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第421章『窺い知れる狙い』
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第421章『窺い知れる狙い』
黒川が敵の死体を冷たい眼差しで見下ろしていたのと同じ頃合い、夜明けと共に大和海兵隊は再び動き始め、Pへの猛攻を再開していた。相当の手練れが相手の為か行動不能に陥る程の負傷をさせるには至らず、それでもその勢いが止む事は無く、タカコ達は夜間の内に詰めた基地迄の距離を少しずつ空け始め、時刻が正午を回る頃になると、とうとう持ち堪えられなくなったのか東北東の方角へと向かって明確な後退を始めた。
後退するP、それを追う海兵隊、更にそこにタカコ達を追跡するヨシユキの部隊が加わり、博多市街地に軍事的空白地帯が急速に出来上がっていく。ヨシユキもこの事態に多少の躊躇はしたものの、街へと出た海兵隊以外に大和軍に動きは無く、最低限の兵員を市街地に残し、タカコ達を追う海兵隊を追跡する方向へと戦力の殆どを集中させる事を最終的に決断した。
海兵隊の兵員はタカコ達と自分達の総合的な戦闘能力の格差を的確に理解しているのか単独で動く事は無く、常に複数で行動している所為でタカコ達は決定的な反撃をする事が出来ない状態でいる。タカコも部下達も時折反撃を試みはするもののその全てが不発に終わり、多少の武器や弾薬を奪う事しか出来ていない様子だと、部下からそう報告を受けている。
そう、そこが拙い――、と、ヨシユキは僅かに眉根を寄せてタカコ達が逃走を開始した方向、博多市街地の東北東の方向へと視線を遣った。博多市街地はその外側は直ぐに山がちな地形となっており、東北東にも城ノ越山や三日月山や立花山という、標高は低いが潜むには充分な面積の山が在る。そこは市街地から最短距離に在る山でもあり、タカコがそこへ入り一旦撤退し態勢を立て直すという判断を下した事は間違い無いだろう。活骸との戦いしか知らない大和人、事前の調査でも山岳訓練をしたという記録は見つからなかったし、何よりも、森林地帯や山岳地帯に潜伏してのアンブッシュ――、待ち伏せからの奇襲はタカコの得意とする戦法だ。大和人に経験が無い事はタカコも知っているから、自分達に有利な状況を引き出そうと彼女が下した決断は正鵠を射ていると言って良い。
だが、それは海兵隊を自分達の部隊に置き換えても同じ事で、山に籠られてしまっては事が長引いてしまうというのがヨシユキが今懸念している事だった。
海兵隊基地を襲撃しそれを餌にタカコ達を引き戻すという目論見は、大和陸軍の待ち伏せにより襲撃に投入した指揮下の部隊が全滅という憂き目を見た。少々相手を見縊り過ぎていた様だと自分の慢心を戒めはしたが、あれでタカコ達が戻って来る様子も無く、次の手を考えなければと頭を切り替えればこの現状だ。さて、どうするかと思いつつ、腕を組み指先で反対の腕をトントンと叩く。
陸軍の襲撃により相応の損害を被り兵員を失った、この状態で大和軍とPの両方を相手にしようとするのは得策ではない。戦闘能力的には劣るが博多沖の艦隊を除き陸上部隊に限定すれば他陣営を圧倒する兵力を擁する大和軍と、数では最少部隊だが少数最精鋭を謳い個々の兵員の能力では他を圧倒し、そして、部隊を構成する個々人を少なからず知っているP――、そのどちらをへと的を絞るかと問われれば、ヨシユキの答えは決まりきっていた。
戦闘の相当数の局面に於いて数は力、今大和軍と組み合うのは避けた方が良い。それならば、山中に入る前にタカコ達Pを捕捉するべきだ。その為には先ずは彼女等を追跡する海兵隊を始末する事にするか、と、誰に言うでもなく小さく呟くと、傍に控えていた部下に再度その旨を命令し椅子へと腰を下ろす。
タカコ達の方向しか見ていない割に海兵隊に未だ戦死者は出ていない。タカコ達も、そして自分の部下も彼等を仕留めるに至っていない。逆に自分の部下が明け方近くに消防署の近くで狙撃銃により射殺され、体内に残っていた弾頭からそれは大和軍によって為されたという事が判明している。この状態が齎されているのは、彼等海兵隊がこの博多の地形を知り抜いているからだろう。土地勘は大きな武器になる、最大の兵力を擁する組織が土地勘を持っていれば、この事態も当然の成り行きなのかも知れない。
こうして俯瞰的に見ていると彼等もまたタカコ達が山中へと入る事を警戒しているのか、Pを基地から遠ざけつつも土地勘の利く市街地へと留めておきたいという意図が見える。その為に東北東へと進行するタカコ達の進路を爆破や砲撃により変えさせようとしているが、そこは流石にPも百戦錬磨の手練れ揃い、何とかそれを躱し躱し、目的地であろう山岳地帯の入口になる城ノ越山へと向けて進み続けていた。あそこに入られてしまえば、その北東から南東に掛けては広大な山岳地帯が広がっている、山岳地帯での軍事行動には不慣れな大和軍にとっては是が非でも食い止めたいところだろう。
しかし、考え方を変えればこの状況は自分達にとっては好機だな、と、ヨシユキはそんな事をふと考えた。
タカコ達が山に近付けば近付く程、それを追う海兵隊の意識は前へと、逃げるPへと集中する。その隙に一気に距離を詰め、背後から一気に叩けば恐らくは海兵隊の主力部隊である彼等を殲滅する事も可能だろう。無論その成功が確認出来る瞬間迄気は一切抜けないが、と、脇に置いた水筒を手に取り中身を呷りながら、ヨシユキの視線はタカコ達が進み続けている方向へと向けられていた。
