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第253章『雪合戦』
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第253章『雪合戦』
「えー、それでは只今より東方師団対西方旅団と海兵隊混成部隊の雪合戦を始めまーす!」
雪の降りしきる宇治駐屯地の本部棟の前、三十m程の距離を置いて雪を積み上げた壁が作られ、夫々の傍に十人ずつ人間が立ち拳を突き上げ鬨の声を上げる。片方の陣営には陸軍東部方面師団隷下宇治駐屯地の面々が、もう片方には西部方面旅団隷下博多及び太宰府駐屯地と海兵隊の面々が居並び、鋭い眼差しで相手の陣営を見据えていた。
「俺等東方師団が担当区域に豪雪地帯どれだけ抱えてると思ってやがる……ギッタギタにしてやんよ!」
「九州の引き籠もりと突撃しか能の無ぇ海兵の寄せ集めとか……潰す」
「おいおい……安全圏の引き籠もりが何かほざいてるぞ」
「精鋭揃いの九州の護りの双璧に喧嘩売るとか良い度胸してるな、東方師団のお嬢ちゃん方はよ」
「……殺す」
それなりに距離は有る上に風も強く鳴っているというのに、そんな状況でも互いの悪口だけはしっかりと聞こえるのか殺気立つ計二十名、その中にはタカコと敦賀の姿も有った。タカコは雪球を手にして目を見開き、敦賀はと言えばこちらは若干面倒臭そうな面持ちで前を見据えている。
「……なぁ、タカコよ」
「何スか先任!」
「……陸軍、しかも東方師団なら俺も色々と気に入らねぇが、何で吹雪いてる中雪合戦で勝負なんだ?体育館か道場で組み手でもやって勝負すれば良いんじゃねぇのかと俺は思うんだが」
「はぁぁぁ!?東方師団の面々ですら訓練を中止する程の大雪ですよ!?そんな時にその雪を利用した勝負しないでどうするんですか!」
機動力が命の海兵隊には勿論、降雪の影響を殆ど受ける事の無い西方旅団にも対雪装備は無く、宇治駐屯地の予備の防寒戦闘服を借り受けた。それを着込んでモコモコになったタカコが手袋をした手で雪球を握り締めつつ敦賀を見上げ、何を寝惚けた事をとでも言いた気な口調で言葉を返す。
「……てめぇの場合は暴れられて楽しけりゃ何でも良いんだと思うが……」
「イヤダナァ、ソンナコトナイデスヨ?」
「……棒読みなのは何でだ……」
事の起こりは二時間程前、宇治駐屯地司令を兼任する東方師団総監の室井、その彼と黒川と高根の三者間でどんな企みや遣り取りが有ったのか、突然に雪合戦の開催が三者により宣言された。京都でも珍しい程の強い吹雪で訓練は軒並み中止となり、暇と体力を持て余していた宇治駐屯地所属の陸軍兵達は大喜びで身支度を整え、慣れない雪に気が進まない様子だった九州の混成部隊も総監と総司令の命令とあってはと支度へと取り掛かった。
「……そもそもよ、俺等は訓練計画の準備の一端で京都に来てるだけじゃなかったか?」
「これも訓練訓練、雪にも慣れておいた方が良いし、対人戦闘には違い無いでしょ」
「……雪球を殺気込めてブン投げ合うのが非正規兵の制圧にどう関係してるのか言ってみろ」
「それでは――」
「あ、ほら、始まるよ」
「……仕方無ぇか……」
「――始めーっ!」
「……命令しておいて何ですが、お宅もうちも馬鹿ばっかりなんですかね、このクソ寒いのに」
「おーおー、本気でタマ獲りに行ってますね双方」
「あの小さいの、海兵隊の」
「曹長の清水です」
「そうそう、清水曹長、女なのに良い球投げますねぇ。あ、顔面撃ち抜いた」
「小柄だから身軽ですし小回りも利きますからねぇ、勢いは無くても狙い方が良いんでしょう」
