大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

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第212章『数列』

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第212章『数列』

 尋問の開始から一ヶ月、ほぼ全員から自白をとる事が出来たものの、海兵隊もタカコ達も確保へと向けて動き出す事は未だしていない。導き出された秘匿場所は七箇所、博多以外には春日、太宰府、筑紫野、博多とその南部一帯に点在する形となった秘匿場所、タカコはここ数日黒板に貼り付けた地図に赤い丸で付けたそれ等を睨みつけて過ごしている。
 判明したのだから早く確保を、海兵隊からはそんな声が数多く上がっているものの、これが全てだとは思えないタカコはそれに首を縦に振る事は無く、それでも時間が無いという事は明白だった為に
「……分かった、しかし、後三日待ってくれ、三日で良いんだ。秘匿場所がこれだけとは思えない、残りがどれだけ有るのかは分からないが、一つでも多く見つけたいんだ、その為に時間をくれ、三日で良い」
 と、何とかそう言って時間を確保し、今日でその最後の一日を使い果たす事となった。あれこれと可能性を考えてみたがどれも途中で破綻する、やはり分かっている分だけを急襲し確保し、それ以外は相手に回収されてしまったとしても勘定に入れない方が良いのか、相手の戦力をその分温存させてしまう事にはなるが、これ以上手を拱いていても現在判明している分迄取り戻させてしまう事になるだろう。
「……行動を決断すべき時、だな……」
 地図を見上げ忌々し気に吐き捨てれば背後の扉が開かれ、誰だと振り返ってみればそこには敦賀の姿。焦れているだろうにタカコの主張を尊重してじっと待ってくれている彼を始めとした海兵隊の面々の為にも切り捨てを決断すべきだな、タカコはそんな事を考えつつ敦賀へと向き直った。
「時間切れ、だな……今日の夜にでも急襲を掛けよう、要領は我々が指導するよ」
「……そうか、分かった」
 漸く作戦行動に出られるという安堵と、タカコの気持ちも分かるのか労わる気持ち、それ等が入り混じった様な複雑な表情を浮かべた敦賀がタカコへと歩み寄り、彼女の頭を無言でそっと撫でる。
「……何か法則が有るんじゃないかと思って探ったんだが……厳しいな、なかなか」
「……そうか、まぁ、それに固執して全てを失うワケにゃいかねぇ、今判明してる分だけでも押さえるしか無ぇな」
「……ああ、そうだな」
 それでも、と、タカコは立ち上がり地図の前に立ち、何か見落としている事が無いかと点の全てとその下に書き込まれた住所等の情報に再度目を通す。何か、何かが引っ掛かっている、見落としている、それが何なのかと食い入る様に地図を見詰め、そこに書き込まれた文字列を口に出して読んでみる。
「……一……三……こっちは二……八……まさ、か……十三……それじゃあ……」
「?おい、どうした?」
 突然何かに気付いたのかうわ言の様に呟くタカコ、どうかしたのかと訝しむ敦賀の言葉等聞こえていないかの様に赤いペンを手にし、地図に正方形を書き込み始めた。
「一、これが起点、次の一は無いけど、多分ここ……そうすると、二が重なって三も……五が多分ここ、そうすると、八も、十三も……そうか、そういう事か……!」
 タカコの手によって書き込まれたのは末尾が一の住所に付けられた印を頂点の一つとした正方形、それを皮切りにその横に同じ大きさの正方形を一つ、次にはその下に正方形二つ分の長さを一片とした正方形、更にはその横に、と次々に段々と大きくなる正方形を書き加えて行く。そして、縮尺の誤差を考慮すればほぼ完璧に打たれた点の全てが何れかの正方形の頂点を形作っているのを確認すると、ぶるり、と、大きく身体を震わせた。
「分かった!分かったよ敦賀!」
 双眸を見開き輝かせ、頬を高潮させる程に興奮して敦賀へと抱き付くタカコ、一体何の事なのかさっぱり分からない敦賀は抱き付いて来たタカコを反射的に抱き締め返し、取り敢えずは落ち着けと頭を撫でてみる。
「悪いが何が言いたいのかさっぱり分からん、何が分かったってんだ?」
「そうだ!こんな事してる場合じゃなかった!今日の夜一気に急襲掛けてカタを付けるぞ!リーサをこっちに呼び寄せないと!」
「いや、だから、俺には話がさっぱり――」
「海兵隊の人間も相当数借りるぞ、深夜に急襲するとしてももう時間が無い、忙しくなるぞ!」
「だから、急襲する、それは分かった、分かったんだが、その前提の何が分かったのかが俺にはさっぱり分からねぇ。先ずはそれを説明しやがれ」
「こんな事してる場合じゃねぇ!早く準備に入らないと!」
 敦賀の言葉は全く耳に入っていないのか抱き締める腕を弾き飛ばし動き出すタカコ、黒板に貼られた地図を引き剥がし何処へ行くのか廊下へと向かって走り出す彼女の背に、痺れを切らした敦賀が声を張り上げた。
「だから!何が分かったんだ、おいタカコ!」
 タカコ、と、名前を呼ばれてそれで漸く我に返ったのかタカコが振り返り、それでもわくわくして堪らないといった風情の笑顔を向ける。
「フィボナッチ数列だよ!法則はもう随分と前から目の前に有ったんだ!
 笑顔でそう言って何処かへと走り去って行くタカコ、敦賀はその様子に頭を掻きながら大きく息を吐き、
「『ふぃぼなっちすうれつ』って……何なんだよそりゃ……俺に分かる言葉で話しやがれ」
 そう言って彼女の後を追う。海兵隊の兵員を動かすという事であれば高根の承認が無くては始まらない、恐らくは彼の執務室へと行ったのだろう。どんな作戦になるのかは全く分からない、どれだけの兵員を動員する事になるのかも、どんな武器を使用する事になにるのかも。ここでこうしていても話は進まない、自分も高根のところに行き話に加わろうか、そんな事を考えつつ、敦賀もまたゆっくりと歩き出した。
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