大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

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第216章『活気』

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第216章『活気』

 爆薬五百kg、自動小銃二百丁、拳銃二百丁、手榴弾千個、迫撃砲四十門、指向性対人地雷千基、埋設地雷千基、その他各種弾薬や小物等多数――、大和としては当然初であり、タカコ達の部隊にとっても一晩での押収量としては過去最大だと彼女自身に言わしめた戦果。最低でも二百人を投入する計画が既に進行中であるという事が明らかにされただけでなく、二百人分の兵器を押収しこちらの戦力とする事が出来たという事も有り、その二重の戦果に、事情を知らされている海兵隊上層部と古参下士官達は沸き立っていた。
 上機嫌なのはタカコも同じ、兵器の押収と同時に巡回の敵兵を四名確保する事が出来、更なる情報収集の望みが出て来たと俄然やる気になっている。普段から表情の動きが少なく機嫌も良いのか悪いのか見た目ではよく分からない敦賀、彼もまた今回の戦果は満足の出来るものと考えており、笑顔を見せる事も浮き足立つ事も無いが、それでも普段よりも若干穏やかな空気をまとっていた。大きく事態が動いた事で高根も敦賀もタカコも、誰も彼もが多忙を極めている、身体的にはきつい毎日ではあるのだが、それでも犠牲を伴わず且つ目に見える初めての大きな戦果が齎されたという事実は、事情を知る海兵達に大きな活力を与えていた。
「おい、清水はいるか?」
「先任!お疲れ様です!」
「もう上がるところか?清水は?」
「まだ片付けたい事が有るとかで、今はソファで仮眠摂ってます。自室に戻れって言ったんですけど、少し休むだけだからって」
「そうか、分かった。今日も一日御苦労だったな、明日もまた頼むぞ」
「はい、お先に失礼します」
 夜も大分遅くなった時間帯、曹長の大部屋を訪れた敦賀を出迎えたのは帰り支度をしていた曹長の一人、その彼と言葉を交わした後に来客用のソファを見てみれば、誰の物なのか大きな戦闘服の上着を掛け布団代わりに被ったタカコが寝息を立てているのが目に入る。言葉を交わしていた曹長が出て行った後にはもう二人以外は誰もおらず、ストーブの上に置かれた薬缶がしゅんしゅんと音を立てる以外には何の音も聞こえない。枕元へと静かに歩み寄り寝顔を見下ろせば実に幸せそうな面持ちのまま寝入っており、微か且つ穏やかな寝息が敦賀の耳朶を優しく擽った。
「……働き過ぎだ、馬鹿」
 兵器が押収され敵兵が捕縛されてからこちら、兵器の内容の確認や構成の分析、更には敵兵の尋問の再開とタカコには休む暇が無い。自分達に知識も技術も無い以上彼女に頼らざるを得ない状況を不甲斐無いと情け無くは思うものの、それでも負担をこれ以上軽減させる事も出来ず、その現状に小さく歯を軋らせつつソファの横に腰を下ろし穏やかな寝顔を見詰める。
「……何処迄お人好しなんだよ、てめぇは」
 激務である事に関してタカコから不満が出た事は一度も無い、寧ろ勢いづいた今の状況を楽しんでいるのだろうと察しはつくものの、一方的に負担を強いている事を胸中で詫びつつ指先で頬を撫でれば、その感触で起きたタカコが薄らと目を開いた。
「……敦賀?」
「……ああ、俺だ」
「……仮眠……してたんだ。すまん、そろそろ起きるよ」
 詫びる立場でもないのに謝罪を口にして起き上がろうとするタカコ、敦賀はそんな彼女の所作に小さく溜息を吐いて浮き上がった肩に手を掛けてそっとソファへと押し付けた。
「……起きなくて良い、寧ろこんなところで寝てねぇで自室でしっかり休め」
 頬に掌を這わせればその感触が気持ち良いのか目を細めて自ら摺り寄せるタカコ、敦賀もそんな仕草に目を細め、彼女の唇へと自らのそれをそっと触れさせる。数度啄ばみゆっくりと舌を侵入させればそれに応える様にして首に腕が回され、その許しを良い事に覆い被さり更に深くを侵した。舌に緩く歯を立て指先で首筋と耳朶を擽れば普段よりも高い声が鼻から抜ける、それに気を良くして反対側の首筋へと唇を移動させ緩く吸い上げ、その感触に震えた身体を宥める様にして抱き締めた。
「ちょ、敦賀……!」
「もう随分とお預け食らってるんだ、黙ってろ」
 場所を考えろとでも言いたいのか抗議の声を上げるタカコ、距離を取ろうとする様に力を込める腕を簡単に往なし敦賀は腕の中の小さな身体を乱して行く。戦闘服の上着の釦を外しその下に着込んだ数枚を下着と共にたくし上げ、白く温かな肌に舌と指を這わせ時折きつく吸い上げて幾つかの赤い痕を散らし、静かに、そして確実に追い詰め押し上げた。

「……何で職場で盛るかな……」
「中洲迄出るのが面倒だ、それに……」
「それに?何だよ?」
「こんな縛りでも無ぇと俺の方が際限が無くなる」
「……お前は気の遣いどころが色々とおかしいと思うんだよ、私は……」
 タカコが布張りのソファが汚れる事を嫌がった所為で互いの戦闘服の上着を床に敷き、そこへと移動し再開された情交、移動する際に施錠をして照明も消された室内にはストーブの仄かな明かりだけが有り、僅かに揺らめくそれを受けながら二人は交わっていた時のまましっかりと抱き合っていた。力を失った敦賀の雄がずるりと抜け落ちた感触にタカコが小さく身体を震わせれば、今迄覆い被さっていた身体を彼女の脇へと横たえた敦賀が再度優しく抱き締める。
「……幾ら鍛えてるって言っても限界が有るだろうよ、あんまり無理するんじゃねぇぞ」
「……うん、でも、今は気持ちも状況も勢いづいてるから、これを無駄にしたくないんだ」
「それは分かるがよ……倒れたら元も子も無ぇだろうが」
「そうなんだけどさ」
「それで?どんな按配なんだ」
「ああ、尋問の方は――」
 情交の後の睦言には少々武張った話題、それでも抱き締めた腕と胸から伝わる穏やかで優しい心地良い振動に敦賀は目を細め、抱き締める腕に力を込めて髪に口付けを落とす。このまま夜を明かす事は出来ない、もう少ししたら身形を整えて夫々の自室に戻らなければ。それでも、久し振りの二人きりの甘い時間への未練は強く、もう少しだけ、と、抱き締める腕に更に力を込めた。
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