黒川が敵の死体を冷たい眼差しで見下ろしていたのと同じ頃合い、夜明けと共に大和海兵隊は再び動き始め、Pへの猛攻を再開していた。相当の手練れが相手の為か行動不能に陥る程の負傷をさせるには至らず、それでもその勢いが止む事は無く、タカコ達は夜間の内に詰めた基地迄の距離を少しずつ空け始め、時刻が正午を回る頃になると、とうとう持ち堪えられなくなったのか東北東の方角へと向かって明確な後退を始めた。
後退するP、それを追う海兵隊、更にそこにタカコ達を追跡するヨシユキの部隊が加わり、博多市街地に軍事的空白地帯が急速に出来上がっていく。ヨシユキもこの事態に多少の躊躇はしたものの、街へと出た海兵隊以外に大和軍に動きは無く、最低限の兵員を市街地に残し、タカコ達を追う海兵隊を追跡する方向へと戦力の殆どを集中させる事を最終的に決断した。
海兵隊の兵員はタカコ達と自分達の総合的な戦闘能力の格差を的確に理解しているのか単独で動く事は無く、常に複数で行動している所為でタカコ達は決定的な反撃をする事が出来ない状態でいる。タカコも部下達も時折反撃を試みはするもののその全てが不発に終わり、多少の武器や弾薬を奪う事しか出来ていない様子だと、部下からそう報告を受けている。
そう、そこが拙い――、と、ヨシユキは僅かに眉根を寄せてタカコ達が逃走を開始した方向、博多市街地の東北東の方向へと視線を遣った。博多市街地はその外側は直ぐに山がちな地形となっており、東北東にも城ノ越山や三日月山や立花山という、標高は低いが潜むには充分な面積の山が在る。そこは市街地から最短距離に在る山でもあり、タカコがそこへ入り一旦撤退し態勢を立て直すという判断を下した事は間違い無いだろう。活骸との戦いしか知らない大和人、事前の調査でも山岳訓練をしたという記録は見つからなかったし、何よりも、森林地帯や山岳地帯に潜伏してのアンブッシュ――、待ち伏せからの奇襲はタカコの得意とする戦法だ。大和人に経験が無い事はタカコも知っているから、自分達に有利な状況を引き出そうと彼女が下した決断は正鵠を射ていると言って良い。
だが、それは海兵隊を自分達の部隊に置き換えても同じ事で、山に籠られてしまっては事が長引いてしまうというのがヨシユキが今懸念している事だった。
海兵隊基地を襲撃しそれを餌にタカコ達を引き戻すという目論見は、大和陸軍の待ち伏せにより襲撃に投入した指揮下の部隊が全滅という憂き目を見た。少々相手を見縊り過ぎていた様だと自分の慢心を戒めはしたが、あれでタカコ達が戻って来る様子も無く、次の手を考えなければと頭を切り替えればこの現状だ。さて、どうするかと思いつつ、腕を組み指先で反対の腕をトントンと叩く。
陸軍の襲撃により相応の損害を被り兵員を失った、この状態で大和軍とPの両方を相手にしようとするのは得策ではない。戦闘能力的には劣るが博多沖の艦隊を除き陸上部隊に限定すれば他陣営を圧倒する兵力を擁する大和軍と、数では最少部隊だが少数最精鋭を謳い個々の兵員の能力では他を圧倒し、そして、部隊を構成する個々人を少なからず知っているP――、そのどちらをへと的を絞るかと問われれば、ヨシユキの答えは決まりきっていた。
戦闘の相当数の局面に於いて数は力、今大和軍と組み合うのは避けた方が良い。それならば、山中に入る前にタカコ達Pを捕捉するべきだ。その為には先ずは彼女等を追跡する海兵隊を始末する事にするか、と、誰に言うでもなく小さく呟くと、傍に控えていた部下に再度その旨を命令し椅子へと腰を下ろす。
タカコ達の方向しか見ていない割に海兵隊に未だ戦死者は出ていない。タカコ達も、そして自分の部下も彼等を仕留めるに至っていない。逆に自分の部下が明け方近くに消防署の近くで狙撃銃により射殺され、体内に残っていた弾頭からそれは大和軍によって為されたという事が判明している。この状態が齎されているのは、彼等海兵隊がこの博多の地形を知り抜いているからだろう。土地勘は大きな武器になる、最大の兵力を擁する組織が土地勘を持っていれば、この事態も当然の成り行きなのかも知れない。
こうして俯瞰的に見ていると彼等もまたタカコ達が山中へと入る事を警戒しているのか、Pを基地から遠ざけつつも土地勘の利く市街地へと留めておきたいという意図が見える。その為に東北東へと進行するタカコ達の進路を爆破や砲撃により変えさせようとしているが、そこは流石にPも百戦錬磨の手練れ揃い、何とかそれを躱し躱し、目的地であろう山岳地帯の入口になる城ノ越山へと向けて進み続けていた。あそこに入られてしまえば、その北東から南東に掛けては広大な山岳地帯が広がっている、山岳地帯での軍事行動には不慣れな大和軍にとっては是が非でも食い止めたいところだろう。
しかし、考え方を変えればこの状況は自分達にとっては好機だな、と、ヨシユキはそんな事をふと考えた。
タカコ達が山に近付けば近付く程、それを追う海兵隊の意識は前へと、逃げるPへと集中する。その隙に一気に距離を詰め、背後から一気に叩けば恐らくは海兵隊の主力部隊である彼等を殲滅する事も可能だろう。無論その成功が確認出来る瞬間迄気は一切抜けないが、と、脇に置いた水筒を手に取り中身を呷りながら、ヨシユキの視線はタカコ達が進み続けている方向へと向けられていた。
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