒否するタカコ、それにどうしようもない憤りを感じた黒川が再び貫き、やがて漸くと訪れた快感に翻弄され続けた彼女が意識を飛ばす迄数度にわたってそれは続けられた。
「……タカコ……?」
どれ程の時間が経過したのか昨日と同じ様に意識を飛ばし微動だにしなくなったタカコ、呼吸で腹が微かに上下するだけになった彼女の名前を呼び、黒川は軽く頬に口付けて身体を起こし部屋を出た。向かった先は風呂、栓を捻って頭から水を被り、それが段々と温かくなっていくのをぼんやりと感じていた。
先程タカコに言った『もう帰さない』は情事の際の戯れの言葉ではなく本気だ、敦賀が抱く事を彼女自身が承諾したのならこれからもそんな事は何度も有るだろう、それを承服出来る程自分は人間は出来ていない。それを避けたいのなら方法は一つ、タカコを彼から遠ざけるしか無い。
確実に高根と大揉めするだろう、彼は男としてはタカコを必要としている訳ではないが、軍人としての彼はタカコを必要不可欠の要素として認識している、その彼から陸軍の自分が彼女を取り上げて手元に置くとなれば黙っている訳が無い。
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敦賀の方はどうとでもなるだろうという思いが強い、或る意味高根以上に怒り狂う事は目に見えているが、彼の場合は完全に個人的な感情だ、それで事を大袈裟にして陸軍と海兵隊の間に今以上の軋轢を生む様な愚行には出ないだろう。その程度には頭が働き、そして海兵隊へと誓った忠誠は誰よりも厚い。
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誰だ、タカコは、寝台の方へと視線をやれば彼女はまだ寝ているのか膨らみが見える、あちらに危害が加えられない様に注意を自らへと引き付け続けなければ、上に伸し掛かる相手を跳ね飛ばそうと黒川が身体に力を入れた時、頭上から降って来た声はとても聞き慣れたものだった。
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