大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

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第205章『子猫』

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第205章『子猫』

「それじゃタツさん、ヴィンスに加えてリーサの事も頼むね。」
「アリサですボス。少将、宜しくお願いします」
 鳥栖から帰還して二週間程が経った晩の事、高根の馴染みの店のいつもの座敷でタカコが黒川へと頭を下げる。隣に座ったマクギャレットはタカコの言葉を訂正した後で黒川へと向き直り、タカコと同じ様に頭を下げた。
 今回合流した三名は全員を海兵隊へと入隊させる事はせず、陸軍との連携を考慮しマクギャレットは陸軍への入隊となった。タカコを含めて六名を三名ずつ振り分けてはという意見はタカコの方から出たものの、活骸への対処の中心は海兵隊になるという事で、最終的に九州地方の夫々の頂点である高根と黒川の決定により、海兵隊へ四名陸軍へ二名の振り分けに落ち着いた。
「キムの方を博多に再異動させて横山との繋がりも強くしておいた方が良いだろう、伍長から軍曹に昇進させて他の草と同じ扱いにしておけばそう反感も持たれないと思うんだけど、どうだ?」
「そうしてくれると助かるよ」
 酒を飲みつつ料理を食べつつの会話、普段なら高根や黒川は制服、タカコやカタギリや敦賀は戦闘服という出で立ちだが、今日は形式上民間人の扱いのタカコの部下三名を伴っているという事も有り、あまり人目を引かない格好でという事で博多駐屯地の視察を終えた後に立ち寄った黒川とそれに付き従っていたキム以外は全員が私服に身を包んでいる。二年以上共に過ごしたというのにタカコが敦賀の寝間着以外の私服姿を目にしたのは初めての事で、案外似合うなと若干失礼な物言いをしつつからからと笑う彼女の頭を軽く叩き、敦賀はコップに残っていた焼酎を飲み干した。
「真吾!今日こそ彼女紹介しろよ!」
「は?何で紹介しねぇといけねぇんだよ!俺はさっさと帰りてぇんだ、遠慮しろ!」
「だから、さっさと帰って紹介しろって!なぁタツさん?」
「おう、そういやゴタゴタ続きで忘れてたな。真吾、可愛い子猫とやらを俺等に紹介してもらおうじゃねぇの。お前、俺と千鶴が結婚した直後に敦賀連れて新居に連日押しかけまくって邪魔しまくったの忘れたわけじゃねぇよなぁ?」
「はぁ!?そんな昔の事いつ迄――」
「よし、決定な。」
「決定ー!ケインとヴィンスは他の面々連れて帰って営舎の事とか案内してやってくれ、そんなに遅くならずに戻ると思うから」
「はぁ、まぁ良いですけど。本当に下衆いですよね、根性が」
「褒めるな褒めるな」
「いや褒めてないです。はいはい、あんまり騒がない様にしないと駄目ですよ」
「はいよー、じゃあなー」
 店を出たところで突然高根に絡み始め、当事者である彼を無視してカタギリと段取りを付けるタカコ、高根の肩を両側からがっちりと押さえ込み彼の家へと向けて歩き始める敦賀と黒川。こういう野次馬根性は然程無いといった風情の敦賀も、長年の腐れ縁の屑男が特定の相手を作ったともなれば興味をそそられるのか、押さえ込めという黒川の言葉に逆らう事も無く高根の肩をがっちりと掴み、その力を緩める事も無く高根の自宅へと向かって歩みを進める。
「ちょ!分かった!分かったからちょっと待て!」
「何だよ?さっさと可愛い子猫のお披露目しろって」
「だから!それは良いから、分かったから!紹介するから、お前等、軍人だって事は絶対に言うなよ!」
 拘束に抗って語気を強める高根、どういう事だと三人が顔を見合わせて次に高根の顔を見れば、何とも気まずそうな面持ちの高根はがしがしと頭を掻き、気が進まず渋々といった風情で口を開く。
「あいつよ……一昨年の博多侵攻の時に、家族全員亡くしてるんだってよ……軍人に対して良い印象持ってねぇかも知れねぇだろ……だから、軍人だって事は言わねぇでおいてくれ、俺と同じ会社の人間って事にしておいてくれねぇか」
「……え、もしかして真吾、おめぇ、自分が海兵隊の総司令って事、言ってねぇのか?」
 思いもよらない高根の告白と要望、まさかと問い掛けた黒川の言葉に高根は押し黙りふいと視線を逸らし、言外にそれを肯定して見せた。
「いや、俺等は別にそれは構わねぇよ?でもよ、お前、それ、ずっと誤魔化せるもんでもねぇぞ?将来の事考えてるってぇならいつかは言わねぇとなんねぇだろ、どうするんだよ?」
「……そうなんだけどよ……まだ一年半だろ、もう少し時間を置いてやりてぇんだよ、まぁ俺が狡ぃって言われたらそうなんだけどよ……」
 呆れた様子の黒川にやや不貞腐れた様子で言葉を返す高根、何ともガキ臭いその場凌ぎの対応だと黒川は溜息を吐いてタカコと敦賀の方を見遣り肩を竦めて見せ、二人もそれに呆れた溜息を返しつつ、そういう事ならと今度はゆっくりと歩き出す。制服のままの黒川に関しては適当な理由を付けて居間に通す前に二階の高根の寝室へと上げて彼の私服を貸して着せるという事で話を纏め、家の前で黒川は一旦待機し、タカコと敦賀だけが高根に続いて玄関の中へと入って行く。
「真吾さん、お帰りなさい。ご飯は――」
「おお、悪い、色々と話が有ってな、食って来た。こいつ等会社の奴なんだけどさ、軽く何か出してやってくれねぇか?こっちが清水、こっちのでけぇのが敦賀だ。それと、後からもう一人来るから」
 高根の身体の向こうから聞こえて来る可愛らしい声音、やがて眼前に現れたのは以前夜の中洲で見掛けた『子猫』の姿、タカコは挨拶をと視線で促す高根に従いゆっくりと一歩前に出る。
「初めまして、夜分にすみません、お世話になります。清水、多佳子と言います」
「初めまして、凛です。どうぞ上がって下さい」
 にっこりと柔らかく微笑む優しい佇まい、そこにいるだけで人の心を柔らかくする人間がいるのだな、と、そんな事を考えた。
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