大和―YAMATO― 第三部

良治堂 馬琴

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第283章『霹靂』

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第283章『霹靂』

 全国紙は事件の二日後に、アジビラは九州を起点として一週間程で全国へ、そしてそれを後追いする様に下世話な情報を扱う週刊誌迄もが写真とそれに添えられた煽動文を掲載し、軍部とそれに対しての指揮権を持つ政府は激しい批判に晒される事となった。
 島津達が戻って来てから少し後に別室で会議をしていた陸幕の面々と統幕副長も出て来て今後の対応を協議したが、全く身に覚えが無い事と主張するも中央と九州では温度差も有る上に普段の意志疎通も十二分とは言い難く、特に陸幕の面々からは本当に身に覚えが無いのかと激しく詰問もされた。これについては海兵隊総司令の自分よりは陸軍西方旅団総監の任に在る黒川の方がきつく当たられ、内心同情はするものの手助けする事も出来ず歯痒い思いもしたが、副長の方は苛立ちを隠しきれないとは言えそれでも冷静だった事が救いだったろう。
 それでも、彼等も言ってしまえば中間管理職、彼等もまた上官から激しく叱責され詰問されたであろう事は想像に難くない。新聞に記事が載った日の夕方には軍部政府併せて関係各所から事実無根であるという声明は発表したものの、小此木が言っていた様に民衆は見たい様にしか物事を見る気は無いらしく、広報の電話は抗議や罵声で常に全ての回線が塞がっている状態だ。
 こうなれば軍の街博多とは言えども民間との間に不穏な空気は流れるもので、これ以上余計な軋轢を生む様な騒動が有ってはと全海兵に対して外出の自粛令を出す羽目にもなった。今のところは未だ博多以外でも暴徒化した民衆と軍の衝突は起きていない様子だが、この空気であれば遠からず何処かで発生し、それは恐らく野火の様に瞬く間に全国へと広がるだろう。鎮圧は陸軍と警察の仕事だが、規模が規模であれば海兵隊も出ざるを得なくなる、その準備も進めておかなければ。
 夜の海兵隊総司令執務室、そんな事を考えつつ部屋の主である高根が机上の書類から顔を上げれば、応接セットのソファに身を埋め、ゆらゆらと舟を漕いでいるタカコの姿が目に入った。副長と陸幕の面々は基本的には太宰府の西方旅団総監部にいるから、その間はそちらの方面に気を配る必要も無く、今はタカコに今後どう手を打つべきかを色々と相談し立案をしてもらっているところだ。退院した敦賀達と戻って来てからこちら、お偉方が状況の確認の為にとやって来た以外は全てここに詰めてもらい、黒川や小此木や横山と共にあれやこれやと意見を交わしているが、睡眠時間も碌に取らせてやれない状況が続いていて、さぞかし疲れているのだろうと申し訳無さで一杯になる。
「タカコ」
 呼び掛けても返事は無く目を覚ます事も無く、舟を漕ぎ続けるタカコを見て大きく溜息を吐いて立ち上がり、彼女へと歩み寄り小さな体をそっとソファへと横たえさせ、上着を脱いで身体へと掛けてやった。
「……悪ぃなぁ、面倒見てもらってばっかりでよ」
 自分達に知識と技術が有れば彼女一人にこんな負担を掛けずに済むのだが、現実はそうもいかず、活骸の脅威を除けば国内は概ね平和な時代が長く続いた事も有り、こんな非正規戦に活かせるものは何も持っていない。急拵えでタカコから与えられる知識と技術を吸収している自分達も大変には違い無いが、自分達の国の事なのだからそれも任務の内だろう。しかし彼女は本来であれば無関係な筈の外国人、ここ迄一方的に負担を負わせるのは本当に心苦しい。
「真吾――、って、寝てるのか、タカコ」
「ああ……これだけ酷使してりゃ疲れるのも当然だ」
 突然響いた扉を叩く音、この叩き方は敦賀だなと思いつつ入室を許可すれば、想像通りの人物が扉を開いて室内へと入って来る。その敦賀は入って直ぐにソファで眠るタカコに気が付いて、声量を落としながら高根の脇迄歩いて来て並んで立ち、タカコの寝顔を見下ろした。
「……どうにか負担を減らしてやりてぇんだがな」
「あー……それは俺も思ってるんだけどな、この状況じゃどうにも、なぁ……」
「まだまだ続くんだ、今日はもう休ませてやれ」
「……だな。おい、タカコ、起き――」
「いい、俺が部屋に連れて行く」
 まだまだ先は長い、そう思った高根がタカコへと声を掛けようとすれば、敦賀がそれを制しタカコを抱き起し、高根の上着をソファへと置いた後にどうにか彼女を背負って歩き出す。
「……タカコの部屋に泊まったりすんなよ?」
「…………」
 返事は無い、恐らくは図星なのだろう。本来であれば叱責しなければならないのだろうが、最近はお互いに大変な思いをさせてしまっているし、今晩位は見逃してやるか、高根はそんな事を考えつつ上着を拾い上げ、踵を返して執務机へと向かう。
「他の部屋の連中が起き出して来る前に部屋に戻れよ。見つかるんじゃねぇぞ、示しがつかねぇからな」
「……有難う、御座います」
「さっさと行けっつーの、俺も今日はもう帰る」
 新妻である凛の顔をもう随分見ていない、新聞を見た日から帰宅していないから、いい加減帰りたくなって来た。敦賀がタカコと宜しく同じ布団で眠るなら、自分も今日こそは帰宅して凛と共に眠ろう。その前に残り数枚の書類を片付けて、そんな事を考えつつ椅子へと身を埋めて机上の書類に手を伸ばした。
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