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第422章『忠誠と信頼』
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第422章『忠誠と信頼』
夜明けと共に再開された大和海兵隊の猛攻、タカコの命令さえ無ければ直ぐにでも反撃して殺してやるのに、カタギリはそう思いながら逃走を続けていた。
最初に明確に後退しだしたのはタカコ、自らの上官がそうするのであればとカタギリだけではなく全員がそれに倣ったものの、攻撃の集中を避ける為に夫々が距離をとり移動している為に、タカコの真意を確かめる事も出来ないままだ。
技術的にはワシントンに大きく劣り内心見下している部分が無かったとは言えない大和、その彼等が今、頭数と土地勘という二つの大きな武器を手に自分達を追い立てているという事実を突き付けられ、カタギリは大きく舌打ちをして嘗ての仮初めの仲間をまく為に物陰へと飛び込んだ。
市街地へと展開され自分達を追い立てる海兵隊の攻撃は実に的確で、恐らくは市街地東部の山岳地帯へと向かっているタカコと、それに追随する自分達の進行を止めようと各所で銃撃や砲撃を加えて来ている。山岳地帯や森林地帯での訓練はタカコは時間の制約上実施出来なかったし、過去に大和軍がそれを行っていたという事実も無い。未経験の領域に逃げ込まれ現状の優勢を崩す事は避けたいという大和側の意図が透けて見える現状に、
『……ボスも随分と厄介な事をしてくれたもんだ……』
と、吐き捨てる様に呟いた。
タカコが、自らが絶対の忠誠を誓った存在が、大和に対して出来得る限りの協力を行うと決めたからそれに従っているだけの事であって、カタギリ自身には大和に対して特段の思い入れも無ければ親しみも感じていない。逆に彼等と関わったばかりにタカコがどれ程のものを抱え込み傷付いたのかは数知れず、出来れば関わりを持ちたくないというのが本音だった。
そんな彼等に対してタカコが伝えたもの、今彼等はそれを自分達へと向けて来ており、命令が無ければ殺してやるところだと吐き捨て、ポケットから取り出した飴を口に放り込みがりりと噛み砕く。
現在地から山岳地帯の入口である城ノ越山迄は、直線で三km程の筈。日中の強行突破を狙うべきか、それとも速度を落とすか潜むかして、海兵隊の動きが鈍るであろう夜間を狙うべきか、より危険性の低いのはどちらなのかと考える。どちらにせよ一度タカコと合流し指示を仰ぐ方が無難だなと思い至り、彼女を探そうと立ち上がった時、不意に飛び込んで来た人影に思わず身構えた。
『ボス!怪我はしてませんか!?』
『ケインか!ああ、私の方は大丈夫だ、お前は』
『俺も今のところは。丁度ボスを探しに行こうと思っていたところでした』
よくよく見てみれば飛び込んで来たのはタカコ、どうやら今のところは問題の無さそうな上官の姿にカタギリは安堵の溜息を吐き、彼女へと歩み寄る。
『山間部への後退で間違いは無いですよね?』
『ああ』
『一体、どういう事なんですか。大和人がいきなり攻撃って、何なんですこの掌返しは』
『ああ、それは――』
タカコが何かを言いかけた瞬間、二人の耳朶を風切りの音が打つ。それが何かを理屈で判断する前に身体が動き物陰から飛び出した二人の背後でたった今迄いた場所が大きく弾け、爆風と破片が身体へと打ち付けるのを感じつつカタギリは地面へと転がった。
「いたぞ!!」
聞こえて来るのは大和語、見つかったかと身体を起こしタカコを探せば、視界へと飛び込んで来たのは破片が当たったのか頭から血を流しつつ同じ様に身体を起こす姿。
それを目にした瞬間、怒りと殺意以外の全てはカタギリの頭から消し飛んでいた。
