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第473章『喧嘩の幕切れ』
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第473章『喧嘩の幕切れ』
ジュリアーニの言葉に、タカコの口元が僅かに引き攣る。図星を指されたなと笑いながらジュリアーニは手を伸ばし眉間に突き付けられた銃口を退けて起き上がり、両手を挙げて指先をひらひらと動かして見せた。
「はいはい、今回は俺の負け。久々に本気になったあんたも見られたし、まだまだ先は有りそうだから定位置に戻るよ」
「えっ、何、お前何勝手に一人で納得してんの。いや、そりゃ醜態晒し続けてて悪かったと思うよ?お前が私を殺したくなっても仕方ないと思うよ?でもさ、いきなり連れて来て殺し合いふっかけておいてそれは無いんじゃないの?幾ら私が指揮官として――」
「違うよ、ボス。あんたは勘違いしてる」
「勘違い、って……何だよ」
ジュリアーニの掌返しに拍子抜けしたのかそれとも不愉快だったのか、銃を腰に差しながら肩眉を上げて抗議の言葉を口にするタカコ、しかしその内容はジュリアーニから見てどうにもピントがずれており、まだ理解していないのかこの馬鹿は、そう思いながら彼女の言葉を制してジュリアーニは話し始めた。
「あのね、俺も他の奴等も、あんたに品行方正でお上品な上官なんか求めてないの、分かる?」
「えっちょっと待って、待って。お前のその台詞から推測するに、お前等は私が品行方正で上品な上官じゃないと思ってるのか?それとも逆にあまりにも完璧過ぎるからつまんないと思ってるのか?」
「いや……どう考えても前者だよね……自分を後者だと思えるとか、どんな神経してんのあんた」
先程迄の剣呑な空気から一変し、どうにもこうにも表現し様の無い空気が流れる中、タカコの発言にジュリアーニが脱力しながら力無く笑えば、その様子が癇に障ったのか、腰に差していた拳銃を再び抜いたタカコが険を深くして声を荒げる。
「お前自分の上官に対しての言葉かそれが!!不満が有ってもグッと堪えて飲み込んで遣り過ごすのが大人ってもんだろうが!!」
「飲み込めるレベルの不満じゃないだろうが!!気付くかどうか試したかったからって理由で水道に下剤混入させたり酸素ボンベの中身麻酔ガスに入れ替えたり、他には、ああそうだ、便所のタンクの後ろに手榴弾仕掛けたり車のタイヤのナット全部緩めておいたり、夜中に白いネグリジェ着て髪ぼっさぼさの状態で廊下にゆらゆら揺れながら佇んで誰かが便所に出て来るの待ってたりとか!!良い!?言っておくけどね、品行方正でお上品な上官はそんな事しないから!!あんたが自分の事をどう評してるのかは知らないし興味も無いけどね、我儘で傲慢で自分勝手で人の話なんか欠片も聞いちゃいないし、自分の都合で他人を全力で振り回して千切っては投げ千切っては投げしてどれだけ周囲が迷惑蒙ってもそれを見て指差して涙浮かべて腹抱えてゲラゲラ笑ってるゲスクズ!それがあんた!!分かった!?」
蓄積した怨みなのか鬱憤か、珍しく気色ばんで機関銃の如き勢いで言い募るジュリアーニ。その内容は控え目に言っても『品行方正でお上品』なものではなく、身に覚えの有るタカコは一瞬言葉に詰まるものの、それでも負けじと言い返そうと口を開く。
「不満に思ってたんだったら言い返せば良かっただろうが!」
「言い返しました!俺も!他の連中も!序でにタカユキも!!縛り上げてベッドに固定して顔の直ぐ横にナイフグサグサ突き刺しながら叱られた事も有ったよねぇ!?都合の悪い事は綺麗に忘れるとか、本っ当に自分本位な構造の脳みそしてるよね!!」
「何だと!?だったら――」
ここに来た目的は何処か彼方にでも飛んで行ったのか、顔を突き付け合う勢いで面罵し合う二人。その双方の怒鳴り声が響き渡る廃工場の空気に、別の小さな音と複数の気配が混じり始めたのはそんな頃合いだった。
じゃり、じゃり、という、靴底が地面を踏み擦る音、そして、その小さな足音を立てている複数の気配――、男達が、手にした拳銃や小銃の弾の装填を確認し、安全装置を解除し、物陰に身を潜めながら、静かに、しかし確実に言い争いを続ける二人へと近付いていく。