眼下で始まった戦争の様子を窓越しに眺めつつ、熱い茶を啜りながら言葉を交わす男三人、室井、黒川、そして高根。九州混成部隊が今後の計画の準備の為に京都へと出て来て、いつもの如く宇治駐屯地へと間借りをし始めたのは昨日から。近年稀に見ると京都の人間にも言わしめた程の降雪量に今日の日程は全て白紙にせざるを得ず、連れて来た兵士達は談話室や喫煙所等其処彼処で時間を潰す羽目になった。予定が白紙になったのは宇治駐屯地の兵士達も同じで、双方きごちないながらも言葉を交わしており、そんな様子を見回って来た室井が総監執務室で茶を飲んでいた黒川と高根へとと或る提案をしたのが事の発端だった。
「賭けしませんか、賭け。暇してる連中に雪合戦やらせましょう、東方対九州で。それで負けた方の頭の奢りで今度飲みに行くってどうですか?」
「お、良いですねぇ、丁度退屈してたところだし」
「うちもいつ災害出動要請が掛かるか分からないんで待機はしてますけどね、実際に掛かる迄は何もする事無いんでね」
「面白そうですね、乗りました」
室井の提案に即座に乗る黒川と高根、自分達が寒い思いをするわけでもないと如何にも司令官らしい事を言いつつ笑い合い、その退屈凌ぎの為だけに人員が集められて外へと放り出された。
戦いはなかなか白熱しており、参加はしていない兵士達も建物の窓から様子を窺い、中には窓を開けて身を乗り出して声援という名の怒号を送る向きも有る。
「いけぇぇぇぇぇ!」
「九州の人間に東方の根性見せてやれーっ!!」
「本州のモヤシに最前線の凄み見せ付けろーっ!!」
実際に雪をぶつけ合っている面々も声援を送る面々も、メンツというものが有るのか一歩も引く気配は無く、戦いも声援も激しさを増して行く。
「……何か人質取り始めましたよ」
「あ、人質ごと集中砲火」
「清水曹長は女の武器を上手く使ってますねぇ、わざと怯えて見せて相手が躊躇したところを一気に獲ってますね」
「えげつねぇなぁ……とうとう肉弾戦が始まりましたね」
「……雪合戦、ですよね?」
「……確かそうだったと思います」
最早雪合戦という言葉から乖離し始めた眼下の様相、笑いながらそれを見下ろす室井と高根から黒川は一歩下がり、綺麗な背負い投げを決めたタカコをじっと見詰めていた。その脳裏に浮かぶのは数ヶ月前、鳥栖市街地曝露の後の深夜、自らの執務室での事。
「えー、それでは只今より東方師団対西方旅団と海兵隊混成部隊の雪合戦を始めまーす!」
雪の降りしきる宇治駐屯地の本部棟の前、三十m程の距離を置いて雪を積み上げた壁が作られ、夫々の傍に十人ずつ人間が立ち拳を突き上げ鬨の声を上げる。片方の陣営には陸軍東部方面師団隷下宇治駐屯地の面々が、もう片方には西部方面旅団隷下博多及び太宰府駐屯地と海兵隊の面々が居並び、鋭い眼差しで相手の陣営を見据えていた。
「俺等東方師団が担当区域に豪雪地帯どれだけ抱えてると思ってやがる……ギッタギタにしてやんよ!」
「九州の引き籠もりと突撃しか能の無ぇ海兵の寄せ集めとか……潰す」
「おいおい……安全圏の引き籠もりが何かほざいてるぞ」
「精鋭揃いの九州の護りの双璧に喧嘩売るとか良い度胸してるな、東方師団のお嬢ちゃん方はよ」
「……殺す」
それなりに距離は有る上に風も強く鳴っているというのに、そんな状況でも互いの悪口だけはしっかりと聞こえるのか殺気立つ計二十名、その中にはタカコと敦賀の姿も有った。タカコは雪球を手にして目を見開き、敦賀はと言えばこちらは若干面倒臭そうな面持ちで前を見据えている。
「……なぁ、タカコよ」
「何スか先任!」
「……陸軍、しかも東方師団なら俺も色々と気に入らねぇが、何で吹雪いてる中雪合戦で勝負なんだ?体育館か道場で組み手でもやって勝負すれば良いんじゃねぇのかと俺は思うんだが」
「はぁぁぁ!?東方師団の面々ですら訓練を中止する程の大雪ですよ!?そんな時にその雪を利用した勝負しないでどうするんですか!」
機動力が命の海兵隊には勿論、降雪の影響を殆ど受ける事の無い西方旅団にも対雪装備は無く、宇治駐屯地の予備の防寒戦闘服を借り受けた。それを着込んでモコモコになったタカコが手袋をした手で雪球を握り締めつつ敦賀を見上げ、何を寝惚けた事をとでも言いた気な口調で言葉を返す。
