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第289章『作戦開始』
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第289章『作戦開始』
海兵隊総司令や陸軍西方旅団総監に加え、陸幕や研究本部、そして統幕の人間が鳥栖演習場の指揮所へと入った事が確認されたのは昨夜の事。それと前後してトラックが続々と到着し、朝を迎える迄指揮所周辺は人で溢れ返りごった返していた。それが落ち着いたのは朝になってから、整列した兵士達がお偉方からの訓辞を受け、西方旅団総監の演習開始の号令に合わせて市街地へと消えて行き、それを見届けたお偉方は指揮所の中へと入って行き、周囲には静寂な気配が漂うのみとなった。
「……そろそろ行こう」
物陰に身を潜めていた仲間にそう言われ、男は頷き動き出す。手にした物は数個の爆弾、針金を引き抜いて部品を外してから五秒後に爆発するからそれをよく覚えておけ、そう言われた事を反芻しつつ物陰に身を隠しながら指揮所の建物へと忍び寄る。周囲には人の気配は無し、周囲に停められたトラックの車内にも人はおらず、荷台を覗き込めば物資なのか兵器なのか、沢山の木箱が積み上げられていた。指揮所を爆破した後はこれ等に火を放って、後の算段を胸中でしつつ指揮所の外壁に張り付いて中の様子を窺えば中から複数の人間の気配と声がして、やれる、と、他の仲間達と顔を見合わせて頷き合い、窓の下迄忍び足で歩いて行き、夫々が手にした爆弾の針金を引き抜き、針金で固定されていた部品を外しながら大きく振り被り、渾身の力を込めて窓硝子へと向けて叩き付けた。
響き渡る硝子の割れる音、室内に爆弾が入った事を確認するや否や走り出し、物陰に飛び込むのとほぼ同時に凄まじい爆発音が響き渡り鼓膜と身体を激しく叩く。どうなった、そう思いながら見てみれば指揮所の窓硝子は全て砕け散り、歪んだ窓枠が地面に落ち、爆風で飛ばされた書類らしき紙が宙をひらひらと舞っていた。
やった、そう思いながら顔を見合わせて頷き合い、襷掛けにしていた鞄の中から新たな爆弾を取り出して針金に手を掛ける。今度は車両だ、口々にそう言いながらあちこちのトラックへと向けて走り出し、これを爆破した後は演習場の中へ、そう考えた男が荷台の前へと立った時、不意に空気が揺れた気がした。
「動くな、針金から指を離せ、両手を上げろ」
向けられたのは銃口と肌を刺す程の強い視線と殺気、積み上げられた木箱の向こうから襟元に少佐の階級章を縫い付けた海兵隊の戦闘服を身に付けた男が現れ、低く、しかしはっきりとした声音でそう告げる。それに思わず動きを失いつつもよく見てみれば、潜んでいたのは一人ではなく複数、やはり海兵隊の戦闘服を身に付けた男達が現れ、最初の男と同じ様に銃口を向け殺気をぶつけて来た。
視線だけを他へと遣ってみればそこかしこで同じ様な光景が繰り広げられ、仲間達が荷台から現れた兵士達に銃を突き付けられている。謀られた、そう気付いても既に遅く、逃げ出す事は出来ないのか、ならばせめて道連れに、そう考えた男が制止を無視し爆弾の針金へと手を掛けた時、今度は喉元に冷たい金属の感触を感じた。
「……動くな、指一本筋一本でも動かせば、殺す」
銃口を向けた男の声よりも低い、何の抑揚も感情も感じない冷たい声音。たった今刺し違えてでも軍に打撃を、そう思った筈の身体から自由が奪われて行くのを自覚しつつ男は視線を前に戻す。やがて戦意を完全に喪失したのを感じ取ったのか、背後に現れた兵士が爆弾を奪い、手にしていたナイフを腰に差しながらそのまま足を掛けて男の身体を地面に転がし、手早く右手首と左足首を手錠を使って背中で拘束し、それを受けて荷台に潜んでいた兵士達が外へと降りて来る。
「やるな、ギリ」
「いやあ、仕事ですから。こういうのが本業なので」
荷台から降りて来た少佐の階級章を身に付けた兵士――、島津が男を拘束した兵士――、カタギリに感心したといった風情で話し掛ける。それを受けてカタギリも先程の抑揚の無さは消え失せた明るい調子で言葉を返し、他の面々も加わって足元に転がした男を取り囲み見下ろしてみる。
「おうおっさん、あんまり軍を舐めるなよ?情報が流れ易い様にしてみりゃ見事に引っ掛かっちゃってまぁ……ダサいね」
「子供を殺した犯罪者共が……!」
