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第262章『総崩れ』
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第262章『総崩れ』
――第七分隊、分隊長、柴崎海兵隊少佐――
「……何を……やってるんだ……?」
目の前に転がるのは一之瀬の率いる第八分隊、げっそりとした面持ちで前屈みになり指揮所の方角へと歩く彼等の姿を見て、柴崎は市ノ瀬へと声を掛けた。腕には全滅判定を受けた事を示す白い布が巻かれ、何が有ったかは分からずとも結末だけは何とか把握する。
「……柴崎少佐……やられました……内容は言えませんが……少佐もお気を付けて……」
単独での状況下に置かれる事も想定し、他の部隊と遭遇する事が有っても、協調する事もどんな状況に遭遇したかといった情報を交換する事も固く禁じられている。その命令を律儀に守り何が有ったか語らずに軽く敬礼をして指揮所への歩みを再開する一之瀬、柴崎はそのやつれた風情の背中を見送りつつ、自分達は前へ進むかと踵を返した。
幸いにして今のところは非正規兵役であるタカコが仕掛けて来た様子は無い。運が良いだけの事だろうが、気を引き締めて進攻を続けようと口元を引き結ぶ。携えた自動小銃の弾倉の中身は訓練用の染料弾、いつでも行動に移れる様に引き金の近くに指を添え周囲の気配に気を張り巡らしながら無言のまま歩き続ける。
「……止まれ」
隊の歩みが突然に止まったのは暫くしてから、大き目の通りを真っ直ぐに進めば目的地という分岐に差し掛かり、柴崎は真っ直ぐに進むのか迂回し路地を通って行くのかという、何度目かの判断を迫られる。今迄は最短距離が最も危険だと判断し迂回に迂回を重ねて来たが、どうも様子がおかしいと自らの直感が告げている。何がおかしいのかは分からない、しかし、今迄の経験に従い同じ選択をするのは危険だと強くそう思い、後ろに続く分隊の人間には停止の命令を出したまま、そこから一歩も動く事無く取り得る選択肢、その道の全てを微に入り細を穿ちじっと見詰めてみた。
「……そういう事か……」
小さく独り言ちる柴崎の目に映ったのは地面の土の色、火事の高温で溶けてしまった大通りの舗装はその後の作業の障害になるという事で撤去され、この街が無人の廃墟となってからは石の混じった土が剥き出しとなっている。それは問題ではなく、同じ様に舗装が撤去されたり元々土が露出していた路地の地面に比べて大通りの方が色が明るい事に気が付いた。
否、逆だ、と柴崎は僅かに双眸を見開く。逆だ、路地の地面の色合いが暗いのだ、水分を多く含んだ濡れた色、日当たりが極端に悪いわけでもないのに路地の地面は暗く濡れており、ここ暫くこの一帯に降雨は無かった筈だ、有ったとしても大通りとの色合いの違いの説明がつかない、そう思い至る。それに注意して更に凝視してみれば、路地の地面は掘り起こした後に再度埋め戻した様な空気を含んでいそうな質感、大通りを警戒して路地へ進んだとしたら、恐らくはあの下に何かが埋めてあるか落とし穴が作ってあるかしてそれが発動する仕掛けなのだろう。
上手く仕掛けたつもりの様だが乾燥と地均し迄は意識が行き届かなかったか、これで一つ回避出来ると薄く笑い、
「このまま大通りを進む、ついて来い」
と、そう部下に命じて小銃を抱え直し歩き出した。このまま真っ直ぐに目標に辿り着けるとは思わないが、これで多少の時間は取り戻せるだろう、そう思いながら静かにゆっくりと大通りを進む柴崎分隊の隊列、それが二十m程も進んだ、その時だった。
「なっ……!?」
不意に耳朶を打つ軽い地響き、それと同時に撓む足元、散開を指示しようとするもののそれは間に合わず、芝崎達は状況を把握する前に身体を支える地面を失い人間もそれが背負った装備も一纏めになって頭上から凄まじい量の土砂を浴びた。
「っつぅ……おい!無事か!」
「分隊長!何なんですかこれ!」
狭い場所に折り重なり、起き上がろうと手を伸ばしてみれば手袋を嵌めた指が何か固いものを削り、その直後冷たく濡れた土砂が顔に降って来る。何とか起き上がり周囲を見回してみればそこは暗く湿った土の壁、呆然としつつ見上げてみれば、そこには抜ける様な青空が丸く切り取られていた。
「……や、られた……クソが……!」
タカコだ、タカコにまんまとしてやられた。路地の地面の湿りも掘り返した痕跡も、大通りの方へと誘導する為の囮だったのだと気が付いても時既に遅し、分隊全員が穴の中に落ちてしまい、地表迄は三m程は有るだろうか、上からの助けが無ければ自分達だけでは出られそうも無い。これが実戦だったら唯単に落とされるだけではなく鋭い槍状の物で串刺しにされていたかも知れないし水で溺れていたかも知れない、完全にしてやられたと壁を蹴ればその振動でまた頭から土砂を被り、それが更に柴崎を苛立たせる。
そんな時、不意に上から縄が一本放り投げられ、そこに紙が一枚貼り付けて有るのを見つけて柴崎は手を伸ばす。
そこには、
『分かり易い囮だと思わないとかマジ有り得なーい。柴崎分隊、柴崎少佐以下十一名、これで全滅』
と、何とも人を苛立たせる一文が下手糞な文字で記されていた。
――第六分隊、第九分隊、第十四分隊、分隊長、佐藤陸軍少佐、斑目海兵隊大尉、諌山海兵隊中尉――
