大和―YAMATO― 第五部

良治堂 馬琴

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第460章『戦闘の終わり、後始末の始まり』

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第460章『戦闘の終わり、後始末の始まり』

『ボス!もう勘弁して下さいよ、生きた心地がしませんでした!!』
『悪かったな、太刀を使った戦闘に一番慣れていたのは私と先行の二人だけだったし、説明してる時間も無かった』
『とにかく、御無事で良かったです』
『収容した彼等は?』
 ホイストに引き上げられ戻った機内、身体に腕を回し一気に機内へと引き入れたチスネロスとそんな会話を交わし、タカコは収容した兵士の容態を尋ねる。それには手当と診察をしていたジュリアーニが答えた。
『全員骨折しててオペが必要だけど、今のところ命に別状は無さそうだよ。幸いな事に脊椎や脚や二の腕をやってないから、治りも早いんじゃないかな』
『そうか、良かった。残りの二機は?』
『指示通りに基地内に着陸しています。追跡部隊がその両脇に着陸、乗員は全員機外へと出て武装解除の最中ですね』
 無駄な戦闘や死者を出す事にはならずに済んだ様だ、タカコはその事を把握し、最悪の事態だけは免れる事が出来た様子だと安堵の息を吐く。
『こちらにもう用は無い、基地に引き返して上陸部隊の受け入れ態勢を整えよう。……と、その前に、一度高度を上げつつ海寄りにやってくれ、沖合の睨み合いがどうなっているのか確かめたい』
『了解しました』
 タカコの言葉を受けて高度を上げ海側に移動する機体、コクピットに身を乗り出したタカコの視界に映るのは、二つの大艦隊が対峙する姿。時折あちこちの砲塔から煙が吐き出され、弾頭が着水したのか水柱が上がる。しかし侵攻艦隊の側に勢いは無く、内部は統制をほぼ失ってしまっている事が窺えた。遠からず決着は着くだろう、そう判断したタカコはコクピットに大和海兵隊基地へと向かう様に指示し、後部へと下がり床へと座り込んだ。
 ホーネット同士の戦闘も起きていたが、後発になった分制圧艦隊側のホーネットの乗員には訓練の時間が多く有った。それを勘定すれば僅かばかりでも制圧艦隊側の方が練度は上、侵攻艦隊側のホーネットに後れをとる事は無いだろう、恐らくは封じ込めに成功し、あちらから侵攻艦隊側のホーネットが飛来する事はもう無い筈だ。
 あちらの戦闘は制圧艦隊に任せておけば良い、自分達には別の役目が有る。どの時期かは未だ不明だが、もうすぐ上陸部隊総司令のテイラー海兵隊中将が全権大使として上陸する。その時に迅速且つ円滑に権限を移行し、その後の話し合いへと滞り無く繋げる事がこれ以降の自分達の役目だ。
 先ずは海兵隊基地に戻り、高根と黒川、そしてその彼等の上官である副長と交渉し上陸部隊が乗って来るであろうホーネットが駐機する場所を確保しなければならない。その後はワシントンに敵意は無いという事を再度強調し、本国からの最終的な回答を待つ間、艦隊は博多沖合に、上陸部隊は海兵隊基地内の一角に留まる事を大和側に認めさせる必要が有る。
 そこ迄話が進めば、交渉の中心且つ最前線は軍が担当する事にはなるだろうが、それでも大和政府が直々に出て来る事になる。そうなれば、ワシントンから生還して来た金子を筆頭とした大和沿警隊が通訳部隊として意思疎通の中心になる、自分達は彼等が出て来ると同時に表舞台から静かに降り、この国を去れば良い。
 そうなる迄にどの程度の時間が掛かるのか――、タカコはそこ迄考えながら憂鬱な心持ちになり、溜息を吐きながらがっくりと肩を落とし俯いた。与えられた任務をこなす、その事に対しては何とも思わないが、その間に必ずやって来るであろう、あの図体の大きな粘着質の男をどうやって避けるか、それを考えただけで気が重くなる。加えてまだ暫くの間はその父親たる副長の視界にちらちらと入らなければならないのだ、そちらの方に関しても、約束を違えたと捉えられたりはしないかと、それが気懸かりだった。
 性には合わないが、部下に命令だけ出して自分は艦隊にでも引っ込んでいた方が良さそうだ、そんな事をつらつらと考えていると、防壁を越えて本土へと入った機体がゆっくりと高度を下げ始めた気配が伝わって来る。考えてもしょうがないと思いながら立ち上がれば、窓の外には、一旦は下がったもののホーネットが複数機着陸した事態の詳細を確認しに来たのか、海兵達がこちらと向かって大きく両腕を振っている様子が見えた。
『……いるし』
 うんざりとした面持ちで呟くタカコ、その視線の先に在るのは敦賀の姿。自分へと太刀を投げて寄越した後は監視台を降りて後退していたのか、先遣隊よりも遅れてこちらへとやって来て、今車を降りるところ。運転席の敦賀に続いて助手席からは藤田、後部席からは島津が降りて来るのが見える。いずれも自分と近い付き合いをして来た気心の知れた人物ばかり、あの三人には絶対に近付きたくないなと吐き捨てた辺りで機体は着陸し、両舷の扉が開かれ、救助した兵士達を運び出す為に先ずジュリアーニが機外へと出た。
「負傷者三名!直ぐに手当てを!!」
「車に乗せて!直ぐに医療班の天幕に搬送!!」
 姿勢を低くして駆け寄って来た海兵達、その彼等に向かってジュリアーニが大和語で指示を出し、彼等はそれに従い負傷者に肩を貸し車へと誘導し始める。こちらに関してはジュリアーニと医療班に任せておけば良いか、機外へと出たタカコはそう判断し踵を返し、自らは投降したホーネットの方へと足を向けた。
『よく決断してくれた。お蔭で無駄な血を流さずに済んだ、有難う』
『配慮に感謝します、大佐』
 歩み寄り声を掛ければ、敬礼と共に言葉を返される。制圧艦隊側の兵士も多少の警戒はしつつもそれは上辺だけなのか、取り繕う為に手にしている小銃も筒先は下げられ、銃口は地面を向いている。返礼をするタカコの意識を惹いたのは、自分へと敬礼をする兵士の一人。その彼が嘗て同じ部隊で共に戦った旧友だと気付いた時、やはり自分の選択は間違っていなかった、と、心の底から安堵し、知らずの内に小さくとも心からの喜びを唇の端に浮かべていた。
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