自分の生きる意味、そして、終生絶対の忠誠を誓った存在。それを傷つける者は誰であろうとどんな理由であろうと絶対に許さないと、道の向こうから姿を現した海兵の方を向いて立ち上がり左手で小銃を構え右手でナイフを抜けば、それを制したのはタカコの一喝だった。
『止せ!カタギリ中尉!』
タカコは普段自分達を名前や愛称で呼ぶ、階級と姓で呼ぶ事は殆ど無い。そう呼ばれる時、それはどんな状況でもどんな理由でも、一切の反論を許さない絶対の命令を下す時だけ。
『これで良いんだ!下がるぞ!!』
攻撃を加えられても反撃せずに下がれと命令するタカコ、これで良いとはどういう意味だと一瞬その場へと留まろうとするカタギリにタカコは更に
『命令だ!下がれ!!』
そう声を張り上げる。カタギリもそれ以上は逆らう事はせず、一瞬海兵達の方へと視線を向け、
『命令さえ無ければ……!!』
と、そう忌々し気に吐き捨てて地面を蹴って走り出した。前方には砲撃を加えたのとは別の分隊が騒ぎを聞きつけて駆けつけて来たのか姿を現し、殺しはせずとも多少はやり返させてもらうぞと、カタギリは自分へと向かって来る海兵の一人に躍り掛かりった。そして地面へと豪快に投げ飛ばしながら彼が抱えていた小銃の弾薬の箱を奪い取り、追跡を振り切って人気の少ない方向へと全速で走り移動する。
立ち止まったのは騒動が起きた地点からは随分と離れた場所。タカコと逸れてしまった上に基地側へと戻ってしまった所為でまた余計に時間が掛かるなと思いながら、抱えていた弾薬の箱を地面へと下ろし、中身を確かめるかと蓋を開けた。
『……何だ、これ』
肩掛けの帯と蓋の間に無理矢理捻じ込まれた紙片、そう言えばこれを持っていた海兵が、地面へと転がりながらこれを挟んでいた様な気がするが、そう思いながら外して手に取り、四つに折り畳まれたそれを開いてみる。
そこに記されていたのは大和文字、それが伝える意味を把握した時、カタギリは漸くタカコが言っていた事の真意を理解した。
『……ブッ飛んでやがる……とんだキチガイ沙汰じゃないか……ボスも、あいつも』
夜明けと共に再開された大和海兵隊の猛攻、タカコの命令さえ無ければ直ぐにでも反撃して殺してやるのに、カタギリはそう思いながら逃走を続けていた。
最初に明確に後退しだしたのはタカコ、自らの上官がそうするのであればとカタギリだけではなく全員がそれに倣ったものの、攻撃の集中を避ける為に夫々が距離をとり移動している為に、タカコの真意を確かめる事も出来ないままだ。
技術的にはワシントンに大きく劣り内心見下している部分が無かったとは言えない大和、その彼等が今、頭数と土地勘という二つの大きな武器を手に自分達を追い立てているという事実を突き付けられ、カタギリは大きく舌打ちをして嘗ての仮初めの仲間をまく為に物陰へと飛び込んだ。
市街地へと展開され自分達を追い立てる海兵隊の攻撃は実に的確で、恐らくは市街地東部の山岳地帯へと向かっているタカコと、それに追随する自分達の進行を止めようと各所で銃撃や砲撃を加えて来ている。山岳地帯や森林地帯での訓練はタカコは時間の制約上実施出来なかったし、過去に大和軍がそれを行っていたという事実も無い。未経験の領域に逃げ込まれ現状の優勢を崩す事は避けたいという大和側の意図が透けて見える現状に、
『……ボスも随分と厄介な事をしてくれたもんだ……』
と、吐き捨てる様に呟いた。
タカコが、自らが絶対の忠誠を誓った存在が、大和に対して出来得る限りの協力を行うと決めたからそれに従っているだけの事であって、カタギリ自身には大和に対して特段の思い入れも無ければ親しみも感じていない。逆に彼等と関わったばかりにタカコがどれ程のものを抱え込み傷付いたのかは数知れず、出来れば関わりを持ちたくないというのが本音だった。
そんな彼等に対してタカコが伝えたもの、今彼等はそれを自分達へと向けて来ており、命令が無ければ殺してやるところだと吐き捨て、ポケットから取り出した飴を口に放り込みがりりと噛み砕く。