柴崎分隊と同様、全滅。
残るは、第一分隊のみ。
――第七分隊、分隊長、柴崎海兵隊少佐――
「……何を……やってるんだ……?」
目の前に転がるのは一之瀬の率いる第八分隊、げっそりとした面持ちで前屈みになり指揮所の方角へと歩く彼等の姿を見て、柴崎は市ノ瀬へと声を掛けた。腕には全滅判定を受けた事を示す白い布が巻かれ、何が有ったかは分からずとも結末だけは何とか把握する。
「……柴崎少佐……やられました……内容は言えませんが……少佐もお気を付けて……」
単独での状況下に置かれる事も想定し、他の部隊と遭遇する事が有っても、協調する事もどんな状況に遭遇したかといった情報を交換する事も固く禁じられている。その命令を律儀に守り何が有ったか語らずに軽く敬礼をして指揮所への歩みを再開する一之瀬、柴崎はそのやつれた風情の背中を見送りつつ、自分達は前へ進むかと踵を返した。
幸いにして今のところは非正規兵役であるタカコが仕掛けて来た様子は無い。運が良いだけの事だろうが、気を引き締めて進攻を続けようと口元を引き結ぶ。携えた自動小銃の弾倉の中身は訓練用の染料弾、いつでも行動に移れる様に引き金の近くに指を添え周囲の気配に気を張り巡らしながら無言のまま歩き続ける。
「……止まれ」
隊の歩みが突然に止まったのは暫くしてから、大き目の通りを真っ直ぐに進めば目的地という分岐に差し掛かり、柴崎は真っ直ぐに進むのか迂回し路地を通って行くのかという、何度目かの判断を迫られる。今迄は最短距離が最も危険だと判断し迂回に迂回を重ねて来たが、どうも様子がおかしいと自らの直感が告げている。何がおかしいのかは分からない、しかし、今迄の経験に従い同じ選択をするのは危険だと強くそう思い、後ろに続く分隊の人間には停止の命令を出したまま、そこから一歩も動く事無く取り得る選択肢、その道の全てを微に入り細を穿ちじっと見詰めてみた。
「……そういう事か……」
小さく独り言ちる柴崎の目に映ったのは地面の土の色、火事の高温で溶けてしまった大通りの舗装はその後の作業の障害になるという事で撤去され、この街が無人の廃墟となってからは石の混じった土が剥き出しとなっている。それは問題ではなく、同じ様に舗装が撤去されたり元々土が露出していた路地の地面に比べて大通りの方が色が明るい事に気が付いた。
否、逆だ、と柴崎は僅かに双眸を見開く。逆だ、路地の地面の色合いが暗いのだ、水分を多く含んだ濡れた色、日当たりが極端に悪いわけでもないのに路地の地面は暗く濡れており、ここ暫くこの一帯に降雨は無かった筈だ、有ったとしても大通りとの色合いの違いの説明がつかない、そう思い至る。それに注意して更に凝視してみれば、路地の地面は掘り起こした後に再度埋め戻した様な空気を含んでいそうな質感、大通りを警戒して路地へ進んだとしたら、恐らくはあの下に何かが埋めてあるか落とし穴が作ってあるかしてそれが発動する仕掛けなのだろう。
上手く仕掛けたつもりの様だが乾燥と地均し迄は意識が行き届かなかったか、これで一つ回避出来ると薄く笑い、
「このまま大通りを進む、ついて来い」
と、そう部下に命じて小銃を抱え直し歩き出した。このまま真っ直ぐに目標に辿り着けるとは思わないが、これで多少の時間は取り戻せるだろう、そう思いながら静かにゆっくりと大通りを進む柴崎分隊の隊列、それが二十m程も進んだ、その時だった。
「なっ……!?」
不意に耳朶を打つ軽い地響き、それと同時に撓む足元、散開を指示しようとするもののそれは間に合わず、芝崎達は状況を把握する前に身体を支える地面を失い人間もそれが背負った装備も一纏めになって頭上から凄まじい量の土砂を浴びた。
「っつぅ……おい!無事か!」
「分隊長!何なんですかこれ!」
狭い場所に折り重なり、起き上がろうと手を伸ばしてみれば手袋を嵌めた指が何か固いものを削り、その直後冷たく濡れた土砂が顔に降って来る。何とか起き上がり周囲を見回してみればそこは暗く湿った土の壁、呆然としつつ見上げてみれば、そこには抜ける様な青空が丸く切り取られていた。
「……や、られた……クソが……!」
タカコだ、タカコにまんまとしてやられた。路地の地面の湿りも掘り返した痕跡も、大通りの方へと誘導する為の囮だったのだと気が付いても時既に遅し、分隊全員が穴の中に落ちてしまい、地表迄は三m程は有るだろうか、上からの助けが無ければ自分達だけでは出られそうも無い。これが実戦だったら唯単に落とされるだけではなく鋭い槍状の物で串刺しにされていたかも知れないし水で溺れていたかも知れない、完全にしてやられたと壁を蹴ればその振動でまた頭から土砂を被り、それが更に柴崎を苛立たせる。
そんな時、不意に上から縄が一本放り投げられ、そこに紙が一枚貼り付けて有るのを見つけて柴崎は手を伸ばす。
そこには、
『分かり易い囮だと思わないとかマジ有り得なーい。柴崎分隊、柴崎少佐以下十一名、これで全滅』
と、何とも人を苛立たせる一文が下手糞な文字で記されていた。
――第六分隊、第九分隊、第十四分隊、分隊長、佐藤陸軍少佐、斑目海兵隊大尉、諌山海兵隊中尉――
柴崎分隊と同様、全滅。
残るは、第一分隊のみ。
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