相手へと与えるものは突然且つ静かな死ではなく、自分達が誰であるかをはっきりと認識させ、それに起因した事柄で自分達は死ぬのだ、殺されるのだという後悔と恐怖を刻み付ける事――、それが命令である彼等はタカコ達を完全に包囲する位置取りをしたものの、相変わらず続く言い争いにどう割って入ったものかと暫し思案しているのか、介入のタイミングを図りかねていた。
どう出て行けば最も効果的なのか、それを最優先させ状況を窺っていた男達だったが、言い争いは益々激化しいつ終わるとも知れず、その内に唯只管に身を隠して待ち続けている自分達が阿呆な道化以外の何者でもないと思えたのか、遂に一人が立ち上がり、それに釣られる様にして全員が立ち上がり物陰から飛び出し二人へと銃口を向けた。
「ブラザーフッドだ、名前は知ってるな?お前等が兄弟を――」
「うるせぇ!!」
「外野はすっ込んでろ!!」
男達にしてみれば、銃口を向けて自分達の所属する組織の名を明かし、その事に愕然とする二人を射殺し、溜飲を下げるつもりだったのだろう。
しかし返されたのは罵声と銃弾、それを受けた二人の仲間が崩れ落ちるのを目にし即座に反撃に打って出るが、たった今迄目の前に居た二人は既にその場にはおらず、夫々が反対の方向へと走り出し弾幕を潜り抜け廃墟の中へと消えて行く。
同士討ちが無い様にと考えてしていた位置取りも標的がそんな風に動いては何の役にも立たず、複数が味方の銃弾を受け倒れ叫びを上げ、指揮官役の男が声を張り上げて制止し漸く銃声が収まった頃には、標的の二人は完全に姿を消していた。
「探せ!絶対にここから出すな!!」
その言葉を受け、動ける状態の者が意識を立て直し追跡へと転じ走り出す。そして、再び静寂を取り戻した廃墟の中には、物言わぬ幾つかの死体だけが転がっていた。
「随分気持ち良く暴れたみたいだな」
「ボスこそ、凄い目がきらきら輝いてるよ。そんなに楽しかったんだ?」
「おお、久し振りだったからな」
あちこちから黒煙を立ち昇らせる廃工場、その外で落ち合ったタカコとジュリアーニ。お互いに接触戦も有ったのか身体のあちこちに返り血を浴びており、相手のその有様と楽しそうな様子に目を細めて笑う。また一つ地響きと共に轟音が周囲に響き渡り、それと同時に建物の一部が吹き飛んだのを眺めながら、二人は銃とナイフを腰に差して歩き出した。
「ブラザーフッドって言ってたな」
「ああ、あそこ確か内部抗争が有って、勢力図が書き換わったよ。で、うちと相互不可侵の立場をとってたトップとその一派が粛清されて、今は全方位に喧嘩売りたがりの嘗ての二番手がトップ」
「あー、確かその二番手の腹心数人纏めて殺した事が有るわ。って言っても三年以上前の話だけど」
「執念深いねぇ……で、どうするの」
「仕事も無くて暇だし、この機会に片付けて来るか」
「良いね、俺も手伝うよ」
相手はどうやら過去に因縁の有った相手らしく、その事について話しながら歩く二人。その内に何とも物騒な方向へと話は転がり、言葉の通りに動こうと二人は乗って来た車へと辿り着く。しかしそれは男達によってか全てのタイヤが切り裂かれ走行不能な状態となっており、それならば、と、近くに停めてあった、彼等が乗って来たのであろう数台の車の方へと踵を返した。
「ボス、さっき言ってた事だけど」
「何だよ」
「あんたは我儘で傲慢で自分勝手で最低最悪のゲスクズで、他人の事なんかお構い無しで、それがあんたらしさであり俺達はそんなあんただからついて行こうって思ったんだから、俺達の為にだったとしても、今更それを変えたりしないで。あんたの思う通りしたい通りに生きて、約束して」
「……考えてみるよ……有り難う」
大和にもう一度、流石にそこ迄言うのは出過ぎた真似かと言及はしなかったジュリアーニ、タカコもそれは感じ取っているのかどちらとも明言する事は無く言葉を濁し、乗り捨ててあった車に二人で乗り込み市街地へと戻る為に走り出す。その道中、二人は長い事無言のままだった。
バージニア州のダウンタウン、その一角を本拠地とするギャング『ブラザーフッド』――、警察でもなかなか手を出せずにいたその凶悪な武装集団が、正体不明の勢力からロケットランチャーをも含む強烈な攻撃を受け壊滅した。そのニュースが国内、特に東部を走り抜けた翌日、タカコとジュリアーニは上機嫌で帰投した。