現在地から山岳地帯の入口である城ノ越山迄は、直線で三km程の筈。日中の強行突破を狙うべきか、それとも速度を落とすか潜むかして、海兵隊の動きが鈍るであろう夜間を狙うべきか、より危険性の低いのはどちらなのかと考える。どちらにせよ一度タカコと合流し指示を仰ぐ方が無難だなと思い至り、彼女を探そうと立ち上がった時、不意に飛び込んで来た人影に思わず身構えた。
『ボス!怪我はしてませんか!?』
『ケインか!ああ、私の方は大丈夫だ、お前は』
『俺も今のところは。丁度ボスを探しに行こうと思っていたところでした』
よくよく見てみれば飛び込んで来たのはタカコ、どうやら今のところは問題の無さそうな上官の姿にカタギリは安堵の溜息を吐き、彼女へと歩み寄る。
『山間部への後退で間違いは無いですよね?』
『ああ』
『一体、どういう事なんですか。大和人がいきなり攻撃って、何なんですこの掌返しは』
『ああ、それは――』
タカコが何かを言いかけた瞬間、二人の耳朶を風切りの音が打つ。それが何かを理屈で判断する前に身体が動き物陰から飛び出した二人の背後でたった今迄いた場所が大きく弾け、爆風と破片が身体へと打ち付けるのを感じつつカタギリは地面へと転がった。
「いたぞ!!」
聞こえて来るのは大和語、見つかったかと身体を起こしタカコを探せば、視界へと飛び込んで来たのは破片が当たったのか頭から血を流しつつ同じ様に身体を起こす姿。
それを目にした瞬間、怒りと殺意以外の全てはカタギリの頭から消し飛んでいた。
自分の生きる意味、そして、終生絶対の忠誠を誓った存在。それを傷つける者は誰であろうとどんな理由であろうと絶対に許さないと、道の向こうから姿を現した海兵の方を向いて立ち上がり左手で小銃を構え右手でナイフを抜けば、それを制したのはタカコの一喝だった。
『止せ!カタギリ中尉!』
タカコは普段自分達を名前や愛称で呼ぶ、階級と姓で呼ぶ事は殆ど無い。そう呼ばれる時、それはどんな状況でもどんな理由でも、一切の反論を許さない絶対の命令を下す時だけ。
『これで良いんだ!下がるぞ!!』
攻撃を加えられても反撃せずに下がれと命令するタカコ、これで良いとはどういう意味だと一瞬その場へと留まろうとするカタギリにタカコは更に
『命令だ!下がれ!!』
そう声を張り上げる。カタギリもそれ以上は逆らう事はせず、一瞬海兵達の方へと視線を向け、
『命令さえ無ければ……!!』
と、そう忌々し気に吐き捨てて地面を蹴って走り出した。前方には砲撃を加えたのとは別の分隊が騒ぎを聞きつけて駆けつけて来たのか姿を現し、殺しはせずとも多少はやり返させてもらうぞと、カタギリは自分へと向かって来る海兵の一人に躍り掛かりった。そして地面へと豪快に投げ飛ばしながら彼が抱えていた小銃の弾薬の箱を奪い取り、追跡を振り切って人気の少ない方向へと全速で走り移動する。
立ち止まったのは騒動が起きた地点からは随分と離れた場所。タカコと逸れてしまった上に基地側へと戻ってしまった所為でまた余計に時間が掛かるなと思いながら、抱えていた弾薬の箱を地面へと下ろし、中身を確かめるかと蓋を開けた。
『……何だ、これ』
肩掛けの帯と蓋の間に無理矢理捻じ込まれた紙片、そう言えばこれを持っていた海兵が、地面へと転がりながらこれを挟んでいた様な気がするが、そう思いながら外して手に取り、四つに折り畳まれたそれを開いてみる。
そこに記されていたのは大和文字、それが伝える意味を把握した時、カタギリは漸くタカコが言っていた事の真意を理解した。
『……ブッ飛んでやがる……とんだキチガイ沙汰じゃないか……ボスも、あいつも』
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