「……てめぇの場合は暴れられて楽しけりゃ何でも良いんだと思うが……」
「イヤダナァ、ソンナコトナイデスヨ?」
「……棒読みなのは何でだ……」
事の起こりは二時間程前、宇治駐屯地司令を兼任する東方師団総監の室井、その彼と黒川と高根の三者間でどんな企みや遣り取りが有ったのか、突然に雪合戦の開催が三者により宣言された。京都でも珍しい程の強い吹雪で訓練は軒並み中止となり、暇と体力を持て余していた宇治駐屯地所属の陸軍兵達は大喜びで身支度を整え、慣れない雪に気が進まない様子だった九州の混成部隊も総監と総司令の命令とあってはと支度へと取り掛かった。
「……そもそもよ、俺等は訓練計画の準備の一端で京都に来てるだけじゃなかったか?」
「これも訓練訓練、雪にも慣れておいた方が良いし、対人戦闘には違い無いでしょ」
「……雪球を殺気込めてブン投げ合うのが非正規兵の制圧にどう関係してるのか言ってみろ」
「それでは――」
「あ、ほら、始まるよ」
「……仕方無ぇか……」
「――始めーっ!」
「……命令しておいて何ですが、お宅もうちも馬鹿ばっかりなんですかね、このクソ寒いのに」
「おーおー、本気でタマ獲りに行ってますね双方」
「あの小さいの、海兵隊の」
「曹長の清水です」
「そうそう、清水曹長、女なのに良い球投げますねぇ。あ、顔面撃ち抜いた」
「小柄だから身軽ですし小回りも利きますからねぇ、勢いは無くても狙い方が良いんでしょう」
眼下で始まった戦争の様子を窓越しに眺めつつ、熱い茶を啜りながら言葉を交わす男三人、室井、黒川、そして高根。九州混成部隊が今後の計画の準備の為に京都へと出て来て、いつもの如く宇治駐屯地へと間借りをし始めたのは昨日から。近年稀に見ると京都の人間にも言わしめた程の降雪量に今日の日程は全て白紙にせざるを得ず、連れて来た兵士達は談話室や喫煙所等其処彼処で時間を潰す羽目になった。予定が白紙になったのは宇治駐屯地の兵士達も同じで、双方きごちないながらも言葉を交わしており、そんな様子を見回って来た室井が総監執務室で茶を飲んでいた黒川と高根へとと或る提案をしたのが事の発端だった。
「賭けしませんか、賭け。暇してる連中に雪合戦やらせましょう、東方対九州で。それで負けた方の頭の奢りで今度飲みに行くってどうですか?」
「お、良いですねぇ、丁度退屈してたところだし」
「うちもいつ災害出動要請が掛かるか分からないんで待機はしてますけどね、実際に掛かる迄は何もする事無いんでね」
「面白そうですね、乗りました」
室井の提案に即座に乗る黒川と高根、自分達が寒い思いをするわけでもないと如何にも司令官らしい事を言いつつ笑い合い、その退屈凌ぎの為だけに人員が集められて外へと放り出された。
戦いはなかなか白熱しており、参加はしていない兵士達も建物の窓から様子を窺い、中には窓を開けて身を乗り出して声援という名の怒号を送る向きも有る。
「いけぇぇぇぇぇ!」
「九州の人間に東方の根性見せてやれーっ!!」
「本州のモヤシに最前線の凄み見せ付けろーっ!!」
実際に雪をぶつけ合っている面々も声援を送る面々も、メンツというものが有るのか一歩も引く気配は無く、戦いも声援も激しさを増して行く。
「……何か人質取り始めましたよ」
「あ、人質ごと集中砲火」
「清水曹長は女の武器を上手く使ってますねぇ、わざと怯えて見せて相手が躊躇したところを一気に獲ってますね」
「えげつねぇなぁ……とうとう肉弾戦が始まりましたね」
「……雪合戦、ですよね?」
「……確かそうだったと思います」
最早雪合戦という言葉から乖離し始めた眼下の様相、笑いながらそれを見下ろす室井と高根から黒川は一歩下がり、綺麗な背負い投げを決めたタカコをじっと見詰めていた。その脳裏に浮かぶのは数ヶ月前、鳥栖市街地曝露の後の深夜、自らの執務室での事。
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