ジュリアーニの言葉に、タカコの口元が僅かに引き攣る。図星を指されたなと笑いながらジュリアーニは手を伸ばし眉間に突き付けられた銃口を退けて起き上がり、両手を挙げて指先をひらひらと動かして見せた。
「はいはい、今回は俺の負け。久々に本気になったあんたも見られたし、まだまだ先は有りそうだから定位置に戻るよ」
「えっ、何、お前何勝手に一人で納得してんの。いや、そりゃ醜態晒し続けてて悪かったと思うよ?お前が私を殺したくなっても仕方ないと思うよ?でもさ、いきなり連れて来て殺し合いふっかけておいてそれは無いんじゃないの?幾ら私が指揮官として――」
「違うよ、ボス。あんたは勘違いしてる」
「勘違い、って……何だよ」
ジュリアーニの掌返しに拍子抜けしたのかそれとも不愉快だったのか、銃を腰に差しながら肩眉を上げて抗議の言葉を口にするタカコ、しかしその内容はジュリアーニから見てどうにもピントがずれており、まだ理解していないのかこの馬鹿は、そう思いながら彼女の言葉を制してジュリアーニは話し始めた。
「あのね、俺も他の奴等も、あんたに品行方正でお上品な上官なんか求めてないの、分かる?」
「えっちょっと待って、待って。お前のその台詞から推測するに、お前等は私が品行方正で上品な上官じゃないと思ってるのか?それとも逆にあまりにも完璧過ぎるからつまんないと思ってるのか?」
「いや……どう考えても前者だよね……自分を後者だと思えるとか、どんな神経してんのあんた」
先程迄の剣呑な空気から一変し、どうにもこうにも表現し様の無い空気が流れる中、タカコの発言にジュリアーニが脱力しながら力無く笑えば、その様子が癇に障ったのか、腰に差していた拳銃を再び抜いたタカコが険を深くして声を荒げる。
「お前自分の上官に対しての言葉かそれが!!不満が有ってもグッと堪えて飲み込んで遣り過ごすのが大人ってもんだろうが!!」
「飲み込めるレベルの不満じゃないだろうが!!気付くかどうか試したかったからって理由で水道に下剤混入させたり酸素ボンベの中身麻酔ガスに入れ替えたり、他には、ああそうだ、便所のタンクの後ろに手榴弾仕掛けたり車のタイヤのナット全部緩めておいたり、夜中に白いネグリジェ着て髪ぼっさぼさの状態で廊下にゆらゆら揺れながら佇んで誰かが便所に出て来るの待ってたりとか!!良い!?言っておくけどね、品行方正でお上品な上官はそんな事しないから!!あんたが自分の事をどう評してるのかは知らないし興味も無いけどね、我儘で傲慢で自分勝手で人の話なんか欠片も聞いちゃいないし、自分の都合で他人を全力で振り回して千切っては投げ千切っては投げしてどれだけ周囲が迷惑蒙ってもそれを見て指差して涙浮かべて腹抱えてゲラゲラ笑ってるゲスクズ!それがあんた!!分かった!?」
蓄積した怨みなのか鬱憤か、珍しく気色ばんで機関銃の如き勢いで言い募るジュリアーニ。その内容は控え目に言っても『品行方正でお上品』なものではなく、身に覚えの有るタカコは一瞬言葉に詰まるものの、それでも負けじと言い返そうと口を開く。
「不満に思ってたんだったら言い返せば良かっただろうが!」
「言い返しました!俺も!他の連中も!序でにタカユキも!!縛り上げてベッドに固定して顔の直ぐ横にナイフグサグサ突き刺しながら叱られた事も有ったよねぇ!?都合の悪い事は綺麗に忘れるとか、本っ当に自分本位な構造の脳みそしてるよね!!」
「何だと!?だったら――」
ここに来た目的は何処か彼方にでも飛んで行ったのか、顔を突き付け合う勢いで面罵し合う二人。その双方の怒鳴り声が響き渡る廃工場の空気に、別の小さな音と複数の気配が混じり始めたのはそんな頃合いだった。
じゃり、じゃり、という、靴底が地面を踏み擦る音、そして、その小さな足音を立てている複数の気配――、男達が、手にした拳銃や小銃の弾の装填を確認し、安全装置を解除し、物陰に身を潜めながら、静かに、しかし確実に言い争いを続ける二人へと近付いていく。
