大和―YAMATO― 第一部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
93 / 101

第92章『独占』

しおりを挟む
第92章『独占』

 身体が重い、指一本動かすのも億劫だ、浮上する意識の中そんな事を思いながら瞼を持ち上げれば、見た事の無い天井が目に入る。宿の離れの天井とは木目も色も違う、ここは何処なんだと起き上がれば、見た事の無い部屋で寝台に寝かされているのに気が付いた。隣にはまだ寝入ったままの黒川の姿、状況が飲み込めずに再度身体を横たえれば、その動きで目を覚ましたのか黒川の両腕が身体へと絡みついて来る。
「タツさん……、ここ、何処」
「俺の家、俺の部屋」
 ああ、道理で全体的に白檀の香りがするわけだ、しかし何故宿からここに移動させられているのか、そう彼へと問い掛ければ
「朝になってもぴくりとも動かなかったから抱き抱えて連れて来た、俺今日休みだし」
 との単純明快な答えが返されて、途中からは全く覚えていないがあれだけ激しくやられればそれは起きられなかったろうなと、昨夜の事を思い出してげんなりとした心持ちになる。
「……で、帰宅したからには服も着たんだろうに、何で今お互いに素っ裸なの」
「帰って来てからもやったから、二回」
「うわー……寝込み襲うとかサイテー……」
「言っておくが凄い感じまくってたぞお前、起きてると思ってたわ」
「だから!そういう事を――」
 抗議の言葉はまたも口付けで封じ込められ、どれ程の時間口腔内を蹂躙されたのか身体から力が抜けた頃に漸く解放された。
「優しく出来ないって言ったろ?」
「……意味、分かんない……何でそんなに怒ってるのさ」
「……お前があいつに抱かれたから」
「だから、何でタツさんがそれで怒るのよ、そういうのは私達の間では関係無いでしょ?」
 タカコのその言葉で黒川の怒りが再燃する、確かに身体の関係でと持ち掛けたのは自分だ、それを否定する気は無いが何も伝わっていないのか、それとも伝わっていても無視をするのかと苛立ちに任せて捩じ込めば、流石に痛みが勝るのかタカコの顔が苦痛に歪む。
「タツさ……いた、い……!」
 男の自分ですら痛みを感じるのだ、タカコの苦痛は相当なものだろう、それでも腰を引いて抜き去る事も出来ず、力任せに割り入って根元迄沈め込む。痛みを堪えて小さく震える身体、それを抱き締めて宥める様にして髪を撫で付けて額へと口付けを落とせば、縋り付く様に首と背中に細い腕が回されて抱きついて来た。
「……痛い、か?ごめんな、でも、やっぱり優しく出来ねぇよ、俺が気に入って手に入れた身体を他の男に許すとかよ……お前の身体は俺のものだろうが……!」
「ち、がう……!」
「違わねぇよ!」
 タカコの言っている事の方が正しい、それは黒川にも分かっている。けれど、身体と心の奥底から噴き出すどす黒い感情はそんな正論には耳を貸さず、タカコを攻め立てろと黒川を追い立てる。怒りが勝り快感には程遠い交わり、それでも中へと吐き出せば腕の中の身体はしなり震え、それをきつく抱き締めながら、
「……もう、帰さねぇ……ずっと俺の傍にいろ」
 と、耳元でそう囁く。
 それにも緩く頭を降って否定し拒否するタカコ、それにどうしようもない憤りを感じた黒川が再び貫き、やがて漸くと訪れた快感に翻弄され続けた彼女が意識を飛ばす迄数度にわたってそれは続けられた。
「……タカコ……?」
 どれ程の時間が経過したのか昨日と同じ様に意識を飛ばし微動だにしなくなったタカコ、呼吸で腹が微かに上下するだけになった彼女の名前を呼び、黒川は軽く頬に口付けて身体を起こし部屋を出た。向かった先は風呂、栓を捻って頭から水を被り、それが段々と温かくなっていくのをぼんやりと感じていた。
 先程タカコに言った『もう帰さない』は情事の際の戯れの言葉ではなく本気だ、敦賀が抱く事を彼女自身が承諾したのならこれからもそんな事は何度も有るだろう、それを承服出来る程自分は人間は出来ていない。それを避けたいのなら方法は一つ、タカコを彼から遠ざけるしか無い。
 確実に高根と大揉めするだろう、彼は男としてはタカコを必要としている訳ではないが、軍人としての彼はタカコを必要不可欠の要素として認識している、その彼から陸軍の自分が彼女を取り上げて手元に置くとなれば黙っている訳が無い。
 海兵隊への協力を一切させないという気は無いが、営舎にはもう置いておけない、営外に出し手元に置き、そこから毎日通わせるのが最低条件だ。自分にしてみればこれが最大限の譲歩だが高根や敦賀にとっては容認出来る程度ではない筈だ、下手をしたら、否、どう転んでも長年続いて来た高根との友情にも修復不可能な亀裂が入るだろう。
 敦賀の方はどうとでもなるだろうという思いが強い、或る意味高根以上に怒り狂う事は目に見えているが、彼の場合は完全に個人的な感情だ、それで事を大袈裟にして陸軍と海兵隊の間に今以上の軋轢を生む様な愚行には出ないだろう。その程度には頭が働き、そして海兵隊へと誓った忠誠は誰よりも厚い。
 海兵隊への協力は今迄通り、毎日本部や道場で顔を合わせるのも許そう、出撃に関しても認めてやる。しかし、男として彼女に触れて抱く事だけは許さない、彼女の身体は、否、彼女の全ては自分のものだ、他の男が触れるのは許さない。
 近い内にタカコの部屋を整えよう、それ迄は自分と同室で我慢してもらうか、身体を洗い風呂を出て下着を穿き、髪を拭きながら自室へと戻る。時刻はもう夕方近いし腹も減ったが、タカコが目を覚ます迄は彼女の寝顔を見ながらごろごろしていようか、そんな事を考えつつ自室の扉を開けた直後突然に脇から湧いて出た殺気、それを感じた時には態勢を整える間も無く床の上へと組み伏せられていた。
 誰だ、タカコは、寝台の方へと視線をやれば彼女はまだ寝ているのか膨らみが見える、あちらに危害が加えられない様に注意を自らへと引き付け続けなければ、上に伸し掛かる相手を跳ね飛ばそうと黒川が身体に力を入れた時、頭上から降って来た声はとても聞き慣れたものだった。

「……痛い目を見たくなれば抵抗はしない方が良い、対人制圧は私の専門だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

処理中です...