「あんなデマに踊らされて踏み外すとはなぁ……おい、連れて行け、そのまま引き摺って行っちまえ」
「了解です。他もどうやら無事に拘束出来た様ですね」
「ああ、何よりだな」
周囲から聞こえて来る銃声はこの場にはいないワシントン勢が不穏分子の排除を完了した合図、それを耳にしつつ周囲を見渡してみれば、他はワシントン勢の手助けも無く制圧出来た様子で、手錠を掛けて拘束し一か所に纏めようと動いている。その際に暴れ出した者もおり、それを大人しくさせる為に寄って集って足蹴にしたのはまぁ許容範囲か、島津は様子を眺めてそう考えつつ、無残な姿を晒している指揮所へと向かって歩き出した。
「周辺の制圧完了しました、もう出て来て大丈夫です!」
扉が吹き飛んだ出入口から中を覗けばそこは外観よりも悲惨な有様で、原型を留めているものは何一つ無い。しかし肉片も血飛沫も見当たらないそこへと向かって島津が声を掛ければ、やや有ってから床板の一部が下から押し上げられ、その下からは室内にいた筈のお偉方が顔を覗かせる。
「終わったのか」
最初に口を開いたのは統幕副長、島津がそれに首肯すれば、床板を完全に脇へと退かし床下に隠れていた全員がぞろぞろと無残になった室内へと出て来た。
「演習場内の方はこれからでしょうが、指揮所周辺は排除を確認しました」
「そうか、御苦労だったな」
「は、恐れ入ります」
制服に付いた土汚れを払いながらの淡々とした副長の言葉、島津はそれに畏まって返事をしつつ、残りの人間が床下から出るのを手伝う。副長の方はそれを眺めつつ、感心した様子で口を開いた。
「しかし、襲撃を予見してから時間も無かっただろうによくここ迄準備が出来たな」
「自分は担当ではないので詳しくは分かりませんが、穴を掘って床下を補強したそうです、確かに時間が無かったので相当な突貫作業だったとか。それでも指揮所自体が簡易な作りで重量もそんなに無かったのでまだ良かったと」
「そうか……いきなり計画を説明された時には若干不安にも思ったが、上手く言って良かった。後は……演習場内の始末か」
「ええ。そちらも優秀な人間が出ています、直ぐにカタは付くでしょう。あちらに潜んでいる連中に露見しない様にこれから数回の爆破を行います、安全な場所にご案内します」
思ったよりもずっと早くやって来た敵勢力らしき者達との接触、どうか犠牲者を出さずに終わってくれ、と、そう思いつつ副長は演習場の方を見詰め、小さく息を吐いた。
海兵隊総司令や陸軍西方旅団総監に加え、陸幕や研究本部、そして統幕の人間が鳥栖演習場の指揮所へと入った事が確認されたのは昨夜の事。それと前後してトラックが続々と到着し、朝を迎える迄指揮所周辺は人で溢れ返りごった返していた。それが落ち着いたのは朝になってから、整列した兵士達がお偉方からの訓辞を受け、西方旅団総監の演習開始の号令に合わせて市街地へと消えて行き、それを見届けたお偉方は指揮所の中へと入って行き、周囲には静寂な気配が漂うのみとなった。
「……そろそろ行こう」
物陰に身を潜めていた仲間にそう言われ、男は頷き動き出す。手にした物は数個の爆弾、針金を引き抜いて部品を外してから五秒後に爆発するからそれをよく覚えておけ、そう言われた事を反芻しつつ物陰に身を隠しながら指揮所の建物へと忍び寄る。周囲には人の気配は無し、周囲に停められたトラックの車内にも人はおらず、荷台を覗き込めば物資なのか兵器なのか、沢山の木箱が積み上げられていた。指揮所を爆破した後はこれ等に火を放って、後の算段を胸中でしつつ指揮所の外壁に張り付いて中の様子を窺えば中から複数の人間の気配と声がして、やれる、と、他の仲間達と顔を見合わせて頷き合い、窓の下迄忍び足で歩いて行き、夫々が手にした爆弾の針金を引き抜き、針金で固定されていた部品を外しながら大きく振り被り、渾身の力を込めて窓硝子へと向けて叩き付けた。
響き渡る硝子の割れる音、室内に爆弾が入った事を確認するや否や走り出し、物陰に飛び込むのとほぼ同時に凄まじい爆発音が響き渡り鼓膜と身体を激しく叩く。どうなった、そう思いながら見てみれば指揮所の窓硝子は全て砕け散り、歪んだ窓枠が地面に落ち、爆風で飛ばされた書類らしき紙が宙をひらひらと舞っていた。
やった、そう思いながら顔を見合わせて頷き合い、襷掛けにしていた鞄の中から新たな爆弾を取り出して針金に手を掛ける。今度は車両だ、口々にそう言いながらあちこちのトラックへと向けて走り出し、これを爆破した後は演習場の中へ、そう考えた男が荷台の前へと立った時、不意に空気が揺れた気がした。