相手へと与えるものは突然且つ静かな死ではなく、自分達が誰であるかをはっきりと認識させ、それに起因した事柄で自分達は死ぬのだ、殺されるのだという後悔と恐怖を刻み付ける事――、それが命令である彼等はタカコ達を完全に包囲する位置取りをしたものの、相変わらず続く言い争いにどう割って入ったものかと暫し思案しているのか、介入のタイミングを図りかねていた。
どう出て行けば最も効果的なのか、それを最優先させ状況を窺っていた男達だったが、言い争いは益々激化しいつ終わるとも知れず、その内に唯只管に身を隠して待ち続けている自分達が阿呆な道化以外の何者でもないと思えたのか、遂に一人が立ち上がり、それに釣られる様にして全員が立ち上がり物陰から飛び出し二人へと銃口を向けた。
「ブラザーフッドだ、名前は知ってるな?お前等が兄弟を――」
「うるせぇ!!」
「外野はすっ込んでろ!!」
男達にしてみれば、銃口を向けて自分達の所属する組織の名を明かし、その事に愕然とする二人を射殺し、溜飲を下げるつもりだったのだろう。
しかし返されたのは罵声と銃弾、それを受けた二人の仲間が崩れ落ちるのを目にし即座に反撃に打って出るが、たった今迄目の前に居た二人は既にその場にはおらず、夫々が反対の方向へと走り出し弾幕を潜り抜け廃墟の中へと消えて行く。
同士討ちが無い様にと考えてしていた位置取りも標的がそんな風に動いては何の役にも立たず、複数が味方の銃弾を受け倒れ叫びを上げ、指揮官役の男が声を張り上げて制止し漸く銃声が収まった頃には、標的の二人は完全に姿を消していた。
「探せ!絶対にここから出すな!!」
その言葉を受け、動ける状態の者が意識を立て直し追跡へと転じ走り出す。そして、再び静寂を取り戻した廃墟の中には、物言わぬ幾つかの死体だけが転がっていた。
「随分気持ち良く暴れたみたいだな」
「ボスこそ、凄い目がきらきら輝いてるよ。そんなに楽しかったんだ?」
「おお、久し振りだったからな」
あちこちから黒煙を立ち昇らせる廃工場、その外で落ち合ったタカコとジュリアーニ。お互いに接触戦も有ったのか身体のあちこちに返り血を浴びており、相手のその有様と楽しそうな様子に目を細めて笑う。また一つ地響きと共に轟音が周囲に響き渡り、それと同時に建物の一部が吹き飛んだのを眺めながら、二人は銃とナイフを腰に差して歩き出した。
「ブラザーフッドって言ってたな」
「ああ、あそこ確か内部抗争が有って、勢力図が書き換わったよ。で、うちと相互不可侵の立場をとってたトップとその一派が粛清されて、今は全方位に喧嘩売りたがりの嘗ての二番手がトップ」
「あー、確かその二番手の腹心数人纏めて殺した事が有るわ。って言っても三年以上前の話だけど」
「執念深いねぇ……で、どうするの」
「仕事も無くて暇だし、この機会に片付けて来るか」
「良いね、俺も手伝うよ」
相手はどうやら過去に因縁の有った相手らしく、その事について話しながら歩く二人。その内に何とも物騒な方向へと話は転がり、言葉の通りに動こうと二人は乗って来た車へと辿り着く。しかしそれは男達によってか全てのタイヤが切り裂かれ走行不能な状態となっており、それならば、と、近くに停めてあった、彼等が乗って来たのであろう数台の車の方へと踵を返した。
「ボス、さっき言ってた事だけど」
「何だよ」
「あんたは我儘で傲慢で自分勝手で最低最悪のゲスクズで、他人の事なんかお構い無しで、それがあんたらしさであり俺達はそんなあんただからついて行こうって思ったんだから、俺達の為にだったとしても、今更それを変えたりしないで。あんたの思う通りしたい通りに生きて、約束して」
「……考えてみるよ……有り難う」
大和にもう一度、流石にそこ迄言うのは出過ぎた真似かと言及はしなかったジュリアーニ、タカコもそれは感じ取っているのかどちらとも明言する事は無く言葉を濁し、乗り捨ててあった車に二人で乗り込み市街地へと戻る為に走り出す。その道中、二人は長い事無言のままだった。
バージニア州のダウンタウン、その一角を本拠地とするギャング『ブラザーフッド』――、警察でもなかなか手を出せずにいたその凶悪な武装集団が、正体不明の勢力からロケットランチャーをも含む強烈な攻撃を受け壊滅した。そのニュースが国内、特に東部を走り抜けた翌日、タカコとジュリアーニは上機嫌で帰投した。
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