「動くな、針金から指を離せ、両手を上げろ」
向けられたのは銃口と肌を刺す程の強い視線と殺気、積み上げられた木箱の向こうから襟元に少佐の階級章を縫い付けた海兵隊の戦闘服を身に付けた男が現れ、低く、しかしはっきりとした声音でそう告げる。それに思わず動きを失いつつもよく見てみれば、潜んでいたのは一人ではなく複数、やはり海兵隊の戦闘服を身に付けた男達が現れ、最初の男と同じ様に銃口を向け殺気をぶつけて来た。
視線だけを他へと遣ってみればそこかしこで同じ様な光景が繰り広げられ、仲間達が荷台から現れた兵士達に銃を突き付けられている。謀られた、そう気付いても既に遅く、逃げ出す事は出来ないのか、ならばせめて道連れに、そう考えた男が制止を無視し爆弾の針金へと手を掛けた時、今度は喉元に冷たい金属の感触を感じた。
「……動くな、指一本筋一本でも動かせば、殺す」
銃口を向けた男の声よりも低い、何の抑揚も感情も感じない冷たい声音。たった今刺し違えてでも軍に打撃を、そう思った筈の身体から自由が奪われて行くのを自覚しつつ男は視線を前に戻す。やがて戦意を完全に喪失したのを感じ取ったのか、背後に現れた兵士が爆弾を奪い、手にしていたナイフを腰に差しながらそのまま足を掛けて男の身体を地面に転がし、手早く右手首と左足首を手錠を使って背中で拘束し、それを受けて荷台に潜んでいた兵士達が外へと降りて来る。
「やるな、ギリ」
「いやあ、仕事ですから。こういうのが本業なので」
荷台から降りて来た少佐の階級章を身に付けた兵士――、島津が男を拘束した兵士――、カタギリに感心したといった風情で話し掛ける。それを受けてカタギリも先程の抑揚の無さは消え失せた明るい調子で言葉を返し、他の面々も加わって足元に転がした男を取り囲み見下ろしてみる。
「おうおっさん、あんまり軍を舐めるなよ?情報が流れ易い様にしてみりゃ見事に引っ掛かっちゃってまぁ……ダサいね」
「子供を殺した犯罪者共が……!」
「あんなデマに踊らされて踏み外すとはなぁ……おい、連れて行け、そのまま引き摺って行っちまえ」
「了解です。他もどうやら無事に拘束出来た様ですね」
「ああ、何よりだな」
周囲から聞こえて来る銃声はこの場にはいないワシントン勢が不穏分子の排除を完了した合図、それを耳にしつつ周囲を見渡してみれば、他はワシントン勢の手助けも無く制圧出来た様子で、手錠を掛けて拘束し一か所に纏めようと動いている。その際に暴れ出した者もおり、それを大人しくさせる為に寄って集って足蹴にしたのはまぁ許容範囲か、島津は様子を眺めてそう考えつつ、無残な姿を晒している指揮所へと向かって歩き出した。
「周辺の制圧完了しました、もう出て来て大丈夫です!」
扉が吹き飛んだ出入口から中を覗けばそこは外観よりも悲惨な有様で、原型を留めているものは何一つ無い。しかし肉片も血飛沫も見当たらないそこへと向かって島津が声を掛ければ、やや有ってから床板の一部が下から押し上げられ、その下からは室内にいた筈のお偉方が顔を覗かせる。
「終わったのか」
最初に口を開いたのは統幕副長、島津がそれに首肯すれば、床板を完全に脇へと退かし床下に隠れていた全員がぞろぞろと無残になった室内へと出て来た。
「演習場内の方はこれからでしょうが、指揮所周辺は排除を確認しました」
「そうか、御苦労だったな」
「は、恐れ入ります」
制服に付いた土汚れを払いながらの淡々とした副長の言葉、島津はそれに畏まって返事をしつつ、残りの人間が床下から出るのを手伝う。副長の方はそれを眺めつつ、感心した様子で口を開いた。
「しかし、襲撃を予見してから時間も無かっただろうによくここ迄準備が出来たな」
「自分は担当ではないので詳しくは分かりませんが、穴を掘って床下を補強したそうです、確かに時間が無かったので相当な突貫作業だったとか。それでも指揮所自体が簡易な作りで重量もそんなに無かったのでまだ良かったと」
「そうか……いきなり計画を説明された時には若干不安にも思ったが、上手く言って良かった。後は……演習場内の始末か」
「ええ。そちらも優秀な人間が出ています、直ぐにカタは付くでしょう。あちらに潜んでいる連中に露見しない様にこれから数回の爆破を行います、安全な場所にご案内します」
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